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泥酔には気をつけましょう
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貴方の視線の先にはいつもあの子がいた。
私はクローディア・ベルガモット。公爵令嬢。私には可愛い妹がいる。レベッカと言うのだけれど、これがもう目に入れても痛くないほど可愛い。月を溶かしたような綺麗な波打つ髪に、彼女の心を表すような優しいピンクの瞳。とても華奢で、仕草も小動物のようで可愛らしい。心優しい子で、領民達の天使だ。私は反対に、父に似た銀の髪に母に似た深い青の瞳。もちろん優しい両親から貰った容姿だし、これでも美人寄りな方なので満足はしている。まあ、性格はコレだけれど。…それでも、唯一あの子の容姿に嫉妬してしまう瞬間がある。あの人といる時だ。
アルバート・アルストロメリア。私の婚約者。公爵令息。私の片思いの相手。…あの人は、いつもレベッカばかりを見ていた。
あの人との出会いは七歳の時。親の決めた婚約者だった。私はあの人に一目惚れして、あの人は…五歳のあの子を見て頬を染めた。
とはいえ、彼は別にあの子とどうにかなる気は無いらしい。あの子にモーションをかけることもないし、私に対して懸命に誠実であろうとしている。あの子の婚約者とも非常に仲が良い。あの子から見たら良い義兄だろう。
本音を言えば、少しくらいは私の方を向いてほしい。二人きりのお茶会の席で、無意識に遠くにいたあの子を目で追っているあの人の頭に何度魔法でタライを落としたことか。けれど、あの子を見ないでとは言えないのだ。嫌われたくないから。だから代わりに、タライを落とす。なんでタライかなんて知らない。
本音を言えば、少しくらいは一緒にいてほしい。宮廷魔術師の仕事が忙しいのは理解しているつもりだけれど、さすがに月に一度のお茶会の席でしか会えないのは寂しい。おかげさまで社交界でも私は未だに父にエスコートされている。恥ずかしいし虚しくなる。けれど、仕事を優先しないでとは言えないのだ。嫌われたくないから。だから代わりに、服の裾をそっと掴む。すぐに離されて何処かに行ってしまうのに。
本当はわかってる。気付かないふりはあの人のためではなくて、私のわがままだってこと。あの人が一番辛い立場にいるのに、解放してあげられない私は狡い。将来あの子の義兄になるあの人はどれだけ辛いだろうと思うのに、それでもあの人と結婚したいの。だから、私を好きになってとは言えないのだ。嫌われたくないから。だから代わりに、そっとあの人の手を握る。優しいあの人は何も知らずに優しく握り返してくれる。
私は、こんな私が大嫌いだけど、それでも幸せだと思う。だって、他の誰でもない、私があの人の婚約者なのだから。
ー…
「…て、言われた」
「酔った彼女に?」
「ん。初めて一緒に夜会に行けて、エスコートした後。馬車の中で」
「そりゃあ義姉さん相当酔っ払ってんな。彼女にしては珍しい」
「俺と一緒にいられるのが久し振り過ぎて、緊張したんだってさ。ぐびぐびシャンパン飲んでたよ」
「ありゃー。…で?」
「なんだよ」
「お前は結局どうしたいのさ」
「…誤解を解きたい」
「誤解?レベッカちゃんが好きだったのは事実だろ」
「…そうだけど!あんなに一途に俺を想ってくれてるなんて思わなかったんだよ!知っちゃったら好きになっちゃうだろ!」
「単純な奴だなー。義姉さんお前の何処が良いんだろ?」
「うるさいな!とにかく彼女に上手く俺の気持ちを伝えるにはどうしたらいいんだよ!」
「んなもん直球勝負一択だろ。気合い入れて行って来い!」
「…っ!わ、わかった!」
勢いのまま走り出すアル。あれが俺の将来の義兄とか嘘だろ。まあ、アルがバカなおかげで可愛いレベッカちゃんを取られずに済んだんだけどさ。
「義姉さんも相当拗らせてるからなー。上手くいってくれればいいけど」
俺とレベッカちゃんの幸せな新婚生活のためにもね。
ー…
「クローディア!」
「アル!?急にどうしたの!何かあった?」
アルが私に会いに来た。珍しい。どうしたんだろう。
「こ、これ…!」
「え?」
アルが私に差し出したのは薔薇の花束。
「百八本の薔薇の花束。意味は、わかるよな?」
「…結婚、してください?」
「ん。そう。待たせてごめん。俺、俺…クローディアが好きだ。愛してる」
「え…?だって、貴方…」
レベッカが好きなんでしょう?
「信じてもらえないかもしれない。でも、今の俺は本当にクローディアが好きなんだ。昨日の熱い告白、胸に来た!好きになった!本当に!信じて欲しい!」
「え、待って待って、私何を口走ったの?」
泥酔したらしく全く覚えていない。
「んーと…要約するとすっごい俺のことが好きだって言ってくれた」
「…」
穴があったら入りたい…。何口走ってるの私…。
「今は本当にクローディアが好きだ!そしてこれから先もずっと好きだ!こう言っちゃなんだが俺の一途さはクローディアが一番知ってるだろ!」
「待って私何処まで話したの?」
「多分全部!」
いやぁああああああ!恥ずかしい…!
「そ、そう…そうなのね…」
「…もう遅いか?今更過ぎるか?」
不安そうな目で見ないで欲しい。私は貴方に弱いのに。
「…そんなわけないでしょ。私も好きよ、愛してる」
「クローディア!愛してる!」
「ちょっと!いきなり抱きついて来ないで!心臓に負荷がかかり過ぎるわ!」
「ご、ごめん…好きだ、クローディア」
「好き好き連呼しないで。嬉し過ぎて心臓爆発しそうだから」
そんなこんなで私達は晴れて両思いになったのでした。
ー…
「結婚おめでとう、義姉さん」
「ありがとう。貴方も来年にはレベッカと結婚でしょう?レベッカをよろしくね」
「そりゃあもちろん。でも、義姉さんとアルが上手くいってよかったよ」
「あー…その、迷惑かけたわね」
「ん。その分幸せになってくれればそれで」
「…もうお腹いっぱいなくらいよ」
「クローディア!そろそろ結婚式始まるぞ!」
「わかったから走らない!もう、おバカ!」
二人を見てると、やっぱりこういう運命だったんじゃないかってほどお似合いなんだよなぁ。まあ、それだけの話。
私はクローディア・ベルガモット。公爵令嬢。私には可愛い妹がいる。レベッカと言うのだけれど、これがもう目に入れても痛くないほど可愛い。月を溶かしたような綺麗な波打つ髪に、彼女の心を表すような優しいピンクの瞳。とても華奢で、仕草も小動物のようで可愛らしい。心優しい子で、領民達の天使だ。私は反対に、父に似た銀の髪に母に似た深い青の瞳。もちろん優しい両親から貰った容姿だし、これでも美人寄りな方なので満足はしている。まあ、性格はコレだけれど。…それでも、唯一あの子の容姿に嫉妬してしまう瞬間がある。あの人といる時だ。
アルバート・アルストロメリア。私の婚約者。公爵令息。私の片思いの相手。…あの人は、いつもレベッカばかりを見ていた。
あの人との出会いは七歳の時。親の決めた婚約者だった。私はあの人に一目惚れして、あの人は…五歳のあの子を見て頬を染めた。
とはいえ、彼は別にあの子とどうにかなる気は無いらしい。あの子にモーションをかけることもないし、私に対して懸命に誠実であろうとしている。あの子の婚約者とも非常に仲が良い。あの子から見たら良い義兄だろう。
本音を言えば、少しくらいは私の方を向いてほしい。二人きりのお茶会の席で、無意識に遠くにいたあの子を目で追っているあの人の頭に何度魔法でタライを落としたことか。けれど、あの子を見ないでとは言えないのだ。嫌われたくないから。だから代わりに、タライを落とす。なんでタライかなんて知らない。
本音を言えば、少しくらいは一緒にいてほしい。宮廷魔術師の仕事が忙しいのは理解しているつもりだけれど、さすがに月に一度のお茶会の席でしか会えないのは寂しい。おかげさまで社交界でも私は未だに父にエスコートされている。恥ずかしいし虚しくなる。けれど、仕事を優先しないでとは言えないのだ。嫌われたくないから。だから代わりに、服の裾をそっと掴む。すぐに離されて何処かに行ってしまうのに。
本当はわかってる。気付かないふりはあの人のためではなくて、私のわがままだってこと。あの人が一番辛い立場にいるのに、解放してあげられない私は狡い。将来あの子の義兄になるあの人はどれだけ辛いだろうと思うのに、それでもあの人と結婚したいの。だから、私を好きになってとは言えないのだ。嫌われたくないから。だから代わりに、そっとあの人の手を握る。優しいあの人は何も知らずに優しく握り返してくれる。
私は、こんな私が大嫌いだけど、それでも幸せだと思う。だって、他の誰でもない、私があの人の婚約者なのだから。
ー…
「…て、言われた」
「酔った彼女に?」
「ん。初めて一緒に夜会に行けて、エスコートした後。馬車の中で」
「そりゃあ義姉さん相当酔っ払ってんな。彼女にしては珍しい」
「俺と一緒にいられるのが久し振り過ぎて、緊張したんだってさ。ぐびぐびシャンパン飲んでたよ」
「ありゃー。…で?」
「なんだよ」
「お前は結局どうしたいのさ」
「…誤解を解きたい」
「誤解?レベッカちゃんが好きだったのは事実だろ」
「…そうだけど!あんなに一途に俺を想ってくれてるなんて思わなかったんだよ!知っちゃったら好きになっちゃうだろ!」
「単純な奴だなー。義姉さんお前の何処が良いんだろ?」
「うるさいな!とにかく彼女に上手く俺の気持ちを伝えるにはどうしたらいいんだよ!」
「んなもん直球勝負一択だろ。気合い入れて行って来い!」
「…っ!わ、わかった!」
勢いのまま走り出すアル。あれが俺の将来の義兄とか嘘だろ。まあ、アルがバカなおかげで可愛いレベッカちゃんを取られずに済んだんだけどさ。
「義姉さんも相当拗らせてるからなー。上手くいってくれればいいけど」
俺とレベッカちゃんの幸せな新婚生活のためにもね。
ー…
「クローディア!」
「アル!?急にどうしたの!何かあった?」
アルが私に会いに来た。珍しい。どうしたんだろう。
「こ、これ…!」
「え?」
アルが私に差し出したのは薔薇の花束。
「百八本の薔薇の花束。意味は、わかるよな?」
「…結婚、してください?」
「ん。そう。待たせてごめん。俺、俺…クローディアが好きだ。愛してる」
「え…?だって、貴方…」
レベッカが好きなんでしょう?
「信じてもらえないかもしれない。でも、今の俺は本当にクローディアが好きなんだ。昨日の熱い告白、胸に来た!好きになった!本当に!信じて欲しい!」
「え、待って待って、私何を口走ったの?」
泥酔したらしく全く覚えていない。
「んーと…要約するとすっごい俺のことが好きだって言ってくれた」
「…」
穴があったら入りたい…。何口走ってるの私…。
「今は本当にクローディアが好きだ!そしてこれから先もずっと好きだ!こう言っちゃなんだが俺の一途さはクローディアが一番知ってるだろ!」
「待って私何処まで話したの?」
「多分全部!」
いやぁああああああ!恥ずかしい…!
「そ、そう…そうなのね…」
「…もう遅いか?今更過ぎるか?」
不安そうな目で見ないで欲しい。私は貴方に弱いのに。
「…そんなわけないでしょ。私も好きよ、愛してる」
「クローディア!愛してる!」
「ちょっと!いきなり抱きついて来ないで!心臓に負荷がかかり過ぎるわ!」
「ご、ごめん…好きだ、クローディア」
「好き好き連呼しないで。嬉し過ぎて心臓爆発しそうだから」
そんなこんなで私達は晴れて両思いになったのでした。
ー…
「結婚おめでとう、義姉さん」
「ありがとう。貴方も来年にはレベッカと結婚でしょう?レベッカをよろしくね」
「そりゃあもちろん。でも、義姉さんとアルが上手くいってよかったよ」
「あー…その、迷惑かけたわね」
「ん。その分幸せになってくれればそれで」
「…もうお腹いっぱいなくらいよ」
「クローディア!そろそろ結婚式始まるぞ!」
「わかったから走らない!もう、おバカ!」
二人を見てると、やっぱりこういう運命だったんじゃないかってほどお似合いなんだよなぁ。まあ、それだけの話。
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