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第8章 勇者の運命
8 真意
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俺は、思い出す。
魔族レグルドはこう言っていた。
『「門番」を倒すと、新たな「門番」が生まれる。そいつを俺様たちが手なずける』
『そうすればファルセリアと魔界は自由に行き来できるようになる。現状では不可能な魔界全軍によるファルセリア侵攻も可能になる、ってことだ』
つまり、新たな『門番』を生み出すことで、異世界間の行き来を制御できるということだ。
その新たな『門番』をどう用意するのか?
アリアンやナダレはすでに一体の高位魔族を拘束しているという話は聞いていた。
今から、そいつを新たな『門番』にする手はずである。
アリアンの僧侶系スキルによって、その魔族はこちらの言うことを聞くようにしてあるんだとか。
「では、手順通りに始めようか。アリアン殿」
ナダレが促す。
「新たな『門番』用の高位魔族を召喚してくれ」
「承知しました」
アリアンが進み出て、錫杖を掲げた。
「私たちの世界も、貴殿の世界も、ともに魔族の脅威から救われる。これで戦いは終わりだ、彼方殿」
ナダレが俺に微笑んだ。
温和な、笑顔。
──ぞわり。
全身に強烈な悪寒が走った。
理屈じゃない、本能だ。
「っ……!?」
『一周目』の人生で──異世界で戦い続けて培った本能。
それが俺を動かした。
考えるよりも早く、体が勝手に動く感じで前方に転がる。
ごうっ!
ほぼ同時に、俺が直前までいた空間を衝撃波が通過した。
「避けたか」
ナダレが淡々とした口調でつぶやいた。
拳を繰り出した姿勢のままで。
「クラス『武神』の【瞬影殺】──予備動作なしで超速の拳撃を可能にする上級スキルなのだが、よく察知できたものだ」
「お前……!」
なんの迷いもなく、いっさいの躊躇もせず──。
こいつは、俺の頭部を拳で砕こうとした。
「お前たちが信用できない、っていうのは骨の髄まで染みてるからな」
「女神ラキシスから私は使命を受けている。本来ならファルセリアに送りこまれるはずの魔族軍をすべてこの世界に送りこむように、と」
ナダレが言った。
「結果、この世界が滅んでも構わないような口ぶりだった」
「女神さまが……?」
「神々には神々の都合があるのだろう。この世界やファルセリアはラキシス様ではなく他の女神の管轄だからな」
淡々と告げるナダレ。
「ファルセリアではなくこの世界に魔族が侵攻することで、ラキシス様に利するものがあるのだろう。私には興味がないことだが」
「……大勢の人が死ぬかもしれないのに、か」
現代兵器なら魔族相手でもダメージを与えることはできるだろう、たぶん。
だからって人的被害がゼロにはならないはずだ。
未知の敵を相手に手こずり、一般人にせよ、軍人にせよ、大きな被害が出ることも十分あり得る。
「興味はない、と言ったはずです。ナダレさんも、私も」
アリアンが冷たい声で告げた。
「女神ラキシス様が『門番』のことを教えてくださったからこそ──そして、新たな『門番』を生み出し、制御する方法を教えてくださったからこそ、ファルセリアを魔族軍から救う手だてが見つかりました。魔王軍と正面から戦えば、大きな被害が出るでしょう。ですが、この方法なら──少数の精鋭による作戦で、上手くいけば被害はゼロに抑えられます。そして──」
アリアンの目がスッと細められる。
俺をまっすぐ見つめる瞳には、冷然とした殺意が浮かんでいる──。
「魔界からファルセリアへの侵攻ができなくなれば、もはや勇者は必要ありません」
「……!」
俺は無意識に夜天を握り直した。
すでに悟っていた。
真の死闘はこれから始まるのだ、と──。
魔族レグルドはこう言っていた。
『「門番」を倒すと、新たな「門番」が生まれる。そいつを俺様たちが手なずける』
『そうすればファルセリアと魔界は自由に行き来できるようになる。現状では不可能な魔界全軍によるファルセリア侵攻も可能になる、ってことだ』
つまり、新たな『門番』を生み出すことで、異世界間の行き来を制御できるということだ。
その新たな『門番』をどう用意するのか?
アリアンやナダレはすでに一体の高位魔族を拘束しているという話は聞いていた。
今から、そいつを新たな『門番』にする手はずである。
アリアンの僧侶系スキルによって、その魔族はこちらの言うことを聞くようにしてあるんだとか。
「では、手順通りに始めようか。アリアン殿」
ナダレが促す。
「新たな『門番』用の高位魔族を召喚してくれ」
「承知しました」
アリアンが進み出て、錫杖を掲げた。
「私たちの世界も、貴殿の世界も、ともに魔族の脅威から救われる。これで戦いは終わりだ、彼方殿」
ナダレが俺に微笑んだ。
温和な、笑顔。
──ぞわり。
全身に強烈な悪寒が走った。
理屈じゃない、本能だ。
「っ……!?」
『一周目』の人生で──異世界で戦い続けて培った本能。
それが俺を動かした。
考えるよりも早く、体が勝手に動く感じで前方に転がる。
ごうっ!
ほぼ同時に、俺が直前までいた空間を衝撃波が通過した。
「避けたか」
ナダレが淡々とした口調でつぶやいた。
拳を繰り出した姿勢のままで。
「クラス『武神』の【瞬影殺】──予備動作なしで超速の拳撃を可能にする上級スキルなのだが、よく察知できたものだ」
「お前……!」
なんの迷いもなく、いっさいの躊躇もせず──。
こいつは、俺の頭部を拳で砕こうとした。
「お前たちが信用できない、っていうのは骨の髄まで染みてるからな」
「女神ラキシスから私は使命を受けている。本来ならファルセリアに送りこまれるはずの魔族軍をすべてこの世界に送りこむように、と」
ナダレが言った。
「結果、この世界が滅んでも構わないような口ぶりだった」
「女神さまが……?」
「神々には神々の都合があるのだろう。この世界やファルセリアはラキシス様ではなく他の女神の管轄だからな」
淡々と告げるナダレ。
「ファルセリアではなくこの世界に魔族が侵攻することで、ラキシス様に利するものがあるのだろう。私には興味がないことだが」
「……大勢の人が死ぬかもしれないのに、か」
現代兵器なら魔族相手でもダメージを与えることはできるだろう、たぶん。
だからって人的被害がゼロにはならないはずだ。
未知の敵を相手に手こずり、一般人にせよ、軍人にせよ、大きな被害が出ることも十分あり得る。
「興味はない、と言ったはずです。ナダレさんも、私も」
アリアンが冷たい声で告げた。
「女神ラキシス様が『門番』のことを教えてくださったからこそ──そして、新たな『門番』を生み出し、制御する方法を教えてくださったからこそ、ファルセリアを魔族軍から救う手だてが見つかりました。魔王軍と正面から戦えば、大きな被害が出るでしょう。ですが、この方法なら──少数の精鋭による作戦で、上手くいけば被害はゼロに抑えられます。そして──」
アリアンの目がスッと細められる。
俺をまっすぐ見つめる瞳には、冷然とした殺意が浮かんでいる──。
「魔界からファルセリアへの侵攻ができなくなれば、もはや勇者は必要ありません」
「……!」
俺は無意識に夜天を握り直した。
すでに悟っていた。
真の死闘はこれから始まるのだ、と──。
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