モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの

文字の大きさ
26 / 42

チヨという子供~冒険者ギルド解体作業員~

しおりを挟む
 その日、俺達は奇跡を見た。
「おお……こんな……っ」
「三ツ目熊の魔石が……傷一つ無い……!」
 見慣れた作業場に魔獣の巨体がずらーっと並ぶ様子だけでも驚きなのに、更に摘出しようと肉を開いたそこにある事実にまた驚く。
 俺達解体屋にとって、三ツ目熊の魔石の取り出しは難易度が高い。
高価な回復薬の材料だが、やたらに脆く採取出来ても欠片だったり傷だらけだったりするのだ。更にそれがあるのが心臓もしくは首筋という、狙われやすい場所ばかりときている。早速上司が揉み手でごまを擦る。
「いやぁさすがは公爵様ですねぇ~」
が、この素材を持ってきた当人である公爵は、
「あいにく私では無いよ? その致命傷の傷は武器によるものだ。分かるよね」
 確かにこれは魔法の傷では無い。傷はどれも一見大きいが全て魔石スレスレの位置を狙ったものだ。魔法でここまで繊細に狙えない。出来るとすれば……。
「あいつか……」
ゴクリ、と誰かが息を飲む。驚愕で立ち尽くす俺達を、
「早く作業を進めて欲しいんだけど」
公爵がどこか楽しそうな声で促した。

 その少女はチヨ、と言う。
ケーチャー男爵がある日連れて来た子供だ。その時は骨と皮だけみたいに細っこくて、思わず故郷の妹を思い出した。
 ケーチャー男爵は、この国では結構有名だ。
といっても有能なのは娘だが。変ったアイデアを出して、誰もが思いつかない商品を生み出している。その功績で潰れかかっていた商会が立ち直ったそうだ。
 で、その親である男爵は……ハッキリ言って、普通の男だ。言ってみれば娘のマネジメントってとこかな。まぁ未成年の娘だけじゃ、金は稼げない。
そんな男爵は、チヨを受付に引きずるように連れて行き、登録をする。
「キチンと稼ぎは入れるんだぞ。でないとメシはやらんからな」
「……はい、お義父さん」
 そのやりとりに俺の中で怒りが生まれた。
ちゃんと食わせてやる気もないって事か。自分は娘の七光りで肥え太ってるくせに。
『働かざる者食うべからず』とは言うが、あんな細っこいガキに対してやりようはあるだろう?
――この時、俺にとっての男爵の評価は変った。
普通の男、じゃない。最低な野郎だ。

 その時点で俺は、個人的にチヨに同情していた。
が……それはチヨ自身の能力で覆ることになる。

「一度解体図を見せただけで、これだけ配慮してくれるんだから嬉しいよねぇ」
チヨの有能さを我がことのように嬉しそうに語る、クラウディア公爵。
あの子の今の雇い主だ。この方も悪評で名高いから心配していたが、
 「私が強化魔法をかけたからというのもあるけど、これだけ手際よく魔獣を討伐出来る冒険者は滅多にいない。彼らは大概、魔法で強化されると調子にのって獲物を傷付けるからね。……うん、褒めてあげないと」
この様子だと……まぁ、大丈夫だろう。さっき見た時も別人みたいに元気そうだったし。
公爵は俺らの前で、三ツ目熊の魔石5つと解体した肉を収納魔法で仕舞うと、
「では失礼するよ。チヨを待たせているからね」
機嫌良くその場から去って行った。


「えーと……チヨ、一体どういうことなのかな?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

きっと幸せな異世界生活

スノウ
ファンタジー
   神の手違いで日本人として15年間生きてきた倉本カノン。彼女は暴走トラックに轢かれて生死の境を彷徨い、魂の状態で女神のもとに喚ばれてしまう。女神の説明によれば、カノンは本来異世界レメイアで生まれるはずの魂であり、転生神の手違いで魂が入れ替わってしまっていたのだという。  そして、本来カノンとして日本で生まれるはずだった魂は異世界レメイアで生きており、カノンの事故とほぼ同時刻に真冬の川に転落して流され、仮死状態になっているという。  時を同じくして肉体から魂が離れようとしている2人の少女。2つの魂をあるべき器に戻せるたった一度のチャンスを神は見逃さず、実行に移すべく動き出すのだった。  女神の導きで新生活を送ることになったカノンの未来は…?  毎日12時頃に投稿します。   ─────────────────  いいね、お気に入りをくださった方、どうもありがとうございます。  とても励みになります。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

モンド家の、香麗なギフトは『ルゥ』でした。~家族一緒にこの異世界で美味しいスローライフを送ります~

みちのあかり
ファンタジー
10歳で『ルゥ』というギフトを得た僕。 どんなギフトかわからないまま、義理の兄たちとダンジョンに潜ったけど、役立たずと言われ取り残されてしまった。 一人きりで動くこともできない僕を助けてくれたのは一匹のフェンリルだった。僕のギルト『ルゥ』で出来たスープは、フェンリルの古傷を直すほどのとんでもないギフトだった。 その頃、母も僕のせいで離婚をされた。僕のギフトを理解できない義兄たちの報告のせいだった。 これは、母と僕と妹が、そこから幸せになるまでの、大切な人々との出会いのファンタジーです。 カクヨムにもサブタイ違いで載せています。

ライバル悪役令嬢に転生したハズがどうしてこうなった!?

だましだまし
ファンタジー
長編サイズだけど文字数的には短編の範囲です。 七歳の誕生日、ロウソクをふうっと吹き消した瞬間私の中に走馬灯が流れた。 え?何これ?私?! どうやら私、ゲームの中に転生しちゃったっぽい!? しかも悪役令嬢として出て来た伯爵令嬢じゃないの? しかし流石伯爵家!使用人にかしずかれ美味しいご馳走に可愛いケーキ…ああ!最高! ヒロインが出てくるまでまだ時間もあるし令嬢生活を満喫しよう…って毎日過ごしてたら鏡に写るこの巨体はなに!? 悪役とはいえ美少女スチルどこ行った!?

〈完結〉貴女を母親に持ったことは私の最大の不幸でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」ミュゼットは初潮が来た時に母から「唯一のこの家の女は自分」という理由で使用人の地位に落とされる。 そこで異母姉(と思っていた)アリサや他の使用人達から仕事を学びつつ、母への復讐を心に秘めることとなる。 二年後にアリサの乳母マルティーヌのもとに逃がされた彼女は、父の正体を知りたいアリサに応える形であちこち飛び回り、情報を渡していく。 やがて本当の父親もわかり、暖かい家庭を手に入れることもできる見込みも立つ。 そんな彼女にとっての母の最期は。 「この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。」のミュゼットのスピンオフ。 番外編にするとまた本編より長くなったりややこしくなりそうなんでもう分けることに。

処理中です...