【完結】呪言《ことほぎ》あなたがそうおっしゃったから。

友坂 悠

文字の大きさ
35 / 66

【Side】マリアーナ 2。

しおりを挟む
 うちのお父様とお母様は恋愛結婚だった。
 それでも、お父様には幼馴染でいとこの婚約者がいらっしゃって、おまけにその方が王女さまだったものだから婚約解消をすることはできなかったのだそうだ。
 それに。
 身体の弱かったその第三王女フランソワ様には当時家格の釣り合う独身男性がお父様しかいなくって、半ば王命での結婚だったものだからもうどうしようもなかったってよく聞かされた。
 結果としてフランソワ様が第一夫人、男爵令嬢だったお母様は第二夫人ということになったわけだけど、それでもあいしているのはお母様の方だからとおっしゃってたお父様。
 フランソワ様には愛情がないの? そんな会話もしたことがあった。
 その時は、「家族としての愛情はあるよ。子供の頃からよく知っているからね。もう兄妹みたいなものだよ」とそうおっしゃってたっけ。
 それでも。
 そんな両親を見て育ったわたくしは、結婚するならやっぱり恋愛結婚がいいな。って。
 お姉さまも本当はほんとに好きな人と結婚できたらよかったのにな。って。

 ずっとそう、思ってきた。

 わたくしを優しい眼差しで見てくださる目の前の彼。
 まだ名前もしらないそんな彼に、わたくしはいつのまにか恋をしていた。
 きっと、この時のお酒がそんな気分にさせたのだろうと今ならわかる。
 でも。
 この時のわたくしは、これこそが真実の愛なのだ、と。そう思い込んだ。刷り込まれたのだ。

 パーティーが終わったあと。
 名前も告げずに別れた彼。

 ああ。もう、これで会うことはないんだろうな。
 そんな気がしていたのに。

 なんのことはない。数日後エルグランデ家を訪ねてきたその彼は、わたくしの目の前でラインハルト・トランジッタと、姉の旦那様であると、そう明かしたのだった。

 ラインハルト様はおっしゃった。
 このままではアリーシアお姉様がかわいそうだと。
 今のお姉様はまるで人形だ、ブラウド商会からは解放してあげるべきだ、と。
 自分たちには愛もない、白い結婚であること。
 お姉さまもちゃんと自分の好きな人をみつけてその人と添い遂げたほうがいいと。
 それがお姉様にとっても幸せなことなのだと。

 そして、ここからが肝心なことだったけれど。

 ラインハルト様がわたくしを愛してくださっている、と。

 両親の前でそうおっしゃってくださった。

 それが、嬉しくて。

 多分それ以上のことが考えられなくなっていた。


 もう一年、このまま白い結婚を継続すればお姉様ははれてなんの過誤も無く離婚ができる。
 貴族社会では独身であったのと経歴上は同じとみなされるのだ、と。
 そうすれば、きっとお姉様は幸せになれる。

 だから……。

 ♢ ♢ ♢




「ああ、でもよかったわ。お姉様、これで解放されたのね。お祖父様の命で渋々嫁いだのでしょう? 好きでもなかったのに。お姉様にはこれから本当に好きな方を見つけて幸せになってほしいわ」

「どう、して……」

 え?
 動揺しているお姉様。どうしてって……。

「え? 違うのです? お姉様は離婚をされて帰っていらっしゃったのよね?」

「そう、ね。正式な手続きはこれからだけれど、離婚をすることになって帰ってきたのですわ……」

「そうよね! だから、おめでとうございます、だわ! お姉様はちゃんと恋愛をするべきなのよ」

「ちょっと、待って。わたくしが嫌がっていただなんて、誰から聞いたのですか?」

「はい? 違うのです? お父様も、お母様も、ラインハルト様も、みんなそうおっしゃっていましたわ。この離婚はお姉様のためなのですって。さあお部屋の用意はできていますわ。まずはごゆっくり休んでくださいね。もう夕食の時間は過ぎてしまっていますけれど、お夜食を準備していますから」
しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様

恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。 不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、 伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。 感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、 ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。 「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」 足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。 「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」 一度凍りついた心は、二度と溶けない。 後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、 終わりのない贖罪の記録。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

妹ばかり見ている婚約者はもういりません

水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。 自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。 そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。 さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。 ◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐 ◆小説家になろうにも投稿しています

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

処理中です...