幸せな人生を目指して

える

文字の大きさ
227 / 229
第11章 紅姫と四黎公

5 四黎公

しおりを挟む
あれ…?誰だろう?

城下町の探索を終え、王城へと戻った私達は、門をくぐったところでふと足を止める。
視線の先には一目で貴族と分かる服装をした、何人かの見知らぬ男女が集まっていた。私の記憶が正しければ滞在中一度も会った事のない人達。

全員共に見た目は若く見目麗しい外見をしており、少し距離があっても分かる程綺麗な赤い瞳をしていた。
ルリ様と同じく、ヴァンパイア特有の目だ。

もしかして――。

「戻ったのか。我が国の城下町はどうだった?」

私が見知らぬ彼等に目を奪われていると、いつの間にか傍にいたルリ様が興味津々と言った表情で私の顔を覗き込んでいた。そんな彼女の傍らにはクラウスさんもいて、まるで子どもを見守る親のような表情で見られていた。

そんな二人に私は若干引き攣りつつも笑顔を浮かべる。

「た、只今戻りました。えっと、とても楽しかったですよ。
それに皆さんとても明るくて、町も活気に溢れていて素敵な場所でした」

「それは何よりだ。エルが楽しそうで妾も嬉しいぞ。また時間があれば行って来ると良い。
と、戻って来て早々にすまない。だがタイミングが良いからな悪いが紹介だけさせてくれ。
どうせまた顔を合わせる事になるとは思うが」

そう言いルリ様は正体不明の彼等に視線を向ける。
するとそれを合図に彼等の視線が一斉にこちらを向き、空気が張りつめるのを肌で感じた。

「紹介しよう。以前王家直属の配下――吸血鬼の精鋭の話をしただろう。
彼等がその精鋭であり、王家に次ぐ権力と実力を持っている四大貴族、通称――四黎公よんらいこうと呼ばれる者達だ」

やっぱりそうなんだ。
ただ者ではないオーラは凄く感じていたけど…、こうしてみると確かに精鋭としての威厳がある。


その中でも一番大人びた雰囲気を持つ、一人の青年がスッと前に出て来ると徐に片足を後ろに引き、右手を胸に添えた優雅な動作で会釈をした。
一連の所作と見た目が何とも絵になる。

「お初にお目にかかる。私はシグルド・カレンドゥラ。
ルリアーナ様の配下、四黎公の一人であり、カレンドゥラ公爵家の当主だ。
貴殿がエルシア嬢だな?ルリアーナ様から話は聞いている。
以後お見知りおきを」

表情一つ変えず淡々と挨拶をすると、最後にまた会釈で一連の動きを締め括る。


外見は十八歳程だろうか。髪と言い衣装と言い全体的に黒で統一されており、ただ髪の毛先だけが青色の珍しいグラデーションとなっているのが目に付く美青年。
雰囲気や性格が相まってか推測年齢よりも大人びて見える。
更に笑みを一つも浮かべていないにも関わらず、冷たい印象は受けず、寧ろ彼には好印象を抱くのだから不思議な感覚を覚える。

そんな青年にはっと我に返った私は、基本となる挨拶カーテシーの姿勢をとる。

「お初にお目にかかります。
隣国オルデシア王国から参りました。
シェフィールド侯爵家の次女、エルシア・シェフィールドと申します。後ろの二人は私の従者、ルカと侍女、アリンです。
ルリアーナ様から四黎公の皆様のお話は伺っています。こちらこそ以後お見知りおきを」

少し堅苦しいけれどこれが貴族の挨拶と言うもの。ここまで畏まった挨拶は久しいものの、私も一応は教育を受けた令嬢。急にこういった場面に遭遇してもやればできるものね。


「あらあら、二人してお堅い事。いくら姫様の前だからと言って、畏まり過ぎではなくて?」

「姉様の仰る通りですね」

シンとした空間を切り裂くような、心地の良い声が二つ。
声の方を見れば口元に笑みを浮かべ私を見つめる少女と、少女に寄り添うように傍らに立ち同じく笑みを浮かべる少年。
彼女達は髪型や服装は違うものの、顔の造形は同じように見える。双子と言うものだろうか?

少女の方は外見十四歳程だろうか。
腰まである癖のない金髪に赤い瞳の美少女。服装も清楚であり、柔らかい面差しなのだが、何処か作られているような変な違和感を感じる。

そして少年も年齢、髪色共に少女と同じく、髪の長さだけが肩につかないように切り揃えられており、清潔さが見て取れる。一見大人しそうな美少年だ。

「急に口を挟んでしまって申し訳ありませんわね。
わたくしはセフィリア。四黎公の一つ、ガノファーノ侯爵家の当主を務めておりますわ。
この子は私の双子の弟、ラルフ。以後お見知りおきを」

そう言って双子は優雅にカーテシーの姿勢をとる。その際動きが息を吐く様にシンクロしていて、流石双子だななんて呑気な事を思ってしまった。

「セフィリア達の言う通りだ。妾がいるからと言って双方、そう堅くならずとも良い。もっと楽にしてくれ。
――では後は妾が紹介しよう」

ルリ様は双子に同意を示すと、今度は別の二組の男女を指し示した。

「彼女はリタ。四黎公の一つ、カメリア家の当主だ。
そして隣にいるのが彼女の双子の弟、フィル」

ルリ様が簡単に説明すると、紹介された男女二人は応えるように一歩前に躍り出る。そして先に少女の方が口を開いた。

「ふん、姫様のご紹介だから挨拶してあげるわ。
私はリタ。カメリア侯爵家の当主よ。
感謝しなさい。私達みたいな高貴な存在には、言葉を交わせるどころか普通会う事すら叶わないのだから。
人間の令嬢だか何だか知らないけれど、あまり調子に乗らない事ね。
ほら、フィル。あんたも一応挨拶しなさい」

「……カメリア侯爵家のフィルだ」

年齢は先程の双子と同じ年頃だろうか。
少女の方は腰まである、長く波打っている濃い青色の髪をハーフアップに纏めている。
容姿は美しいのだが、態度が些か大きいようだ。腰に手を当て言葉にもある通り、あからさまな人を見下すような視線を向けて来る強気な少女。

双子の弟と言われていた少年も姉同様、波打った濃い青髪と赤の瞳を持った、態度に難ありな性格らしい。

少女の衣装は黒ベースのフリル全快と言った感じで、ゴスロリに近い印象を受ける。外見は二人共とても可愛らしいのに何と言ってもやはり態度だ。態度が悪い……。

セフィリア、ラルフ姉弟とは対照的な双子。
所謂白と黒のような。

……それにしても分かりやすいな。全部態度に出ちゃってるよ。

「相変わらず品がないわねリタ。同じ四黎公として恥ずかしいからやめてちょうだい」

「あら、そっちこそいっつも猫被ってて、気取った顔しちゃって、気持ち悪いったらありゃしないわ。あんたこそやめてくれるかしら」

「…姉様に何て口の利き方を!」

「ラルフ、お前こそ口を挟んでくるなよ、騒がしい」

……なんか喧嘩が始まっちゃった?
居た堪れない…、気まずいよ……。

いつもこんな感じなのかな?火花散ってるよ……。



「お前達場を弁えろ。まだ姫様の話の途中だ」

今にも手が出そうな状況の中、冷静で静かな声がそこに割って入る。最初に自ら挨拶をしてくれた好青年、シグルドさんだった。

「なっ…、何よ!先に口を出してきたのはセフィリアよっ!文句があるのなら――」

「リタ、二度はない。まだ続けるのなら次は実力行使と行くが」

彼の言葉か態度に対してなのか、とにかく気に入らない様子の双子の姉、リタが更に言い募ろうとすると、それを読んでいたかのように、シグルドさんの鋭い言葉と視線が遮った。
それには流石の傍若無人のリタであっても言葉に詰まってしまう。悔しそうに彼を睨みつけるだけしか出来ないようだ。
他の三人もリタ程ではないにしろ、口を閉じて反省している様子。

シグルドさん凄い。一言で彼女達を黙らせてしまうなんて……、これが威厳ってやつ?


「すまないなシグルド。
では最後に四黎公の一つ、ラヴァンダ家当主であるリゼルを紹介する」

さて、と気を取り直し最後に紹介されたのは年齢が十五歳程だろうか。雪のように真っ白な髪が儚い印象を与え、そのコントラストが相まって赤い瞳がとても美しく見える。そんな少女?

「騒がしくて申し訳ないな。
お初にお目にかかる。ルリアーナ様から紹介があったように、僕の名前はリゼル。四黎公の一つ、ラヴァンダ侯爵家の当主を務めている。以後お見知りおきを。
同僚がすまない。こいつらに代わって謝罪しよう」

顔が中世的な為、女の子か男の子か一見見分けがつかなかったが、今の一人称が僕である事と、声からすると男の子でだろう少年、リゼルさんはシグルドさんがしたものと同じ動作で優雅な挨拶をするのであった。

「いえ、お気になさらず。ご丁寧にありがとうございます。
こちらこそお見知りおきを」

咄嗟に私がそう返すと彼は顔を上げにこりと微笑んだ。きっと純粋な乙女が食らったらイチコロであろう表情で。


「彼等が現四黎公であり四大貴族でもある者達だ。
性格に難はあれど、その実力は確かなもので妾も一目を置いている。
まあ今後アインフェルト王国へ訪れれば、何かと関わる事もあるだろうからな。双方仲良くしてくれ。
それと先に言っておくがエルシアは妾の大切な友だ。丁重に扱うように」

以上、そう締めくくるルリ様の口元は笑っているのに、その目は笑っていないような気がする……。
しかも最後の方は何となく双子の姉、リタに向けられているような気もしなくもない。ルリ様も怒っている?

気付かれないよう、そっとリタの方を盗み見れば、彼女は顔を赤くして俯いていた。
……どうやら正解だったようだ。




その後の事は、急だったしただの顔合わせと言う事でこれで解散、とルリ様が宣言した事により、この顔会わせは終了したのだが、私の心の中には少し不安な気持ちが残る。

威厳はあれど個性的な人達――四黎公。
彼等との出会いが果たして吉と出るか凶と出るか、まだこの時の私には想像も付かないのであった――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...