皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと

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皇帝陛下の愛娘は安心して無邪気に笑う

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結果から言うと。リュシエンヌはラウルの開発した魅了魔法及び精神干渉魔法の記録器具によって証拠を集められ、魔法を封じる首輪をつけられて牢に入れられて裁判にかけられた。内乱罪が適用され、哀れ極刑となったのである。

時は少し遡る。

「皇帝陛下。リュシエンヌ対策の魔道具が完成しました」

ラウルは友人達と共に寝る間も惜しんでリリアージュを守るために魔道具を完成させた。その期間僅か一ヶ月である。その間、リリアージュは友人達と共に宮廷内に篭った。といってもそれ自体はいつも通りなため、また皇帝陛下の過保護が発動したと言われ怪しまれることもなかった。

「ご苦労。リリアージュ、頑張れるか?」

「うん、パパの結界があるから…怖いけど、大丈夫!」

「なら、リリアージュの祖父が妙に勧めてくるリュシエンヌと二人だけのお茶会の準備を進める。お前達はリリアージュの側に控えて守れ」

「はい!」

「一応、リリアージュだけではなく全員完成した魔道具を身につけておけよ。リリアージュがダメなら周りから攻める、という可能性もある。そこまでやってくれたら内乱罪の適用も視野に入れられるからな。排除しやすい」

「わかりました!」

「内乱罪…」

リリアージュは少し気の毒そうな顔をする。内乱罪が適用されれば、極刑は免れない。だが、ナタナエルは言い切った。

「リリアージュを傷つける奴など、この国には要らない。欲をかいてリリアージュに手を出したんだ、自業自得だ。リリアージュ、お前は優し過ぎる。まずは自分を優先しろ」

「パパ…うん、ありがとう」

リリアージュの久しぶりの笑顔に、その場にいた全員がほっとした。

「しかし、リリアージュの祖父まで操るとは…なかなかやってくれるものだ。俺は直接会ったことがないのが良かったかもな。もしリリアージュに何かしてしまったら、俺は一生立ち直れない」

「もう、パパったら」

そして、リュシエンヌと二人きりのお茶会の日。

「リリアージュ様!お久しぶりです!」

無邪気な子供のような笑顔でリュシエンヌはリリアージュに近づく。母親が相当な美人だったのだろう、見た目はまるで天使のようだ。その醜悪な中身を知らなければ。

「リリアージュ様?」

「…お久しぶりです、リュシエンヌ様」

そう言ってぎこちなく笑う。ぴりっと、静電気が走るような痛みがあった。結界が発動した証拠だ。さらに、魔道具の方も発動して記録を残した。発動した時の僅かな振動があったのだ。なお、魔道具はシンプルなイヤリングの形である。

「じゃあ、早速お茶会を始めましょう!」

何故お前が仕切ってるんだ、と声に出しそうになってシモンは堪える。

「わあ…このお茶おいしい!」

「パパ…お父様の、お気に入りなんです」

「〝お父様〟の!?もしかしてお父様、私のことを思って用意してくれたのかなぁ?」

誰もが戦慄した。あまりにも不敬である。勝手に皇帝陛下をお父様などと呼ぶなどあり得ない。しかも私のことを思って?思い上がりも甚だしい。しかしリュシエンヌは続ける。

「リリアージュもそう思いますよね?私、リリアージュと姉妹に生まれてこれて本当に嬉しいです!」

ぴりっと痛みが走る。また、精神干渉しようとしているらしい。しかしリリアージュを呼び捨てにするとは、不敬どころの騒ぎでは無い。もはや、リリアージュにはリュシエンヌが得体の知れない怪物にしか見えなくなった。ただただ恐ろしい。

「…私とリュシエンヌ様は姉妹ではありませんし、お父様は貴女の父親ではありません」

拒絶するようにはっきりと言い放つリリアージュ。心優しいリリアージュがここまで言うのは、なかなか無い。リリアージュなりに、ナタナエルの名誉を守るために言ったのだ。

「そんな…リリアージュ、酷い!みんなもそう思いますよね!?」

リリアージュ以外の全員にぴりっとした痛みが走る。魔道具も振動した。おそらく、リュシエンヌは同情を引き出したいのだろう。実際、リュシエンヌの傷付いたと言わんばかりの表情も、零れ落ちる涙もそれだけを見ればすごく儚げで可哀想だが…知ってしまえば、三文芝居だ。

「いいえ」

「…え?」

「リリアージュ様を呼び捨てにして、皇帝陛下を事もあろうにお父様などと呼ぶその不敬、見逃せません。シモン」

ニコラが言うが早いか、シモンは素早くリュシエンヌを拘束した。

「なに!?いやっ離してっ!お父様ぁっ!」

「不敬だと言ってるだろう」

「シモン、そのまま抑えていてください」

ラウルがリュシエンヌに魔封じの首輪をつける。リュシエンヌはそのまま、ナタナエルの前に連れていかれた。

「お父様!助けて!」

まだ魔封じの首輪の効果が発動しておらず、ナタナエルにもぴりっとした痛みが走る。魔封じの首輪は効果が高い分効くまでの時間差があった。そしてナタナエルはああ、こうしてパピヨン公爵にも〝見つけさせた〟のかと気付いた。こいつの連帯責任を負わせられるのだからパピヨン公爵も哀れなものだと思う。

「俺はお前の父ではない」

「でも、私は緑の髪でっ」

「お前の父親は、俺を虐待していた義母の実子。腹違いの兄だ。その男も俺を虐めていたよ。よって俺はお前になんの感情もない。あるとすればリリアージュを傷つける邪魔者への怒りだけだ」

「…そんな。お父様じゃないの?お父様はもう死んじゃったの?リリアージュも妹じゃないの?」

「そう言っている」

「…」

リュシエンヌのぽろぽろと涙を流す姿は儚げだが、リリアージュを陥れリリアージュに注がれる全ての愛を奪おうとしたあまりにも欲深い悪魔である。

「…でも!それなら皇帝陛下より私に皇位継承権はあるよね!?」

「何を…!」

あまりにも不敬である。ルイスは剣を抜くが、リュシエンヌは構いもしない。

「だって、私はお父様の子だもの!皇帝陛下より偉いのよ!?」

「…基本的に、この国は男子に優先的に皇位継承権が与えられる。お前は俺より立場は下だよ」

「そんなっ…でもじゃあ、リリアージュよりは上だよね?皇帝陛下が死んだら、私が継ぐんだよね!?」

「本来なら、そう主張して来るやつもいたかもな。けど、もう遅い」

「え?」

「この魔道具には、魅了魔法及び精神干渉魔法を記録する能力がある。ほら、見てみろ。このスクロールにお前の悪行が全部書いてある」

「え、魅了魔法?私そんなの知らない…」

「無意識だとしてもやったことがやったことだ。お前はもう逃がさない。内乱罪が適用されるだろうな」

「え?内乱罪?なにそれ?」

「ルイス。牢屋に連れて行け。…殺すなよ」

「…はい。行くぞ」

「いやっ、離して!私は皇女よ!誰からも羨まれるお姫様なのよ!」

「…哀れなことだ」

そして、リュシエンヌは裁判にかけられ、内乱罪が適用された。パピヨン公爵にも責任は及び、公爵家はお取り潰しとなった。

なお、リリアージュのことに関しては暴君にすらなるナタナエルがリュシエンヌにだけ手をこまねいていたのはリュシエンヌの緑の髪のせいである。さすがに、皇族にはナタナエルでも迂闊に手は出さなかった。ラウルの作ってくれた魔道具が無ければもっと時間がかかっただろう。

リュシエンヌは拷問され火炙りに掛けられる前に、こんこんと自分の立場と自分のしたことを言い聞かされ理解させられた。だが、自覚も反省も、あまりにも遅すぎた。

無意識下で全ての人を操ってきたリュシエンヌ。全てが自分の思うままだったのに、ここに来て火炙りに掛けられると知り、彼女の精神は崩壊した。ある意味で、崩壊してよかったのかもしれない。火炙りに掛けられる苦痛を、感じずに済むのだから。

リリアージュの祖父は、リュシエンヌが捕まった後リリアージュの従姉妹を殺すのかとナタナエルに詰め寄ったが、ナタナエルに魔法を解かれて正気に戻った。どうも、リュシエンヌにリリアージュの良き従姉妹となれると洗脳されていたらしい。

リリアージュは祖父から大層深く謝罪されて、受け入れた。元々自分を思ってくれていたからこそ、リュシエンヌからリリアージュの良い従姉妹となれるという洗脳に惑わされたのだ。愛されているのはわかる。責めるつもりはない。

従姉妹が極刑に処されたのは正直言って何とも言えない。好きか嫌いかなら大っ嫌いだが、あの哀れな子は父親の愛を誰よりも求めていたのだろうなとなんとなく思った。そう思うと、どうしようもなく可哀想なのだ。それでも。

ー…リリアージュとナタナエルの間を引き裂こうとしたのは、絶対に許せない。

だから、リリアージュは何も気にしていないフリをして無邪気に笑う。ナタナエルの記憶から、リュシエンヌをさっさと削除したかった。リリアージュはなんだかんだでこの事件で少し逞しくなったらしい。

そんなリリアージュに、ナタナエルは微笑んだ。リリアージュの内心などお見通しである。そんな健気な愛娘が可愛かった。
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