婚約者を奪われました

下菊みこと

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結局落ち着くところに落ち着いたお話

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「すまない、セレスティーヌ。俺はシャネルを愛してしまったんだ」

そんなことをわざわざ人目のあるところで言うのは、バカだなぁと思う。

その上自分に酔ったようなその雰囲気に引く。

彼に肩を抱かれて潤んだ瞳でこちらを見る妹にも引く。

「そうですか。わかりました」

「え?」

「妹にはまだ婚約者も決まっておりませんし、応援致します」

「そ、そうか!」

「では失礼します」

二人を振り返らずその場を離れる。

集まっていた野次馬はあっけらかんとしていた私の対応に冷めたらしく、あっという間に散り散りになった。















「てことだからアレクシル、泊めて」

「別にいいけど、結局どうするの?」

「妹には婚約者は居ないし、それこそ婚約者を交換…交換?すればいいでしょ」

「お前はフリーになって尻軽な妹には首輪を付けられて万々歳ってか」

「さすがにあの妹も、姉の婚約者に手を出すとは思ってなかったわ。あの束縛男と破れ鍋に綴じ蓋じゃない?」

「はは、言えてる」

私は妹と違って平凡な顔。

父の爵位以外取り柄もない。

妹はそれにひきかえ美女。

両親の顔のいいとこ取り。

けれど、男漁りが趣味。

最悪だ…だから、束縛が悪癖のあの男を押し付けるのにちょうどいい。

「まあ、それはいいんだけど」

「うん?」

「お前の次の婚約は?」

「あー、実家の爵位は変わらずあの男が継ぐことになるだろうし…私はそれこそ、もう貴族のしがらみを捨ててしまいたいなぁ」

「じゃあお前、俺の嫁になる?」

「うん?」

どうしてそうなった?

アレクシルを見れば、真面目な顔。

「貴族のお嬢さんを嫁にできれば俺にもメリットはあるし、お前に働けとは言うつもりないし、お前は自堕落に好きなことして過ごしていいよ?」

「ふーん」

「妹ばかり優先するお前の実家の連中よりかはお前を愛してやれるし、お小遣いもたくさんあげられる」

「へー」

「お前は嫌?」

嫌かと聞かれれば、嫌ではない。

だってアレクシルは今まで私に嘘をついたことがない。

そんな生活を許してくれるなら、全然問題ない。

アレクシルは有名な商会の会長さんだし、これから先お金に困ることもないだろう。

だけど。

「私はいいけど、アレクシルはいいの?」

「メリットはあるし、俺自身もそうしたいと思って提案してるんだけど」

「そっか」

アレクシルの目を見て言った。

「いいよ、結婚しよう」

「よっしゃ!ご両親の説得は任せておけ!」

そしてアレクシルは本当に、両親に話をつけてくれた。

元婚約者は妹の婚約者になり、慰謝料はなし。

実家の爵位は彼が継ぐ。

私は婚約期間をすっ飛ばしてすぐにアレクシルの嫁になる。

これで話はまとまった。

急遽アレクシルのコネを総動員して、三ヶ月で結婚式と披露宴の準備をしてそのまま結婚した。

















「アレクシル」

「ん?」

「いつもありがとう」

「うん、セレスこそ俺と結婚してくれてありがとうな」

アレクシルは約束通り、私を働かせることもなくお小遣いもくれて自堕落な生活を許してくれた。

おかげで私は好きなように過ごせる。

運動をしたり、好きなものを食べたり、お昼寝したり、買い物をしたり。

買い物はアレクシルにマッサージチェアーを買ったりアミュレットを買ったり、とりあえずアレクシルにあれこれ買ってくる。

アレクシルは自分のために使えと言ってくれるけど、妹ばかり優先されてきた私には欲しいものというのが思い浮かばなくてついアレクシルにばっかり買ってしまう。

「なぁ、セレス。もしかして自分の欲しいものとかあんまり考えられない?」

「え、うん」

「あー、俺の配慮が足りなかったな。ごめん」

「気にしなくていいよ。アレクシルのせいじゃないし」

「うん、ありがとう。あと、そろそろアレンって呼んでくれていいぞ」

アレンか。

そうだよね、結婚したのだし。

「うん、アレン」

「今度何か良いものプレゼントするな。もちろんお小遣い廃止とかもしないから安心しろ」

「わかった」

そしてアレンは、私へのプレゼントを後日本当に用意してくれた。
















「セレス、これプレゼント」

「これは…」

それは、子供の頃に妹に奪われ壊されたはずのクマのぬいぐるみによく似ていた。

「ごめんな、やっぱりこれをあげたくて」

「えっと…」

「昔クマのぬいぐるみをお前に贈ったよな。小さな頃のことだけど、お前に仲良しの印にあげたものなのにあの性悪妹がぼろぼろに壊して遊んでたから…なにがあったか察して…でもなにもできなくて…その、今からでももう一度と思って…」

アレンのその言葉に涙がぼろぼろこぼれた。

「あ、ご、ごめん!嫌だったか?余計なお世話だったか?」

「ううん、嬉しい…やっと、ちゃんとアレンと向き合える気がする…」

「え」

「アレンがくれたもの全部奪われて壊されて、それをアレンにあの子は見せつけてて…なのにアレンは私に変わらず優しくて、私はそんなアレンに甘え続けてしまって…」

声が震えるのを叱咤して、本当の気持ちを絞り出した。

「…あのね、好きだよアレン。ごめんなさい」

アレンはそんな私を見て、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「謝るなよ。謝るのは守ってやれなかった俺の方。でも、やっとお前を守れる立場になれたから…これからはちゃんと守るから」

「うん、でも」

「でもじゃない。お前は悪くない。味方が誰もいなかったのに、ここまで頑張ってきたんだから」

「アレン…あのね、今更だけど、愛してるって言ったら信じてくれる…?」

「信じる。俺もお前を愛してる」

私はその日、アレンに全てを預ける決心がついた。














アレンと夫婦になってしばらくして、私は妊娠した。

すると妹がキレて実家で暴れたらしい。

なんと、妹が今まで私に辛くあたっていたのはアレンと仲良しだったから。

アレンがずっと好きだったと絶叫したらしい。

それで私の婚約者まで奪って、私がアレンと結婚する流れになったのだから笑えない。

アレンはそんな妹の防波堤になってくれていたらしい。

妹も今の婚約者がいるからあまり派手な動きは出来なかったみたい。

妹の婚約者はまだ知らないだろうけど、こういう醜聞は最終的にどこからか漏れるものなのでいつか後悔するだろうと思う。

「妹さんは結局、今は諦めて意気消沈して大人しくしてる」

「よかった」

「でももし何かあればすぐに俺に言えよ」

「うん。アレン、色々ありがとう」

「ん。愛する人のためだからな」

アレンはそう言ってキスしてくれた。

お腹の子のためにも、ストレス源の妹とはこれからも関わらずにいようと思う。

結局最終的に、妹のおかげで良い結婚ができた。

妹にはそこだけ、感謝している。
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