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雨宿り~3~
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「ち、ちなみにさっきの話は、養父母達とは関係ありませんよ?」
取りあえずここは断っておこう。そう、これは私の本当の家族の話だ。――“ここ”に来る前の。
「分かるよ。今の話と彼らとは、どう考えても結びつかないし。……因みに父親はどうだったんだ? 話の様子では祖母とやらと一緒に死んだようだが……同じようにお前を疎んじていたのか?」
「…………父、ですか……」
やや返答に窮する。はっきり言って印象が薄いのだ。
「私が祖母に叩かれている時、コソコソ自室に入っていくところとか……。後は食卓で祖母に、魚の骨を取り除いてもらっているとことかしか思い出せません。会話なんて一度もしませんでしたし」
「魚の骨ぇ……?」
旦那様の綺麗な顔が、うんざりしたように歪む。
「お前の親になるくらいだから、ある程度は大人だろう?」
「? そうでしょうね、大人の体型はしていましたし、車の免許も持ってたようですし」
「クルマ? ――の免許が何かのかは知らないが、要するに大人しか持てないものって理解で良いかい?」
頷く私。旦那様のこうゆう察しの良さって、良いなぁと思う。
小さい疑問より、とにかく本題って感じだから、話したいこちらは途切れなく進める。
――まぁ後で事細かく訊かれるから、結果トントンなんだけど。
「大人がそこまで世話してもらうって、私なら子供扱いされてるみたいで嫌なのだけど」
「私も同意です。けど父があの祖母に嫌と言うのはかなりハンデだと思います。祖母は父を大事に思ってましたから、ええ世界中の誰よりも」
そんな祖母にとって、“ママ”や私は忌むべきものでしかなかった。理由は分からないけどそんな感じだったな。
と、そこで。ずっと、疑問に思っていたことを思い出す。
ちょっと……訊いてみようかな。
「旦那様のご両親は、どのような方々だったのですか?」
アントニオさんから聞いたのでは、“幼い頃に死別された”とのこと。
旦那様のご両親なら、さぞかしご立派な方だろう。聞いてはいけないとは、言われなかったしもし言いにくそうなら、断ればいいだけだ。
そんな軽い気持でお尋ねしたら、うーんと唸って首を傾げる。
「親か……いたみたいだけど、ほとんど記憶にないなぁ……。物心ついた時には、周りには他人しかいなかったから。」
「――みなしごでいらしたのですか?」
ギルドで働いている同い年の子の中には、そういう事情を持つ子もいる。この世界では珍しいことじゃない。
と、旦那様は急に固い表情になって黙ってしまった。ダメならいいですと言いかけたけど、
「……そうだな。退屈しのぎに話しても良いか。まだ雨も止みそうにないしね」
思い切ったように言ってから、腕の中の私を抱き直して、瞳を閉じた。けど、そのままの状態でまた黙ってしまう。
外はまだ雨だ。日が落ちてきたせいでやや室内が薄暗い。明かりは暖炉の火と、屋敷から持ってきた簡易ランプだけ。
「――さて、何から話そうか……」
そんな一言から、お話が始まった。
この時、私は知らずに浮かれていた。
みなしごが公爵にまで成り上がった――。今、目の前にいる人物の実体験を、まるで痛快な冒険話か武勇伝のようなだともの愚かにもそう、思い込んでいたんだ。
――後悔するとも知らずに。
取りあえずここは断っておこう。そう、これは私の本当の家族の話だ。――“ここ”に来る前の。
「分かるよ。今の話と彼らとは、どう考えても結びつかないし。……因みに父親はどうだったんだ? 話の様子では祖母とやらと一緒に死んだようだが……同じようにお前を疎んじていたのか?」
「…………父、ですか……」
やや返答に窮する。はっきり言って印象が薄いのだ。
「私が祖母に叩かれている時、コソコソ自室に入っていくところとか……。後は食卓で祖母に、魚の骨を取り除いてもらっているとことかしか思い出せません。会話なんて一度もしませんでしたし」
「魚の骨ぇ……?」
旦那様の綺麗な顔が、うんざりしたように歪む。
「お前の親になるくらいだから、ある程度は大人だろう?」
「? そうでしょうね、大人の体型はしていましたし、車の免許も持ってたようですし」
「クルマ? ――の免許が何かのかは知らないが、要するに大人しか持てないものって理解で良いかい?」
頷く私。旦那様のこうゆう察しの良さって、良いなぁと思う。
小さい疑問より、とにかく本題って感じだから、話したいこちらは途切れなく進める。
――まぁ後で事細かく訊かれるから、結果トントンなんだけど。
「大人がそこまで世話してもらうって、私なら子供扱いされてるみたいで嫌なのだけど」
「私も同意です。けど父があの祖母に嫌と言うのはかなりハンデだと思います。祖母は父を大事に思ってましたから、ええ世界中の誰よりも」
そんな祖母にとって、“ママ”や私は忌むべきものでしかなかった。理由は分からないけどそんな感じだったな。
と、そこで。ずっと、疑問に思っていたことを思い出す。
ちょっと……訊いてみようかな。
「旦那様のご両親は、どのような方々だったのですか?」
アントニオさんから聞いたのでは、“幼い頃に死別された”とのこと。
旦那様のご両親なら、さぞかしご立派な方だろう。聞いてはいけないとは、言われなかったしもし言いにくそうなら、断ればいいだけだ。
そんな軽い気持でお尋ねしたら、うーんと唸って首を傾げる。
「親か……いたみたいだけど、ほとんど記憶にないなぁ……。物心ついた時には、周りには他人しかいなかったから。」
「――みなしごでいらしたのですか?」
ギルドで働いている同い年の子の中には、そういう事情を持つ子もいる。この世界では珍しいことじゃない。
と、旦那様は急に固い表情になって黙ってしまった。ダメならいいですと言いかけたけど、
「……そうだな。退屈しのぎに話しても良いか。まだ雨も止みそうにないしね」
思い切ったように言ってから、腕の中の私を抱き直して、瞳を閉じた。けど、そのままの状態でまた黙ってしまう。
外はまだ雨だ。日が落ちてきたせいでやや室内が薄暗い。明かりは暖炉の火と、屋敷から持ってきた簡易ランプだけ。
「――さて、何から話そうか……」
そんな一言から、お話が始まった。
この時、私は知らずに浮かれていた。
みなしごが公爵にまで成り上がった――。今、目の前にいる人物の実体験を、まるで痛快な冒険話か武勇伝のようなだともの愚かにもそう、思い込んでいたんだ。
――後悔するとも知らずに。
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