私の婚約者に、私のハイスペックな後輩が絡みまくるお話

下菊みこと

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先輩が好きすぎる後輩の話

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私の婚約者には、私よりよほどお似合いの従妹がいる。

従妹だから、やましいことはないからと言われるとそうなのかもしれないが。

私の目には、二人が相思相愛のカップルにしか見えないのだ。

















「あらあら、シリルったらまだ眠いの?」

「君の膝枕が心地よすぎるんだよ」

私の目の前でイチャつくのは、私の婚約者のシリル様とセレナ様。

シリル様は侯爵家の長男で、ワケありで侯爵家で育てられているセレナ様を可愛がっている。

ちなみにセレナ様は辺境伯家の末っ子長女で、辺境がちょっと情勢的に危なっかしいとかなんとかで親戚である侯爵家にセレナ様を預けていた。

セレナ様の叔父である侯爵様の気遣いで決まったことらしい。

幼い頃から一緒のお二人はもはや阿吽の呼吸レベル。美男美女でカップルにしか見えない。

けれど、シリル様の婚約者は私。

何故って、生まれる前から決まっていた婚約だから。

いくら二人が仲が良くても、婚約の破棄など簡単にはできない。

それでも、シリル様が愛するのはセレナ様の方。

私がシリル様に愛されることはないのだろう。

だからといって、当てつけのように私の目の前でイチャつくのはやめてほしいが。

「レイナ、黙りこくってどうしたの?」

「レイナ様もお茶菓子と紅茶をどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

セレナ様にお茶を勧められて、無理矢理笑顔を作ってお茶菓子を口に運ぶ。

…うーん、ストレスからか味がわからん。

そもそもこの紅茶とお茶菓子は、私のためのもののはずなのだが。

何故セレナ様はそこに居座っていらっしゃる?

とは言えないので笑って誤魔化す。

なんたって、辺境伯家の姫君に伯爵家の娘が物申せるはずもない。

そもそも何故侯爵家の跡取りの婚約者に伯爵家の娘をあてがわれてしまったのか…ああ、やだやだ。

「んー…美味しいですねぇ…」

「セレナが選んだお茶菓子と紅茶だからね。気に入った?」

「はい、とても…気に入りました」

「なら良かった!」

ぱっと笑顔になるセレナ様。

その無邪気さがツラい。

早くこの場から解放して欲しい。

そう思っていた時だった。

「せーんーぱいっ!」

「え、エドウィン様!」

私の魔法省での後輩でもある公爵様が後ろから現れた。

「え、ここ侯爵家なんですけど」

「だって先輩が今日は婚約者とのお茶会だって言ってたから、邪魔しに来ちゃいました!」

「えー、めちゃくちゃはっきり言う…」

「だって先輩が婚約者ばかり優先で、俺と遊んでくれないからぁ」

この方は我が国の元第五皇子でもある公爵様。

元五番目の皇子というある意味気楽な立場の方で、婚約者も好きに選べと放任されているらしい。

そろそろ私たちも結婚適齢期だというのに、まだ婚約者も見つけていないちゃらんぽらん。

なお先輩と呼ばれているのは、私はスカウトされて最年少で魔法省に勤めていてそこにエドウィン様も最近魔法省で働き始めたから。

公爵様は成人後早々に皇位継承権を返上して、領地と爵位をもらってさらに魔法省でも働き出したのだ。

忙しいだろうに仕事をこなすだけでなく、魔法省の先輩である私や他の先輩方にもコミュ力を発揮してめちゃくちゃ可愛がられる愛されキャラでもある。

「…あの、閣下」

シリル様が困惑した表情でエドウィン様を見つめる。

「ん?」

「俺の婚約者になにか御用ですか?」

「…あは。いやだ、先輩の婚約者さんに喧嘩を売るつもりはないんだよ?ただ、先輩って婚約者さんと一緒にいると無理してる感じがして見てられなくてぇ」

エドウィン様、それ喧嘩売ってますって。

皇位継承権は返上したとはいえ、一応元第五皇子でもあるわけだから大丈夫なんでしょうけれども。

「…レイナ、閣下とどういう関係なの?」

「どうもこうも、魔法省で共に働いて頂いている素晴らしい後輩ですが…」

あと、公爵様と伯爵の娘という格差バリバリの関係。

そう私が付け加えてもシリル様は納得した表情にはならない。

「んー…どんな関係かぁ…」

エドウィン様は小首を傾げる。

「…先輩への片想い?」

「また誤解されるような言い方を…」

エドウィン様は時々こうして私に意地悪をする。

わざと困らせるようなことを言うのだ。

シリル様は不愉快そうに眉を寄せた。

「…」

「ねえ先輩、そんなにこの二人が嫌ならうちに来ません?デートしましょ、デート」

「…っ!?」

「さすがに婚約者がいるのに他の方とデートはしません」

なにを言い出すのか、エドウィン様ったら。

「えー、先輩の意地悪ー」

「意地悪した覚えはありませんが」

むしろ私が意地悪されてる側のはず。

「婚約者のいる男にベタベタする従妹と、それをやめさせない男に付き合わなくてもいいじゃないですかぁ」

「その言い方はやめて差し上げてください」

「だって先輩のこと蔑ろにする人嫌いなんですもん!!!」

私は気にしてないのでお気になさらず!

「エドウィン様、いい加減にしないと怒りますよ」

「えー、先輩に怒られたら俺泣いちゃう」

「そんなこといっても泣かないでしょ、エドウィン様は」

「本当に泣いちゃうのにー」

まったく、引っ掻き回してくれるんだから。

「…いい加減、目の前でイチャつくのやめてくれませんか」

「…?」

シリル様はむすっとしている。

セレナ様も不愉快そうだ。

「あれ?なになに、自分は浮気しておいて婚約者のイチャイチャは許しませんって?」

「それは!」

「じゃあ先輩の気持ち考えたことあるんですか?他の女とベタベタしといてさぁ」

「っ……!!!」

まあ、シリル様には言い返せないよね、うん。

「ねえ、先輩の婚約者さん」

「…なんです?」

「先輩との婚約、白紙にくれませんか?その後は俺がもらうんで」

「それは…」

「貴方は彼女と婚約したらいいじゃないですか。そんなにラブラブなんですから。貴方と彼女が恋愛関係にあるって噂知ってます?それで先輩が泣いてたの知ってますか?」

エドウィン様の言葉にシリル様はハッとする。

「そんな噂が…?」

「そりゃあそんなにイチャイチャしてたら流れるでしょう」

「それで泣かせてしまったの?」

「そうですよ。先輩は一人で泣いてて、俺も慰めたかったけど拒絶されて出来なかった」

シリル様はしばらく黙っていた。

が、言った。

「…少し、時間を頂けますか」

「うん、もちろん。先輩、行こう」

「え、あ」

エドウィン様に引っ張られる形で、侯爵家を後にした。






















後日のこと。

シリル様はご家族やセレナ様と話し合って、あとうちの両親とも話し合いをして色々決めたらしい。

まず、私との婚約の白紙化。この婚約はなかったことになった。

次にセレナ様のこと。セレナ様は自分の婚約者との結婚を前倒しにして、侯爵家を出た。

そしてシリル様自身のこと。婚約やら結婚はせず、親戚の子を引き取って跡取りとして育てるとお決めになられた。

自分では一人の女性を幸せにすることもままならないから、とのこと。

「シリル様、大丈夫でしょうか」

「自分で決めたことですから大丈夫ですよ、先輩」

一方で私は婚約がなかったことにされてすぐに、エドウィン様の婚約者にされた。

エドウィン様にはシリル様から解放していただいた恩を感じるが、恋愛感情がまだ追いついてこない。

けれどエドウィン様はそれでいいと言う。

「エドウィン様、私…」

「先輩、愛しています。強引なやり方をしてすみません。でも俺、先輩に好きになってもらえるように頑張りますから!」

「…はい、期待して待ってます」

エドウィン様は私の言葉ににこっと笑って、私を優しく抱きしめた。

そんなエドウィン様だから、きっとすぐに恋愛感情も追いついてくるだろう。

なんとなくそう思った。
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