モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの

文字の大きさ
37 / 42

義姉と旦那様①

しおりを挟む
 ……男爵様が……お義父さんが、義姉を奴隷商人に引き渡そうとしていた?

 「嘘言うんじゃないよ! どこの世界に自分の娘を攫わせる親がいるかい!!」
師匠が男の胸ぐらを掴み上げる。けど、
「嘘じゃないっ! こうやって写真までよこして言ったんだ! “娘を攫うふりをしてから売って欲しい”って!!」
男も必死になって喚き散らす。
――お義父さんが、義姉を攫わせた?
私の見た限りで、実子である義姉の事を彼らは大事にしていた。
“私はゲームのヒロインなの”という他人なら正気を疑う発言を信じ、彼女がねだるままに専門家を呼び、全身を磨かせていた。『可愛い娘』『賢い娘』とことあるごとに褒めあげていたのに………?

「嘘よ!!」

 突然女性の叫び声がした。
誰がこんな場所に?と訝しく思いながらもその声の先に目を向ける。
シドさんがいた。そのそばに立っているのは――。

「――お義姉さん?」

なぜここに? 
「な、なんでこのイベントにパパが出て来るの!? そんなの設定になかった! い、いえ違う! どうしてパパがわたくしを売るのよ、娘なのに!?」
「おい、落ち着け!」
 ワナワナと震え叫び続ける義姉をシドさんが押さえる。でも収まりそうにない。青い顔で戦きながら『どうして』を繰返している。
……ショックなのだろう。
 義姉はお義父さんの実の子供で誰にも愛されていて、ケンカしている処なんて見なかった。
ご夫婦で苛烈な言い争いになっている時でも義姉が来るとピタッと止まって、引きつったような笑顔で誤魔化していた。……気がする。
 それほど大切に思われていたから、受け容れられないのか。

「……私はショックではなかったな」
自分に過去、起こった事を思い出した。
 直接“ママ”の口から“売った”と言われたのではない。実際にはもっと違う言い方だった。
『良い子ね』とか『言う事きくのよ?』みたいな事を言われた……気がする。あの時の事は思い出せない。何故か強固な蓋があるように出て来ない。
ただ……それを言った“ママ”の声の印象だけは覚えている。

……耳にこびりつきそうな、粘っこく甘ったるーい声だった。

 つらつらそんな事を考える辺り、油断していた。
ピリッと産毛を揺らす程度の空気の揺らぎ。――何かが、くる。
「チヨ?」
いきなりクナイを構えた私に、みんなの視線が集まるのを感じながらも神経を研ぎ澄まし――!
「シドさん、後ろ!」
私の声に、シドさんも表情を引き締めて構えた。師匠も臨戦態勢で私の見据える方向を睨む。
「……?」
お義姉さんだけは、ただキョトンとして立っていた。


 最初チリ程度の大きさだったそれは、景色を縦に切り裂くようにして現れた。腰までの髪を靡かせる長身で細身のシルエット。
そこで私の肩の力が抜けた。ここまで来たらもう、誰なのか分かる。

「旦那様……?」

「クラウディア公!?」
シドさんがビックリしている。その間に薄暗がりの中で顔も分かるようになった。いきなり現れた旦那様に、お義姉さんだけがついて行けないように固まったままだ。

 旦那様がなぜここに?
尋ねようとする私より早く、旦那様は師匠をジロリと睨んで言う。
「ジェシカ、チヨは門限には帰せ、って言ったと思うけど?」
階級だけだと(つまり一般常識は除外)旦那様は師匠よりも上。なのに師匠は呆れたように言い返す。
「子供か! アンタなんざ、四六時中べったり一緒のくせに、久々の弟子と師匠の語らいに無粋なこと言うんじゃないよ。……で、まさかわざわざ迎えに来たってのかい」
 師匠、私は子供ですよ? と訂正したかったけど、
「……おや」
そこで旦那様は初めて、義姉がいることに気付かれた。
「…………?」
突然現れた旦那様を警戒しているのか、義姉は青い顔で震えている。それでもその手はシドさんの服の袖をつまんでいる。ある意味、さすがだ。
そんな義姉に旦那様はどこか楽しそうだ。肩に掛かった髪を払うと、
「こんな夜中に外出とは……しかもこんな場所に。“乙女ゲーム”とやらはよくよく、遊戯する者の安全を保障しないんだね?」

――え?

 今旦那様は何と言った?
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢扱いで国外追放?なら辺境で自由に生きます

タマ マコト
ファンタジー
王太子の婚約者として正しさを求め続けた侯爵令嬢セラフィナ・アルヴェインは、 妹と王太子の“真実の愛”を妨げた悪役令嬢として国外追放される。 家族にも見捨てられ、たった一人の侍女アイリスと共に辿り着いたのは、 何もなく、誰にも期待されない北方辺境。 そこで彼女は初めて、役割でも評価でもない「自分の人生」を生き直す決意をする。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...