【完結】王太子は元婚約者から逃走する

みけの

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真相⑤

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「国王陛下からの許可が下りたぞ!」
公爵からの朗報があったのは、マリアンヌが“等身大PMO(ポエマー迷惑王太子の略)人形”をギュウギュウ締め上げていた時だった。日焼けしてはいけないと日中は外に出してもらえないので、夕方特訓しているのである。
「ふむ。力は問題ありませんが、急所を的確に責められるようにしてください」
執事が、絞めた後と場所を確認しつつ注意している。
2人は公爵に気付くと、近寄って挨拶した。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「おじ様お帰りなさい。許可、ってあれ、ですよね」
今回の作戦に必要なものの一つ。“生命の危機や怪我をさせない限り何をしても良い”。
「ああ、あの許可だほら書面にして頂いた。王家のサインと印付きで」
バッと紙面を広げる。確かにサインと王家の金印付きだ。
「すごいですおじ様! よく許可してもらえましたね……!」
目を輝かせるマリアンヌに、少しあさっての方角に視線をやる。
「ふっ、まぁ……運が良かったのだろう」


 その日、朝の王城。
「陛下、本日の新聞でございます」
「うむ」
国王の朝のルーティンは、モーニングティを片手に朝刊に目を通すことから始まる。
盆で出された新聞を手に取り、一面を開くと……大きい見出しが飛び込んできた。

“王太子、戦に敗れ捕虜となる! 『あの時、婚約破棄をしたばっかりに……』”

「ぬ!?」
「こ、これは陛下、申し訳ございません、間違えてしまいました……!」
侍従が慌てて新聞を代えようとしたが、
「いや……少し気になるから、読んでみよう」
「さようでございますか」


 一方、王妃が廊下を歩いていると――。
「貴女達、何てものを読んでいるのですか! これは没収します」
「「侍女長、申し訳ございません」」
侍女長が、2人の侍女を叱っている処だった。
「どうしたのですか、侍女長?」
王妃が近寄ると、侍女長はハッと気付いて会釈する。
「まあ王妃殿下、お見苦しいところを。いえこの者達が王宮に相応しくないものを持ち込んでいたものですから」
「相応しくないもの?」
「ええ、ゴシップ雑誌というものです。巷で起きた出来事を面白おかしく書いたものです。全く、王宮侍女なのに自覚が足りませんね。
……あ、いけない! 用事があったのを思い出しました。御前を失礼致します。さ、行くわよ貴女達」
「「失礼致します」」
「そ……そう? ご苦労さま」
 そそくさと侍女長が去って行く。自分も立ち去ろうとしてフッと気付く。
先程の雑誌がそのまま、置いてあった。
「置き忘れなんて珍しいわね」
――ゴシップ誌、ねぇ……。
キョロキョロと辺りを確認してからそ~っと、雑誌を手に取り誌面を見る。

“ある性奴隷の独白『私はかつて、王太子だった……!』”
“元婚約者に執着した男の末路! 暴走の末に起きた悲劇”

「!?」
ぎょっ! と目を見開いた。
 侍女長が戻ってくる気配はない。
王妃は恐る恐る、雑誌を手に取り、中身を開いた――。


 「謁見の許可を頂きありがとうございます陛下」
玉座の前にひざまずく、スタン公爵と貴族数名。
「こたびは他でもなく、私の娘・セレナに王太子殿下がつきまと……いえ、拘られている件について、新たな案が出たので参じました」
「申してみよ」
「……これは私の遠縁の娘が考案した改善案です。なにとぞ、お目通しを」
うやうやしく差し出された書類に目を通すと、国王はグシャとそれを握りしめ、怒りというより悲壮な思いで叫んだ。
「我々に王太子を……息子を嵌めろと申すか!」
が、公爵も負けじと言い切った。
「嵌めるのではありません、ショック療法です。以前の聡明な殿下にお戻り頂く為の荒療治です」
“以前の聡明な殿下”の処を強調する事は忘れない。
「ショック療法……? し、しかしこの方法では、王太子を下りてしまうでは無いか」
 動揺を隠せない王の様子に広間にいた臣下達は頭の中で呟く。

――良いじゃないか、下りる程度で。
――こっちは幽閉してもらいたい程なんだぞ
――もう一押し、必要か?

 が、そこに助けが入った。
「へ、陛下……」
隣から王妃がそっと、その腕に手を添える。彼女の脳裏にあるのは、今朝見た雑誌だ。
――あの子がもし、性奴隷になるような事になったら……!
「心苦しいけど、ここはスタン公に任せましょう。セレナ嬢の為にも」
「う……っ」
 国王の脳裏にも、今朝の新聞の内容が過ぎる。
――息子がもし、あのような愚行に走ったら……!

 「絶対体に傷をつけないと、約束出来るか?」
「はい、傷などつけるつもりは毛頭ございません」
体には、ね。
「分かった。我の名において、許可する。書面にする故にしばし待て」
「ありがとうございます。英断に心から感謝申し上げます」


 「いやあ……何故かは分からないが、スムーズにいけて良かった」
はっはっは……と公爵は陽気に笑うが、マリアンヌは首を傾げる。
――なんっか、丸め込まれた感があるなー。でもまあ、これで王家側は大丈夫、って事だな。

 そして……当日になる。
決戦の火蓋は落とされた。
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