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5数える間に終わらせる
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この騎士様……いや、この“オジサン”達…………ダメだ。
未だに白熱している言い争いに、ため息と一緒に出た判定だ。
人を肩書きで判断してはいけない、と師匠が言ってたけどこれがそうなのか。
大体、ご褒美はお仕事をキチンと果たしてからもらえるものでしょう?
なのにお仕事を放棄して、ご褒美ばかり考えているってどうよ。
まぁ最初から私の仕事はこの扉を開けるまでだから、これで役割は果たした。だからもう良いでしょうと、誰かが気づいてくれる事を願い、扉の隙間に拾った石を挟んでおき、ホールに引き返した。
……お嬢様達が心配だ。貴族なんだから、日頃からこんな時の対処法を習っているのかも知れない。でもそれが安心に繋がるとは限らない。現実は常に知識の上をいく。
そしてそれが……一生消えない心の傷になるんだ。
やっぱり、しんどそうだな……。
戻って梁の上から見たご令嬢達の綺麗な顔が、紙みたいに真っ白になっている。
床の上で座ったままだから、体も冷えているだろう。そんな状態で放置される事だって今まで無かったはず。
……そう言えば昔、夜中に外に出された事があったな。あの時は薄着で裸足だったけど、動けたから風をしのぐ場所を探せた。けどお嬢様達はそれも出来ない。生理的な事情を訴えようにも口塞がれているし、最悪“垂れ流しとけ”とか思ってそうだ。……お嬢様なのに。
むー……と口をへの字に曲げていたのに気づき、気持を落ち着かせる。
大丈夫だ。あれから時間も経っている。騎士様達もいい加減落ち着いた頃合いだし、そうしたら彼女達も救出されるだろう。
報告では賊は全部で10人。その内常に5人づつ、1時間交替で見張りに出ている。
ならすぐに気づかれそうだけど、そこはあのオジサン達も完全に目が曇っている訳ではないようでまだ、気づかれていない。
問題はお嬢様達を人質にされてしまった場合だ。彼らがどんなに腕利きでも人質を盾に取られては手も足も出ない。
何とか賊から引き離せれば……と考えていると、
「おい、まずいぞ!!」
扉が破られんばかりに開かれ、賊の仲間が駆け込んできた。
「公爵の奴、騎士共を寄こしやがった!! 屋敷の裏でガヤガヤ喚く声がしたから見に行ってみたら大勢の騎士が来ていやがる!!」
「何だと!?」
――バレた!?
何してるんだ、と思いかけたのを無理に押し込め、眼下に注意を向ける。
オジサン――いや騎士達が来ている事に気づかれた彼らはバタバタと武器を構え、荷物をまとめていく。最初に声を上げたのは、いかにも自分は1番偉いんですよと言わんばかりの重装備の男。それだけで彼が賊のリーダーだと確信出来る。
彼は手下達にその目を向け、指示を出した。
「すぐずらかる!! 女どもは人質だ、連れて行け!」
「分かったぜ頭!」
「「「!!」」」
聞こえていたのだろう、眼下でご令嬢達が固まったのが見えた。身を寄せ合いながらジリジリと後じさる。
そんな彼女らに、容赦なく男の毛深い太い腕が伸ばされた。
暴力沙汰に無縁な彼女らには、それだけでも十分に恐怖だろう。
咄嗟に体が動いた。
掴まっていた梁から、体が離れる。目指す場所に意識を集中させ……私は賊のちょうど、肩の上に着地した。
「ぐぇっ!」
足下から声が上がる。勢いが付いた分打撃も与えられたはずだ。そのまま反動を利用し、相手の顎先を蹴りつけ地面に伏した。巨体が目の前で倒れていく。その体を足がかりに再び跳躍し、駆け寄ってきた仲間の1人も同様に蹴り 倒した。
2人の巨体が床に倒れるのと、私が着地したのが同時だった。
ご令嬢を背後に庇って立つ。
私の周りを、賊達が取り囲んでいた。巨体に囲まれ、私の所だけ影が降りたように暗くなる。見下ろす巨体と、そのギョロリとした眼光は威圧し慣れた者のそれだ。子供なら震えて泣き出すだろう。…………って、私も子供だけど。
「――何だぁ? このガキ」
賊が私を見下ろしてくる。眼光を見る限り威圧されているみたいだけど、これならまだ、お鍋の底にこびりついたシチューを舐めてた時の、マーサさんの表情の方が背筋にきたな。
そんな事を考えていたら、ますます賊達に、ジロジロと見られてしまう。さながら彼らにとっての私は、“いきなり目の前に現れたガキ”といったところか。
「分からねぇ、いきなり出て来たんでさ」
うん、やっぱり。
「乞食のガキかなんかだろう、盗みに入り込んだだけだろうよ。おいチビ、死にたくねぇならどけよ」
「ホレホレさっさと行け」
ジロジロ見ながらシッシッと、犬を払うように手を動かす。つまり私は完全に舐められている。
――非常に、好都合だ。
さてどうするか。
彼らを制圧する事は問題じゃ無い、心配なのは背後にいるお嬢様達だ。
出来る限り、残酷なシーンは見せたくない。けど手短に済ませるなら手加減は出来ない。
「耳がいかれてんのか? サッサとどかねぇと――」
「あいにくと、ここでどく訳にはいかないんですよ」
「――ああン?」
私が言うと、目の前の巨漢は私を見た。さしずめ“頭おかしいガキか?”といったところか。
私がクナイを構えたからだ。
私は少しだけ振り返り、背後のご令嬢達にお願いする。
「――お嬢様方。少しの間だけ伏せて、頭の中で5つ、数えていて頂けますか?」
「……っ!」
「その間に片付けますので」
意味を察した男達が目を剥く。全員頭から火が噴きそうに顔を真っ赤にすると、
「フザケた事を! ぶっ殺してやる!!」
一斉に掴みかかってきた。
……さぁ、5つまでで終わらせよう。
未だに白熱している言い争いに、ため息と一緒に出た判定だ。
人を肩書きで判断してはいけない、と師匠が言ってたけどこれがそうなのか。
大体、ご褒美はお仕事をキチンと果たしてからもらえるものでしょう?
なのにお仕事を放棄して、ご褒美ばかり考えているってどうよ。
まぁ最初から私の仕事はこの扉を開けるまでだから、これで役割は果たした。だからもう良いでしょうと、誰かが気づいてくれる事を願い、扉の隙間に拾った石を挟んでおき、ホールに引き返した。
……お嬢様達が心配だ。貴族なんだから、日頃からこんな時の対処法を習っているのかも知れない。でもそれが安心に繋がるとは限らない。現実は常に知識の上をいく。
そしてそれが……一生消えない心の傷になるんだ。
やっぱり、しんどそうだな……。
戻って梁の上から見たご令嬢達の綺麗な顔が、紙みたいに真っ白になっている。
床の上で座ったままだから、体も冷えているだろう。そんな状態で放置される事だって今まで無かったはず。
……そう言えば昔、夜中に外に出された事があったな。あの時は薄着で裸足だったけど、動けたから風をしのぐ場所を探せた。けどお嬢様達はそれも出来ない。生理的な事情を訴えようにも口塞がれているし、最悪“垂れ流しとけ”とか思ってそうだ。……お嬢様なのに。
むー……と口をへの字に曲げていたのに気づき、気持を落ち着かせる。
大丈夫だ。あれから時間も経っている。騎士様達もいい加減落ち着いた頃合いだし、そうしたら彼女達も救出されるだろう。
報告では賊は全部で10人。その内常に5人づつ、1時間交替で見張りに出ている。
ならすぐに気づかれそうだけど、そこはあのオジサン達も完全に目が曇っている訳ではないようでまだ、気づかれていない。
問題はお嬢様達を人質にされてしまった場合だ。彼らがどんなに腕利きでも人質を盾に取られては手も足も出ない。
何とか賊から引き離せれば……と考えていると、
「おい、まずいぞ!!」
扉が破られんばかりに開かれ、賊の仲間が駆け込んできた。
「公爵の奴、騎士共を寄こしやがった!! 屋敷の裏でガヤガヤ喚く声がしたから見に行ってみたら大勢の騎士が来ていやがる!!」
「何だと!?」
――バレた!?
何してるんだ、と思いかけたのを無理に押し込め、眼下に注意を向ける。
オジサン――いや騎士達が来ている事に気づかれた彼らはバタバタと武器を構え、荷物をまとめていく。最初に声を上げたのは、いかにも自分は1番偉いんですよと言わんばかりの重装備の男。それだけで彼が賊のリーダーだと確信出来る。
彼は手下達にその目を向け、指示を出した。
「すぐずらかる!! 女どもは人質だ、連れて行け!」
「分かったぜ頭!」
「「「!!」」」
聞こえていたのだろう、眼下でご令嬢達が固まったのが見えた。身を寄せ合いながらジリジリと後じさる。
そんな彼女らに、容赦なく男の毛深い太い腕が伸ばされた。
暴力沙汰に無縁な彼女らには、それだけでも十分に恐怖だろう。
咄嗟に体が動いた。
掴まっていた梁から、体が離れる。目指す場所に意識を集中させ……私は賊のちょうど、肩の上に着地した。
「ぐぇっ!」
足下から声が上がる。勢いが付いた分打撃も与えられたはずだ。そのまま反動を利用し、相手の顎先を蹴りつけ地面に伏した。巨体が目の前で倒れていく。その体を足がかりに再び跳躍し、駆け寄ってきた仲間の1人も同様に蹴り 倒した。
2人の巨体が床に倒れるのと、私が着地したのが同時だった。
ご令嬢を背後に庇って立つ。
私の周りを、賊達が取り囲んでいた。巨体に囲まれ、私の所だけ影が降りたように暗くなる。見下ろす巨体と、そのギョロリとした眼光は威圧し慣れた者のそれだ。子供なら震えて泣き出すだろう。…………って、私も子供だけど。
「――何だぁ? このガキ」
賊が私を見下ろしてくる。眼光を見る限り威圧されているみたいだけど、これならまだ、お鍋の底にこびりついたシチューを舐めてた時の、マーサさんの表情の方が背筋にきたな。
そんな事を考えていたら、ますます賊達に、ジロジロと見られてしまう。さながら彼らにとっての私は、“いきなり目の前に現れたガキ”といったところか。
「分からねぇ、いきなり出て来たんでさ」
うん、やっぱり。
「乞食のガキかなんかだろう、盗みに入り込んだだけだろうよ。おいチビ、死にたくねぇならどけよ」
「ホレホレさっさと行け」
ジロジロ見ながらシッシッと、犬を払うように手を動かす。つまり私は完全に舐められている。
――非常に、好都合だ。
さてどうするか。
彼らを制圧する事は問題じゃ無い、心配なのは背後にいるお嬢様達だ。
出来る限り、残酷なシーンは見せたくない。けど手短に済ませるなら手加減は出来ない。
「耳がいかれてんのか? サッサとどかねぇと――」
「あいにくと、ここでどく訳にはいかないんですよ」
「――ああン?」
私が言うと、目の前の巨漢は私を見た。さしずめ“頭おかしいガキか?”といったところか。
私がクナイを構えたからだ。
私は少しだけ振り返り、背後のご令嬢達にお願いする。
「――お嬢様方。少しの間だけ伏せて、頭の中で5つ、数えていて頂けますか?」
「……っ!」
「その間に片付けますので」
意味を察した男達が目を剥く。全員頭から火が噴きそうに顔を真っ赤にすると、
「フザケた事を! ぶっ殺してやる!!」
一斉に掴みかかってきた。
……さぁ、5つまでで終わらせよう。
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