私は婚約者にも家族にも親友にも捨てられた。なのでようやく好きな相手に嫁げます!

下菊みこと

文字の大きさ
1 / 1

主人公は我慢して頑張ってきたので、幸せになっても良いよね?

しおりを挟む
「ジョルジェット…すまない。他に好きな人が出来たのだ。婚約は白紙に戻したい」

「はい、かしこまりました」

「…そなたは」

「はい?」

「こんな時にすら泣いて追い縋ってもくれないのだな。はい、かしこまりました。そればかりだ」

それはそうよ。王太子殿下に常に従えと、王太子殿下を常に立てよと教育されてきたのだもの。貴方だって「結婚してもらえるのを有り難く思い、俺に尽くすように」なんて偉そうにほざいていたでしょう?

「…とにかく、要件はそれだけだ。さらばだ」

「はい、今までありがとうございました」

頭を下げて王太子殿下を見送る。何故か王太子殿下はいつまでもチラチラとこちらを振り返ってゆっくりと馬車に乗っていた。馬車がようやく出発して安心する。その直後、王太子殿下を追いかけてきたが間に合わなかった父が後ろから私の肩を掴んで言った。

「…ジョルジェット。王太子殿下の婚約者という立場を何故そんなにも簡単に捨てた。家の為に嫁ぐことこそお前の役目だと教育してきたはずだ」

「捨てられたのは私です」

「何故追い縋らない!」

「無駄ですもの」

父は頭に血が上ったのだろう。顔を真っ赤にした。

「…もう良い。出て行け」

「はい、かしこまりました」

「…お前は、親兄弟すらどうでも良いのだな」

それはそうよ。病に蝕まれた母にとって一番の悩みの種であった愛人を、母の葬儀の後すぐに後妻として連れてきたのはどこの誰?そんな人達の間に生まれた弟妹なんて知るわけない。

「さようなら、お父様」

「…待て。荷物は?自分のものくらい持って行って良い。お小遣いとして渡した金もあるだろう」

「何も要りません」

「意地を張らなくても良い、少しくらいは持っていけ」

「要りません、さようなら」

私はお金も何も持たず、着の身着のまま屋敷を出た。父は何故か真っ赤にしていた顔を青ざめさせていた。私はそのままの足で歩いて、近くにある奈落の森へ入ろうとした。この森は、一度入ると二度と出られないとされている。魔獣に確実に喰い殺されるからだ。つまりは自殺志願者の聖地である。そんな場所で、何故か待ち構えていたのは元親友。

「待って、ジョルジェット!」

「あら、タルト。王太子殿下のそばに居なくていいの?」

「お、王太子殿下の心を奪ってしまったのはごめんなさい。でも、私は今でも貴女を親友だと思っているの!」

「へえ」

思ったより冷たい声が出た。うん、私は正直家族や婚約者よりこいつにムカついているのかもしれない。私の生い立ちも、婚約者との仲に悩んでいるのも、全部信頼して相談したのに優しい顔をして平気で私を裏切った。…とはいえ、王太子殿下を奪ってくれたのにはむしろ感謝しなくてはいけないのだけど。

「普通、親友の悩みを相談されてそれを友達に言いふらす?貴女のおかげで王太子殿下から無駄に責められるし、弟妹たちから鬼ババアとか言われて躾だとかで鞭で打たれたのだけど?」

「そ、それは!」

「…もう、これ以上は無理!!!お母様を裏切って愛人を作って、お母様の葬儀後すぐに後妻にしたお父様も!私を虐げる継母も!継母の真似をして私を傷つける弟妹たちも!偉そうしながら構って欲しがるツンデレを拗らせた王太子殿下も!親友のフリをして私を貶める友達モドキも!みんなみんな大っ嫌い!!!」

大声で叫べば、大人しい私しか知らないタルトは耳を押さえて驚いた表情。その隙に私は森へ逃げ込んだ。

「精霊王様!闇の精霊王様!!!」

森への侵入者を普段襲って食べている魔獣達は、私を出迎えるように整列してこうべを垂れる。闇の精霊達は、私を歓迎するように飛び回る。

「ジョルジェット、来たか」

「私が何もかもに捨てられた暁には結婚してくださるんですよね!結婚してください!」

「人として幸せに生きる道も示したというのに、お前はバカだな」

「私だって一応、人として幸せに生きる道とやらを模索しました!でも周りが全員クソだったんです!ちょっとどうしようもなかったです!」

「…それはお気の毒に」

闇の精霊王様に手招きされて、近寄れば抱き寄せられる。

「今のお前からは、初めて会った時以上に濃い絶望の匂いがする。闇の精霊王である私にとっては落ち着くな。…そこまで絶望するほど周りに恵まれないとは、本当に可哀想に。だがおかげで私好みの女になった」

「闇の精霊王様の顔だけ見て好きになった私が言えることじゃないですけど、割と最低ですよね」

「否定はしない。なにせ絶望と憎しみを司る精霊王ゆえ」

「なんでこんな人好きなんだろう。でも顔が好みど直球なんだよなぁ…」

精霊王様との出会いは、幼い日。小さな私は継母に奈落の森へ入れと脅され、死を覚悟して継母への呪詛を吐きながら奥へ奥へと進んだ。しかし魔獣達は私を襲わず、闇の精霊達に歓迎されて、不思議に思いつつ先へ進めば闇の精霊王様に歓迎された。その顔は好みど直球で、子供だった私は気付けば逆プロポーズしていた。

『かっこいいお兄さん!結婚してください!』

『私は闇の精霊王だ。それでも良いのか?童。…ああ、だがここまで深い憎しみは初めて見た。もし人として幸せになれなければ、我が妻にするのも良いな』

『お嫁さんにしてくれるの!?』

『お前が全てから捨てられたなら、その時は拾ってやろう。ただし、人としての幸せを自ら捨てるのは許さない。幸せになる努力はしろ。その上で失敗したなら、いつでも逃げ込んでこい。それまでは森にも私にも近づくな』

これが闇の精霊王様との出会い。これっきり会っていないのに、私は闇の精霊王様に惹かれ続けていた。その美しい顔と声を忘れられなかった。それでもどうにか、人として幸せになる努力はしたけれど、まあ無駄だった。

「我が妻よ。我が真名はジャゾンだ」

「ジャゾン様」

「ジョルジェット。私に永遠の愛を誓うか?」

「誓います」

「ならば、誓いの口付けを。これよりお前は、精霊王の妃となる。人の肉体から解放され、精霊となり私の隣で永遠の愛を享受するのだ」

そして私は、人間としての生を終えた。新たに闇の精霊王様の妻としての生を受け、やっと幸せを手にしたのです。













「ジョルジェットが死んだ…?」

「はい、遺体が発見されました…」

ジョルジェットの父が辛そうな顔をする。だが、誰のせいだと思っている!

「何故ジョルジェットを捨てた!?家族であろう!?」

「ジョルジェットからは正式に婚約は白紙に戻されたと聞いていたので…その…」

「ジョルジェットには確かに婚約を白紙に戻したいとは言ったが、正式に手続きをしたなどとは言っていない!ましてやジョルジェットが私の言葉を聞き間違えたり嘘をついたりするはずはない!責任逃れの言い訳はやめろ!」

俺はジョルジェットの父を王太子の婚約者を間接的に殺した罪で牢に入れた。その連帯責任でジョルジェットの継母と弟妹たちも牢に入れた。

「タルト…」

「はい、王太子殿下!」

私の腕に絡みつく女を思いっきり振り解く。

「きゃっ…!」

「そなたとイチャイチャするところを見せつければジョルジェットが嫉妬してこちらを見てくれるというから!婚約を白紙に戻すといえばジョルジェットが縋り付いてくれるというからそなたと恋仲のフリをしたのに!そなたのせいだ!」

「お、王太子殿下!私の方があの子より王太子殿下にふさわしいです!」

「そんなことどうでもいい!俺はジョルジェット以外なんて要らない…」

「そんな…」

牢番に、タルトも牢に繋ぐように言う。

「三日後、そなたらの首を刎ねる。晒し首にしてくれる!だが安心しろ。そなたらの死を見届けたら俺もすぐ毒を服薬して逝く。ジョルジェットを一番に不幸にしたのは、おそらく愚かな俺なのだから…」

三日後、宣言通り牢に繋いだジョルジェットの父、継母、弟妹、そして親友の首を刎ねた。晒し首にさせると、俺は父である国王に王太子の地位を返還することを告げて優秀な弟が王太子となった。その直後、俺は一人ひっそりと毒を服薬して死んだ。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

BLACK無糖
2024.08.20 BLACK無糖

クズ家族視点で絶望的に塗れながら処刑されるシーンがあったら良かった。

解除

あなたにおすすめの小説

私から婚約者を奪う為に妹が付いた嘘…これにより、私の人生は大きく変わる事になりました。

coco
恋愛
私から婚約者を奪う為、妹が付いた嘘。 これにより、後の私の人生は大きく変わる事になりました─。

私を陥れ王の妃になろうとした罪深き聖女は、深い闇の中に一生閉ざされる事になりました。

coco
恋愛
王の妃候補の私を、悪女に仕立て上げた聖女。 彼女は私に代わり、王の妃になろうとするが…? 結局彼女はその愚かな行いが原因で、深い闇の中に一生閉ざされる事になりました─。

自分を裏切った聖女の姉を再び愛する王にはもう呆れたので、私は国を去る事にします。

coco
恋愛
自分を裏切り他の男に走った姉を、再び迎え入れた王。 代わりに、私を邪魔者扱いし捨てようとして来て…? そうなる前に、私は自らこの国を去ります─。

私が居ながら、運命の相手を城に迎え入れようとした王子は、何もかも失ってしまいました。

coco
恋愛
婚約した私が居ながら、運命の相手を城に迎え入れようとした王子。 彼は私を城に残し、その相手を迎えに行ってしまい…?

【完結】婚約破棄されたら、呪いが解けました

あきゅう
恋愛
人質として他国へ送られた王女ルルベルは、その国の人たちに虐げられ、婚約者の王子からも酷い扱いを受けていた。 この物語は、そんな王女が幸せを掴むまでのお話。

それって冤罪ですよね? 名誉棄損で訴えさせていただきます!

恋愛
伯爵令嬢カトリーヌ・ベルテに呼び出された男爵令嬢アンヌ・コルネ。 手紙に書いてあった場所へ行くと、カトリーヌだけではなく、マリー・ダナ、イザベル・クレマンの3人に待ち受けられていた。 言われたことは……。 ※pixiv、小説家になろう、カクヨムにも同じものを投稿しております。

私を見下す可愛い妹と、それを溺愛する婚約者はもう要らない…私は神に祈りを捧げた。

coco
恋愛
私の容姿を見下す可愛い妹と、そんな彼女を溺愛する私の婚約者。 そんな二人…もう私は要らないのです─。

聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま

藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。 婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。 エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。