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第二章 灰色のもふもふ
~閑話~ シュナがいなくなったその後で(1)
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――五の月の下旬、ミケーネ山狩人の洞窟にて
真冬の間、誰かがこの洞窟を使っていた形跡がある。
煮炊きをした後や狩猟用の道具の位置も変わり、狩猟用の小刀や保存食が半分ほどなくなっているのだ。
今現在、この村に住む一族の者ではないだろう。昔から冬の間は太古の神が目覚めるとの言い伝えがあり、皆恐れミケーネ山に入る者は誰もいないのだ。そうでなくとも冬の山へ登るなど自殺行為。
だが――今年の冬至は例外の年だった。それによそ者の出入りもあったか…。
冬の間この洞窟を使っていた奴は、まったく馬鹿正直に弓矢や小刀、狩猟で使う道具を丁寧に手入れして、それからここを出て行ったようだ。この手入れの仕方は俺もよく知っている。
「シュナ…。お前、生きていてくれたんだな」
思わず安堵の笑みがこぼれていた。
長い年月、一族の中で猟師として生きてきた彼には家族もなく子供もいなかった。両親は早くに亡くなっており、それに加え彼は一族の中でも魔力が少なかった為、冷遇され猟師として生きていく道しかなかったのだ。
あいつも俺と同じような立場に追いやられていたが…それでも腐ることなく、ひた向きに懸命に猟師としての技術を学んでいた。俺にとっても、いつの間にか我が子のような大切な存在になっていた。
シュナは族長の嫡男でありながら、家族だけでなく一族の者からも虐げられていた。魔力もなく星読みの才能もない。ただ! それだけのつまらない理由でだ…。
歯がゆいことだが、一族の中でも力のない俺では直接的には手助けはできなかった。だが、もしこの狩人の洞窟にたどり着けたならと僅かな期待を込め、この冬を乗り切れるだけの食糧や薪などは多めに用意しておいたのだ。
根拠のない微かな望みだったが…願いが叶って本当に良かった。
食糧などもっと持っていけば良かったのにと…思ったが彼はふと気づく。
そういえばあいつはそういう奴だったな。誰であれ、他人を思いやれる優しさをあいつは持っていた…。あの族長やその家族、あいつの弟とは大違いだ。
だが今頃は、冬至の日に来たよそ者がまたこの村を訪ねてきた。たしか…下界では勇者御一行様と呼ばれている奴らだったか?
そいつらに詰め寄られ、族長やその家族は青い顔をして慌てふためいていたな。一族にも動揺や混乱が広がっている。そろそろこの星読みの一族も終わりだな。いい気味だ。普段から弱者を見下すことしか考えていない連中だ。
族長とて一族内での求心力が急激に下がていくこの状況を変えられまい。いざとなれば俺は一族を抜け、気ままにマタギとして独りで生きていくのもいいだろう。
そんなことを考えながら彼は、この洞窟内でのシュナがいた痕跡を丁寧に消していく。
「おい、洞窟内にシュナがいた形跡はあったか?」
「いや、全くないな…。たとえ生きていたとしても子供がこの冬を乗り越えるのは不可能だ」
「そう…だよな…。俺は族長に報告に向かう。お前は引き続き捜索を続けるんだ!」
「ああ…」
俺は一族の者に噓の報告をする。
こんなくだらない連中に縛られるよりも、シュナには自由に生きていてほしい。俺とは違い、あいつはまだ若くどんな可能性でもあるのだから。冬至の贄として選ばれ、都合が悪くなったら慌てて連れ戻そうとする。そんな連中と関わってシュナが幸せになれるわけがない。
それに、なぜかはわからないが勇者一行はシュナを探していた。族長はそいつらに脅され、村人総出で捜索に向かわせたのだ。
村ではまだ騒ぎが続いている。俺にも理由はわからないが、シュナが生きていることは誰にも言わないほうがいいと思ったのだ。
それが後に、正しい判断だったと俺は確信することになる。
真冬の間、誰かがこの洞窟を使っていた形跡がある。
煮炊きをした後や狩猟用の道具の位置も変わり、狩猟用の小刀や保存食が半分ほどなくなっているのだ。
今現在、この村に住む一族の者ではないだろう。昔から冬の間は太古の神が目覚めるとの言い伝えがあり、皆恐れミケーネ山に入る者は誰もいないのだ。そうでなくとも冬の山へ登るなど自殺行為。
だが――今年の冬至は例外の年だった。それによそ者の出入りもあったか…。
冬の間この洞窟を使っていた奴は、まったく馬鹿正直に弓矢や小刀、狩猟で使う道具を丁寧に手入れして、それからここを出て行ったようだ。この手入れの仕方は俺もよく知っている。
「シュナ…。お前、生きていてくれたんだな」
思わず安堵の笑みがこぼれていた。
長い年月、一族の中で猟師として生きてきた彼には家族もなく子供もいなかった。両親は早くに亡くなっており、それに加え彼は一族の中でも魔力が少なかった為、冷遇され猟師として生きていく道しかなかったのだ。
あいつも俺と同じような立場に追いやられていたが…それでも腐ることなく、ひた向きに懸命に猟師としての技術を学んでいた。俺にとっても、いつの間にか我が子のような大切な存在になっていた。
シュナは族長の嫡男でありながら、家族だけでなく一族の者からも虐げられていた。魔力もなく星読みの才能もない。ただ! それだけのつまらない理由でだ…。
歯がゆいことだが、一族の中でも力のない俺では直接的には手助けはできなかった。だが、もしこの狩人の洞窟にたどり着けたならと僅かな期待を込め、この冬を乗り切れるだけの食糧や薪などは多めに用意しておいたのだ。
根拠のない微かな望みだったが…願いが叶って本当に良かった。
食糧などもっと持っていけば良かったのにと…思ったが彼はふと気づく。
そういえばあいつはそういう奴だったな。誰であれ、他人を思いやれる優しさをあいつは持っていた…。あの族長やその家族、あいつの弟とは大違いだ。
だが今頃は、冬至の日に来たよそ者がまたこの村を訪ねてきた。たしか…下界では勇者御一行様と呼ばれている奴らだったか?
そいつらに詰め寄られ、族長やその家族は青い顔をして慌てふためいていたな。一族にも動揺や混乱が広がっている。そろそろこの星読みの一族も終わりだな。いい気味だ。普段から弱者を見下すことしか考えていない連中だ。
族長とて一族内での求心力が急激に下がていくこの状況を変えられまい。いざとなれば俺は一族を抜け、気ままにマタギとして独りで生きていくのもいいだろう。
そんなことを考えながら彼は、この洞窟内でのシュナがいた痕跡を丁寧に消していく。
「おい、洞窟内にシュナがいた形跡はあったか?」
「いや、全くないな…。たとえ生きていたとしても子供がこの冬を乗り越えるのは不可能だ」
「そう…だよな…。俺は族長に報告に向かう。お前は引き続き捜索を続けるんだ!」
「ああ…」
俺は一族の者に噓の報告をする。
こんなくだらない連中に縛られるよりも、シュナには自由に生きていてほしい。俺とは違い、あいつはまだ若くどんな可能性でもあるのだから。冬至の贄として選ばれ、都合が悪くなったら慌てて連れ戻そうとする。そんな連中と関わってシュナが幸せになれるわけがない。
それに、なぜかはわからないが勇者一行はシュナを探していた。族長はそいつらに脅され、村人総出で捜索に向かわせたのだ。
村ではまだ騒ぎが続いている。俺にも理由はわからないが、シュナが生きていることは誰にも言わないほうがいいと思ったのだ。
それが後に、正しい判断だったと俺は確信することになる。
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