187 / 229
第9章 愁いのロストフラグメント
17 箱の中身
しおりを挟む
どうして――!?
ルドルフさんと一緒にいたレヴィ君の様子が突然おかしくなり、嫌な感じがして私は必死に彼を呼んだ。
けれどその声に彼は反応しない。全く聞こえていないのか、私達に背を向けて、ふらりとした足取りで歩いて行ってしまう。
「…レヴィ君っ!待ってっ!!」
更に呼ぶが何度やっても同じだった。
どうして?
歌の効果は確かにあったはず。魔族にも一時的かもしれないけれど効いていたし、遠目ながらもレヴィ君にも変化があったのは見えた。
魔族の少年がレヴィ君を操っているのなら、少年をどうにかすれば何とかなると思っていたけど。
まさか――。
そこで私ははっと背後を振り返った。
そこには身動きが取れなくなった少年とそれを見張ってくれているウルがいるはず、だったが。
…えっ!
少年が立っている。
あれだけ苦しんでいたのに。もう回復してしまったとでもいうのか。しかしそんな彼をウルが放っておくわけもなく、お互い一歩も引かない応戦をしているようだった。
何なの一体……、何度攻撃をしても倒れない。その姿に何とも言えない恐怖と、強い執念のようなものを感じ肌が粟立った。
余裕の表情で私達を翻弄していたかと思えば、急に形相を変え、口調も当初のものとは全く違う激しく変わる。
何が目的なのかが今一見えない。掴みどころのない人物だ。
同じ人物のはずなのに、シュレーデル王国で会った時とは別人のようだ。
それに見るからに触れてはいけないと分かる黒いオーラを纏っている。きっとあれは瘴気。人が触れれば命を落とすこともある猛毒だ。それを放っている彼はまさしく危険。
しかもその瘴気漂う中、一瞬見えた口元が弧を描いていたような――。
……っ!
その時少年が視線を上げ、私と目が合う。殺伐とした赤い瞳が今にも私を射抜こうとしているようだった。
しかし視線は直ぐに逸れ、奥へと向けられる。
――レヴィ君。
少年はレヴィ君の動きを監視するように見ていた。
当のレヴィ君はその覚束ない足取りである場所へと向かっているようだった。
当初この場所へ入った際に見かけた、この空間では場違いのような小さいテーブルとその上に置かれた怪しい黒い箱。
レヴィ君に何かをさせていたのも見たし、やっぱりあの箱には何かがあるんだ。
何かを閉じ込めているとかだろうか。
考えたい事はたくさんあれど、今はともかくレヴィ君をあの箱に近づけないようにするのが先決。
「レヴィ君!止まって下さい」
そう声を上げるものの、焦りは募る。それもどういう訳か走っても走ってもレヴィ君に追いつけないのだ。
何かが邪魔しているというわけでもなく、それでも追いつけないというのは一体どういう事なのか。
魔族の少年もウルが見張っている為その場から動いている様子はないし。
一体何なの?
もうこうなったらっ…!
「リストレイントッ」
すみません、レヴィ君。
極力使いたくなかった手だが致し方ない。そう思い心の中で先に謝ってから私はある魔法を発動させた。
といっても攻撃的な魔法ではなく相手の動きを封じる拘束魔法だけど。
レヴィ君は操られているだけだからあまり強く拘束しないように……。
相手が害をなす者ならまだしも、彼は私の大切な友人。傷つけたくはない。
でもこれで人安心……。とそう思ったのだが。
――えっ!なっ、何っ……!?
拘束魔法をレヴィ君に向け発動させたその瞬間、バチっと音がして、更に目には見えない障壁のようなものに魔法が阻まれてしまった。
何、今の……?
起こった事に理解が追い付かず唖然とする。
しかしそうこうしている間にもレヴィ君はテーブルの前まで移動しており、その黒い箱へと手を伸ばしていた。そしてついにその手で箱を掴む。
「もう壊れるだろう。早く箱を壊せ!」
後方から響いてくる声。少年はウルを相手にしながら、彼に指示を送る。それも勝ち誇ったような顔で。
「エルちゃんっ!あの箱は壊しては駄目なの!お願い止めて!」
それとは対照的に、ウルは悲痛な面持ちでそう言った。彼女の必死さが痛い程伝わる。そしてその様子からしてもやはり、あの箱は開けてはならない物なのだと再確認した。
けれどその箱は既にレヴィ君はの手の中。しかも少年に言われた通り、今にも箱を壊そうと、己の魔力を流し込んでいる。
あの箱は魔力で開錠出来るようになっているようだが、更に言えばここへ足を踏み入れた時、既に彼は箱に魔力を注ぎ込んでいた。
だとするともうそう時間は残っていないかもしれない。
「レヴィ君っ!やめて下さい!」
歯を食いしばり、私はもう一度拘束魔法を試みる。が、結果は先程と同じく、倍の威力を込めたのにも関わらず、弾き返されてしまった。
「無駄さ。もう手遅れだ!」
無情にも歓喜の声が響き渡り、そして――。
――箱が開く。
開いた瞬間、箱が粉々壊れ中にあったものが宙に浮かび上がる。
…あれは!
それは黒い色をした拳程の大きさの丸い水晶だった。
一見何の変哲もないように見える。けれどここにいる全員が感じただろう。水晶から放たれる強い魔力を。
肌にひしひしと伝わってきて、あんなにも必死になってウルが止めようとしていたのも頷けた。
「ははははっ!開いたぞっ!やっと、やっとだっ!」
その声と共にいつの間に移動したのか、レヴィ君の隣には少年がいて、宙に浮いたままの水晶を我が物顔で手に取った。
すると、パキンッという音と共にその水晶までもがあっという間に割れ、そこから黒い靄が溢れ出した。あれは間違いなく瘴気。
その渦巻く瘴気が少年の身体へ吸い込まれるようにして入っていき――。
人に害をなす瘴気。そして瘴気を己の力の糧とする魔族。
魔族にとって瘴気は力の根源。しかも触れれば触れる程力を増していき、今まさに瘴気を吸い込んでいる少年の力が格段と強まった。まるで本来の力を取り戻したとでも言うように。
頬を一筋汗が伝う。
その間、私は何も出来ずにいた。
水晶の瘴気も数分もしない内に、全てが少年の身体の中へと吸い込まれてしまい……。
「ごめんなさいエルちゃん。止められなかったわ…」
耳元で声がして顔を上げるとウルが戻ってきていた。彼女の表情は暗く、今にも泣き出しそうにその顔を伏せる。
「いいえ。私の方こそ力になれなくて…すみません」
ウルに非はない。寧ろ私の方が近くにいたのに止められなかった。それどころか魔法まで防がれ手の打ちようもなかった。
とは言え私まで気持ちを静めている場合ではない。私は静かにウルに問う。
「ウル、あの水晶は瘴気を、魔族の力を封印していたのですか?」
「ええ、そうよ。強大すぎる魔族の魔力をあの水晶に封じていたの」
その問いにウルは顔を上げると、まだ悔しさの滲み出る顔で、しかししっかりと頷き肯定した。
という事は力の一部を封じられていて尚、あれだけの圧倒的な強さを誇り、私達と戦っていたという事になる。
しかも今、その封じられていた力が魔族に戻ってしまったわけで……そう考えると目の前が暗くなる。
そして同時にある疑問が残る。
思い返して考えた時、あの黒い箱に少年は一切手を触れていなかったことを。
一部力を失っていたとはいえ、それでも彼の魔力は強かった。それに様子を見るに、一刻も早く力を取り戻したがっていたように見える。それなのにどうして自ら手は出さず、態々レヴィ君に精神系の魔法を使ってまでして開錠させたのか?
もしかして……。
「水晶を封じ込めていた黒い箱に触れる事が出来なかった?」
徐に呟いてみる。独り言のように零しただけだったが、それをひろったウルは深く頷くのだった。
「その通りよ、エルちゃん。
正確に言えば‘‘魔族‘‘は箱に触れられないって事ね。
何故ならあの箱を作ったのは人間であり、そして水晶に力を封じたのも人間だから。
だから箱を開けられるのも壊せるのも作り出した人間だけになるのよ。
それにもう分かっていると思うけれど、あの箱は魔力で開錠されるようになっているわ。
だからといって誰でも開けられるわけでないわ。魔力の強い、極限られた者にしか開錠は難しいの」
「なるほど。つまり自分の力ではどうやっても開錠出来なくて、開錠出来る人間、それも魔力の強い者を連れてくるしかなかったって事ですね。それに偶然選ばれてしまったのがレヴィ君だったと」
「そういう事になるわね。ただレヴィを狙ったのは偶然ではないと思うわ。恐らくシュレーデル王国での一件の時から目をつけていたと思うわ」
偶然ではなく最初からレヴィ君に、自分の代わりにあの箱を開けさせようと目をつけていたとウルは言う。
最初から最後まで魔族の思惑通り、だったわけだ。
こうなる事が分かっていたから彼は余裕を見せていた。
何て事だ……。
何でもっと早く気づかなかったのかと、自責の念に駆られる。
しかしそれを吹き飛ばす鋭い声が隣から聞こえてくる。
「エル様。そんな顔しないで下さい。まだ全て終わっていませんよ」
「ルカ…」
こちらを見つめるルカは少し怒っているように見えて、一瞬怯みそうになった。
「いいや。もうお前達は終わりだよ」
だが、そんな気持ちを掻き消すような声が聞こえてきて、私は思考するのを止め顔を上げた。
声の主、少年の身体からは夥しい量の瘴気が漏れ出ており、先程よりも色濃くなっているように感じられた。
「ここで死ね」
そして彼が呟いたと同時、その漏れ出た瘴気が一斉に四方八方に散った。
瘴気はどんどんその勢いを増し、まるで生き物のように動き回る。周囲の壁や天井にもお構いましに衝突していき、建物ごと崩壊させようとしていた。
「まずいわ。直ぐにここを出ないと!」
「でもレヴィ君が…っ」
「エル様、危険です。無闇に動かないで下さい」
瘴気の影響で音をたてて建物が崩れ始める。
そんな中、私は必死にレヴィ君へと自身の手を伸ばすが、それはルカに制されてしまった。
しかしその時、
「大丈夫だ、エルシア嬢。レヴィの事は俺に任せてくれ。
後から追いつく。先に行っていてくれ」
「ルドルフさん!」
突然そう言ったかと思いきや、ルドルフさんは落ちてくる瓦礫を躱しながら、レヴィ君の下へと走っていった。
その際咄嗟に彼の名前を呼ぶが、その背中は直ぐに遠くなる。
「エル様、彼ならきっと大丈夫です。ここは任せましょう。
さあ早く、僕達もここを脱出しましょう」
「私が援護するわ」
「二人共、ありがとうございます。行きましょう」
立ち止まっている時間はなく、今は二人の言う通り逃げるしかない。
二人の声に押され私も足を動かす。
崩れてくる瓦礫をウルに防御してもらいながら、とにかく外へと向かい私達は走った。
「はははっ。これも定め、か。まあここで生き埋めだろうがな。
――だがもしもここを生きて出られたのなら……また遊んでやるよ」
崩れいく建物内で姿を捉える事は出来なかったが、少年の声が背後から響いてくる。
振り返る余裕などなく、けれど振り返ったところで彼の姿はもうないだろうと悟る。
でも、定めって……何だか引っかかるな。
そこまで考えて一度思考を中断する。
とにかく余計な事は今は良い。生きてここを脱出するんだ。
それだけを思い一心不乱に道を駆け抜けていった。
ルドルフさんと一緒にいたレヴィ君の様子が突然おかしくなり、嫌な感じがして私は必死に彼を呼んだ。
けれどその声に彼は反応しない。全く聞こえていないのか、私達に背を向けて、ふらりとした足取りで歩いて行ってしまう。
「…レヴィ君っ!待ってっ!!」
更に呼ぶが何度やっても同じだった。
どうして?
歌の効果は確かにあったはず。魔族にも一時的かもしれないけれど効いていたし、遠目ながらもレヴィ君にも変化があったのは見えた。
魔族の少年がレヴィ君を操っているのなら、少年をどうにかすれば何とかなると思っていたけど。
まさか――。
そこで私ははっと背後を振り返った。
そこには身動きが取れなくなった少年とそれを見張ってくれているウルがいるはず、だったが。
…えっ!
少年が立っている。
あれだけ苦しんでいたのに。もう回復してしまったとでもいうのか。しかしそんな彼をウルが放っておくわけもなく、お互い一歩も引かない応戦をしているようだった。
何なの一体……、何度攻撃をしても倒れない。その姿に何とも言えない恐怖と、強い執念のようなものを感じ肌が粟立った。
余裕の表情で私達を翻弄していたかと思えば、急に形相を変え、口調も当初のものとは全く違う激しく変わる。
何が目的なのかが今一見えない。掴みどころのない人物だ。
同じ人物のはずなのに、シュレーデル王国で会った時とは別人のようだ。
それに見るからに触れてはいけないと分かる黒いオーラを纏っている。きっとあれは瘴気。人が触れれば命を落とすこともある猛毒だ。それを放っている彼はまさしく危険。
しかもその瘴気漂う中、一瞬見えた口元が弧を描いていたような――。
……っ!
その時少年が視線を上げ、私と目が合う。殺伐とした赤い瞳が今にも私を射抜こうとしているようだった。
しかし視線は直ぐに逸れ、奥へと向けられる。
――レヴィ君。
少年はレヴィ君の動きを監視するように見ていた。
当のレヴィ君はその覚束ない足取りである場所へと向かっているようだった。
当初この場所へ入った際に見かけた、この空間では場違いのような小さいテーブルとその上に置かれた怪しい黒い箱。
レヴィ君に何かをさせていたのも見たし、やっぱりあの箱には何かがあるんだ。
何かを閉じ込めているとかだろうか。
考えたい事はたくさんあれど、今はともかくレヴィ君をあの箱に近づけないようにするのが先決。
「レヴィ君!止まって下さい」
そう声を上げるものの、焦りは募る。それもどういう訳か走っても走ってもレヴィ君に追いつけないのだ。
何かが邪魔しているというわけでもなく、それでも追いつけないというのは一体どういう事なのか。
魔族の少年もウルが見張っている為その場から動いている様子はないし。
一体何なの?
もうこうなったらっ…!
「リストレイントッ」
すみません、レヴィ君。
極力使いたくなかった手だが致し方ない。そう思い心の中で先に謝ってから私はある魔法を発動させた。
といっても攻撃的な魔法ではなく相手の動きを封じる拘束魔法だけど。
レヴィ君は操られているだけだからあまり強く拘束しないように……。
相手が害をなす者ならまだしも、彼は私の大切な友人。傷つけたくはない。
でもこれで人安心……。とそう思ったのだが。
――えっ!なっ、何っ……!?
拘束魔法をレヴィ君に向け発動させたその瞬間、バチっと音がして、更に目には見えない障壁のようなものに魔法が阻まれてしまった。
何、今の……?
起こった事に理解が追い付かず唖然とする。
しかしそうこうしている間にもレヴィ君はテーブルの前まで移動しており、その黒い箱へと手を伸ばしていた。そしてついにその手で箱を掴む。
「もう壊れるだろう。早く箱を壊せ!」
後方から響いてくる声。少年はウルを相手にしながら、彼に指示を送る。それも勝ち誇ったような顔で。
「エルちゃんっ!あの箱は壊しては駄目なの!お願い止めて!」
それとは対照的に、ウルは悲痛な面持ちでそう言った。彼女の必死さが痛い程伝わる。そしてその様子からしてもやはり、あの箱は開けてはならない物なのだと再確認した。
けれどその箱は既にレヴィ君はの手の中。しかも少年に言われた通り、今にも箱を壊そうと、己の魔力を流し込んでいる。
あの箱は魔力で開錠出来るようになっているようだが、更に言えばここへ足を踏み入れた時、既に彼は箱に魔力を注ぎ込んでいた。
だとするともうそう時間は残っていないかもしれない。
「レヴィ君っ!やめて下さい!」
歯を食いしばり、私はもう一度拘束魔法を試みる。が、結果は先程と同じく、倍の威力を込めたのにも関わらず、弾き返されてしまった。
「無駄さ。もう手遅れだ!」
無情にも歓喜の声が響き渡り、そして――。
――箱が開く。
開いた瞬間、箱が粉々壊れ中にあったものが宙に浮かび上がる。
…あれは!
それは黒い色をした拳程の大きさの丸い水晶だった。
一見何の変哲もないように見える。けれどここにいる全員が感じただろう。水晶から放たれる強い魔力を。
肌にひしひしと伝わってきて、あんなにも必死になってウルが止めようとしていたのも頷けた。
「ははははっ!開いたぞっ!やっと、やっとだっ!」
その声と共にいつの間に移動したのか、レヴィ君の隣には少年がいて、宙に浮いたままの水晶を我が物顔で手に取った。
すると、パキンッという音と共にその水晶までもがあっという間に割れ、そこから黒い靄が溢れ出した。あれは間違いなく瘴気。
その渦巻く瘴気が少年の身体へ吸い込まれるようにして入っていき――。
人に害をなす瘴気。そして瘴気を己の力の糧とする魔族。
魔族にとって瘴気は力の根源。しかも触れれば触れる程力を増していき、今まさに瘴気を吸い込んでいる少年の力が格段と強まった。まるで本来の力を取り戻したとでも言うように。
頬を一筋汗が伝う。
その間、私は何も出来ずにいた。
水晶の瘴気も数分もしない内に、全てが少年の身体の中へと吸い込まれてしまい……。
「ごめんなさいエルちゃん。止められなかったわ…」
耳元で声がして顔を上げるとウルが戻ってきていた。彼女の表情は暗く、今にも泣き出しそうにその顔を伏せる。
「いいえ。私の方こそ力になれなくて…すみません」
ウルに非はない。寧ろ私の方が近くにいたのに止められなかった。それどころか魔法まで防がれ手の打ちようもなかった。
とは言え私まで気持ちを静めている場合ではない。私は静かにウルに問う。
「ウル、あの水晶は瘴気を、魔族の力を封印していたのですか?」
「ええ、そうよ。強大すぎる魔族の魔力をあの水晶に封じていたの」
その問いにウルは顔を上げると、まだ悔しさの滲み出る顔で、しかししっかりと頷き肯定した。
という事は力の一部を封じられていて尚、あれだけの圧倒的な強さを誇り、私達と戦っていたという事になる。
しかも今、その封じられていた力が魔族に戻ってしまったわけで……そう考えると目の前が暗くなる。
そして同時にある疑問が残る。
思い返して考えた時、あの黒い箱に少年は一切手を触れていなかったことを。
一部力を失っていたとはいえ、それでも彼の魔力は強かった。それに様子を見るに、一刻も早く力を取り戻したがっていたように見える。それなのにどうして自ら手は出さず、態々レヴィ君に精神系の魔法を使ってまでして開錠させたのか?
もしかして……。
「水晶を封じ込めていた黒い箱に触れる事が出来なかった?」
徐に呟いてみる。独り言のように零しただけだったが、それをひろったウルは深く頷くのだった。
「その通りよ、エルちゃん。
正確に言えば‘‘魔族‘‘は箱に触れられないって事ね。
何故ならあの箱を作ったのは人間であり、そして水晶に力を封じたのも人間だから。
だから箱を開けられるのも壊せるのも作り出した人間だけになるのよ。
それにもう分かっていると思うけれど、あの箱は魔力で開錠されるようになっているわ。
だからといって誰でも開けられるわけでないわ。魔力の強い、極限られた者にしか開錠は難しいの」
「なるほど。つまり自分の力ではどうやっても開錠出来なくて、開錠出来る人間、それも魔力の強い者を連れてくるしかなかったって事ですね。それに偶然選ばれてしまったのがレヴィ君だったと」
「そういう事になるわね。ただレヴィを狙ったのは偶然ではないと思うわ。恐らくシュレーデル王国での一件の時から目をつけていたと思うわ」
偶然ではなく最初からレヴィ君に、自分の代わりにあの箱を開けさせようと目をつけていたとウルは言う。
最初から最後まで魔族の思惑通り、だったわけだ。
こうなる事が分かっていたから彼は余裕を見せていた。
何て事だ……。
何でもっと早く気づかなかったのかと、自責の念に駆られる。
しかしそれを吹き飛ばす鋭い声が隣から聞こえてくる。
「エル様。そんな顔しないで下さい。まだ全て終わっていませんよ」
「ルカ…」
こちらを見つめるルカは少し怒っているように見えて、一瞬怯みそうになった。
「いいや。もうお前達は終わりだよ」
だが、そんな気持ちを掻き消すような声が聞こえてきて、私は思考するのを止め顔を上げた。
声の主、少年の身体からは夥しい量の瘴気が漏れ出ており、先程よりも色濃くなっているように感じられた。
「ここで死ね」
そして彼が呟いたと同時、その漏れ出た瘴気が一斉に四方八方に散った。
瘴気はどんどんその勢いを増し、まるで生き物のように動き回る。周囲の壁や天井にもお構いましに衝突していき、建物ごと崩壊させようとしていた。
「まずいわ。直ぐにここを出ないと!」
「でもレヴィ君が…っ」
「エル様、危険です。無闇に動かないで下さい」
瘴気の影響で音をたてて建物が崩れ始める。
そんな中、私は必死にレヴィ君へと自身の手を伸ばすが、それはルカに制されてしまった。
しかしその時、
「大丈夫だ、エルシア嬢。レヴィの事は俺に任せてくれ。
後から追いつく。先に行っていてくれ」
「ルドルフさん!」
突然そう言ったかと思いきや、ルドルフさんは落ちてくる瓦礫を躱しながら、レヴィ君の下へと走っていった。
その際咄嗟に彼の名前を呼ぶが、その背中は直ぐに遠くなる。
「エル様、彼ならきっと大丈夫です。ここは任せましょう。
さあ早く、僕達もここを脱出しましょう」
「私が援護するわ」
「二人共、ありがとうございます。行きましょう」
立ち止まっている時間はなく、今は二人の言う通り逃げるしかない。
二人の声に押され私も足を動かす。
崩れてくる瓦礫をウルに防御してもらいながら、とにかく外へと向かい私達は走った。
「はははっ。これも定め、か。まあここで生き埋めだろうがな。
――だがもしもここを生きて出られたのなら……また遊んでやるよ」
崩れいく建物内で姿を捉える事は出来なかったが、少年の声が背後から響いてくる。
振り返る余裕などなく、けれど振り返ったところで彼の姿はもうないだろうと悟る。
でも、定めって……何だか引っかかるな。
そこまで考えて一度思考を中断する。
とにかく余計な事は今は良い。生きてここを脱出するんだ。
それだけを思い一心不乱に道を駆け抜けていった。
0
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~
杵築しゅん
ファンタジー
戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。
3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。
家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。
そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。
こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。
身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる