皇帝陛下の愛娘は今日も無邪気に笑う

下菊みこと

文字の大きさ
15 / 62

皇帝陛下の愛娘は段々と恋を意識する

しおりを挟む
「パパー!」

「リリアージュ。走るな、転ぶぞ」

リリアージュはナタナエルに抱きついた。ナタナエルはリリアージュを軽々と抱えて優しく降ろす。

「パパ、あのね、あのね!」

「どうした?」

「今度の夜会で、いよいよ社交界デビューでしょ!」

「…そうだな」

変な虫が寄ってこないか心配なナタナエルを他所に、リリアージュはナタナエルがこの世で一番幸せになる魔法をかけた。

「パパにエスコートとファーストダンスをお願いしたいんだ!」

目が点になるナタナエル。平静を装っているが、嬉しくておかしくなりそうだった。

「…何を当たり前なことを。元よりそのつもりだ」

それでも、嬉しいものは嬉しい。ナタナエルの感情には聡いリリアージュは、すぐにそれを察知した。ご満悦である。

「ふふ、パパ大好きー!」

「まだまだ子供だな」

優しく頭を撫でるナタナエル。まだまだリリアージュには恋は早いと思った。

「ルイス」

「はい」

「やはりリリアージュは俺と踊るそうだ」

「え、あれだけ素敵な貴公子が揃っているのに!?」

「だから言っただろう。リリアージュに恋はまだ早いと」

先日ルイスは、ナタナエルに今度の社交界デビューの時には誰がパートナーになるのでしょうねと言った。

ナタナエルが自分に決まっているというと、ルイスはリリアージュも年頃なのだから恋のお相手に決まっていると返した。

ナタナエルはルイスを魔法でボコボコにした後治癒魔法を掛けたが、普通に大人気ない。

「うーん。リリアージュ様はあんなにお美しくなられたのに。勿体ないですね」

「だから、まだ早い」

まだ早いと、呪文のように繰り返すナタナエル。ああ、本当は分かっているのだなとルイスは軽口をやめた。

「パパ!」

そして社交界デビューの日。リリアージュは、それは美しく着飾っていた。ナタナエルは、感動して声も出ない。あれだけ小さな子供が、こんなにも美しく育った。それだけで、ナタナエルは生きてきた意味を感じた。

「ねえねえ、似合う?可愛い?」

「世界一可愛い」

「パパ大好きー!」

どうせ髪型も化粧も魔法で固定されているので、いつも通り抱きついたリリアージュ。そんなリリアージュが可愛くて仕方がないナタナエル。ルイスは、そんな二人を優しく見守った。

二人が会場に入ると、普段ナタナエルに守られて決して表舞台には出てこなかった美貌の姫を一目見ようと貴族たちの不躾な視線がリリアージュを襲う。

中には、ナタナエルの溺愛を疑う者もいるようだ。舐め回すような視線。しかしリリアージュは、パパのエスコート、パパとファーストダンスとそればかりを考えていたので気にも留めない。そんなリリアージュにナタナエルは気付き、余計な視線に気付かせないようそっとおでこにキスをした。

珍しいパパからのキスにリリアージュは飛び上がって抱きつく。それを軽々と抱えて頬にもキスを落とすナタナエル。ナタナエルの溺愛ぶりを見て、貴族達は失神しそうになった。これでリリアージュを舐めてかかり失礼をしたらどうなっていたことか。まあ、断罪されるに決まっているのだが。

リリアージュは早速ファーストダンスをナタナエルと踊る。踊りは標準より少し出来る程度のリリアージュだが、ナタナエルのリードで楽しく踊れた。やはりパパはすごい。すっかりファザコンとなったリリアージュである。

ファーストダンスを終えて、リリアージュの元へ命知らずな貴族の令息達が集まり始める。あまりのリリアージュの美しさに吸い寄せられるのだ。

だが、ニコラとラウル、シモンが側に来た。そして、自然な流れでリリアージュを誘う。ナタナエルはそれを見て頷いた。ニコラ達になら、リリアージュを任せてもいい。リリアージュは、ニコラの手を取る。

「リリアージュ様。今日は特別お美しいです」

「そうかなぁ。ニコラもとってもかっこいいよ!」

「一応、社交界デビューの日なのでルイスさんに奮発していただきました」

「ルイスのお嫁さんとお子さんとはどう?」

「すごく仲良くしていただいていますよ。なんなら本当に家族のようです」

「よかった!」

無邪気に笑うリリアージュに、貴族の令息達が騒ついた。ニコラは美しいリリアージュを他の男に見られるのが面白くない。せめて、リリアージュの意識が他の男に向かないようにと足掻く。

「リリアージュ様。これからも全身全霊をかけてリリアージュ様にお仕えします。ですからどうか、ご褒美をください」

「ご褒美?」

「どうか、今日一日だけ。皇帝陛下の他には、僕だけに微笑んでください」

「パパにはいいの?ならいいよ!」

「ありがとうございます、リリアージュ様」

踊りが終わる。リリアージュは、約束通りニコラだけに微笑んだ。少しシャンパンで休憩して、次はシモンと踊る。

「リリアージュ様、もしかしてニコラと変な約束した?」

「ふふ、わかる?自分にだけ微笑んで欲しいんだって!」

「ふーん…なあ、リリアージュ様」

「うん?」

「…俺がさ、リリアージュ様が好きだって言ったらどうする?」

どうする?なんて疑問形の割に、その目は真剣だった。リリアージュは、どうにか踊る足は止めずに思考だけ停止した。

「俺も。リリアージュ様には、俺だけに微笑んで欲しい。さすがに、皇帝陛下は別だけど」

「…シモン?」

「ねえ。少しは俺のこと、意識してよ」

リリアージュは、踊りが終わるまでずっとシモンの言葉の意味を考えた。そして、恋というものを初めて意識した。

次は、ラウルと踊る。ラウルは、リリアージュの変化に気付いた。

「シモンとニコラが、抜け駆けしましたか?」

「抜け駆け?」

「こっそりとリリアージュ様にアプローチを仕掛けたでしょう」

「…うん」

「俺も、貴女が好きです」

「ラウル、私」

「まだ返事はしないで。…どうか、真剣に考えて下さい。その上でお返事を。…まだ、アピールも満足に出来ていないのに振られるなんて、ごめんです」

「…わかった。真剣に考えるね」

「ええ。…シモンとニコラのことも、どうにか真剣に」

「うん」

ここまで来たら、もう逃げられない。リリアージュは、真剣にニコラとシモン、ラウルとの関係を…そして、恋を考えることになった。出来ることなら、パパとママのように相思相愛がいい。

パパとママの関係は、他の人から見てどうかは知らないが、自分からすればどう考えても深く愛し合っていた。ママから話を聞き、パパから話を聞き、これが愛なのだと強く思った。あの強い絆を知っていれば、愛に憧れを持つものだ。

踊り終わり、他の御令息と踊る気分ではないリリアージュはもう帰るとわがままを言った。ナタナエルは、深くは聞かずにそれを叶える。なんとなく、リリアージュの様子を見ればそれが嫌な思いをしたからではないとわかったから。

リリアージュももう年頃。無邪気に笑うリリアージュは、ナタナエルの手を離れて行く。ナタナエルは、まだ誰にもリリアージュを渡したくはなかったが、誰よりもリリアージュの幸せを願った。

ちなみに。エミリアとレオナールは自分達だけアプローチを仕掛ける男子三人をダンスに誘い散々足をヒールで踏み潰した。エミリアとレオノールも、それはそれはリリアージュが大好きなのである。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野
恋愛
 難病に罹り、15歳で人生を終えた私。  だが気がつくと、生前読んだ漫画の貴族で悪役に転生していた!?タイトルは忘れてしまったし、ラストまで読むことは出来なかったけど…確かこのキャラは、家を勘当され追放されたんじゃなかったっけ?  でも…手足は自由に動くし、ご飯は美味しく食べられる。すうっと深呼吸することだって出来る!!追放ったって殺される訳でもなし、貴族じゃなくなっても問題ないよね?むしろ私、庶民の生活のほうが大歓迎!!  ただ…私が転生したこのキャラ、セレスタン・ラサーニュ。悪役令息、男だったよね?どこからどう見ても女の身体なんですが。上に無いはずのモノがあり、下にあるはずのアレが無いんですが!?どうなってんのよ!!?  1話目はシリアスな感じですが、最終的にはほのぼの目指します。  ずっと病弱だったが故に、目に映る全てのものが輝いて見えるセレスタン。自分が変われば世界も変わる、私は…自由だ!!!  主人公は最初のうちは卑屈だったりしますが、次第に前向きに成長します。それまで見守っていただければと!  愛され主人公のつもりですが、逆ハーレムはありません。逆ハー風味はある。男装主人公なので、側から見るとBLカップルです。  予告なく痛々しい、残酷な描写あり。  サブタイトルに◼️が付いている話はシリアスになりがち。  小説家になろうさんでも掲載しております。そっちのほうが先行公開中。後書きなんかで、ちょいちょいネタ挟んでます。よろしければご覧ください。  こちらでは僅かに加筆&話が増えてたりします。  本編完結。番外編を順次公開していきます。  最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

騎士団の繕い係

あかね
ファンタジー
クレアは城のお針子だ。そこそこ腕はあると自負しているが、ある日やらかしてしまった。その結果の罰則として針子部屋を出て色々なところの繕い物をすることになった。あちこちをめぐって最終的に行きついたのは騎士団。花形を譲って久しいが消えることもないもの。クレアはそこで繕い物をしている人に出会うのだが。

殿下、今日こそ帰ります!

黒猫子猫
恋愛
彼女はある日、別人になって異世界で生きている事に気づいた。しかも、エミリアなどという名前で、養女ながらも男爵家令嬢などという御身分だ。迷惑極まりない。自分には仕事がある。早く帰らなければならないと焦る中、よりにもよって第一王子に見初められてしまった。彼にはすでに正妃になる女性が定まっていたが、妾をご所望だという。別に自分でなくても良いだろうと思ったが、言動を面白がられて、どんどん気に入られてしまう。「殿下、今日こそ帰ります!」と意気込む転生令嬢と、「そうか。分かったから……可愛がらせろ?」と、彼女への溺愛が止まらない王子の恋のお話。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

処理中です...