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ドラゴンに身を捧げた聖女の本当の婚約者のお話
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俺はアルバート・セアリアス。侯爵令息。俺には幼い頃からの婚約者がいる。キャロル・ザンクトゥーリウム。公爵令嬢。俺は彼女を愛している。けれど、大切で、愛おしいからこそ普通に接することが出来ない。彼女が可愛すぎるのだ。そして何より、俺では彼女に釣り合わないから…。天使のような彼女と比べて、俺はゴミ屑以下でしかない。
公爵家の一人娘である彼女は、まずもってとにかく愛らしい。その亜麻色の髪も、翡翠の瞳も、形のいい唇も、スレンダーな身体付きも、全てが愛おしいのだ。そしてとにかく性格がいい。領民にも優しく、孤児に勉強を教えるのが好きで、浮浪者にパンを一つ差し出す暖かな心を持っている。そしてなにより優秀だ。子供の頃から神童と呼ばれるほど頭がいい。俺なんかでは、釣り合わない。でも、いつか彼女を守れるような良い男になりたくて、俺は必死に努力した。とにかく勉強ばかりの毎日。けれどそれは苦ではなかった。彼女の横に立ちたいから。
…でも、俺はやり方を間違えた。彼女への憧れはいつしか劣等感へと変わり、彼女を守るどころか、彼女を突き放す態度を取るようになってしまった。
勉強中に彼女が息抜きをしないとと話しかけてくれた。耳障りだと怒鳴ってしまった。彼女が隣に座って勉強を教えようとしてくれた。彼女に敵わない自分が不甲斐なくて、乱暴に突き飛ばしてしまった。あの時の彼女の顔を忘れられない。いつからだろう。彼女の笑顔を見られなくなったのは。
それでも手放したくなかった。それでも彼女が必要だった。愚かな自分を呪うことになるなんて、この時は想像できなかった。
それでも君を、心から愛していたんだ。
君にデートに誘われた。俺は読書で見聞を広めるのに夢中になっていた。君にお茶に誘われた。お茶会の間も論文に集中していた。優しくすることを忘れた馬鹿な俺には、これから起こることなんて想像もつかなかった。
それでも、君じゃなきゃ意味がない。それでも、君じゃなきゃダメだった。ふと、思い出したように愛を告げる。けれどきっと、君には今更だったんだ。
君のことが愛しいくせに、君を大切にできなかった。なんて馬鹿な男だろう。こんな男、君に嫌われて当然だ。
…それなのに、君が他の誰かのものになるなんて考えられなかった。
だから、俺がドラゴン討伐に駆り出されたのを聞いた君がその身をドラゴンに捧げるなんて、信じられなかった。
「私、ドラゴンの花嫁になります。そのかわり、ドラゴンは国から離れることになりました」
「なんだと!?」
「なんてこと!」
「キャロルちゃん、考え直して?生贄なら他の誰かでもいいじゃない!」
「キャロルくんがうちの花嫁になるのを、楽しみにしていたのだよ…どうしても君じゃなきゃダメなのかい?」
「そういう約束なので」
「アルバート!貴方も何か言いなさい!」
「…」
俺は茫然としていて、結局一言も喋らなかった。王家はキャロルをドラゴンから国を守る聖女として祀り上げた。キャロルは行ってしまった。
それから数年。俺は未だにキャロルを引きずっていて、婚約者もいない。ある日、領内を視察していた時、キャロルと俺によく似た男を見かけた。すぐに走り寄ったが、その二人の会話と笑顔を見て止まってしまった。
「…好きよ、アル」
「俺も好きだ、キャロル」
あれは多分ドラゴンが俺に化けていたんだろう。その後二人は手を繋いで服屋に寄ったり喫茶店に寄ったりしていた。服屋ではお互いに似合う服を選んでベタ褒めしあっていたし、喫茶店では食べさせあいっこしていた。そんな二人を惨めにも外からそっと眺めていた俺は、やっとキャロルへの諦めがついた。キャロルは俺といない方が幸せそうだったのだから。
「…ふん。やっと諦めがついたか、小僧」
「アル?」
「愛してるぞ、キャロル」
「え、ええ。ありがとう…?」
公爵家の一人娘である彼女は、まずもってとにかく愛らしい。その亜麻色の髪も、翡翠の瞳も、形のいい唇も、スレンダーな身体付きも、全てが愛おしいのだ。そしてとにかく性格がいい。領民にも優しく、孤児に勉強を教えるのが好きで、浮浪者にパンを一つ差し出す暖かな心を持っている。そしてなにより優秀だ。子供の頃から神童と呼ばれるほど頭がいい。俺なんかでは、釣り合わない。でも、いつか彼女を守れるような良い男になりたくて、俺は必死に努力した。とにかく勉強ばかりの毎日。けれどそれは苦ではなかった。彼女の横に立ちたいから。
…でも、俺はやり方を間違えた。彼女への憧れはいつしか劣等感へと変わり、彼女を守るどころか、彼女を突き放す態度を取るようになってしまった。
勉強中に彼女が息抜きをしないとと話しかけてくれた。耳障りだと怒鳴ってしまった。彼女が隣に座って勉強を教えようとしてくれた。彼女に敵わない自分が不甲斐なくて、乱暴に突き飛ばしてしまった。あの時の彼女の顔を忘れられない。いつからだろう。彼女の笑顔を見られなくなったのは。
それでも手放したくなかった。それでも彼女が必要だった。愚かな自分を呪うことになるなんて、この時は想像できなかった。
それでも君を、心から愛していたんだ。
君にデートに誘われた。俺は読書で見聞を広めるのに夢中になっていた。君にお茶に誘われた。お茶会の間も論文に集中していた。優しくすることを忘れた馬鹿な俺には、これから起こることなんて想像もつかなかった。
それでも、君じゃなきゃ意味がない。それでも、君じゃなきゃダメだった。ふと、思い出したように愛を告げる。けれどきっと、君には今更だったんだ。
君のことが愛しいくせに、君を大切にできなかった。なんて馬鹿な男だろう。こんな男、君に嫌われて当然だ。
…それなのに、君が他の誰かのものになるなんて考えられなかった。
だから、俺がドラゴン討伐に駆り出されたのを聞いた君がその身をドラゴンに捧げるなんて、信じられなかった。
「私、ドラゴンの花嫁になります。そのかわり、ドラゴンは国から離れることになりました」
「なんだと!?」
「なんてこと!」
「キャロルちゃん、考え直して?生贄なら他の誰かでもいいじゃない!」
「キャロルくんがうちの花嫁になるのを、楽しみにしていたのだよ…どうしても君じゃなきゃダメなのかい?」
「そういう約束なので」
「アルバート!貴方も何か言いなさい!」
「…」
俺は茫然としていて、結局一言も喋らなかった。王家はキャロルをドラゴンから国を守る聖女として祀り上げた。キャロルは行ってしまった。
それから数年。俺は未だにキャロルを引きずっていて、婚約者もいない。ある日、領内を視察していた時、キャロルと俺によく似た男を見かけた。すぐに走り寄ったが、その二人の会話と笑顔を見て止まってしまった。
「…好きよ、アル」
「俺も好きだ、キャロル」
あれは多分ドラゴンが俺に化けていたんだろう。その後二人は手を繋いで服屋に寄ったり喫茶店に寄ったりしていた。服屋ではお互いに似合う服を選んでベタ褒めしあっていたし、喫茶店では食べさせあいっこしていた。そんな二人を惨めにも外からそっと眺めていた俺は、やっとキャロルへの諦めがついた。キャロルは俺といない方が幸せそうだったのだから。
「…ふん。やっと諦めがついたか、小僧」
「アル?」
「愛してるぞ、キャロル」
「え、ええ。ありがとう…?」
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元婚約者視点のお話ありがとうございました!
卑屈な拗らせ男で、引きずりまくってドラゴンにとどめ刺されて‥
キャロルはこんな男でも大切だったんですね。
ドラゴン出ずに卑屈な男と結婚しても結局は辛い思いするだろうから、食べられずに愛される運命になって本当よかった
身勝手というか馬鹿というか不器用というか…我がキャラクターながらダメな子でした…。少しでも楽しんでいただけていれば嬉しいです。ありがとうございました!
婚約者だった男の視点の話も読みたいです!
出来たらその後の2人の話も見てみたいです。
感想ありがとうございます!アル視点ですか…書けたら書きたいなぁくらいで考えさせてください。でもそう言っていただけて嬉しいです。読んでくださってありがとうございました!