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第10話 アルファの巣に連れ込まれたベータ(1)
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新はハッと目が覚めた。
ここはどこだろう。
正面、目に入るのは、見覚えのない天井だ。昨日は遅くまで一人で残業して、それから……。昨夜の記憶が頭の中に噴き出した。残業していて連絡を忘れていたら直樹に遅いと叱られたこと、直樹自身が車で迎えに来てくれたこと、初めて彼の自宅に連れてきてもらったこと、およそ一週間ぶりに抱かれたこと。
ぐちゃぐちゃないくつもの記憶が、一気に整理される。
しまった!
がばっと起き上がった。時計を確認して真っ青になる。9時って! 結婚後、初めて結婚相手の家に来た朝に寝坊するなんて、信じられない。木南家に勤める人たちに挨拶もしていないって、厳しい両親が知ったらなんて言うだろう。しかも寝落ちしたからか全裸のままで、新は慌ててシーツを体に巻き付けた。ベッドから降りようとして、立つことができずにベッドに座り込む。駄目だ、完全に腰が抜けている。シーツをめくって自分の体を確認し、眉を寄せた。
「虫に刺された?」
全身至るところに赤い痣がある。なんだろうこれ。左手首にある赤い痣を右手の人差し指で撫でるうち、昨夜、直樹に全身を舐めしゃぶられたことを思いだした。そうだ、こういう皮膚が薄くて感じやすい場所を、強めに吸い上げられた記憶がある。
「キスマーク。かな」
ようやく気づいて、まじまじと見つめた。これがキスマーク。噛まれてないのに痕がつくんだ。見えないけれども、首筋とか背中にもつけられた気がする。
新はそっと太腿を開いた。鼠径部のかなり際どい場所に、いくつもの濃厚なキスマークを見つけてしまって、うわっ!と叫びそうになって脚を閉じた。ベータの、男の体は気持ち悪いはずなのに、こんなところを吸うなんて気持ち悪くないんだろうか。いや、それを言うなら新婚旅行中、何度も直樹に性器をしゃぶられたんだった。
思い出してどんどん顔が熱くなる。
異国での新婚旅行中は、非日常だったからかなり濃密な性交渉を繰り返したけれど、帰国したらもう直樹とは表面だけの結婚生活しか送らないと思い込んでいた。もしかしてあの人は、性処理ができるなら男でもいいと思うようになったのかもしれない。
そうっと指先でキスマークを撫でた。そのたびに、昨夜、直樹に執念深いほど全身を舐められ、肌を吸い上げられた記憶がよみがえってきて恥ずかしさに耐えられなくなる。
新は深い溜め息をついた。
自分には気持ちの伴わないセックスなんてできないけれど、きっと直樹はそうじゃないんだろう。性病がないのは確認済みだし、ベータの男だからいくら抱いても妊娠の心配もない。直樹に好きな相手ができたら離婚すると宣言してるから、後腐れもない。性欲の捌け口にするには好都合だ。
彼は嘘をついたことはない。何回も正直に「性欲の捌け口にする」って言われたじゃないか。そして自分だってそれでいいと受け入れただろう。
新の眼からほろっと涙がこぼれた。
みじめで、悲しくて、それなのに彼への恋心がどんどん募っていくのがつらかった。
彼が自分を嫌ってるのはわかっているのだから、諦められたらいいのにと思う。どうして心配してくれたり、自分で車を運転して迎えに来てくれたり、服を用意してくれるんだろう。
十年前、まだ子どもだった自分はあの人のそういう優しいところに恋をしてしまった。両家の体面を保つために結婚した今、ただの性処理の相手だと言い渡されているのに、一緒に過ごしてあの人の優しさに触れるたびどんどん好きになっていく。
早くあの人のことを諦められたらいいのに。この一週間は、激務続きで少しは直樹のことを忘れていられたのに、一晩抱かれただけで、また彼とのセックスに溺れる体に戻ってしまった。
(中野グループの御曹司様は、とんだド淫乱だな)
初夜のときに受けた嘲笑を思い出して、またほろっと涙が落ちた。
淫乱なわけじゃないと言いたい。好きな人にあんなことをされるから、感じてしまうんだと――絶対に言うことはできないけれど、言いたい。本当はセックスレスでも全然構わない、手を繋いで歩いてくれたり、微笑みかけてくれるだけで嬉しい。
今は男とするのが物珍しいから、頻繁に自分を抱いているのだろうけれど、オメガ女性と恋仲になったらすぐ捨てられてしまうだろう。そうしたら自分は両親が選んだアルファ女性と、政略結婚することになる。
……離婚しても、自分が早死にしたら、少しは悲しんでくれるだろうか。
もうこのまま食事を摂らずに死んでしまおうかな。その考えはあまりに魅惑的で、新は寂しく微笑んだ。
ここはどこだろう。
正面、目に入るのは、見覚えのない天井だ。昨日は遅くまで一人で残業して、それから……。昨夜の記憶が頭の中に噴き出した。残業していて連絡を忘れていたら直樹に遅いと叱られたこと、直樹自身が車で迎えに来てくれたこと、初めて彼の自宅に連れてきてもらったこと、およそ一週間ぶりに抱かれたこと。
ぐちゃぐちゃないくつもの記憶が、一気に整理される。
しまった!
がばっと起き上がった。時計を確認して真っ青になる。9時って! 結婚後、初めて結婚相手の家に来た朝に寝坊するなんて、信じられない。木南家に勤める人たちに挨拶もしていないって、厳しい両親が知ったらなんて言うだろう。しかも寝落ちしたからか全裸のままで、新は慌ててシーツを体に巻き付けた。ベッドから降りようとして、立つことができずにベッドに座り込む。駄目だ、完全に腰が抜けている。シーツをめくって自分の体を確認し、眉を寄せた。
「虫に刺された?」
全身至るところに赤い痣がある。なんだろうこれ。左手首にある赤い痣を右手の人差し指で撫でるうち、昨夜、直樹に全身を舐めしゃぶられたことを思いだした。そうだ、こういう皮膚が薄くて感じやすい場所を、強めに吸い上げられた記憶がある。
「キスマーク。かな」
ようやく気づいて、まじまじと見つめた。これがキスマーク。噛まれてないのに痕がつくんだ。見えないけれども、首筋とか背中にもつけられた気がする。
新はそっと太腿を開いた。鼠径部のかなり際どい場所に、いくつもの濃厚なキスマークを見つけてしまって、うわっ!と叫びそうになって脚を閉じた。ベータの、男の体は気持ち悪いはずなのに、こんなところを吸うなんて気持ち悪くないんだろうか。いや、それを言うなら新婚旅行中、何度も直樹に性器をしゃぶられたんだった。
思い出してどんどん顔が熱くなる。
異国での新婚旅行中は、非日常だったからかなり濃密な性交渉を繰り返したけれど、帰国したらもう直樹とは表面だけの結婚生活しか送らないと思い込んでいた。もしかしてあの人は、性処理ができるなら男でもいいと思うようになったのかもしれない。
そうっと指先でキスマークを撫でた。そのたびに、昨夜、直樹に執念深いほど全身を舐められ、肌を吸い上げられた記憶がよみがえってきて恥ずかしさに耐えられなくなる。
新は深い溜め息をついた。
自分には気持ちの伴わないセックスなんてできないけれど、きっと直樹はそうじゃないんだろう。性病がないのは確認済みだし、ベータの男だからいくら抱いても妊娠の心配もない。直樹に好きな相手ができたら離婚すると宣言してるから、後腐れもない。性欲の捌け口にするには好都合だ。
彼は嘘をついたことはない。何回も正直に「性欲の捌け口にする」って言われたじゃないか。そして自分だってそれでいいと受け入れただろう。
新の眼からほろっと涙がこぼれた。
みじめで、悲しくて、それなのに彼への恋心がどんどん募っていくのがつらかった。
彼が自分を嫌ってるのはわかっているのだから、諦められたらいいのにと思う。どうして心配してくれたり、自分で車を運転して迎えに来てくれたり、服を用意してくれるんだろう。
十年前、まだ子どもだった自分はあの人のそういう優しいところに恋をしてしまった。両家の体面を保つために結婚した今、ただの性処理の相手だと言い渡されているのに、一緒に過ごしてあの人の優しさに触れるたびどんどん好きになっていく。
早くあの人のことを諦められたらいいのに。この一週間は、激務続きで少しは直樹のことを忘れていられたのに、一晩抱かれただけで、また彼とのセックスに溺れる体に戻ってしまった。
(中野グループの御曹司様は、とんだド淫乱だな)
初夜のときに受けた嘲笑を思い出して、またほろっと涙が落ちた。
淫乱なわけじゃないと言いたい。好きな人にあんなことをされるから、感じてしまうんだと――絶対に言うことはできないけれど、言いたい。本当はセックスレスでも全然構わない、手を繋いで歩いてくれたり、微笑みかけてくれるだけで嬉しい。
今は男とするのが物珍しいから、頻繁に自分を抱いているのだろうけれど、オメガ女性と恋仲になったらすぐ捨てられてしまうだろう。そうしたら自分は両親が選んだアルファ女性と、政略結婚することになる。
……離婚しても、自分が早死にしたら、少しは悲しんでくれるだろうか。
もうこのまま食事を摂らずに死んでしまおうかな。その考えはあまりに魅惑的で、新は寂しく微笑んだ。
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