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陰謀編 プレイステッド領
人質、魚を貪り食う
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ガラの悪そうなおっさんが運んでくると思っていた食事は、きっちりと執事服を着た兄さんでも絶対領域を見せびらかすメイドでもなく、白衣を着た爺さんが持ってきた。なんで?
そして、テーブルに食事を並べると静かにワゴンを押して部屋を出て行った。なんで?
「……気にしてもしょうがないか……。飯でも食おう」
懸念していたことは三食の食事がちゃんと提供されるかということ。貴族って朝と夜しか食べないとか、昼食の代わりにお茶の時間がやたらと多いとか、夜はパーティーで酒を飲んで食べるとか、いろいろあるからさぁ、プレイステッド辺境伯家がウェ~イウェ~イのパーリータイプだったら、昼食ないかもと危惧していた。なんせ、俺はダイエットの途中。三食バランスよく食べる必要がある! ……プレイステッド辺境伯領には海があるから、新鮮な魚料理に期待もしていた。
テーブルに並べられた皿に注目! パンが二つある。黒パンでカッチカチの固さではなく、ふわふわのパンだ。もっちりも欲しいけど、ヘクターが焼いたパンじゃないとふわふわもっちりは再現できないもんな。果実水が入ったコップ。ワインじゃないんだ。柑橘系の果実水でサッパリとした飲み心地だ。……アルコールじゃないんだ。しょぼん。メインは魚! やったあ、やったあ! でもムニエル。刺身じゃない、塩焼きじゃない。魚のムニエルにクリームソースがたっぷり……カロリー増し増しじゃない。小ぶりな皿にサラダもあるけど……カロリーが……。
「あ、ここにいたら運動できないじゃないか! ど、どうしよう」
ランニングもウォーキングもできない。筋トレは器具がないからスクワット程度。プランクもできるけど、俺は地味なトレーニングは好きじゃない。飽きてしまう。しかも、こんな殺風景な部屋で黙々と筋トレするのは、辛い。
「とりあえず、食いながら考えよう。いただきます」
どうせ、考える時間はいっぱいあるんだし。俺はフォークとナイフを持ち、魚にいざ入刀。
プレイステッド辺境伯家。
現当主はそろそろ引退すれば? と噂される年齢ではあるがバリバリの現役である。海の町を治めるだけあって小麦色の肌にパンッと弾ける筋肉。大柄で顔も厳つい海の男だ。愛する妻との間に二人の息子もおり、はたから見れば羨ましい人生を歩いているとも……。
「辺境伯様。また海で魔獣が暴れております」
こういう報告は毎日ある。暴れているのが魔獣か海賊か山賊かの違いで、ほぼプレイステッド辺境伯家の騎士たちはヒッャハーとばかりに剣を振るっていた。暖かい気候のせいか、広大な海原を眺めているせいか、プレイステッド辺境伯家の騎士たちは自由だ。規律も不敬ギリギリのラインでしか守れない。プレイステッド辺境伯の紋章が刻まれた鎧や武具を持っていなければ、彼らこそが海賊で山賊だと間違われるだろう。それだけ猛々しいということだ。
この国に二つしかない辺境伯家。もう片方のウェントブルック辺境伯家の騎士たちは騎士道とはこういうものだという見本のような騎士ばかりなのに。
それでもプレイステッド辺境伯領の領民は、自分たちを守ってくれる騎士たちが大好きだ。賞金首ばりの顔つきの辺境伯様も大好きだ。そして、そんな騎士たちの先頭を走る次期辺境伯様も大好きだった。
……そんな領民に愛される辺境伯家だが、辺境伯様の二人の息子の一人、ラファエル・プレイステッドは領民の軽い口にも上らないミステリアスな男だ。生まれたばかりに前辺境伯夫人の手により、王都へと連れられ養育されたとか、幼少のころに天に召されて影武者がいるのだとか、噂には事欠かない人物である。
実際は、前辺境伯夫人に育てられ、父母兄とはやや疎遠であること。前辺境伯夫人の妄執により捻くれて育ったこと。前辺境伯夫人に心酔する騎士たちがその周りを守り、辺境伯様の命令にも背くことなど……プレイステッド辺境伯としては頭の痛い存在になっている。
何度か関係改善を試みたが、すべてラファエルによって拒絶され、今はプレイステッドの海が見渡せる丘の上の屋敷で生活していた。ラファエルを第一とする前辺境伯夫人に仕えた時代の使用人が仕切る屋敷で、彼は任されたプレイステッド家の仕事と個人で営む商会の仕事を静かにこなしていると思われていた。
まさか、その屋敷に出入りする商人や領民がプレイステッド辺境伯家に弓弾く者たちで、虎視眈々とその地位を狙い反逆の炎が燃やされていたとは知らず。しかも、その屋敷の一角にオールポート伯爵家の白豚……もとい伯爵様その人が囚われているとは誰も気づかなかった。
コトン。
お気に入りの臙脂色のインクで丁寧に手紙を書いた。これは大事な手紙だから、とってもとっても大事な手紙だから。自分と運命共同体のあの人への手紙だから、すぐに確実に届けてもらわなきゃ。ふふふ、あいつが適任だ。あいつならあの人も僕がどれだけ大事な駒を手にしたか理解できるだろう。
「ねぇ、ハリソンを呼んでくれる? 手紙を届けてほしいんだ」
従者に命じると、彼はちょっと鼻白んでから部屋を出ていった。新参者に風当たりが強いのはしょうがない。しかも彼は主人を裏切ったのだから。
「お呼びですか?」
「ハリソン、手紙を届けにいってくれる? 王都まで」
はい、と差し出した手紙には、僕の美しい字であの人の名前が書かれている。
ルーカス・ウェントブルック、と。
そして、テーブルに食事を並べると静かにワゴンを押して部屋を出て行った。なんで?
「……気にしてもしょうがないか……。飯でも食おう」
懸念していたことは三食の食事がちゃんと提供されるかということ。貴族って朝と夜しか食べないとか、昼食の代わりにお茶の時間がやたらと多いとか、夜はパーティーで酒を飲んで食べるとか、いろいろあるからさぁ、プレイステッド辺境伯家がウェ~イウェ~イのパーリータイプだったら、昼食ないかもと危惧していた。なんせ、俺はダイエットの途中。三食バランスよく食べる必要がある! ……プレイステッド辺境伯領には海があるから、新鮮な魚料理に期待もしていた。
テーブルに並べられた皿に注目! パンが二つある。黒パンでカッチカチの固さではなく、ふわふわのパンだ。もっちりも欲しいけど、ヘクターが焼いたパンじゃないとふわふわもっちりは再現できないもんな。果実水が入ったコップ。ワインじゃないんだ。柑橘系の果実水でサッパリとした飲み心地だ。……アルコールじゃないんだ。しょぼん。メインは魚! やったあ、やったあ! でもムニエル。刺身じゃない、塩焼きじゃない。魚のムニエルにクリームソースがたっぷり……カロリー増し増しじゃない。小ぶりな皿にサラダもあるけど……カロリーが……。
「あ、ここにいたら運動できないじゃないか! ど、どうしよう」
ランニングもウォーキングもできない。筋トレは器具がないからスクワット程度。プランクもできるけど、俺は地味なトレーニングは好きじゃない。飽きてしまう。しかも、こんな殺風景な部屋で黙々と筋トレするのは、辛い。
「とりあえず、食いながら考えよう。いただきます」
どうせ、考える時間はいっぱいあるんだし。俺はフォークとナイフを持ち、魚にいざ入刀。
プレイステッド辺境伯家。
現当主はそろそろ引退すれば? と噂される年齢ではあるがバリバリの現役である。海の町を治めるだけあって小麦色の肌にパンッと弾ける筋肉。大柄で顔も厳つい海の男だ。愛する妻との間に二人の息子もおり、はたから見れば羨ましい人生を歩いているとも……。
「辺境伯様。また海で魔獣が暴れております」
こういう報告は毎日ある。暴れているのが魔獣か海賊か山賊かの違いで、ほぼプレイステッド辺境伯家の騎士たちはヒッャハーとばかりに剣を振るっていた。暖かい気候のせいか、広大な海原を眺めているせいか、プレイステッド辺境伯家の騎士たちは自由だ。規律も不敬ギリギリのラインでしか守れない。プレイステッド辺境伯の紋章が刻まれた鎧や武具を持っていなければ、彼らこそが海賊で山賊だと間違われるだろう。それだけ猛々しいということだ。
この国に二つしかない辺境伯家。もう片方のウェントブルック辺境伯家の騎士たちは騎士道とはこういうものだという見本のような騎士ばかりなのに。
それでもプレイステッド辺境伯領の領民は、自分たちを守ってくれる騎士たちが大好きだ。賞金首ばりの顔つきの辺境伯様も大好きだ。そして、そんな騎士たちの先頭を走る次期辺境伯様も大好きだった。
……そんな領民に愛される辺境伯家だが、辺境伯様の二人の息子の一人、ラファエル・プレイステッドは領民の軽い口にも上らないミステリアスな男だ。生まれたばかりに前辺境伯夫人の手により、王都へと連れられ養育されたとか、幼少のころに天に召されて影武者がいるのだとか、噂には事欠かない人物である。
実際は、前辺境伯夫人に育てられ、父母兄とはやや疎遠であること。前辺境伯夫人の妄執により捻くれて育ったこと。前辺境伯夫人に心酔する騎士たちがその周りを守り、辺境伯様の命令にも背くことなど……プレイステッド辺境伯としては頭の痛い存在になっている。
何度か関係改善を試みたが、すべてラファエルによって拒絶され、今はプレイステッドの海が見渡せる丘の上の屋敷で生活していた。ラファエルを第一とする前辺境伯夫人に仕えた時代の使用人が仕切る屋敷で、彼は任されたプレイステッド家の仕事と個人で営む商会の仕事を静かにこなしていると思われていた。
まさか、その屋敷に出入りする商人や領民がプレイステッド辺境伯家に弓弾く者たちで、虎視眈々とその地位を狙い反逆の炎が燃やされていたとは知らず。しかも、その屋敷の一角にオールポート伯爵家の白豚……もとい伯爵様その人が囚われているとは誰も気づかなかった。
コトン。
お気に入りの臙脂色のインクで丁寧に手紙を書いた。これは大事な手紙だから、とってもとっても大事な手紙だから。自分と運命共同体のあの人への手紙だから、すぐに確実に届けてもらわなきゃ。ふふふ、あいつが適任だ。あいつならあの人も僕がどれだけ大事な駒を手にしたか理解できるだろう。
「ねぇ、ハリソンを呼んでくれる? 手紙を届けてほしいんだ」
従者に命じると、彼はちょっと鼻白んでから部屋を出ていった。新参者に風当たりが強いのはしょうがない。しかも彼は主人を裏切ったのだから。
「お呼びですか?」
「ハリソン、手紙を届けにいってくれる? 王都まで」
はい、と差し出した手紙には、僕の美しい字であの人の名前が書かれている。
ルーカス・ウェントブルック、と。
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