幸せな人生を目指して

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第9章 愁いのロストフラグメント

3 来訪者

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今回長いですがきりが良いのでこんな感じになりました。
そして新たなる登場人物の登場です!

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私がその知らせを受けたのはレヴィ君が失踪した翌日。
それは唐突に父様から告げられた。

耳を疑ったけど父様はふざけてそんな事を言う方ではないし、眼差しが真剣そのものだ。
それを見て本当の事なのだと言葉で理解しているつもりが、頭は全く追い付いて来なくて言葉もない。

それに家出をした、でも大事なのに忽然と姿を消して行方知れずだなんて更なる大事だ。
しかもその居なくなった人物が侯爵家の子息ともなれば尚の事一大事になる。

恐らく今の段階でその事を知っているのはごく一部の人間だけなのだろうけど、時間が経てば周りにも広がってしまうだろう事は目に見えているし、そうなる前に事態を終息させなくてはならない、と言うのが大人の事情だって事も察した。


そしてその話を聞かされた翌日の事。

「エル、今客間に客人を迎えている。これから向かうからお前も同席してくれるかい」

事態は急を要すると言う様子の父様。きっとレヴィ君関連の事だ。
そう判断し私は分かりましたと頷き返す。返事を聞くや否や父様は客間へと足を向け、私はその背中を追いかけた。



「入るぞ」

客人が待っていると言う部屋へ着くと、父様は一応ノックをしたものの、相手の返事を聞く前にドアを開け中へと入って行く。
それに倣い私も続いて中に入る。

その部屋は壁等に装飾がされている他は、中央に長机と机を囲うようにソファが置かれているだけのシンプルな部屋となっている。
客人をもてなすと言うよりは落ち着いて話し合いをする為の部屋。と言った方がしっくりくる。

部屋へ入ると私達に気が付き、中にいた人物が立ち上がる。その人物は白を基調とした服装の背の高い男性。外見からして十八、十九歳くらいの青年だろうか。
そしてその容姿が何処となく誰かに似ている気がするのは気のせい?

「遅くなってすまない」

「いや、こちらこそ突然の来訪、申し訳なかった。と、そちらのお嬢さんが――」

「ああ、私の娘だ」

口を挟む事なく二人のやり取りを聞いていると途中で話の矛先が私に向く。
青年が父様の隣にいた私を見やり、柔和な笑みを浮かべる。

「話に聞いていた通りのお嬢さんだな。あ、いやすまない。名乗っていなかったな。
私はルドルフ。ルドルフ・ローレンス。名前でもう分かると思うが、私は君の良く知るレヴィの実兄だ」

申し訳ないと言いながら名乗る青年。彼の言う通り、その名前を聞いた瞬間に気が付いたし、先程容姿が誰かに似ていると思った事も納得した。そうだ、レヴィ君に似ているのだ。正確には彼はレヴィ君の兄なので、レヴィ君が似ていると言う事になる。

ただレヴィ君は紫髪の金眼で、対してルドルフさんはグレーの髪に青眼といった全く異なる色をしていた為分からなかったのだろう。


そしてそれもそうだけど、彼のお兄さんがここにいると言う事は十中八九レヴィ君の事だと察しが付く。


「初めまして。エルシア・シェフィールドと申します」

既に私の事を知っている素振りだったけど改めて挨拶を行う。

「では二人ともそこに掛けてくれ。本題に入ろう」

軽く挨拶を交わした後、私達は父様に促されるままルドルフさんは向かいに、私は父様の隣にそれぞれ腰を下ろした。
それからまず初めにルドルフさんが口を開いた。

「既に聞いていると思うが、数日前から私の弟、レヴィの行方が分からない。その件について話を聞きたいと思いこうして足を運んだんだ」

私自身も今一番聞きたい事だった為、膝の上に置いていた手に思わず力が入る。

「まずは私が知っている情報を話そう」

そう言ってルドルフさんは昨日の事を振り返りながら話をしてくれた。

数日前、体調が悪そうなレヴィ君に屋敷で会い、顔色が悪かったので大丈夫なのかと心配し声を掛けたらしいが、途中、些細な事で喧嘩になってしまい、その後レヴィ君が自室に閉じ籠ってしまった。
そして次の日の朝、普段なら使用人が呼びに来る前に朝の支度を済ませ自分から降りてくるはずなのに、待てども一向にレヴィ君は姿を現さず、使用人が不審に思い呼びに行くと部屋の中はもぬけの殻だったのだそう。

いつの間にか知らぬ間に部屋を出て行った、とも考えたが屋敷には使用人がいるし朝早くから仕事をしている。
だから誰かしらには姿を見られるはずで、そんな中誰にも気づかれずに屋敷を出ると言うのは中々に難しいと言えた。

「使用人の報告を聞いた私もレヴィの自室に向かったが確かに誰もいなかった。それに弟の姿どころか、暫く誰も使用していないかの様な変な静けさがあった。
その後、一先ず部屋の中を見て回ったが特に荒らされた様子もなく、盗まれた物もないようだったので空き巣に入られた、と言う可能性は低いだろう。ただ一つ気になるのは部屋の窓が開いていたと言う事だ」

窓が開いていた…?

「つまりレヴィが自らの意志でそこから外へと出たのか、もしくは窓から侵入した何者かに拐かされたのか。と言う事か」

真意を突く父様の言葉にルドルフさんは静かに首を縦に振る。

「そうだな。だがどちらにせよ、早々にレヴィの身の安全を確認しなければならない」

父様の最もな言い分にルドルフさんも同意し、今度は視線を私に向ける。

「実はもう捜索をしているんだが、何せ情報が少ないのが現状だ。そこでエルシア嬢に聞きたい事があるのだが」

「はい」

「レヴィからエルシア嬢の話は聞いていてね。素っ気なく話している様子だったけど、君の話をしている時のレヴィはとても活き活きとしているんだ。ぶっきら棒な口調でも言葉の節々から君の事を大切な親友だと思っている事が窺い知れる。
そんな君になら弟も心を開き、相談等もしていたのではないだろうか?
ここ最近変だなと思った事はなかったかい?些細な事でも良いからあれば教えて欲しい」

そう言ったかと思ったらルドルフさんに深々と頭を下げられ、それに私は目を見開いた。

相手の方がお願いをしている立場とは言え、王国騎士の副団長を務めている人物が私のような子供に頭を下げるなんて…。
偉そうな印象があるとか、そう言いたい訳ではないけれど正直驚いた。

いや、でもそれだけ心配していると言う事だ。
実のお兄さんであり、本当のところは見ていないけど口ぶりからしてレヴィ君を大層大切に思い、可愛がっていたようだし。
冷静に見えて心の内は気が気でないはずだ。私だって人の事は言えないし不安だ。

こうしている間にもレヴィ君が見つかって、直ぐに怒り出したり、笑ったりする彼とのいつものやり取りをしたいし、何処に行っていたのかと問いただしたい。だから早く見つけないといけない。

私は真っ直ぐにルドルフさんを見据えた。

「頭を上げて下さい。
まず先に言っておきますが、私も詳しくは彼から相談を受けてはいません。ただ私も最近のレヴィ君は様子がおかしいと思っていたので気にしてはいました。なので本当に些細な事かもしれませんが…」

そう言うとルドルフさんは頭を上げありがとうと笑みを浮かべる。
それを見てから前置きをしつつ先を話し始めた。

「私がレヴィ君を見ていて気になったのは良く首を気にしていたと言う事です」

「首?」

私の話に父様が眉を寄せ、ルドルフさんは首を傾げ問う。二人の反応はもっともだ。

「はい。レヴィ君は無意識だったみたいですけど、首筋に手を当てている事が多々ありました」

思い返すとそれはレヴィ君の顔色が悪くなり体調が優れないと言い出した頃。
無意識に行う癖のように首を気にして手で触っていたのを思い出す。

「怪我、という訳ではなさそうだな」

ポツリと呟かれた父様の言葉に私は頷き返す。

「はい。怪我であれば触る際に表情に何かしらの変化があると思いますが、彼からはそんな素振りは見られませんでした。それにその事を私が指摘した事も有るのですが、指摘されて初めて気が付いた、と言う反応でした。
それとその指摘した際には特に何もなかったのですが、その後偶々見かけた時、彼の首に黒い痣のようなものが浮き出ているのが見えました」

「黒い痣…?」

「ええ。気になったので聞こうと思ったんですけど上手く交わされてしまいまして…。それにレヴィ君最近は凄く眠そうにしていて、本人も寝不足だと言っていたのであまり問いただしても良くないかと思ったんです。
…でも私がちゃんと相談に乗れていればこんな事にはなっていなかったかもしれません……」

どんどん最後の方になるにつれて語尾が小さくなっていき、自身もシュンとしてしまう。それを見兼ねたのか父様が私の頭を優しく撫でた。

「エルのせいではないよ。あまり自分を責めるものではないし、私達もレヴィから話を聞いてあげられなかったのだから同じようなものだ。
今はまだ項垂れる時ではないよエル。早々にレヴィを見つけ出して問いただしてやろうじゃないか」

思いやりもありつつ俯いていてはいけないよと背中を押してくれる父の言葉。
父様、ありがとうございます。

「すみません父様。もう大丈夫です。話を続けましょう」

私が気持ちを持ち直したのを確認すると父様は視線をルドルフさんへと戻し再度話を続ける。

「続けるが先程エルの言っていた黒い痣と言うものに少し心当たりがあるんだが、私としても情報が少なくて確信を持てないでいる。
ルドルフ、君から見て何か他にレヴィの変わったところはなかったかい?」

もう一度よく思い返してほしい。そう父様が言うとルドルフさんは暫し考える仕草をした後、そう言えばと徐に口を開いた。

「レヴィがいなくなる二日前。つまり私と喧嘩をしてしまった前日の事なんだが、私は夜中にふと目が覚めてしまってその後中々寝付けなくなってしまった為、少し外の空気を吸おうかと思い部屋の外に出たんだ。そうしたら目の端で何か黒い影が動いた気がした」

そこまで聞いて怖い話を聞いているような気分になり背筋がゾワッとする。
だけど今はそんな話をしている訳ではないと、頭の片隅に追いやり直ぐに切り替える。

「まさか侵入者かと思い後を付けたんだが、どうも様子が変なんだ。足取りが覚束ず、ふらふらとしながら歩いていて。
だけど直ぐに気が付いた。それは侵入者等ではなくレヴィだった。
どうしてこんな時間にと思い駆け寄ろうとして、だが周りを確認しようとして一瞬目を離してしまった。すると次に視線を戻した時にはレヴィの姿はなかった。その時同時に嫌な気も感じたが、それが何だったのかは分からなかった」

ルドルフさんは顔を俯きがちに伏せる。
その時のレヴィ君の様子が既に変だった事には気がついていながらも、結局何もできなかったと自分を責めているようだった。

「レヴィは夜中に自室から外に出る事は滅多にないし、あったとしても明らかにいつもとは違っていた。
私が気が付く前からあの様子で歩き回っていたのだとしたら、誰かしらに目撃されていてもおかしくないだろうと思うが、周りに人はいなくて唯々閑散としていた」

そこまで言い切ると彼は顔を上げ眉を寄せる。
その場にいた人にしか感じ取れない空気、と言った言葉では表せないような雰囲気があったようだ。


無言で話に耳を傾けている私達を一瞥すると彼は更に続けた。

「その後直ぐにレヴィの部屋に行ったんだが、今話した事が嘘のように静かに眠っていた。
目を疑ったがしかしあれは確かに幻ではなく、ましてや私が寝ぼけていたわけでもない。
それにあの日のレヴィは寝ぼけていると言う訳ではなさそうでだがその目には何も映っていないような…、目が虚ろで、まるで何かに引き寄せられている様にも見えたな」

彼がそう話し終えると父様が質問を投げかける。

「その時レヴィの首には黒い痣があったか?」

「…いや、何分暗くて見えなかった。それに痣の事をその時は知らなかったから気にもしていなかった。
それよりも弟の様子の方が気がかりでな」

「そうか。いや、そう思うのは当然だね。
…だがなるほど。その話を聞いて信憑性が増したよ」

「信憑性…ですか?」

私の問いに父様だけが何かを確信したと言う顔で首肯し、私達はお互い顔を見合わせ首を傾げた。
先程言っていた心当たりの事なんだろうけど一体どう言う事なのか…。

「これは私の憶測なのだが――」

ゆっくりと語られた父様の言うその憶測に、私達は息を呑んだ。
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