ありがちな異世界での過ごし方

nami

文字の大きさ
50 / 72
第6話 三大竜【大地の覇竜編】

2 ぐだぐだと竜討伐の話

しおりを挟む
「ロートレックか。勝手に入ってくるとはどういう了見だ。何か用でもあるのか? ならば、さっさと済ませて早く帰れ。こちらは少々深刻な状況になっているのでな」

 アレックスは不機嫌そうに言って、しっしっと追い払う仕草をロートレックさんに向ける。

「そうみたいですね。破産する瀬戸際に立たされているようですから……」

 ロートレックさんは苦笑を浮かべる。

「……お前、どの辺りから聞いていた?」

「あなたのお師匠様が残して下さった遺産が尽きる寸前にある、という所からです」

 ロートレックさんは穏やかに答えた。

「それにしても、ノイアさんと痴話喧嘩のようなやり取りは見物でしたね。あなたがあそこまで押されるとは」

 ロートレックさんは楽しげに微笑む。

「ちょっと、止めてよ……!」

 ノイアさんは恥ずかしそうに顔をほんのりと赤く染める。

「無駄口を叩きにわざわざ来たのか? 何度も言わせるな。こちらは忙しいんだ。お前に付き合ってる暇はない。用がないのならとっとと帰れ」

 アレックスは鋭い眼差しでロートレックさんを見据える。

「違いますよ。癇に障ったのなら謝ります。用件ですが、僕が持ってきた話はあなた方の問題を解決する手だてになるはずですよ」

「いきなりなんだ。お前今、最高に胡散臭い奴に成り下がっているぞ。まるで詐欺師だな。もっとも今に始まったことではなく、前々からそういった資質はあったが。司書という堅い公務員業など辞めて、本格的に詐欺師として身を立てたらどうだ? 例えば、悪霊に祟られているなどと人々の不安を煽り、無駄に高価な壷や印章を売りつける仕事を始める、とかな」

 アレックスはからかわれた仕返しと言わんばかりに、淡々長々とロートレックさんに毒づいた。ってか、最後の例えって霊感商法ってやつ?

「はいはい。そんな具体的な案があるのでしたら御自分で始めたらどうですか? そんなこと思い付くなんて、あなたの方がよほど詐欺師に近い思考をしてますよ。僕には全く思いつきもしませんでした」

「勘違いをするな。今の例えは、こいつの持っていた教本に載っていたものだ。悪徳商法というものらしい。他にもいくつかあったが、どれも胡散臭いお前に似合いそうな商法だった」

 アレックスは私を顎でしゃくって毒づく。ってか、あの時そんなにじっくり教科書見てたの? しかも今まで覚えてるなんて……。こいつ、ほんと無駄に記憶力いいな……。

 若干呆れつつ感心してアレックスを見ていると、不意に目が合った。

「ユウコ、唐突だが質問だ。PL法とは何かを答えろ」

「な、なんなの、いきなり?」

「いいから答えろ。教本に載っていただろう?」

 アレックスの言葉にピンときた。
 こいつ……、あれだ。私を試してるんだ! まったくなんて陰険な奴なの!? しかも、私が答えられないって思ってるに違いない……。見てろよ。絶対正しく答えちゃるっ!
 脳をフル稼働させ、家庭科に関すること全ての記憶を呼び覚ます。
 そして、なんとか答えを導き出すことに成功した。

「えっと、確か……、訪問販売なんかで、契約後一定期間内だったら、その契約を解除できる制度だったと思うけど……」

 私の言葉に、アレックスは何も言わずただ私を見つめている。

「……ちょっと、なんとか言ってよ!」

 嫌な沈黙に耐えきれず、先に口を開いた。

「ほう、大したものだ。きちんと答えることができたとはな。正直、答えられないだろうと見くびっていた」

「やっぱね……。あんた、私のこといつも馬鹿にしてるけど、これでちょっとは見直してくれた?」

 ちゃんと答えられたことに安堵しつつ、少し得意げに言ってやった。

「ああ。やはりお前は馬鹿だ、とな」

「何よそれ!? ちゃんと答えられたじゃない!」

「お前の答えは不正解だ。お前が説明した制度は“クーリングオフ”というものだぞ」

「うげっ、マジ!?」

「PL法とは、製造物責任法の通称だ。製品の製造・販売業者の責任を規定した法律のことで、product liabilityの頭文字からきている」

 アレックスは淀みなく正解を明かす。

「まったく、少し引っ掛けてみればあっさり騙されおって。自分の居た世界の法律だろう。きちんと正しく覚えたらどうなんだ」

 アレックスはやれやれといった感じの仕草を交え、嫌味ったらしく説教を垂れた。

「うっ、うっさいな! どうしてそう陰険なことするワケ!? あんたの生きがいは私をいびること!? ってか、私に構ってる暇あるなら、さっさとロートレックさんの話聞きなよッ!」

 アレックスに掴みかかると、早口にまくし立てた。

「それで話とはなんだ? なるべく簡潔に話せ」

 アレックスは私の文句を無視して、ロートレックに視線を戻すと傲慢な態度で促す。

「話というのは、国から出された“ドラゴン討伐”についてですよ」

「それって、確か“クロウェア山”とかって山に住み着いたっていうドラゴンのこと?」

 ノイアさんが口を挟む。

「さすがノイアさん。よく御存知ですね」

「でも、王室の騎士隊が討伐に向かったって聞いたけど?」

「ええ。ですが、その討伐作戦が失敗に終わったらしくて……」

「ああ、だから腕の立つ者を募って退治させるってわけね」

「そういうことです」

「騎士隊連中もなかなかどうして使えん連中だ。ドラゴン如きに遅れをとってどうする。まったく、とんだ俸給泥棒どもだな。そんな連中の俸給に、我ら一国民の税が使われていると思うと、暴動を起こしてやりたくなる」

 アレックスは淡々と不平不満を口にする。何気に物騒な一言を加えて。

「まあまあ。それで、討伐に成功した者は一千万ディルの懸賞金が贈られるそうなんですよ」

「いっ、一千万!? 破格の金額じゃない! ギルドでも稀にドラゴン討伐の依頼がきたりするけど、報酬なんてせいぜい三十万がいいとこよ!? そのドラゴンって一体どんな奴なの?」

「殺人竜です」

「殺人竜だと?」

 普段冷静なアレックスが珍しく驚きの声を上げる。

「それ、三大竜に数えられてる伝説級の奴じゃない!」

 ノイアさんも驚愕の表情で叫んだ。

「ちょ、ちょっと待ってよ。私、全然話についていけないんだけど。ドラゴンってあの火を吹いたりするドラゴン!? ファンタジー作品には高確率で登場して、大抵は激強な敵に仕上がってる、あの巨大爬虫類のこと!?」

 やっとのことで口を挟んだ。

「別に火を吹くだけではないが……。だが、お前の認識しているものとほぼ同じような存在だ」

「ふえ~、凄いね。この世界ってドラゴンとかいるんだ。まあ、魔法とか妖精とかも存在してるんだからドラゴンがいてもおかしくないか。つーか、三大竜って何?」

 好奇心に駆られて訊いてみた。

「三大竜というのは、空、海、陸を支配していると言われている三種のドラゴンです。知能が極めて高く、圧倒的な力を持っているといわれています。空は“天空の竜帝・レケナウルティア”。海は“大海の竜王・エボルブルス”。そして陸が“大地の覇竜・殺人竜”。その殺人竜が今、この国のクロウェア山という場所に住み着いてしまったのですよ」

 ロートレックさんが丁寧に教えてくれた。
 なんていうか、空と海のドラゴンにはちょっとかっこよさげな名前が付いてるのに、陸のドラゴンだけはえらくショボい名前だな! 殺人竜って何よ……。何物騒な単語使って無駄に迫力を出そうとしてんの!? 獰猛さをアピールしたいんだろうけど、かえって間抜けな響きになっちゃってるよ!

「どうでもいいけど、殺人竜っていうダッサイ名前はどうにかならなかったのかしらね。名付けた奴のセンスを疑うわ。せめてキラードラゴンとかって付けてあげればよかったのに……」

 ノイアさんもやれやれといった感じで、私が思ってたことと似たようなことを指摘した。てか、ノイアさん……、キラードラゴンもあまり変わらないと思います。ただ横文字になっただけで、意味は全く同じだから……。

「確かに殺人竜が相手なら、その懸賞金の額も頷ける。それを手にすることができたならば、確実に金銭面の問題は解決するな」

「その通りですよ。挑戦してみませんか?」

「ちょっとロートレック! あんた簡単に言うけど、相手は三大竜に名を連ねるドラゴンなのよ!? 下手すると、命を落とすかも知れないのよ!?」

 ノイアさんが自重の言葉を発する。その言葉から、そいつがよほど危険なドラゴンだということがうかがえる。

「ノイアさん落ち着いて下さいよ。僕だって別に無責任に勧めているわけではありません」

「なんかいい対策でもあるの?」

「ええ、まあ。僕の知り合いに、凄腕の竜滅士りゅうめつしがいるんですよ。彼が協力してくれるそうで」

「竜滅士? この御時世に、まだそんな酔狂な生業で身を立てている奴がいるのか」

 アレックスが小馬鹿にしたように言った。

「竜滅士って?」

「ドラゴンを専門に狩りをするハンターのことよ。物凄く危険な仕事だから、最近では志願する人もそんなにいないの。それに、免許を取るのもあり得ないくらい難しいし」

「まあ、確かに竜滅士はドラゴン討伐のスペシャリストだからな。戦力は大いに期待できるかもしれんが……。しかし初耳だ。お前に竜滅士の知り合いがいたとは」

「実は、先日の慰安旅行の時に知り合ったんですよ」

「なんだと? では、つい最近知り合ったのか。そんな奴、本当に信用できるのか? その男、自分は竜滅士だと吹聴しているだけかもしれんぞ?」

「アレックス、あまり僕を見くびらないで下さいね? きちんとこの目で、彼の実力は見てきましたよ。彼、六頭の飛竜を同時に狩っていました。それも素手で」

「六頭の飛竜を素手で!?」

 ノイアさんの驚愕の声が響く。

「ねえ、それってどれくらい凄いの?」

 アレックスに耳打ちした。

「相当な腕だ。私なら同時に相手できるのは、せいぜい三頭くらいだからな。しかも、それが素手だというのだ。信じがたい人物だぞ」

「ふ~ん」

 じゃあ、その人めちゃめちゃ強いじゃん。アレックスも結構強いって思ってたけど、上には上がいるもんだね。

「でも、旅行中だったんでしょ? なんでそんな場面見ることになったの?」

「自由行動の時に暇だったので、彼の狩りに同行させてもらったんですよ」

「ドラゴンの狩りなんて危ないのに、あんたも相当物好きね……」

 ノイアさんは呆れたようにため息を吐いた。

「それでどうしますか? 殺人竜討伐に挑戦してみますか?」

「そうだな、やってみるか。三大竜に関われるなど、そうあるものではないからな。個人的に少々興味もある」

「そうね。その竜滅士がいればなんとかなりそうな気がしてきたわ」

 アレックスもノイアさんも挑戦しようと腹をくくった。

「では明日、6:00にクロウェア山入口で落ち合いましょう」

 ロートレックさんはそう言って、帰っていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...