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ゲームイベント?
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『チヨはわたしらと夕飯を食べるから遅くなる。アンタは夜更かししないでちゃんと寝ろ』
「……すごく雑な文面ですね……」
「カァカァ」
師匠が旦那様に遠距離通信した内容に、思わず口に出してしまう。
魔獣討伐を終えてもう夕方。
コウも、私の肩の上で同意するように鳴いている。こうゆう時のコウはまるで人間みたいにお利口だ。
爵位持ち同士のやり取りがこれで良いのか? と思うけれどジェシカ師匠は何も気にしないらしい。
「これでも一応、礼儀を弁えてるんだぞ? とうに公爵には伝わっているんだからな」
「……旦那様に?」
「カァ」
いつの間に? まぁ魔法使いである旦那様の事だから、私の分からない手段だろう。
「俺の行きつけの店があるんだ、そこに行こう」
シドさんのお誘いに、特に異存もないので私達も頷いた。
シドさんの行きつけのお店というから、静かめなお店を想像してたんだけど。
(何かうさんくさい場所だな……)が本音だ。使われている家具やらは他のお店と変わらないけど、あちこちのテーブルでギャンブルしてたり何か取引みたいなやり取りが行われている。……あれ、違法薬物じゃない?
そんな事を考えつつ、テーブルについた。
「ほらチヨ。食べたいもん選びな」
師匠がメニューを差し出して下さる。お酒のおつまみみたいなメニューから、お腹に溜まりそうなものを探していたら
「よお嬢ちゃん、可愛い顔してんじゃねぇか……」
カウンターの方から、そんな声が聞こえてきた。
そこでは砂糖菓子のような可憐な女性が、数人のゴロツキに囲まれていた。どの顔もニヤニヤ笑っているが女性を見る目はギラギラと、獲物を見る獣のような残酷な光を帯びている。
対する女性は……怯えているように体をすくめながら、何故かチラホラとこっちを見てくる。正確には私達といるシドさんに。その顔に覚えがある。
……お義姉さん?
「シド。この店にチヨ連れて来たのは――」
師匠が渋い顔で問うのに対し、シドさんは決まり悪そうにしている。
「騙すような真似して悪い。……だがチヨ、例え血が繋がっていなくても義姉だろう? 何かあれば止めるのが役目じゃないか?」
至って真剣に、そう思っているみたいだ。
……それがシドさんにとっての家族像なのだろう。
でも悲しいかな、私と義姉は当てはまらない。あの人は義姉ではあるけど、心を通わせた事はない。言葉を交わした事すら数えられる程だ。それすらも、
『アンタはモブで可哀相ね』
見下すでもなく事実を告げるようにそう言われた。記憶に残っているのはそこだけだ。
さながら世界を統べる神のように、私を“可哀相”と認定したそこだけだ。
そんな記憶が蘇った頭で絡まれている義姉の様子を見ると、やはりシドさんに期待の目を向けている。――義姉の攻略対象確定だ。
でも肝心のシドさんは私が助けるべきだと思っている。さてどうしようか……と悩んでいたら、
「!」
義姉達を遠巻きにするお客達の中に、表情が明らかに違う客がいるのに気付く。
「シドさん、義姉を助けて頂けますか?」
「――チヨ?」
「俺が? 良いのか?」
当惑したように言ったのは師匠で、問いかけたのはシドさんだ。彼なら私に頼まれなくても義姉を助けただろう。でも、それをしないのは私が助けるものと思っているからだ。それがシドさんの家族像だから。でも私には違う。
「それが義姉の望みだからです。私の助けなどハナから期待しないどころか、何で邪魔したんだと怒られるのがオチです」
「? 何故、そんな事を……」
ああやっぱり分からないか。と思っていたら、
「シド、アンタがやんないならアタシが助けるだけだよ。アタシはあの子が怒ろうと恨もうと気にならない。というか正直、助けるどころか多少痛い目を見てくれりゃ良いのにってのが本音だ」
師匠が口添えしてくれた。その冷ややかな口調に、シドさんは驚くだけだ。
でも何かを悟ってくれたのか、
「分かった。彼女は俺が助けよう」
と頷いてくれた。
“彼女”ね……と、少し意地悪い思考で、シドさんの言葉を聞く。
お義姉さんはヒロインとして、自分の存在は攻略対象の心に、強く深く意識されていると思っているんだろう。シドさんとの“イベント”を起こす為だけにこんな物騒な場所に出向く程だ。“自分はヒロインだから無事でいられる”と思っているかも知れない。
私に“ゲームのヒロイン”は分からない。ゲームのシステムすらも知らない。だって私はモブだから。
だからこれは、ただの勘だ。この世界の“モブ”の私の。
義姉はヒロインとしての役割を果たしていない。
だから……本来攻略される“攻略対象”達の思いに齟齬が生じている。“名前や全てを知りたい女性”と思う程には至っていない。
つまり……義姉はこのゲームに失敗しているのだ。
「……すごく雑な文面ですね……」
「カァカァ」
師匠が旦那様に遠距離通信した内容に、思わず口に出してしまう。
魔獣討伐を終えてもう夕方。
コウも、私の肩の上で同意するように鳴いている。こうゆう時のコウはまるで人間みたいにお利口だ。
爵位持ち同士のやり取りがこれで良いのか? と思うけれどジェシカ師匠は何も気にしないらしい。
「これでも一応、礼儀を弁えてるんだぞ? とうに公爵には伝わっているんだからな」
「……旦那様に?」
「カァ」
いつの間に? まぁ魔法使いである旦那様の事だから、私の分からない手段だろう。
「俺の行きつけの店があるんだ、そこに行こう」
シドさんのお誘いに、特に異存もないので私達も頷いた。
シドさんの行きつけのお店というから、静かめなお店を想像してたんだけど。
(何かうさんくさい場所だな……)が本音だ。使われている家具やらは他のお店と変わらないけど、あちこちのテーブルでギャンブルしてたり何か取引みたいなやり取りが行われている。……あれ、違法薬物じゃない?
そんな事を考えつつ、テーブルについた。
「ほらチヨ。食べたいもん選びな」
師匠がメニューを差し出して下さる。お酒のおつまみみたいなメニューから、お腹に溜まりそうなものを探していたら
「よお嬢ちゃん、可愛い顔してんじゃねぇか……」
カウンターの方から、そんな声が聞こえてきた。
そこでは砂糖菓子のような可憐な女性が、数人のゴロツキに囲まれていた。どの顔もニヤニヤ笑っているが女性を見る目はギラギラと、獲物を見る獣のような残酷な光を帯びている。
対する女性は……怯えているように体をすくめながら、何故かチラホラとこっちを見てくる。正確には私達といるシドさんに。その顔に覚えがある。
……お義姉さん?
「シド。この店にチヨ連れて来たのは――」
師匠が渋い顔で問うのに対し、シドさんは決まり悪そうにしている。
「騙すような真似して悪い。……だがチヨ、例え血が繋がっていなくても義姉だろう? 何かあれば止めるのが役目じゃないか?」
至って真剣に、そう思っているみたいだ。
……それがシドさんにとっての家族像なのだろう。
でも悲しいかな、私と義姉は当てはまらない。あの人は義姉ではあるけど、心を通わせた事はない。言葉を交わした事すら数えられる程だ。それすらも、
『アンタはモブで可哀相ね』
見下すでもなく事実を告げるようにそう言われた。記憶に残っているのはそこだけだ。
さながら世界を統べる神のように、私を“可哀相”と認定したそこだけだ。
そんな記憶が蘇った頭で絡まれている義姉の様子を見ると、やはりシドさんに期待の目を向けている。――義姉の攻略対象確定だ。
でも肝心のシドさんは私が助けるべきだと思っている。さてどうしようか……と悩んでいたら、
「!」
義姉達を遠巻きにするお客達の中に、表情が明らかに違う客がいるのに気付く。
「シドさん、義姉を助けて頂けますか?」
「――チヨ?」
「俺が? 良いのか?」
当惑したように言ったのは師匠で、問いかけたのはシドさんだ。彼なら私に頼まれなくても義姉を助けただろう。でも、それをしないのは私が助けるものと思っているからだ。それがシドさんの家族像だから。でも私には違う。
「それが義姉の望みだからです。私の助けなどハナから期待しないどころか、何で邪魔したんだと怒られるのがオチです」
「? 何故、そんな事を……」
ああやっぱり分からないか。と思っていたら、
「シド、アンタがやんないならアタシが助けるだけだよ。アタシはあの子が怒ろうと恨もうと気にならない。というか正直、助けるどころか多少痛い目を見てくれりゃ良いのにってのが本音だ」
師匠が口添えしてくれた。その冷ややかな口調に、シドさんは驚くだけだ。
でも何かを悟ってくれたのか、
「分かった。彼女は俺が助けよう」
と頷いてくれた。
“彼女”ね……と、少し意地悪い思考で、シドさんの言葉を聞く。
お義姉さんはヒロインとして、自分の存在は攻略対象の心に、強く深く意識されていると思っているんだろう。シドさんとの“イベント”を起こす為だけにこんな物騒な場所に出向く程だ。“自分はヒロインだから無事でいられる”と思っているかも知れない。
私に“ゲームのヒロイン”は分からない。ゲームのシステムすらも知らない。だって私はモブだから。
だからこれは、ただの勘だ。この世界の“モブ”の私の。
義姉はヒロインとしての役割を果たしていない。
だから……本来攻略される“攻略対象”達の思いに齟齬が生じている。“名前や全てを知りたい女性”と思う程には至っていない。
つまり……義姉はこのゲームに失敗しているのだ。
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