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死こそが救いだった
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清潔な真っ白な部屋。真っ白なシーツの上で君は今日も僕に笑いかける。
「また来たの?貴方、公爵様なんでしょう?公務はいいの?」
「はは。まあね。おかげさまで毎日徹夜さ」
「もう。来なくたっていいのに」
「そんな気を回せるなら、自殺未遂なんてやめて欲しいね」
君は僕に向けていた笑顔を消す。
「無理よ。死は私の恋人だもの。自殺しなくたってどうせ病気で死ぬのよ?」
そう。彼女は余命半年なのだ。だからこそ、その時間を幸せに過ごして欲しい僕。けれど彼女は、死こそ救いだと平気でのたまう。バカ。
「僕は少しでも君と一緒に居たい」
「引き伸ばしても半年よ」
「…その半年を、僕にくれよ」
彼女の手を握る。彼女は決して僕の手を振り払わない。根本的に、彼女は優しいのだ。
「貴方はバカだわ。よりにもよって、なんで私なのよ。選り取り見取りでしょう?」
「そんなの僕が一番思ってる。君じゃなきゃどれだけ楽だろうって。けれど…答えなんか出ないし、君じゃなきゃダメなんだよ」
「悪いけれど、私は自殺はやめないわ。けれど、生きている間は貴方の相手をしてあげる」
「…やっぱり、君の方がバカじゃないか」
「なんとでも言いなさいよ」
そうして僕は毎日彼女の元へ通う。彼女はいつも必ず自殺未遂を繰り返していた。けれども僕が訪れる時間だけは大人しく待っていてくれた。
「…またそんなにボロボロになって」
「自分でも驚いたわ。私、病気の割には頑丈なのね」
「いっそ自殺未遂よりも不老不死の霊薬を探しに行く方が早そうだな」
「なによそれ。そんなもの手に入れても私は飲まないわよ。死こそが私の恋人だもの」
「…君はやっぱりバカだ」
僕は日に日にボロボロになる彼女を抱きしめた。彼女は嫌がるそぶりもない。
「そうよ。こんなバカの相手、やめてしまいなさいな」
「嫌だ。僕は君じゃなきゃダメなんだよ」
こうして僕は君を記憶に刻む。
どうして、僕の運命は君なんだろう。どうして、君の運命は死なんだろう。人生って本当にままならない。
ー…
ある日、君は本当に死んだ。自殺の甲斐もなく、持病による病死だった。
「娘を今まで見守ってくださってありがとうございます、公爵様」
「どうか娘のことは忘れてやってください。良き方と、良き家庭を」
周りは、どうやら感傷に浸る時間すら与えてくれないらしい。
ふと、彼女が自殺未遂に使っていたナイフが目に入った。形見にそれを貰う。
…君は最後に会った日も、つまりは昨日も、いつも通りに笑っていた。バカ。せめて昨日が最後だとわかるくらい様子が違えばよかったのに。
僕は、長男で。爵位も受け継ぎ公爵で。でも、お嫁さんはいない。婚約者は君だった。君の病気がわかった時に解消されてしまったけれど。だから、ほら。スペアの弟もいるし。
今度は僕が、死を恋人にする番だ。
彼女の肌を何度も何度も傷つけたナイフが、僕の胸を貫いた。
「また来たの?貴方、公爵様なんでしょう?公務はいいの?」
「はは。まあね。おかげさまで毎日徹夜さ」
「もう。来なくたっていいのに」
「そんな気を回せるなら、自殺未遂なんてやめて欲しいね」
君は僕に向けていた笑顔を消す。
「無理よ。死は私の恋人だもの。自殺しなくたってどうせ病気で死ぬのよ?」
そう。彼女は余命半年なのだ。だからこそ、その時間を幸せに過ごして欲しい僕。けれど彼女は、死こそ救いだと平気でのたまう。バカ。
「僕は少しでも君と一緒に居たい」
「引き伸ばしても半年よ」
「…その半年を、僕にくれよ」
彼女の手を握る。彼女は決して僕の手を振り払わない。根本的に、彼女は優しいのだ。
「貴方はバカだわ。よりにもよって、なんで私なのよ。選り取り見取りでしょう?」
「そんなの僕が一番思ってる。君じゃなきゃどれだけ楽だろうって。けれど…答えなんか出ないし、君じゃなきゃダメなんだよ」
「悪いけれど、私は自殺はやめないわ。けれど、生きている間は貴方の相手をしてあげる」
「…やっぱり、君の方がバカじゃないか」
「なんとでも言いなさいよ」
そうして僕は毎日彼女の元へ通う。彼女はいつも必ず自殺未遂を繰り返していた。けれども僕が訪れる時間だけは大人しく待っていてくれた。
「…またそんなにボロボロになって」
「自分でも驚いたわ。私、病気の割には頑丈なのね」
「いっそ自殺未遂よりも不老不死の霊薬を探しに行く方が早そうだな」
「なによそれ。そんなもの手に入れても私は飲まないわよ。死こそが私の恋人だもの」
「…君はやっぱりバカだ」
僕は日に日にボロボロになる彼女を抱きしめた。彼女は嫌がるそぶりもない。
「そうよ。こんなバカの相手、やめてしまいなさいな」
「嫌だ。僕は君じゃなきゃダメなんだよ」
こうして僕は君を記憶に刻む。
どうして、僕の運命は君なんだろう。どうして、君の運命は死なんだろう。人生って本当にままならない。
ー…
ある日、君は本当に死んだ。自殺の甲斐もなく、持病による病死だった。
「娘を今まで見守ってくださってありがとうございます、公爵様」
「どうか娘のことは忘れてやってください。良き方と、良き家庭を」
周りは、どうやら感傷に浸る時間すら与えてくれないらしい。
ふと、彼女が自殺未遂に使っていたナイフが目に入った。形見にそれを貰う。
…君は最後に会った日も、つまりは昨日も、いつも通りに笑っていた。バカ。せめて昨日が最後だとわかるくらい様子が違えばよかったのに。
僕は、長男で。爵位も受け継ぎ公爵で。でも、お嫁さんはいない。婚約者は君だった。君の病気がわかった時に解消されてしまったけれど。だから、ほら。スペアの弟もいるし。
今度は僕が、死を恋人にする番だ。
彼女の肌を何度も何度も傷つけたナイフが、僕の胸を貫いた。
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