不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第1章 勇者の帰還

29 古代遺跡2

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「じゃあ、わたしがダウジングを見せる。この辺はまだ調査中だから、他にも何か見つかるかも」

 凪沙さんが鞄から何かを取り出した。

「振り子……?」

 綺麗な銀色のハートに鎖がくっついている。

「ペンデュラムという」

 凪沙さんが、えへんと胸を張った。

 振り子を顔の前で揺らしながら歩き出す。
 一定の間隔で揺れていたそれは、数メートル歩いたところで、ふいに揺れ幅が変わった。

「──何かを感じる。こっち」

 凪沙さんが歩く方向を変える。
 俺と雫がそれを追っていく。
 本当は遺跡探検のはずだったけど、予定変更だ。

 うっそうと茂る森の奥。
 そこに洞窟があった。

「……? 地図にはこんな場所はないはず」

 雫が手元の地図を見ながら、首をかしげる。

 ──ぞくり。
 背筋がわずかに寒くなった。

「この感じは……」

 魔力だ。
 ごく薄いものだけど、確かに魔力の気配がある。

「調査」

 と、凪沙さん。

「えっ、大丈夫でしょうか……?」

 不安がる雫。

「ちょっと入ってみよう」

 俺は興味にかられ、凪沙さんに賛成した。

 もちろん、雫や凪沙さんに危険があるようなら引き返すつもりだ。

 俺は先頭に立って、洞窟に足を踏み入れた。

「思った以上に暗いな……」

 足元もよく見えないし、けっこう危ない。

 ──スキル【照明】取得。発動。
 たちまち、周囲が明るく照らされた。

 その名の通り、ダンジョン探索なんかで使う照明用のスキルである。
 レベル1だと、術者の周囲十メートル程度に明かりが広がる。
 術者が移動すると明かりもついてくるという便利なスキルだった。

 いちおう懐中電灯をかざして、この明かりがスキルによるものではなく、電灯によるものだというふうにカモフラージュしておく。

 見た感じ、道はまっすぐ続いていた。
 奥の方に妙な気配があるようだけど──。

「わたしの振り子が感知している。奥に何かがある」

 俺の内心に合わせるように、凪沙さんが言った。

「一本道だし、ちょっと行ってみるか」
「賛成」
「あ、私も行きます~」
「足元が滑りやすいといけないから捕まってろ、雫も凪沙さんも」
「えっ、彼方くんと手をつなぐんですか……どきどき」
「……安全優先」

 右に雫、左に凪沙さん、その二人と手をつなぐ中央の俺──という感じでまっすぐ進む。

 洞窟はゆるやかなカーブを描き、三百メートルほど続いた。
 そこで行き止まりだ。

「何もないな……」

 妙な気配を感じたと思ったんだけど。
 これ以上、道は続いていないし、横穴もない。
 完全な行き止まりだった。
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