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第10章 アマビリスの乙女

12 書庫の魔法書

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早速私と姉様は屋敷に戻るなり書庫へと引き籠り、沢山ある本を片っ端から調べ始めた。
ここには通常私達が使用する魔法に関するもの、禁忌とされている魔法から、あらゆる魔法について、幅広い分野の書が収められている。

幼少期の半分以上をここで過ごした私にとっては、何て事ない場所だが改めて考えると、これだけの魔法書が集まった場所に好きなだけ居座っていられる事なんて普通ではないのだと、今更ながら思った。

だけど今は時間が許す限りここに居られる事に感謝しかない。早く探し求めている答えに辿り着かなければならないのだから。



書庫に籠る事数時間。熱心に目的の物を探していた時だった。

これ…。

ある魔法書に目が留まった。それには禁止されている魔法、ではなく、強力な効果を持った魔法が一覧で並んでいる魔法書らしく、その一つに『魅了』と言う魔法が記載されているのを見つけた。

魅了の魔法とは、言葉の通り相手を自分、或いは他人に夢中にさせる、といったもので、しかし一回の使用では数分で解けてしまい、かけられた側も直ぐに正気に戻るような、本来ならば弱い下位の魔法の類らしい。ただ厄介なのが、使用し続けるとその効果がぐっと上がり、心を引き付けて虜にさせ、それだけではなく更に相手の思考までもを奪う事で、自分の思いのままにする事も可能なのだ。

この魔法書に書かれている内容は、フランさんの今の状況と合致する。

きっとこの魔法なのだと私は確信を持った。

「姉様ありました!」

「本当っ…!?」

私は少し離れて同じく本を探していた姉様を呼ぶと、近くにあったテーブルへと移動し、件の魔法書をその上に置いた。直ぐにテーブルへと寄った姉様は広げられた魔法書を凝視する。

「姉様、ここ」

私はそう言いながら内容が書かれている部分を指し示し、それに素早く目を通した姉様はやがて緊張した面持ちで呟く。

「確かにフランの今の状況と完全に一致しているわ」

「はい。フランさんにかけられていたのはこの『魅了』魔法です。
しかもここには魔法の効果、発動方法、そして解除方法までもがご丁寧にも載っています」

私はページを更に指でなぞりながら内容を読んで言った。

「という事はここに書かれている通りにすれば、フランにかかっている魔法が解けるのね」

「そうですね。えっと、解除方法は――」

私達は魔法書に記載されていたその解除方法を読み上げる。
そして読み終えるとお互いに顔を見合わせて頷いたのだった。




解除方法は分かった。ただ問題はベラ先輩がいない時を狙ってフランさんに接触せねばならないという事。
それも一度ではなく何度か。

何故なら、フランさんには自分の本当の気持ちを、自力で思い出して貰わなくてはならないから。

姉様は気づいていなくても傍から見ていた私には分かる。フランさんの想いが。

この状況で大変なのは分かっているけれど、今以上に姉様には頑張って貰わなくてはいけなくなるのだが、姉様の事だ、これくらいで挫けるはずはない。
偽りではなく本当の幸せを取り戻してほしい。




私達は書庫で見つけた内容を早速、母様やアリンちゃん、ルカ、ユキ、そしてレヴィ君に知らせて、今後の動きを皆で相談した。
その結果、学院の場ではやはりベラ先輩だけではなくジェシカ先輩達もいるし、周りの目もあるという事で、ならば直接彼の元へ行けば良いのでは?と言う話にまとまった。
つまりはフランさんの、シェルバート伯爵家へと突撃するという事。

今日までベラ先輩達を注意していたが、様子を見ていた限り学院の外では大きく彼と関わってはいないようだし、シェルバート伯爵家へ足を運んだ等と言った話も耳にしていない。彼女の事だから伯爵家へ行ったとなれば自慢のように学院で言い振らし、私達の耳にも入るはずだから。

そうとなれば先輩達がまた動き出す前に、私達も動かなくては。確実にフランさんと接触が出来る伯爵家へと乗り込むのだ。

とは言え私はシェルバート伯爵家の人達と面識はなく、時間がかかるかもしれないと心配だったのだが、姉様が既に何度か伯爵家へ招かれているらしく、面識もあるとの事。
それならばフランさんの父親である、シェルバート伯爵に前もって話を通しておけば、さほど問題なく済むだろう、と言う結果になった。

ただ伯爵家へ行くとなると今のメンバー全員ではなく、人数を絞らなくてはならなくなる事に、致し方ないにしても多少の不安を覚える。けれど我儘ばかり言っていられないしここは我慢するしかないのも事実だ。




そんな話し合いから更に数日後。
姉様、ルカ、そして私の三人で、シェルバート伯爵家へと訪れていた。

前もって今回は母様が取り合ってくれて、姉様の事も既に知っているシェルバート伯爵は、姉様の事だけでなく私とルカの事も快く迎え入れてくれたのだった。

「良く来てくれた、アメリア嬢。
こちらは初めましてだな。エルシア嬢とルーカス君。
既に知ってはいると思うが、私はヴィクター・シェルバートだ。宜しく頼むよ」

そう言って柔和な笑みを浮かべる、この紳士な男性がシェルバート伯爵その人だった。自ら私達の事を出迎えてもくれて、人当たりの良い男性、と言った印象を受ける。
その笑った顔も何処となくフランさんと似ていて、親近感を覚えた。

「ご無沙汰しております、伯爵。本日は急な来訪にも関わらず、こうして迎えて下さってありがとうございます」

既に顔見知りの姉様が初めに挨拶をする。それに倣い私も一歩前に出ると口を開いた。

「お初にお目にかかります。アメリアの妹、エルシア・シェフィールドと申します。以後お見知りおきを、伯爵」

「お初にお目にかかります、伯爵。私はエルシア様の従者、ルーカスと申します。本日はお二人と共に失礼致します」

ルカも同じく挨拶をしそれが終わると、様子を見ていた伯爵がその相好を崩した。

「ふはは。流石シェフィールド侯爵家のご令嬢と従者殿だな。とても洗練された所作だ。
だがここからはもうそんなに畏まらなくて良いよ。
さあここにいるのもなんだし中に入ろう」

伯爵のその態度に一瞬拍子抜けをしてしまったものの、直ぐに気を取り直すと、屋敷へと促す彼に従い私達は歩みを進めたのだった。
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