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28 攻略キャラクターたち(ヒーローたちの視点×3)
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豪奢な調度品が並ぶ室内――。
「ウェンディ・ラミル……か」
アレクシス・グレイスは報告書に視線を走らせ、つぶやいた。
彼と同じ王立学院に在籍する平民の娘だ。
報告によると、極めて珍しい【植物魔法】の力を持ち、それが最近、著しい成長を見せているという。
「はい、先日の学内で彼女が薬草を無詠唱魔法で瞬時に開花させるのを目撃した者がいます」
向かいに立つ執事が恭しく告げた。
「ほう」
アレクシスは興味深げにうなった。
「植物魔法自体が希少だが……無詠唱でもそれだけのことができるのか」
「左様です」
一礼する執事に、アレクシスはニヤリと口元を歪ませた。
王族であるアレクシスの家系は強力な魔術師を多く輩出している。
魔法の素質とは父母のそれに大きく起因するため、希少な素質者を家に迎え入れることは、その子にも希少な素質を受け継いでいくことを意味する。
「しかし、相手は地味な平民の娘だそうだな」
「左様です」
うなずく執事。
「アレクシス様の好みには遠いかと……」
「いや、たまにはそういう娘を相手にするのも一興だ」
彼は笑った。
「えてして、そういう女の方が磨けば光るかもしれん」
言って、アレクシスは立ち上がった。
「この俺が自ら篭絡してくれよう……さっそく会いに行くとするか」
※
王立学院の中庭にあるティーテーブル。
ベリル・ドーパルドは気だるげに紅茶を啜りながら、向かいに座る友人の話を聞いていた。
「ウェンディ・ラミル? ああ、確か平民出身の一年生だよね」
名前には聞き覚えがある。
「レアな【植物魔法】を使えるんだっけ?」
「そうなんだよ。しかも最近、急激に力が伸びてるらしい」
「力が……伸びてる?」
ベリルは片眉をわずかに上げた。
「【悪の令息】として悪評の高いあのローゼルバイト家の嫡男と一緒にいたときに、突然覚醒したとか」
「ローゼルバイト……ああ、かのディオン卿だね」
ベリルがため息をついた。
彼も何度か会ったことがあるが、とにかく傲慢な男で不愉快な思いをしたものだ。
かつては王立学院に在籍していたものの、ロクに出席もしない上に素行不良のために退学になったといういわくつきの人物だった。
美貌で知られるジュリエッタ・フォルテの婚約者でありながら、彼女をないがしろにしているとも聞く。
「ふうん……そのディオン卿が、わざわざ平民の女の子を訪ねてきたってことは」
「狙っているのかもしれない」
友人が心配そうな顔をした。
「あり得るね」
ベリルは顔をしかめた。
ウェンディとは面識がないが、ジュリエッタにさえなびかないディオンが興味を持った少女となると――、
「僕も、少し興味が出てきたよ」
「またかよ。気まぐれだな、君は」
友人が苦笑する。
「素敵な女の子なら、ぜひお近づきになりたいじゃないか」
ベリルは肩をすくめた。
「さっそく会いに行こうかな」
※
王立学院の剣術鍛錬場――。
剣と剣が打ち合わされる音があちこちで響く中、学園最強の剣士と名高いガリアン・アッシュはタオルで汗をぬぐっていた。
ちょうど訓練を終えて、一段落しているところだ。
ちなみに練習の相手をしていたのは三人の生徒だが、いずれも息も絶え絶えだった。
そんな中、ガリアンだけが平然としている。
「ウェンディ・ラミル? 誰だよ、それ」
練習相手の一人が言った名前に、ガリアンは眉をひそめた。
「ちょっと噂で聞いたんだよ。あのディオン・ローゼルバイトが目を付けたとか、他にも狙っている男子が何人もいるって」
「色恋沙汰に興味ねーな」
ガリアンが一蹴した。
「俺は剣一筋だ」
「まあ、お前ならそう言うと思ったよ」
と、彼らは苦笑する。
「貴族連中の中には、彼女の力を目当てにしている奴もいるってさ」
「力?」
ガリアンがたずねる。
「なんだ? そいつは剣の達人なのか?」
「お前は発想がそればっかだな……。そうじゃなくて【植物魔法】の使い手なんだ」
と、別の練習相手が言った。
「レアな魔法だからな。その力を利用しようとしたり、あるいは自分の家に迎えて、子を産ませようと考えたり……色々さ」
「なんだよ、それ。ウェンディって奴は道具扱いか?」
ガリアンは表情を険しくした。
「……なら、俺が守ってやる」
「い、いや、ちょっと待て。相手は貴族だし、発想が飛躍しすぎだぞ」
「うるせーな。お前らだって、俺にその子を守ってほしくて今の話をしたんだろうが? 違うか?」
「まあ、それはちょっとあるけど……」
「なら、決まりだ。さっそくウェンディって子に会いに行ってくる」
「ウェンディ・ラミル……か」
アレクシス・グレイスは報告書に視線を走らせ、つぶやいた。
彼と同じ王立学院に在籍する平民の娘だ。
報告によると、極めて珍しい【植物魔法】の力を持ち、それが最近、著しい成長を見せているという。
「はい、先日の学内で彼女が薬草を無詠唱魔法で瞬時に開花させるのを目撃した者がいます」
向かいに立つ執事が恭しく告げた。
「ほう」
アレクシスは興味深げにうなった。
「植物魔法自体が希少だが……無詠唱でもそれだけのことができるのか」
「左様です」
一礼する執事に、アレクシスはニヤリと口元を歪ませた。
王族であるアレクシスの家系は強力な魔術師を多く輩出している。
魔法の素質とは父母のそれに大きく起因するため、希少な素質者を家に迎え入れることは、その子にも希少な素質を受け継いでいくことを意味する。
「しかし、相手は地味な平民の娘だそうだな」
「左様です」
うなずく執事。
「アレクシス様の好みには遠いかと……」
「いや、たまにはそういう娘を相手にするのも一興だ」
彼は笑った。
「えてして、そういう女の方が磨けば光るかもしれん」
言って、アレクシスは立ち上がった。
「この俺が自ら篭絡してくれよう……さっそく会いに行くとするか」
※
王立学院の中庭にあるティーテーブル。
ベリル・ドーパルドは気だるげに紅茶を啜りながら、向かいに座る友人の話を聞いていた。
「ウェンディ・ラミル? ああ、確か平民出身の一年生だよね」
名前には聞き覚えがある。
「レアな【植物魔法】を使えるんだっけ?」
「そうなんだよ。しかも最近、急激に力が伸びてるらしい」
「力が……伸びてる?」
ベリルは片眉をわずかに上げた。
「【悪の令息】として悪評の高いあのローゼルバイト家の嫡男と一緒にいたときに、突然覚醒したとか」
「ローゼルバイト……ああ、かのディオン卿だね」
ベリルがため息をついた。
彼も何度か会ったことがあるが、とにかく傲慢な男で不愉快な思いをしたものだ。
かつては王立学院に在籍していたものの、ロクに出席もしない上に素行不良のために退学になったといういわくつきの人物だった。
美貌で知られるジュリエッタ・フォルテの婚約者でありながら、彼女をないがしろにしているとも聞く。
「ふうん……そのディオン卿が、わざわざ平民の女の子を訪ねてきたってことは」
「狙っているのかもしれない」
友人が心配そうな顔をした。
「あり得るね」
ベリルは顔をしかめた。
ウェンディとは面識がないが、ジュリエッタにさえなびかないディオンが興味を持った少女となると――、
「僕も、少し興味が出てきたよ」
「またかよ。気まぐれだな、君は」
友人が苦笑する。
「素敵な女の子なら、ぜひお近づきになりたいじゃないか」
ベリルは肩をすくめた。
「さっそく会いに行こうかな」
※
王立学院の剣術鍛錬場――。
剣と剣が打ち合わされる音があちこちで響く中、学園最強の剣士と名高いガリアン・アッシュはタオルで汗をぬぐっていた。
ちょうど訓練を終えて、一段落しているところだ。
ちなみに練習の相手をしていたのは三人の生徒だが、いずれも息も絶え絶えだった。
そんな中、ガリアンだけが平然としている。
「ウェンディ・ラミル? 誰だよ、それ」
練習相手の一人が言った名前に、ガリアンは眉をひそめた。
「ちょっと噂で聞いたんだよ。あのディオン・ローゼルバイトが目を付けたとか、他にも狙っている男子が何人もいるって」
「色恋沙汰に興味ねーな」
ガリアンが一蹴した。
「俺は剣一筋だ」
「まあ、お前ならそう言うと思ったよ」
と、彼らは苦笑する。
「貴族連中の中には、彼女の力を目当てにしている奴もいるってさ」
「力?」
ガリアンがたずねる。
「なんだ? そいつは剣の達人なのか?」
「お前は発想がそればっかだな……。そうじゃなくて【植物魔法】の使い手なんだ」
と、別の練習相手が言った。
「レアな魔法だからな。その力を利用しようとしたり、あるいは自分の家に迎えて、子を産ませようと考えたり……色々さ」
「なんだよ、それ。ウェンディって奴は道具扱いか?」
ガリアンは表情を険しくした。
「……なら、俺が守ってやる」
「い、いや、ちょっと待て。相手は貴族だし、発想が飛躍しすぎだぞ」
「うるせーな。お前らだって、俺にその子を守ってほしくて今の話をしたんだろうが? 違うか?」
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「なら、決まりだ。さっそくウェンディって子に会いに行ってくる」
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