不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ

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第4章 勇者の日常

18 攻防の行方

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 第二解放スキル──その名は【退魔たいま剣】。

 魔族相手に絶大な効果を発揮するスキルだ。
 このスキルをさらに成長させていくと、最終的には高位魔族すら一撃で屠るEXスキル【退魔雷撃剣たいまらいげきけん】へと昇華する。

 そこまでの威力はないが、【退魔剣】があればスラッシャーFに十分ダメージを与えることができるだろう。

 俺は【退魔剣】のスキルを取得し、触手剣を構え直す。
 触手剣の刃が緑のオーラをまとった。

「くおおお……っ」

 感じる。
 全身からすさまじい力が吹き上がってくるのを。

 ぐるるるるうう……。

 スラッシャーFの動きが止まった。

 俺の気配の変化に気付き、警戒したか。

 シン、と静まり返った空気の中、俺と魔獣が対峙する。

 一歩、また一歩。
 俺はすり足で間合いを詰める。

 そして──。

 俺が地を蹴り、突進するのと、スラッシャーFが無数の触手剣を繰り出したのは、まったくの同時だった。

 スキル【退魔剣】発動!

 俺が振り回す剣は真空の刃を発生させ、無数の触手を次々と切り裂く。
 そのままスピードを緩めず、魔獣へ肉薄する俺。

「くっ……!?」

 だけど、奴に最後の一撃を食らわせる寸前、さばききれなかった触手の一本が俺の足元を払った。
 よろめき、バランスを崩したところで、さらに触手群が殺到し、俺は大きく吹っ飛ばされた。

「はあ、はあ、はあ……」

 俺はよろよろと立ち上がった。

「あと一歩、届かない──のか」

 荒い息を整えながら、うめく。

 さっきの攻防で体力をほとんど使ってしまった。
 スキルを撃てるのは、あと一発が限度ってところか。

 それを外せば──もはや奴を倒す手段はない。

 命がけで最後の特攻をかけるか。
 あるいは逃げるか。

 選択は、二つに一つだ。

「──やるしか、ないな」

 俺はスラッシャーFを見据えた。

 逃げるのは論外だ。
 奴が外に放たれれば、大勢の人が危険にさらされる。

 もちろん、俺の近しい人たちだって例外じゃない。
 雫たちには【加護】のスキルをかけてあるが、スラッシャーFの前にはなんの役にも立たないだろう。

 出会えば、殺される。
 無差別に。
 容赦なく。

 だから──。

「ここで、俺が止める!」

 俺は触手剣を構え直し、魔獣に突進した。

 文字通り、最後の──決死の疾走。
 迫りくる触手群を切り払い、跳ね飛ばし、スラッシャーFに近づく。

 ずがぁっ!

 破砕音が響いた。

「あれは──」

 俺が跳ね飛ばした触手の一本が、のたくりながら扉に命中したのだ。

 おそらくは魔獣自身も意図しない、破壊。
 扉の中央部が割れ、その向こうに広がる異空間が見えている。

「ううっ……!?」

 同時に突風が巻き起こり、すさまじい吸引力で俺の体が引き寄せられていく。

 いや、俺だけじゃない。

 るおおおおおおおおんっ!?

 スラッシャーFも同じだ。

 俺と魔獣は扉の中へと吸いこまれていく──。



 気が付くと、七色に輝く空間の中にいた。

「ここは──?」

 俺は息をのんだ。

 異界への、通路なのか。

『一周目』のときは女神さまの導きに従って、異世界に降り立った。
 そのときは、まさしく一瞬で異世界まで移動できたんだけど──。

 人為的に作られたらしいこの通路に入るのは初めてだった。
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