幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
182 / 229
第9章 愁いのロストフラグメント

12 目的

しおりを挟む
赤い瞳。

少年は初めて相対した時と同じ顔で、同じ目で、私達を嘲笑うかのように見ていた。

今回は闇に溶け込むあの黒いローブを着用していなくて、エルフのように尖った耳が露になっている。更に服装へ視線を移せば黒いセーラーブラウスにショートパンツ姿と言う、傍から見たら可愛らしいと思うような服装をしていた。
初対面の時もそうだったが、外見だけを見れば少年は私とそう年が変わらなく見える。その身に纏う服装のせいもあり、年相応の男の子にしか見えない。だがそれに惑わされてはいけない事を私は良く知っている。


それに少年の立っている所から更に奥まった場所。そこにもう一人少年が立っている。見間違えるはずもない、それは私達が探していた人物――。

「――レヴィッ!!」

私が声を上げる前に弟の存在に気が付いたルドルフさんがその名前を呼んだ。

レヴィ君の傍には小さいテーブル台とその上に中身の見えない黒い箱らしき物が置かれており、その箱に手を触れたまま彼は動かない。そしてルドルフさんの呼びかけにも反応を示さなかった。
何をしているのかは分からなかったが、魔力の反応を感じるのでレヴィ君がその箱に何かを施しているという事は分かった。

一体何を……それにあの服装……。

更に彼の着ているものに目を向ける。それは魔族の少年が身に着けているものと同じようなデザインの服だった。いつもの彼なら絶対に選ばないだろうデザインのもので、まるで兄弟かのような……。

これも少年の仕業だろうがふざけている。明らかにこの状況を楽しんでいて、私はそれに怒りが込み上げてくる。

レヴィ君が反応を示さず、様子が可笑しいのも少年が施した首の痣のせいだろうし。

「”アレ”に話しかけても無駄さ」

笑いながら少年は言う。何がそんなに面白いのか。
それにレヴィ君の事をまるで‘‘モノ‘‘であるかのような言い方をして、それにまた私の中で怒りが湧いた。

「彼を‘‘モノ‘‘のように言うのは止めて下さい。それに先程から彼に一体何をさせているのですか?」

拳をきつく握りしめる事で感情を抑え、私は平然を装いながら少年と向き合う。ここで冷静さを欠いては相手の思う壺なのだ。

「‘‘モノ‘‘のよう、じゃなくて実際‘‘モノ‘‘も同然なんだよ、あの坊やは。俺の意のままに動くマリオネット。人形なんだから‘‘モノ‘‘だろう?」

「お前……弟に何を――っ」

ルドルフさんも私と同じく、拳をきつく握りしめ耐えていたようだが、少年のあまりの言いように我慢の限界を迎えている様子だ。
けれどこれは挑発だ。真に受けてはいけない。

確かに自分の大切な弟を良いように扱われて私も腹が立つ。しかし大切な人を取り戻したいのなら冷静にならなくてはならない。何故なら、少年は人が見せる心の隙に付け込もうとするからだ。レヴィ君のように……。

「もう分かっているんじゃないか?レヴィには俺の目的の手伝いをしてもらっているのさ。
俺の目的の為にはどうしても人間が必要なんだよ。探していたらちょうど良さそうなのがいたから、俺の為に働いてもらっているってわけ。それの何が悪いって言うんだ?
それに今この坊やは自分が何をしているかなんて理解しちゃいない。俺が動かしてやってるんだからな」

少年はククッと悪びれもなく笑って彼の方を振り返った。視線の先ではレヴィ君が今も変わらず作業を続けている。


「エル様」

「やはり思っていた通りでしたね。レヴィ君には精神系の魔法が施されています。あの首の痣がその証拠。
しかも強力で心身だけでなく彼の魔力、魔法にまで干渉し操れるようですし…、これはとても危険な状態ですね……」

「エルシア嬢。このまま元に戻せなければレヴィはどうなるんだ……?」

「少なくとも今から魔法を解除し、彼を開放出来たとしても数日は体を自由に動かせないと思います。でもそれは反動が軽い場合です。
……最悪の場合は……命を落とす可能性もあります」

見解を述べるとルカも思っていた事は同じか静かに首肯し、予想はしていただろうルドルフさんも静かに聞いてはいたが、その顔には憂色が浮かんでいた。
私も最悪の事は考えたくないが、その可能性がゼロでない為、頭の片隅に留めておかなければならない。

それに最悪命を落とす可能性があると言ったが、もう一つの最悪がある。それはレヴィ君の心が壊れてしまう事で、つまりは廃人となってしまうという事だ。

精神魔法はかけた相手を思い通りに操る事が出来るてしまう。かけられた本人の意思に反して。
かけられた本人は先程少年が言ったように、何も分からない状態に陥るが、その間も心に大きな負担がかかっているのだ。
他人に干渉され、望まぬ事を強制させられるのだから当然と言えば当然だろう。

とは言え、それだけの魔法ならば使用者も相当の実力を伴わなければ魔法は発動しない。
体は操れても心までも掌握するのは難しい。しかもその人の持つ魔力や魔法までも自在に扱えるなど、普通の者には出来ない。
保有する魔力が膨大な者なら可能かもしれないが、そんな非人道的な行為を行おうとは普通ならない。
しかし呼吸をするように平然と、魔族の少年はそれを実行した。その行いはあまりにも常軌を逸しているし、その中で笑みを浮かべていられる少年に私は恐怖を覚えた。


「一刻を争いますね」

「はい。手遅れになる前にレヴィ君を助け出します」

「……そうだな。分かった」

二人共言いたい事はあるだろうが、今はレヴィ君の救出が最優先事項。それを頭に置き、お互いの顔を見て私達は頷きあった。

「随分とまあ張り切っているじゃないか~。まるで俺が悪者でそれを倒しに来た勇者みたいだ」

少年は一歩前に足を踏み出しこちらに近づくと、軽い調子で呟いた。私達三人と姿は見えないが近くにいるウル。その四人を前にしてもこの余裕……、己の力を理解しているからか、それとも人質とも言えるレヴィ君がいるからなのか――。
どちらにしても厄介。

「それはどう言う意味だ?誰がどう見ても悪はお前だろう」

ルドルフさんは静かな怒りを言葉に乗せ少年に問う。少年はその言葉を待っていたと言うようにニヤリと笑った。その際に吸血鬼とはまた違う、鋭い牙が口から覗き、それに私はゾワリと肌が粟立つのを感じた。

「どういう意味も何も、坊やをここまで追い詰めたのは実の兄であるお前って事。
大切な弟とか言っても結局本音では邪魔な存在だと思っていたんだろう?可哀そうにな~」

「私が……追い詰めた」

「思い当たる節があるようだな~?」

少年はまるでその場面を見ていたかのように確信を持ってそう口にする。
いや、本当に見ていたのかもしれない。

「今更来たところでもう遅いよ?」

魔族は人の心の隙に付け込む。が、その心の隙をつくったのが魔族とは限らない。
元々精神が弱っていたところを利用されるケースもあるだろう。

人の心は完璧ではない。強い時もあれば弱い時だってある。他人からのちょっとした一言で心が折れてしまう時だってあるのだ。
人の気持ちを考えて、とは良く言うが中々難しい事で、例え家族であってもお互いの考えている事、気持ちを汲む事は困難なのだから。

少年が言うようにルドルフさんの行動が、言葉が、最終的にレヴィ君を追い詰めてしまったのかどうかは私には分からないけれど、でもルドルフさん自身は今までの行いを後悔している。
相手の事を考えていたはずなのにいつの間にか傷つけて、遠ざけて、すれ違いを繰り返して――。
見ていたつもりが、いつの間にか目を逸らしてしまっていた事に彼は気付いた。

けれどそれに気が付いたのなら、後は納得するまでお互い話し合えば良いと私は思った。
話し合いで足りないなら拳でも。男の子同士拳で語り合うとも言うし。
気持ちを伝えられる、ぶつけられる相手がいるのだから今度こそ全力で向き合って欲しい。今ならまだ、遅いなんて事ないはずだから。

「ルドルフさん。諦めないで下さい。貴方が諦めたらここへ来た意味がなくなってしまいます」

「エルシア嬢」

「けれど、もしも貴方が諦めても私は止まりません。私一人でも、必ずレヴィ君を助け出して見せます」

「エル様。僕もいる事をお忘れなく」

私は一人でも立って大切な人を取り戻す。こんな小娘にだって覚悟はあるんだ。そう思ったけど、それは私だけではなかった。
隣を見れば頼もしい従者と、困った時に道を示してくれる姿なき精霊が傍にいる。

「落ち込むのは後です。レヴィ君を助けますよ」

「すまない。……ああ、助けよう」

ルドルフさんは俯かせていた顔を上げる。その顔に今度こそ迷いはなくなっていた。


「ちっ……本当に人間は面倒な生き物だ」

対して少年は笑っていた顔を歪め、忌々しそうに私達を睨む。それはここへ来て初めて見せた、少年の心境の変化だった。

「もっと焦った表情が見れると思っていたが期待外れだ。ああ、もういい。先にお前達を片付けるか。
――おい、レヴィこっちへ来い」

顔だけを向け、少年は奥にいるレヴィ君を乱暴に呼びつける。
その声に彼は肩を震わせた。先程までルドルフさんの呼び声には全く反応を示さなかったのに、少年の言葉には反応見せ、言われた通りこちらへと歩いて来る。
そして少年の隣へと来ると無表情でその場に佇む。私達とも距離が縮まった事で表情が見て取れた。

レヴィ君はツンツンしていて、でも照れ屋で、乱暴かと思えば優しい人。そして金色の瞳はいつも綺麗に輝いていて――。
それが今は悲しい程に輝きを失っていて虚ろだ。どこを見ているのかも分からない。空虚な目だった。

「よし。レヴィ、これであいつ等と遊んで来い」

そう言って少年はある物をレヴィ君に渡した。見ればそれは銀色に輝く剣だった。
いつ、何処から取り出したのか、渡された剣をレヴィ君は躊躇いなく受け取りるとその剣先がこちらに向けられた。

「レヴィ君……」

正気の彼なら剣を私達に向ける事等絶対にないのに……。これが魔法のせいだと分かっていても、悲しい気持ちになる。

「エルシア嬢、下がっていてくれ。レヴィは私が――いや、俺が相手をする」

「ルドルフさん」

そう言うと腰に装備していた剣を抜くルドルフさん。鋭い切っ先を実の弟へと向けるが彼に戸惑いはない。レヴィ君の剣を真っ向から受ける気だ。

その熱意は真剣で、間違っても私の入れる隙はなく、そう感じたのと同時にこちらは任せても大丈夫なのだと安心した。

「分かりました。レヴィ君をお願いします」

「ああ。ルーカス殿、彼女を任せた」

「ええ。ルドルフ様もお気をつけて」

そう短く言葉を交わした私達は、それぞれの相対する者へと視線を向ける。

レヴィ君はルドルフさんにお願いした。それなら私は――――。

「お前達二人で――いや、三人か。それでこの俺に勝てるとでも思っているのか?」

少年の口が厭らしく弧を描いた。まだそれだけの余裕があるのか。

それに私達を二人ではなく三人と言っていたし、ウルの存在に気が付いているようだ。油断できない。

「随分と余裕を見せていますが、私達を侮っていると痛い目を見ますよ」

「エル様の言う通りですね。人間と思いなめていると足元を救われる羽目になりますよ」

「はははっ!面白い!そこまで言うならどれだけ俺とやりあえるのか、試してみようじゃないか!」

途端、少年の身体から膨大な魔力が溢れ出す。それは禍々しい気を放ちながら放出されていく。


二度目の戦い。

一度目は何が起こったかのかも分からず、気が付いた時には全てが終わっていて、敗北感より恐怖心の方が強かった。でも今回は違う。もうあの時のように何も出来ない自分ではない。それに絶対に助けなければならない人がいるのだ。絶対に負けるわけにはいかない。

私も自身の身体全体に馴染ませるように魔力を巡らせていった。


いよいよ魔族との二度目の戦いが始まる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...