包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見

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 おじさんになっても悲しいことは悲しい。

 会社には早退の連絡をしてうちへ帰った。
「七さん、早いね? どうしたの?」

 よのぎさんの手は小麦粉まみれ。
「ちょっとね」

 よのぎさんを抱き締めて、抱き締めてもらう。なんだろう、これは。君の長い手足に包まれてほっとする。抱擁にはリラックスの効果もあるらしい。こんなふうに抱き締めてくれる人はいなかったよ。

「七さん、汚れちゃう」
「いいよ」
 そんなのいいから、もう少しこうしていて。

「お昼まだなの。七さん、なんでもいい?」
「うん」
 レンチンの次はオーブンを覚えて、味をつけた肉を焼くとか、グラタンらしきものを作るようになった。

「ラザニアです」
「いただきます」
 手が真っ白だったのはこれか。薄いものが重なっているというよりは、すいとんもどきがチーズに沈んでいる。熱々で味は悪くない。

 宇崎はもうラザニアなんて食べられないのかもしれない。
 一人だったら号泣している。よのぎさんの前でも泣ける。

「お仕事失敗したの?」
 そんなことで泣く夫だったら叱咤するのだろうか。

「歳を取るとわかるんだ。こいつ、もう長くないなって。宇崎から死臭がした」
「宇崎さん? ああ、スタイリストの人ね」
「知ってる?」
「有名だもの」
「ソフトクリームみたいな服を作ったときに、頭から流れるように同じ向きの渦巻きにするはずだったのに、寸前で宇崎が『逆のほうが服が映える』って変えてくれて」
 目を閉じなくてもあの光景は蘇る。

「七さん、よしよし」
 薄くなった髪をもしゃもしゃ。

「会社で感情的にはなりたくなくて」
「うん、わかる。私も現場では泣いたことない」
「同じかな?」
「同じじゃないけど意味は似てるでしょう?」
 男と女だからなのか、稀に噛み合っていないと感じることはある。どっちが偉いとかではなくて、責任感の大きさとも無関係で、いつでもどこでも自分の意見を述べるよのぎさんは自慢だ。自慢だと言うとまた自分の所有物のような気がするから、正しいと思うことにする。見習いたい。

 最近特に、誰かの意見をトゲがないように誰かに伝えて、それをなんとなくみんなで共有する。迂闊に、
「バカ」
 とは言えない。パワハラ、モラハラ。うちの会社は女の子が多いからセクハラも気をつけないと。

 よのぎさんと結婚したことで、やばいオヤジを脱出できた気がする。男とは見られていなくても、
『うちの社長、どうして結婚していないのだろう?』
 とはみんな思っていたはず。男色と思われていかもしれないし、若い女の子が好きなのかもしれないと思っていたかもしれない。

「よのぎさん、ありがとう」
「ん? ラザニアおいしい?」
「うん」
 よのぎさんとの食事のおかげか、もう少し生きられそうだからひたすら君を愛して、もう仕事はおまけくらいでいい。
 少し前だったらそれも許されたが、今は寿命が延び定年も伸びた。
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