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Side ジン
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騎士の家に生まれた。
三男だった。そのうち親父は騎士団の団長になっていた。
一番上の兄は騎士になった。親父の跡を継いで、実力で騎士爵をもぎ取るって勇んでいたっけ。
親父によく似た緑の髪を長く伸ばして馬の尻尾みたいに括って剣を振るう姿は、弟のひいき目を抜きにしても格好良かった。
二番目の兄は文官になるって、猛烈に勉強をするようになった。
俺はジッとしてるのが苦手だから、次兄が勉強を始めたとき、悪いモンでも食っておかしくなったのかと、ビビった。
どうやら、長兄が騎士になったことで将来を真面目に考えた結果らしい。
親父と長兄が戦いで命を落とすことがあったら、家はどうするのか、と。
同じ、騎士の道に進めば全滅の可能性もある。だから、文官になって城に勤めて、万が一のときは母親と俺を養うつもりで。
凄いな、て感心した。
そんな先のことを考えて、家族のことを考えて行動できる二人の兄を尊敬した。
もちろん、代々騎士を輩出した家だとしても、騎士団長まで上り詰めた親父も尊敬している。
そんな家族が俺に言う。
「ジンは好きなことしていいぞ」
好きなこと……?
剣は好きだ。
長剣も大剣も扱えるし、槍もなかなかの腕前だと、褒められた。
でも、それだけだ。
剣は兄に劣るし、親父のように軍の統率を取ることなんて無理だし。
勉強は好きじゃないけど、そこそこできた。
次兄が言うには、文官になるのに問題が無いぐらいの学力らしい。
でも……文官で何をするんだ?
次兄は着々と実績を積んで、宰相様の補佐の補佐に付いた。
俺は……会計とか商売とかには興味が無いし、貿易や外国との交渉なんてわからない。
城の奥向きのことや、政治のことなんて知りたくない。
そう、俺にはやりたいことがない。好きなことが見つからない。
「やりたいことが見つかるまで、家に居たらいい」
王都の学校を卒業した俺に、親父がそう言った。
長兄は騎士の宿舎に、次兄も城に詰めていることが多い。
母親と二人きりだと寂しいから、俺には家に居て欲しいと……。
学校を卒業すれば、成人だ。大人だ。
だいたいは親の跡を継ぐべき社交界で横の繋がりを持ったり、領地に帰って領地経営に励んだりする。
俺の学友たちもそうだ。
そして、婚約者との結婚。
「好きな子がいたら、結婚してもいいわよ」
「平民でもかまわないぞ、いい子なら。もし、爵位の高い令息が相手なら、まかせとけっ! 国王の奴に頼んでやる!」
……、いや、無理だろう。
国王陛下に不敬なことすんなっ。家が取り潰されるわっ!
好きな子なんていない。受け身の子には優しくすることは、母親に嫌ってぐらい叩き込まれた。だから、優しくしたし、我儘にも付き合った。
でも……好きとは違うよな? みんな、同じように見えたんだ。
家族にも使用人にも愛されて、自由が約束されていて……、俺は苦しかった。何か好きなことを見つけなきゃ、やりたいことをみつけなきゃ、と焦っていた。
剣も勉学も人付き合いも、そこそこ困らずにできたため、余計に俺は困った。
できないことがあれば、そのことに固執することもできたのに、全てほどほどにできてしまったから……。
好きな子もいない。容姿が評判の子も気立てがいいと噂の子も、みんなみんな同じに見える。
「はーっ」
誰か、責めてくれ。仕事をしろ、とか。結婚相手を見つけてこい、とか。むしろ、騎士になれ! とか文官になれ! とか決めてほしい。
この子と結婚しろ、と相手を連れてきてくれ!
ある日、俺は壊れた。
家の者に何も言わずに飛び出した。成人した男が大した理由もないのに出奔したんだ。
もう、家には戻れないって思った。
いい歳して泣きながら乗合馬車に飛び乗った。
知らない町でとりあえず冒険者登録して、毎日毎日依頼をこなして。
冒険者仲間と組んで高ランク魔獣討伐をこなして、名前を上げて。
ただ、パーティーは組まなかった。いつも臨時メンバーとして参加するだけで、正式に加入を誘われても加わらなかった。
なんでだろう?
いい人たちばっかりだったし、みんな実力もあったのに。
俺はソロで続けた。
1年ぐらい国中をブラブラと回って、王都に戻ってきた。
それでも、家には戻らない。家族にも会わない。会えるわけがない。あんなに愛してもらったのに、愛情を返せなかったのだから。
カケスの町は、王都にいて息が詰まったときに、向かう所だ。
魔獣のいる森もダンジョンもある。手合わせしてもらいたい、冒険者ギルドのサブマスのイリヤさんもいる。
王都で疲れたら、この街に来てのんびりして、また王都に帰り依頼を受ける。
そんな毎日だった。
「え? イリヤさん、ヒマじゃないの?」
「サブマスはいつでもヒマじゃありませんよ。なんだか、今日の新人冒険者の魔法講習の講師をやるって張り切ってるんです。準備があるから、今日はお相手できないそうです」
「そうか……」
残念。この間の依頼でAランク冒険者になった俺は、久しぶりにイリヤさんと手合わせしたかったのだが……、珍しく真面目に仕事してる彼の邪魔はできないな……。
「じゃあ、なんかおもしろい依頼ない?」
カケスの町の冒険者ギルド受付の彼は、可愛いことで有名らしい。俺には、よくわからないけど……。
「あ、そういえば、ビックボアが街道にまで出てきてる所があるんですよねー。まだ依頼は出してないんですけど……」
「了解。ヒマつぶしに間引いてくるよ」
よっ、と愛用の大剣を背負って、ギルドを出る。
まさか、ヒマ潰しに行った場所で、運命に会えるなんて!
体を縮めて震えながら、泣いてるあの子。
体が小さいな。
黒い艶やかな髪が珍しい。
顔は涙でぐしゃぐしゃだったけど、黒い瞳が赤く染まっていて……かわいい。
「守ってあげたい」
そう思った。
ああ……。俺は守られる側だった。
親父から兄たちから、家の使用人からも……。守ってもらって甘やかされて……。この子は俺が初めて「守りたい」と思った相手。
グゥゥゥーンっと胸が熱くなる。
腕の中で、まだ震えてるこの子が大切で大切で……、でも無茶苦茶にしたくて。
そうした後に、これでもかって甘やかしてあげたい。
ぎゅっ、抱きしめる。
大丈夫、俺がずっと守ってあげるよ。
三男だった。そのうち親父は騎士団の団長になっていた。
一番上の兄は騎士になった。親父の跡を継いで、実力で騎士爵をもぎ取るって勇んでいたっけ。
親父によく似た緑の髪を長く伸ばして馬の尻尾みたいに括って剣を振るう姿は、弟のひいき目を抜きにしても格好良かった。
二番目の兄は文官になるって、猛烈に勉強をするようになった。
俺はジッとしてるのが苦手だから、次兄が勉強を始めたとき、悪いモンでも食っておかしくなったのかと、ビビった。
どうやら、長兄が騎士になったことで将来を真面目に考えた結果らしい。
親父と長兄が戦いで命を落とすことがあったら、家はどうするのか、と。
同じ、騎士の道に進めば全滅の可能性もある。だから、文官になって城に勤めて、万が一のときは母親と俺を養うつもりで。
凄いな、て感心した。
そんな先のことを考えて、家族のことを考えて行動できる二人の兄を尊敬した。
もちろん、代々騎士を輩出した家だとしても、騎士団長まで上り詰めた親父も尊敬している。
そんな家族が俺に言う。
「ジンは好きなことしていいぞ」
好きなこと……?
剣は好きだ。
長剣も大剣も扱えるし、槍もなかなかの腕前だと、褒められた。
でも、それだけだ。
剣は兄に劣るし、親父のように軍の統率を取ることなんて無理だし。
勉強は好きじゃないけど、そこそこできた。
次兄が言うには、文官になるのに問題が無いぐらいの学力らしい。
でも……文官で何をするんだ?
次兄は着々と実績を積んで、宰相様の補佐の補佐に付いた。
俺は……会計とか商売とかには興味が無いし、貿易や外国との交渉なんてわからない。
城の奥向きのことや、政治のことなんて知りたくない。
そう、俺にはやりたいことがない。好きなことが見つからない。
「やりたいことが見つかるまで、家に居たらいい」
王都の学校を卒業した俺に、親父がそう言った。
長兄は騎士の宿舎に、次兄も城に詰めていることが多い。
母親と二人きりだと寂しいから、俺には家に居て欲しいと……。
学校を卒業すれば、成人だ。大人だ。
だいたいは親の跡を継ぐべき社交界で横の繋がりを持ったり、領地に帰って領地経営に励んだりする。
俺の学友たちもそうだ。
そして、婚約者との結婚。
「好きな子がいたら、結婚してもいいわよ」
「平民でもかまわないぞ、いい子なら。もし、爵位の高い令息が相手なら、まかせとけっ! 国王の奴に頼んでやる!」
……、いや、無理だろう。
国王陛下に不敬なことすんなっ。家が取り潰されるわっ!
好きな子なんていない。受け身の子には優しくすることは、母親に嫌ってぐらい叩き込まれた。だから、優しくしたし、我儘にも付き合った。
でも……好きとは違うよな? みんな、同じように見えたんだ。
家族にも使用人にも愛されて、自由が約束されていて……、俺は苦しかった。何か好きなことを見つけなきゃ、やりたいことをみつけなきゃ、と焦っていた。
剣も勉学も人付き合いも、そこそこ困らずにできたため、余計に俺は困った。
できないことがあれば、そのことに固執することもできたのに、全てほどほどにできてしまったから……。
好きな子もいない。容姿が評判の子も気立てがいいと噂の子も、みんなみんな同じに見える。
「はーっ」
誰か、責めてくれ。仕事をしろ、とか。結婚相手を見つけてこい、とか。むしろ、騎士になれ! とか文官になれ! とか決めてほしい。
この子と結婚しろ、と相手を連れてきてくれ!
ある日、俺は壊れた。
家の者に何も言わずに飛び出した。成人した男が大した理由もないのに出奔したんだ。
もう、家には戻れないって思った。
いい歳して泣きながら乗合馬車に飛び乗った。
知らない町でとりあえず冒険者登録して、毎日毎日依頼をこなして。
冒険者仲間と組んで高ランク魔獣討伐をこなして、名前を上げて。
ただ、パーティーは組まなかった。いつも臨時メンバーとして参加するだけで、正式に加入を誘われても加わらなかった。
なんでだろう?
いい人たちばっかりだったし、みんな実力もあったのに。
俺はソロで続けた。
1年ぐらい国中をブラブラと回って、王都に戻ってきた。
それでも、家には戻らない。家族にも会わない。会えるわけがない。あんなに愛してもらったのに、愛情を返せなかったのだから。
カケスの町は、王都にいて息が詰まったときに、向かう所だ。
魔獣のいる森もダンジョンもある。手合わせしてもらいたい、冒険者ギルドのサブマスのイリヤさんもいる。
王都で疲れたら、この街に来てのんびりして、また王都に帰り依頼を受ける。
そんな毎日だった。
「え? イリヤさん、ヒマじゃないの?」
「サブマスはいつでもヒマじゃありませんよ。なんだか、今日の新人冒険者の魔法講習の講師をやるって張り切ってるんです。準備があるから、今日はお相手できないそうです」
「そうか……」
残念。この間の依頼でAランク冒険者になった俺は、久しぶりにイリヤさんと手合わせしたかったのだが……、珍しく真面目に仕事してる彼の邪魔はできないな……。
「じゃあ、なんかおもしろい依頼ない?」
カケスの町の冒険者ギルド受付の彼は、可愛いことで有名らしい。俺には、よくわからないけど……。
「あ、そういえば、ビックボアが街道にまで出てきてる所があるんですよねー。まだ依頼は出してないんですけど……」
「了解。ヒマつぶしに間引いてくるよ」
よっ、と愛用の大剣を背負って、ギルドを出る。
まさか、ヒマ潰しに行った場所で、運命に会えるなんて!
体を縮めて震えながら、泣いてるあの子。
体が小さいな。
黒い艶やかな髪が珍しい。
顔は涙でぐしゃぐしゃだったけど、黒い瞳が赤く染まっていて……かわいい。
「守ってあげたい」
そう思った。
ああ……。俺は守られる側だった。
親父から兄たちから、家の使用人からも……。守ってもらって甘やかされて……。この子は俺が初めて「守りたい」と思った相手。
グゥゥゥーンっと胸が熱くなる。
腕の中で、まだ震えてるこの子が大切で大切で……、でも無茶苦茶にしたくて。
そうした後に、これでもかって甘やかしてあげたい。
ぎゅっ、抱きしめる。
大丈夫、俺がずっと守ってあげるよ。
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