本音と建前のお話

下菊みこと

文字の大きさ
1 / 1

天使様が味方についた時点で終わっているお話

しおりを挟む
私はルシア。侯爵家の娘。侯爵家の娘であること以外は取り立てて特徴のない平凡な娘。侯爵家の娘だからこそ贅沢な暮らしが出来、良い友人に囲まれている、ただそれだけの存在。

婚約者はレドモンド様。公爵家の長男。美形で優秀、とても人から好かれる人でもある。私との婚約は、正直言って釣り合いが取れないレベルで素敵な人。

私の婚約者であるレドモンド様には、それはもう可愛い従妹がいる。この国の王女様でもある従妹アリス様は、愛らしくてそして少し性格が悪い。けれど性格の悪さ以外には欠点がないくらい才能にも恵まれた方。

アリス様はレドモンド様に惚れている。アリス様は将来隣国の王子に嫁ぐお方だが、レドモンド様に人知れずアプローチを掛けている。レドモンド様もアリス様には甘い顔をしてあまり咎めない。

しかし私は思う。『人知れず』アプローチを仕掛けている分には良いではないかと。実際周りからは『仲の良い従兄』としか見られていないから国際問題にはなるまい。

「だから、放っておいていいと思うの」

「おやまあ、酷い人だ。その方がいずれ国を離れて知らない男に嫁ぐアリス様が傷つくと知っていてそれとは」

そう。

アリス様はほぼ見ず知らずの状態の隣国の王子に嫁ぐ。

その時、まだレドモンド様を好きなままなら傷は深くなるだろう。

アリス様を思えばこそアリス様に苦言を呈すべきなのだが。

「私はアリス様のために、アリス様の不興を買う度胸も理由もないわ」

「まあ、でしょうねぇ。アリス様は嫁ぐのを拒否するほど愚かではないが、レドモンド様への思いを簡単に捨てられるほど淡白な方でもない。アリス様に何かを言えば貴女が目をつけられてしまう」

「今でさえレドモンド様の婚約者というだけでありとあらゆる嫌がらせを受けているもの。信頼できる友人達が庇ってくれたり守ってくれるから助かっているのよ。それでアリス様にレドモンド様は諦めろとか言ったら、もっと嬲られてるわ」

だから私は何も言わない。

レドモンド様と腕を組んで、豊満な胸をレドモンド様に押し付ける姿を見ても何も言わない。

その様子を見て『仲の良い従兄』判定するお花畑な連中にも何も言わない。

明らかに女性として誘っているアリス様に対して『可愛い従妹』としか認識していないレドモンド様には…ちょっと頭をひっ叩きたくなることはあるが、やっぱり何も言わない。

浮気ではないかと咎めようとする父や兄はむしろ毎回止めるし、気を遣ってレドモンド様の代わりに謝ってくれるレドモンド様のご両親にはお気遣いなくと微笑む。

「まあ、本音を言えばアリス様のこちらを見る勝ち誇った顔は『うわぁ…』ってなるけど、言わぬが花よ」

「本音と建前、ですね。人間とは難儀なものだ」

「そんな人間に救われたのはどこの誰かしら」

私の言葉に、目の前の天使は笑った。

「わたくしですよ。悪魔との戦いで羽根を傷つけたわたくしに治癒魔術をかけてくれた貴女。可愛い貴女。だから不貞を働く婚約者から貴女を助けて差し上げようと思ったのに、まさか断られるとは」

「家同士の利益を考えての婚約だもの。アリス様はいずれ隣国に嫁ぐのだから、勝手に自分で心にダメージを負って苦しむだけ。レドモンド様は頭をひっ叩きたくなるけれど、アリス様の乙女心を意に介さないあんぽんたんなところがアリス様へのダメージを増す結果になるし。助けは無用だわ」

「では、わたくしは貴女に何を返せるでしょうか」

私は笑った。

「ならば、私の従兄になって。人間社会に溶け込むための催眠はお得意でしょう?」

「おや。貴女の従兄になるのは楽しそうだ」

そして目の前の天使は、大規模な催眠を国中の人間にかけて私の『従兄』になってみせた。










アリス様は隣国へ嫁いだ。

みんなアリス様の幸せを願って見送る。

けれど馬車の中のアリス様の目は死んでいた。

レドモンド様への思いがまだ捨て切れていないからだろう。

これから彼女が幸せになれるかは彼女次第だが、今の彼女を見られたのは彼女の次くらいには性格の悪い私にとってご褒美である。

「ルシア」

「レドモンド様」

「王女殿下は嫁がれた。次は俺たちの結婚だな」

「そうですわね」

「そこで相談なんだが、王女殿下も俺から離れたことだし君も従兄離れしてみないか?」

彼の言葉にわざとらしく首をかしげる。

「何故ですか?従兄とはレドモンド様と王女殿下のような健全な関係ですのに」

私は従兄となった天使の彼と、レドモンド様とアリス様のような関係を作り上げた。

いつも一緒にいて、平然と腕を組み、猫なで声で甘えてみせる。

そんな私に眉をひそめるレドモンド様に内心くすくす笑いながら。

けれどそんな感情はひた隠しにして。

「それは、その」

「ねえ、レドモンド様。問題ありませんよね?」

「…そう、だな」

次は彼が我慢する番。

都合が悪くなれば天使の彼は記憶の操作もできるので、彼以外の人間の中から天使と私がイチャイチャしていた記憶を消せばいいだけ。

彼はどう転んでも永遠に悶々としたまま日々を過ごすことになる。

貴方様も本音と建前を、うまく使えるとよろしいですね?
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

2024.06.23 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2024.06.24 下菊みこと

感想ありがとうございます。書けたら書きたいですが書けなかったらすみません…。

解除
翠玉
2024.06.21 翠玉

うわぁ~やられてるわ~😂
この手の無神経さんはこの先も絶対に何某かやらかしますから悶々とさせておけばいいと思いますwww
だって自分はいいと思ってやってたんだから、人のこと言っちゃいけませんよね?
お仕置はいつまで続くのやら。
ただ、終わった頃に別の事案が発生しそうですけどwww
悪気ないだけに大変だ‪💦‬

2024.06.21 下菊みこと

感想ありがとうございます。しばらくは悶々としてて欲しいですね。あとで反省してくれたら嬉しいのですが。

解除
こいぬ
2024.06.19 こいぬ

面白いです。この2人はどうなるのか、いろいろ想像しちゃいますね。

2024.06.19 下菊みこと

感想ありがとうございます。ここから幸せになるのには相当頑張らないとですよね。

解除

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢を彼の側から見た話

下菊みこと
恋愛
本来悪役令嬢である彼女を溺愛しまくる彼のお話。 普段穏やかだが敵に回すと面倒くさいエリート男子による、溺愛甘々な御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

メリザンドの幸福

下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。 メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。 メリザンドは公爵家で幸せになれるのか? 小説家になろう様でも投稿しています。 蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。

そんな彼女の望みは一つ

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢がそのまま攻略対象である許嫁と結婚させられたら?ってお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

情が湧かないのは私のせいでしょうか

下菊みこと
恋愛
拗れに拗れた夫婦関係を、引退生活の中で修復していくお話。 やらかした婚約者とそのまま結婚するタイプのSSです、読後モヤモヤは残るかと思います。 色々拗れているけれど、確かな幸せもあって、それは相手がいたから今成り立つもので。 そんな不安定な夫婦が、日々確かな幸せを噛み締めつつやらかしを後悔しつつ、お互い歩み寄るお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

ずっと温めてきた恋心が一瞬で砕け散った話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレのリハビリ。 小説家になろう様でも投稿しています。

死のうと思って家出したら、なんか幸せになったお話

下菊みこと
恋愛
ドアマットヒロインが幸せになるだけ。 ざまぁはほんのり、ほんのちょっぴり。 ご都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

彼の義妹は、本当に可哀想な子だ。

下菊みこと
恋愛
ダークなお話です。 愛し合う二人、邪魔な義妹。その行き着く果ては? そんなお話です。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女に巻き込まれた、愛されなかった彼女の話

下菊みこと
恋愛
転生聖女に嵌められた現地主人公が幸せになるだけ。 主人公は誰にも愛されなかった。そんな彼女が幸せになるためには過去彼女を愛さなかった人々への制裁が必要なのである。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。