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第24話 恋の告白
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新は立派な門構えに目を見張った。直樹の車に乗せられて連れてこられたのは、一度も来たことのない料亭だった。雪洞に導かれ、飛び石を辿ると数寄屋造りの建物があらわれる。玄関入ってすぐのところに置かれた、豪華絢爛な薩摩焼の大ぶりの花器と、活けられた花の見事さが目を引いた。
個室に通されて、さらに驚いた。床の間の花入も掛け軸も、名のあるものだ。和室のしつらえだがテーブルと椅子があり、中庭に面した窓からは、手入れの行き届いた見事な日本庭園が見える。
「和食は嫌いだったか?」
直樹の声が、まるで不安がっているように聞こえて、新は首を振った。
「いえ。あの……グランメゾンに行くのだと思っていたので、驚きました」
「フレンチのほうがよかったか? ああいう店は個室もあるが、知り合いと出会ったら気詰りかと思ったんだ。すまない、結婚して1か月にもなるのに、俺は新の食べ物の好みも知らないんだな」
落ち込む直樹に、新は誤解を解きたくて、食い気味に言った。
「和食は大好きです。グランメゾンは両親に連れられて、有名どころはだいたい行っているので、初めてのところに連れてきていただいてすごく嬉しいです。ありがとうございます、木南社長」
途端に顔をしかめられて、新は言葉を間違ったのに気づいた。
「仕事じゃないんだ、社長呼ばわりはやめてくれ」
「……この間の会議の話ではないのですか?」
「ああ。あのSTP分析は見事だった。マーケティング理論はどこで学んだんだ」
褒められた嬉しさに、新は顔を輝かせた。
「昔から勉強は好きだったんです。実家にたくさん本がありましたし、わからないところは父によく教えてもらいました」
直樹に誘導されるがままに、夢中になってマーケティングの奥深さについて語る。話せば話すほど的確な質問が飛んできて、新は改めて夫の優秀さに感嘆した。ウェブ会議で出た各社の新商品の評価について語り合っていると、食前酒と先付が運ばれてきた。車で来た直樹には、ノンアルコールのドリンクが用意されている。新は繊細な盛り付けの先付を口にして、さっぱりした食前酒を味わった。
「美味しい」
思わずもれた嘆声に、直樹がはっとするほど優しい微笑を浮かべた。
「口に合うか」
「もちろん!」
「和食が好きなのか?」
新は少し考え込んだ。
「いろんな国の方と食事をするからという理由で、好き嫌いは矯正させられました。あなたは?」
「うちは裕福じゃなかったからな。食べ物にケチをつけるなんて許されなかった」
少ししんみりした空気になったのを変えるように、直樹が身を乗り出した。
「そうだ、前から気になっていたんだ。乗馬以外の趣味を教えてくれ」
趣味? 新は首を傾げた。
「社交に役立つようなものならいくつかあります、ゴルフとか」
「違う、ほんとの趣味だ」
新はきょとんとした。
「そんなの知ってどうするんですか」
「好きな人のことなら、なんでも知りたいものだろう?」
……好きな人?
直樹は苦く笑った。
「恋人候補として見てほしいと言ったあと、新がセックスに応じてくれるから、俺の気持ちは伝わってると思ってた。まさかセックス目当てと誤解されてるなんて思わなかった」
だって、俺はベータで。直樹に釣りあう人間じゃなくて。
「好きな人とか、急に言われても困ります」
おずおずと言うと、相手は鼻を鳴らした。
「急じゃない。恋人候補として考えてくれと言っただろう」
「でも、俺ではあなたの番になれないし、子どもも作れません」
「それがなんだ?」
なんだって、アルファにとって一番大事なことじゃないか。
「子どものいない夫婦はいくらでもいる。そんなの恋に落ちない理由にはならないと思わないか。俺は新のことをもっと知りたい」
なんだか付き合ってほしいと迫られてるみたいで、新はぎこちなく答えた。
「下手の横好きですが、テニスを嗜みます」
下手の横好きとはいっても、結婚前までは個人コーチについていたので、それほど恥ずかしい腕前ではないと思う。
「テニスか。もしよければ、手合わせしないか」
新は呆然として直樹を見つめた。直樹は真剣だった。
「俺はアルファで、オメガの女性としか付き合ってこなかった。彼女たちはその、ベッドから出たがらなかったし、外に行きたがらなかったから、そういうものだと思っていた。新はベータの男なんだから違って当然なのに。先日のウェブ会議では、新のことをまるでわかってなかったと改めて思い知らされたんだ。新とのセックスに溺れて、考えようとしなかった俺が悪いんだが」
伸びてきた手に左手を奪われた。薬指の根元を撫でながら、直樹は自嘲の笑みを浮かべた。
「結婚指輪を嵌めてもらえないのも当然だ」
「いえ、それは! 会社で噂になったら居づらくなるからです。あなたにいつ捨てられても大丈夫なように」
「捨てるなんてありえない」
強い口調で遮られて、呆然とした。
「そもそも俺のような成り上がりには、新は高嶺の花だ。君は自分のことをベータだから魅力がないと思っているようだが、そんなことは絶対にない。新は……とても綺麗だ」
新はまじまじと向かいに座る夫を見つめた。微妙に視線を逸らせている夫の顔が、どんどん赤くなっていく。
何なんだ。
こんなの。
「こんなの、まるで恋の告白みたいじゃないですか」
思わずもらした言葉に直樹は頷き、まっすぐ、射るようにを見た。
「みたいじゃない。新が好きだ。俺と一からやり直してほしいんだ。恋人候補にしてくれと言っても伝わらないのはわかった。俺と恋人になってくれ」
新は言葉もなく、片思いの相手を見つめた。
個室に通されて、さらに驚いた。床の間の花入も掛け軸も、名のあるものだ。和室のしつらえだがテーブルと椅子があり、中庭に面した窓からは、手入れの行き届いた見事な日本庭園が見える。
「和食は嫌いだったか?」
直樹の声が、まるで不安がっているように聞こえて、新は首を振った。
「いえ。あの……グランメゾンに行くのだと思っていたので、驚きました」
「フレンチのほうがよかったか? ああいう店は個室もあるが、知り合いと出会ったら気詰りかと思ったんだ。すまない、結婚して1か月にもなるのに、俺は新の食べ物の好みも知らないんだな」
落ち込む直樹に、新は誤解を解きたくて、食い気味に言った。
「和食は大好きです。グランメゾンは両親に連れられて、有名どころはだいたい行っているので、初めてのところに連れてきていただいてすごく嬉しいです。ありがとうございます、木南社長」
途端に顔をしかめられて、新は言葉を間違ったのに気づいた。
「仕事じゃないんだ、社長呼ばわりはやめてくれ」
「……この間の会議の話ではないのですか?」
「ああ。あのSTP分析は見事だった。マーケティング理論はどこで学んだんだ」
褒められた嬉しさに、新は顔を輝かせた。
「昔から勉強は好きだったんです。実家にたくさん本がありましたし、わからないところは父によく教えてもらいました」
直樹に誘導されるがままに、夢中になってマーケティングの奥深さについて語る。話せば話すほど的確な質問が飛んできて、新は改めて夫の優秀さに感嘆した。ウェブ会議で出た各社の新商品の評価について語り合っていると、食前酒と先付が運ばれてきた。車で来た直樹には、ノンアルコールのドリンクが用意されている。新は繊細な盛り付けの先付を口にして、さっぱりした食前酒を味わった。
「美味しい」
思わずもれた嘆声に、直樹がはっとするほど優しい微笑を浮かべた。
「口に合うか」
「もちろん!」
「和食が好きなのか?」
新は少し考え込んだ。
「いろんな国の方と食事をするからという理由で、好き嫌いは矯正させられました。あなたは?」
「うちは裕福じゃなかったからな。食べ物にケチをつけるなんて許されなかった」
少ししんみりした空気になったのを変えるように、直樹が身を乗り出した。
「そうだ、前から気になっていたんだ。乗馬以外の趣味を教えてくれ」
趣味? 新は首を傾げた。
「社交に役立つようなものならいくつかあります、ゴルフとか」
「違う、ほんとの趣味だ」
新はきょとんとした。
「そんなの知ってどうするんですか」
「好きな人のことなら、なんでも知りたいものだろう?」
……好きな人?
直樹は苦く笑った。
「恋人候補として見てほしいと言ったあと、新がセックスに応じてくれるから、俺の気持ちは伝わってると思ってた。まさかセックス目当てと誤解されてるなんて思わなかった」
だって、俺はベータで。直樹に釣りあう人間じゃなくて。
「好きな人とか、急に言われても困ります」
おずおずと言うと、相手は鼻を鳴らした。
「急じゃない。恋人候補として考えてくれと言っただろう」
「でも、俺ではあなたの番になれないし、子どもも作れません」
「それがなんだ?」
なんだって、アルファにとって一番大事なことじゃないか。
「子どものいない夫婦はいくらでもいる。そんなの恋に落ちない理由にはならないと思わないか。俺は新のことをもっと知りたい」
なんだか付き合ってほしいと迫られてるみたいで、新はぎこちなく答えた。
「下手の横好きですが、テニスを嗜みます」
下手の横好きとはいっても、結婚前までは個人コーチについていたので、それほど恥ずかしい腕前ではないと思う。
「テニスか。もしよければ、手合わせしないか」
新は呆然として直樹を見つめた。直樹は真剣だった。
「俺はアルファで、オメガの女性としか付き合ってこなかった。彼女たちはその、ベッドから出たがらなかったし、外に行きたがらなかったから、そういうものだと思っていた。新はベータの男なんだから違って当然なのに。先日のウェブ会議では、新のことをまるでわかってなかったと改めて思い知らされたんだ。新とのセックスに溺れて、考えようとしなかった俺が悪いんだが」
伸びてきた手に左手を奪われた。薬指の根元を撫でながら、直樹は自嘲の笑みを浮かべた。
「結婚指輪を嵌めてもらえないのも当然だ」
「いえ、それは! 会社で噂になったら居づらくなるからです。あなたにいつ捨てられても大丈夫なように」
「捨てるなんてありえない」
強い口調で遮られて、呆然とした。
「そもそも俺のような成り上がりには、新は高嶺の花だ。君は自分のことをベータだから魅力がないと思っているようだが、そんなことは絶対にない。新は……とても綺麗だ」
新はまじまじと向かいに座る夫を見つめた。微妙に視線を逸らせている夫の顔が、どんどん赤くなっていく。
何なんだ。
こんなの。
「こんなの、まるで恋の告白みたいじゃないですか」
思わずもらした言葉に直樹は頷き、まっすぐ、射るようにを見た。
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新は言葉もなく、片思いの相手を見つめた。
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