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または三賢者の一人が悪役令嬢に遅すぎる初恋をぶつけるだけ
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「この馬鹿者が!」
「…っ!」
国王ハノイに怒鳴られ青褪めるのは第一王子にして王太子であるアーノルド。彼は、取り返しのつかない失態を犯していた。
「ユーミリアとの婚約破棄を勝手に宣言し、挙句国外追放処分だと!?お前は政略結婚をなんだと心得る!?」
ユーミリア。ハノイの愛する妹の嫁いだオラース公爵家の長女で、母譲りの美しい容姿、洗練された所作、優秀な成績で淑女の中の淑女と謳われる彼女。アーノルドの婚約者だった彼女は、ハノイが国外へ外交に行っている間にアーノルドから信じられない仕打ちを受けていた。
「お前達、すぐにユーミリアを探し出し保護しろ!ユーミリアを守るのだ!」
「は!」
ハノイはユーミリアの保護を臣下に指示。そしてアーノルドに向き直る。
「で?お前は政略結婚をなんだと心得る?」
いくらか冷静になったものの内心嵐が吹き荒れるハノイ。しかしアーノルドはそれに気付かずハノイが落ち着いたと安心して話し出す。
「愛のない結婚など意味がないと思います。私は真実の愛に目覚めたのです。ルリアという男爵家の少女なのですが、とても可憐で優しく人に寄り添える子です。ルリアに嫉妬して虐めなどを行うユーミリアより、彼女の方がよほど王太子妃に相応しいと思います」
「ほう。ルリアとかいう男爵令嬢の方が王太子妃に相応しい。…笑わせるな!」
「…っ!?」
「王族はな、その身に流れる尊い血こそを大切にするのだ!血統があってこそ、自らの正当性を主張出来る!それがなければ民一人も守れない!」
ハノイの怒りにアーノルドは小さな声しか出せない。
「し、しかし」
「それに、その男爵令嬢が可憐で優しい?顔の良い高位貴族の令息達に片っ端から粉を掛ける女の何処が可憐だ!娼婦の方がよほど弁えているではないか!しかも、ユーミリアのやっていないいじめなどをねつ造する女の何処が優しい!?」
愛する女性を貶されアーノルドは思わず声を荒げる。
「ルリアは妾腹の為友達がおらず、私の友達を紹介したのです!それを彼らの婚約者が勝手に嫉妬して変な噂を…」
「つまり!お前のせいでいくつもの政略結婚が潰えたのだぞ!?わからんか!」
アーノルドは政略結婚など無意味だと本気で信じており、未だ自分のしたことを理解出来ない。
「で、ですから政略結婚など…」
「王族だけではなく貴族もその血を大切にするものなのだ!その血の正当性によって領民達を守れるからだ!まだわからんか!どんなに正しいことをしようとしても、力がなければ何も成せない!血の正当性は民を納得させる強力な力の一つなのだ!」
「…で、ですが、ユーミリアはルリアを虐めた悪女です!そんな者は王太子妃に相応しくありません!」
アーノルドは本気でユーミリアが悪女だと信じている。だから、ハノイの言葉に固まった。
「…お前とユーミリアには常に王家の影をつけてある」
「…は?」
「お前達が王太子、王太子妃に相応しいか確かめる為だ。お前の言う虐めなどしている暇はユーミリアにはなかった。王太子妃教育にずっと縛られていたのだから」
アーノルドはルリアが嘘をついたとは思わない。だから取り巻きを使ったのだと思った。
「で、では取り巻きの令嬢達に!」
「それもない。言っただろう。『王家の影』だぞ。国外へ外交に行っている私にお前の計画した『私の同意なき婚約破棄』という悪行をすぐさま伝えてきた者達だぞ。まあ、私は他国との兼ね合いがありなかなか身動きが取れずそれを許してしまったが」
「…なら、ルリアが嘘を?何故?」
アーノルドは理解出来ない。自分に甘い笑顔を向けて、自分を全肯定してくれる愛しい女が、何故。
「王太子妃になって成り上がる為だろうよ。既にその女は内乱罪で捕らえ牢に入れている。明後日には王太子を惑わせた忌々しい魔女として火炙りで極刑だ。男爵家の一族諸共な」
「な!それはあまりにも!」
「まだわからんか?これがお前の仕出かしたことの結果だ!お前が男爵家を滅ぼしたのだ!お前が殺したのだ!」
「…わ、私が、殺した?」
アーノルドは歯をガチガチと言わせ、顔色は土気色に。ガタガタと震え、みっともない姿を晒す。
「そうだ。…あの男爵令嬢が惑わせた高位貴族の令息達も当主達から何かしらの罰が下るだろうな。あの男爵令嬢を紹介したお前のせいで。将来を期待されていた騎士団長の息子も、魔術師団長の息子も、宰相の息子も家を継ぐことは許されまい。可哀想にな」
「私のせいで、家を継げない?あの優秀な者達が?」
いっそ失神した方がマシだろうと思うくらい、アーノルドは震えていた。
「だが本当に可哀想なのはユーミリアだ。お前より優秀過ぎたためにお前からの嫉妬を買い、お前のつまらない嫉妬のせいで冤罪で国外追放処分。蝶よ花よと育てられたご令嬢が国外追放処分だぞ?生きていけると思ったのか?人殺しめ。お前は人の命をなんとも思わないんだな」
「あ、ああ…あああああっ!」
人殺しと言われて、初めて己がユーミリアにしたことに気付く。ルリアが処刑は可哀想だから国外追放処分が良いだろうと言ったからそうしただけ。でも、それはすごく酷いことだった。
「まあだが、そんな奴の親も所詮はそんなものだ。私は国が第一。お前のような王太子失格の男がどうなろうがなんとも思わない。お前より優秀な第二王子も、スペアとなる第三王子もいるしな。二人の婚約者も優秀だし、お前がいなくなっても問題はない。お前は今日より王太子位を剥奪。第二王子を王太子とする。お前は生殖能力を奪い、離宮にて生涯幽閉とする。…まあ、すぐに『病気』で床に伏せることになるだろうがな」
「…謹んで、お受け致します」
そこには、キラキラした王子様然としたアーノルドの姿はなく、完全に意気消沈した抜け殻だけがいた。
(まあ、私の可愛い妹とその夫と甥っ子達がすぐに極秘でユーミリアを保護しているんだがな。さすがに面倒くさいことになるから内緒だ。後は手筈通り隣国付近の森の小屋でユーミリアが発見され保護されて終わりだ。ユーミリアが無事で本当に良かった。公爵家との関係が壊れたら王家は終わりだ。公爵家は金はあるし地位も権力もある。王家の血も混ざっているから血統も問題ないし、兵を挙げられたら正直終わりだった。ユーミリアが生きていて、私達王族と公爵家との間を取り持ってくれたから私達王族は首の皮一枚は繋がっている。それを、アーノルドは一生理解出来ないのだろう。何故あの第二王子、第三王子と共に育っておきながらああなってしまったのか…)
「お前達。この者を離宮に」
「はい!」
臣下達は王太子ではなくなった第一王子を離宮に連れて行く。アーノルドはただ呆然と受け入れていた。
ー…
あれからしばらく経ち。無事に公爵家へ帰れたユーミリアは窓の外を見つめる。第二王子が王太子となり、政は上手くいき婚約者とも仲睦まじく。しばらくは元王太子から捨てられた女と蔑まれたが、今では周りも落ち着いている。というか、蔑んできたご令嬢達はみんな兄二人の手によって地獄に落とされている。方法は知らないが色々と醜聞が広がってしまったらしい。今ではユーミリアより余程悪い噂が広がっていて、ユーミリアの盾になっていた。
「お嬢様。またルシアン様からお便りですよ」
両親と兄二人の庇護のもと、森の小屋で暮らしたしばらくの間、流浪の魔術師ルシアンと仲良くなった。ルシアンは三賢者と呼ばれる英雄の一人で、五百年は生きている男だ。そんなルシアンは森の小屋で精一杯のおもてなしをしたユーミリアを気に入り、ユーミリアが保護されるまでの数日間魔術を教えてくれた。王太子妃教育では習わなかった魔術。とても楽しく、たったの数日間で初級から中級のレッスンは終了した。残念ながら、上級と超級は間に合わなかったが。
ちなみに、ユーミリアが保護された時、ルシアンが側で見守っていたのは大きかった。森の小屋で暮らしていた間の変な憶測が広がらなかったのは、三賢者の一人が守っていたと伝わったからだ。公爵家一同、ルシアンには感謝しかない。だから、政略結婚が潰え、『まともな』嫁入り先もしばらくは見つかりそうもないユーミリアをルシアンが弟子として欲しがっているのを知ってユーミリア以外は喜んだ。ルシアンの元で楽しく自由に魔術を学んでいる間に、良い人を見繕ってあげられると。
しかしユーミリアは頷かない。何度お誘いのお便りを貰っても、お断りの返事を返す。だってユーミリアは、一度も恋をしたことがないというルシアンに恋をしてしまったから。きっと、側にいればこの叶わぬ想いはどんどんと膨れ上がるとユーミリアは知っていた。
ユーミリアはまだ知らない。この後ルシアンの弟子になれコールがうるさいレベルになり、しつこく迫られとうとう弟子になったら今度は好きだと迫られ、最終的には婚約、結婚、子宝にも恵まれることになると。
「…っ!」
国王ハノイに怒鳴られ青褪めるのは第一王子にして王太子であるアーノルド。彼は、取り返しのつかない失態を犯していた。
「ユーミリアとの婚約破棄を勝手に宣言し、挙句国外追放処分だと!?お前は政略結婚をなんだと心得る!?」
ユーミリア。ハノイの愛する妹の嫁いだオラース公爵家の長女で、母譲りの美しい容姿、洗練された所作、優秀な成績で淑女の中の淑女と謳われる彼女。アーノルドの婚約者だった彼女は、ハノイが国外へ外交に行っている間にアーノルドから信じられない仕打ちを受けていた。
「お前達、すぐにユーミリアを探し出し保護しろ!ユーミリアを守るのだ!」
「は!」
ハノイはユーミリアの保護を臣下に指示。そしてアーノルドに向き直る。
「で?お前は政略結婚をなんだと心得る?」
いくらか冷静になったものの内心嵐が吹き荒れるハノイ。しかしアーノルドはそれに気付かずハノイが落ち着いたと安心して話し出す。
「愛のない結婚など意味がないと思います。私は真実の愛に目覚めたのです。ルリアという男爵家の少女なのですが、とても可憐で優しく人に寄り添える子です。ルリアに嫉妬して虐めなどを行うユーミリアより、彼女の方がよほど王太子妃に相応しいと思います」
「ほう。ルリアとかいう男爵令嬢の方が王太子妃に相応しい。…笑わせるな!」
「…っ!?」
「王族はな、その身に流れる尊い血こそを大切にするのだ!血統があってこそ、自らの正当性を主張出来る!それがなければ民一人も守れない!」
ハノイの怒りにアーノルドは小さな声しか出せない。
「し、しかし」
「それに、その男爵令嬢が可憐で優しい?顔の良い高位貴族の令息達に片っ端から粉を掛ける女の何処が可憐だ!娼婦の方がよほど弁えているではないか!しかも、ユーミリアのやっていないいじめなどをねつ造する女の何処が優しい!?」
愛する女性を貶されアーノルドは思わず声を荒げる。
「ルリアは妾腹の為友達がおらず、私の友達を紹介したのです!それを彼らの婚約者が勝手に嫉妬して変な噂を…」
「つまり!お前のせいでいくつもの政略結婚が潰えたのだぞ!?わからんか!」
アーノルドは政略結婚など無意味だと本気で信じており、未だ自分のしたことを理解出来ない。
「で、ですから政略結婚など…」
「王族だけではなく貴族もその血を大切にするものなのだ!その血の正当性によって領民達を守れるからだ!まだわからんか!どんなに正しいことをしようとしても、力がなければ何も成せない!血の正当性は民を納得させる強力な力の一つなのだ!」
「…で、ですが、ユーミリアはルリアを虐めた悪女です!そんな者は王太子妃に相応しくありません!」
アーノルドは本気でユーミリアが悪女だと信じている。だから、ハノイの言葉に固まった。
「…お前とユーミリアには常に王家の影をつけてある」
「…は?」
「お前達が王太子、王太子妃に相応しいか確かめる為だ。お前の言う虐めなどしている暇はユーミリアにはなかった。王太子妃教育にずっと縛られていたのだから」
アーノルドはルリアが嘘をついたとは思わない。だから取り巻きを使ったのだと思った。
「で、では取り巻きの令嬢達に!」
「それもない。言っただろう。『王家の影』だぞ。国外へ外交に行っている私にお前の計画した『私の同意なき婚約破棄』という悪行をすぐさま伝えてきた者達だぞ。まあ、私は他国との兼ね合いがありなかなか身動きが取れずそれを許してしまったが」
「…なら、ルリアが嘘を?何故?」
アーノルドは理解出来ない。自分に甘い笑顔を向けて、自分を全肯定してくれる愛しい女が、何故。
「王太子妃になって成り上がる為だろうよ。既にその女は内乱罪で捕らえ牢に入れている。明後日には王太子を惑わせた忌々しい魔女として火炙りで極刑だ。男爵家の一族諸共な」
「な!それはあまりにも!」
「まだわからんか?これがお前の仕出かしたことの結果だ!お前が男爵家を滅ぼしたのだ!お前が殺したのだ!」
「…わ、私が、殺した?」
アーノルドは歯をガチガチと言わせ、顔色は土気色に。ガタガタと震え、みっともない姿を晒す。
「そうだ。…あの男爵令嬢が惑わせた高位貴族の令息達も当主達から何かしらの罰が下るだろうな。あの男爵令嬢を紹介したお前のせいで。将来を期待されていた騎士団長の息子も、魔術師団長の息子も、宰相の息子も家を継ぐことは許されまい。可哀想にな」
「私のせいで、家を継げない?あの優秀な者達が?」
いっそ失神した方がマシだろうと思うくらい、アーノルドは震えていた。
「だが本当に可哀想なのはユーミリアだ。お前より優秀過ぎたためにお前からの嫉妬を買い、お前のつまらない嫉妬のせいで冤罪で国外追放処分。蝶よ花よと育てられたご令嬢が国外追放処分だぞ?生きていけると思ったのか?人殺しめ。お前は人の命をなんとも思わないんだな」
「あ、ああ…あああああっ!」
人殺しと言われて、初めて己がユーミリアにしたことに気付く。ルリアが処刑は可哀想だから国外追放処分が良いだろうと言ったからそうしただけ。でも、それはすごく酷いことだった。
「まあだが、そんな奴の親も所詮はそんなものだ。私は国が第一。お前のような王太子失格の男がどうなろうがなんとも思わない。お前より優秀な第二王子も、スペアとなる第三王子もいるしな。二人の婚約者も優秀だし、お前がいなくなっても問題はない。お前は今日より王太子位を剥奪。第二王子を王太子とする。お前は生殖能力を奪い、離宮にて生涯幽閉とする。…まあ、すぐに『病気』で床に伏せることになるだろうがな」
「…謹んで、お受け致します」
そこには、キラキラした王子様然としたアーノルドの姿はなく、完全に意気消沈した抜け殻だけがいた。
(まあ、私の可愛い妹とその夫と甥っ子達がすぐに極秘でユーミリアを保護しているんだがな。さすがに面倒くさいことになるから内緒だ。後は手筈通り隣国付近の森の小屋でユーミリアが発見され保護されて終わりだ。ユーミリアが無事で本当に良かった。公爵家との関係が壊れたら王家は終わりだ。公爵家は金はあるし地位も権力もある。王家の血も混ざっているから血統も問題ないし、兵を挙げられたら正直終わりだった。ユーミリアが生きていて、私達王族と公爵家との間を取り持ってくれたから私達王族は首の皮一枚は繋がっている。それを、アーノルドは一生理解出来ないのだろう。何故あの第二王子、第三王子と共に育っておきながらああなってしまったのか…)
「お前達。この者を離宮に」
「はい!」
臣下達は王太子ではなくなった第一王子を離宮に連れて行く。アーノルドはただ呆然と受け入れていた。
ー…
あれからしばらく経ち。無事に公爵家へ帰れたユーミリアは窓の外を見つめる。第二王子が王太子となり、政は上手くいき婚約者とも仲睦まじく。しばらくは元王太子から捨てられた女と蔑まれたが、今では周りも落ち着いている。というか、蔑んできたご令嬢達はみんな兄二人の手によって地獄に落とされている。方法は知らないが色々と醜聞が広がってしまったらしい。今ではユーミリアより余程悪い噂が広がっていて、ユーミリアの盾になっていた。
「お嬢様。またルシアン様からお便りですよ」
両親と兄二人の庇護のもと、森の小屋で暮らしたしばらくの間、流浪の魔術師ルシアンと仲良くなった。ルシアンは三賢者と呼ばれる英雄の一人で、五百年は生きている男だ。そんなルシアンは森の小屋で精一杯のおもてなしをしたユーミリアを気に入り、ユーミリアが保護されるまでの数日間魔術を教えてくれた。王太子妃教育では習わなかった魔術。とても楽しく、たったの数日間で初級から中級のレッスンは終了した。残念ながら、上級と超級は間に合わなかったが。
ちなみに、ユーミリアが保護された時、ルシアンが側で見守っていたのは大きかった。森の小屋で暮らしていた間の変な憶測が広がらなかったのは、三賢者の一人が守っていたと伝わったからだ。公爵家一同、ルシアンには感謝しかない。だから、政略結婚が潰え、『まともな』嫁入り先もしばらくは見つかりそうもないユーミリアをルシアンが弟子として欲しがっているのを知ってユーミリア以外は喜んだ。ルシアンの元で楽しく自由に魔術を学んでいる間に、良い人を見繕ってあげられると。
しかしユーミリアは頷かない。何度お誘いのお便りを貰っても、お断りの返事を返す。だってユーミリアは、一度も恋をしたことがないというルシアンに恋をしてしまったから。きっと、側にいればこの叶わぬ想いはどんどんと膨れ上がるとユーミリアは知っていた。
ユーミリアはまだ知らない。この後ルシアンの弟子になれコールがうるさいレベルになり、しつこく迫られとうとう弟子になったら今度は好きだと迫られ、最終的には婚約、結婚、子宝にも恵まれることになると。
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