転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~

緒沢利乃

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恋愛編② ウェントブルック領

セシル、最悪なご対面

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連絡係にとベンジャミンをウェントブルック辺境伯の城に残し、リヒトとディーンと共に馬車で森の近くまで来ると、微かに血の匂いがしてきた。

「……セシル様」

「だれか怪我をしている。これは、一人や二人じゃないな……」

ハリソンとレナードは騎士だし元傭兵だから多少の怪我は慣れっこだろうし、覚悟もしているだろう。だが、好奇心だけで突き進むラスキン博士は荒事の経験もないし、年が年だから、小さな怪我から体調が悪化することも考えられる。こりゃ、ラスキン博士だけでも、無理やり引きずって森から離したほうがいいなぁ。

ピタリと馬車が止まり、御者が開けてくれた扉から見えたのは、あちこちで張られたテントと、粗末な敷物の上に寝かされている怪我人たち。その間を走り回るのは薬師たちだ。

「さて、誰に事情を聞けばいいのやら……」

だって、ものすごくバタバタしているのだ。馬の魔獣なんて出没したことのないウェントブルック辺境伯領。数年に一度、新種の魔獣が発見されるが系統としては犬・狼系や猪・鹿。リスやネズミ、蟻や蜂という魔虫も出てくる。そもそも、ウェントブルック辺境伯領には野生の馬はいない。いない獣は魔獣として出没することはない。
経験のない状況に騎士たちはパニックに近いだろう。なまじ、魔獣討伐に対して自信があったから、余計にこんなイレギュラーに対してどうすればいいのかわからないのだ。

「セシル様、あちらを」

ディーンが指さす方向に、痩身の老人の姿が……おお! ラスキン博士見つけたーっ!

「行くぞ」

「はい」

ラスキン博士は怪我人が横たわる側で膝をつき、丁寧な手つきで怪我人の顔や腕を拭いていた。ボランティア活動なのか、それとも知り合いなのか……。イヤな予感がする。
俺は視線だけを飛ばしハリソンとレナードの姿を探す。だが、見つけることはできなかった。ルーカスの姿もだ。きっと、森の中で魔獣と対峙しているのだろう。怪我……してないといいな。





























ウェントブルック辺境伯領の森に出現した馬の魔獣は、当初発見されたよりも数多く、その半数が額に角が生えた凶悪な進化を遂げていた。森に元々棲息していた小動物は食い散らかされ、太い木があちこちに倒され白くて小さな花は踏み潰された。

ヴァゼーレで発見された狼の魔獣の群れとは違い、馬の魔獣は統率が取られているわけでもなく、個々がそれぞれに暴れ、バラバラに動いていた。かろうじて森の近くの村が襲われる前に発見し、騎士たちが森に入ったことで領民の被害は出ていない。

それでも、最強と謳われたルーカス・ウェントブルックが率いる騎士隊でも、多くの怪我人が出る事態となっていた。

「ラスキン博士!」

俺たちが駆け寄ると、ラスキン博士は厳しい顔つきでチラリと視線を投げ、無言で横たわる怪我人の手当てを続ける。ラスキン博士の背後に立ち、怪我人を窺い見るとまだ若い痩せた男がぐったりと意識を失くし横たわっていた。
伸び放題の赤毛を後ろで一つに括っていたのだろうが、無残にも切られバラバラの長さになり肩や頬を覆っている。元々白い肌だったろうが、いまは血の気もひいて青白い。細い首、手足には打撲の痣が見える。左足には添え木がしてあり、もしかして骨折しているのかも。
ぐぐっと苦しげに呻くと眉間にシワが寄り、口元も引き結ばれ、痛々しさが増す。

「……こ奴がエディじゃよ。途中で馬の魔獣とかち合い、騎士たちとはぐれて一人逃げ惑っていたらしい」

ラスキン博士は親友の息子、養い子の額に手をあてて優しく撫でてやる。

「怪我はひどいのですか?」

「足は折れておる。体中に打撲、擦り傷。どうやら逃げている途中で足を踏み外し転げ落ちたみたいだ。その際、窪みに嵌って動けず魔獣と遭遇することもなかったが、二日ほど発見が遅れた。飲まず食わずだったので衰弱しておる」

ペチンとエディの額を軽く叩いたラスキン博士は、両手で顔を覆い深く息を吐きだした。

「生きててよかったわい。あいつにあの世で顔向けできんところじゃった」

「ラスキン博士。とにかく命は助かったし、そもそも、もういい年した男だろう? ラスキン博士のせいじゃない」

俺はポンッとラスキン博士の肩を叩き、慰めるためにそう言った。そう言ったのだが……ラスキン博士は緩く頭を横に振り、弱弱しい声で俺に問いかけた。

「もし……、もしシャーロット嬢が大人になり結婚しセシル様の手を離れたとしても……何かあれば胸が潰れるように苦しいはずです。自分がいれば助けられたと悔やむはずです。セシル様……親とはそういうものなのです」

「ラスキン博士……」

いつも明るく好奇心旺盛な輝く表情は鳴りを潜め、憔悴した一人の親の目からはポロリと涙が零れ落ちた。

「……そうか。そうだな。生きててよかった」

「はい。はい……生きててよかった……」

そのままエディに覆いかぶさるようにラスキン博士は泣き崩れた。とにかくここでは怪我の手当ても十分ではないし、静かに休むこともできないので、俺たちが乗ってきた馬車で辺境伯の城へと連れて行くことにする。

「先にラスキン博士とエディさんを乗せて城まで戻り、セシル様と俺は戻ってきた馬車で帰りましょう」

「そうだな……。しかし、ただ待っているのも気がひける。何か手伝えないか、誰かに指示をもらおう」

「え? セシル様がお手伝いするんですか?」

体を仰け反らして驚くほどのことでもないだろうに。こんなに怪我人が多くて混乱している場所で、ボーっと白豚が立っていたら邪魔でしょう? 包帯を巻くでもお湯を沸かすでも、できることがあるなら手伝わないとね!

俺は腕まくりをして勇ましく、一際大きいテントへと足を向けた。
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