いつも姉のモノを強請る妹は

下菊みこと

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これで本当にいいのかなんて、わからない

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「お姉ちゃーん!これちょうだーい!」

「いいよー、持って行きなー」

「わーい!」

私と妹のいつものやり取りを見て、我が友人たちは呆れた顔をする。

「あんた、いいの?」

「なにが?」

「あの平民上がりの妹、生意気すぎない?」

はて。

生意気とは。

「わかる。いつも思ってた」

「平民からいきなり男爵家の娘になって、調子に乗ってるのね」

ふむ。

そう見えるのか。

「でも愛人との隠し子だったとはいえ、元々お父様の子だし私の妹だし!」

「えー、ルナ優しすぎるー」

「ていうか私的なお茶会とはいえ、こんな崩した言葉で喋ってる私たちって平民たちからすればイメージ違いも相当よ?」

「言えてるわー」

「たしかに私たちも人のこと言えないよねー」

そうそう。

みんな表の顔と裏の顔なんて違うものなのだ。

「しかもね!うちの妹アレで人前ではちゃんとお貴族様だしー、愛人から私の正式な継母になったお母様マジ聖母だしー」

「え?マジで?」

「愚痴ってもいいよ?」

「いや、マジ聖母。いっそ裏の顔があってくれた方がいいレベル」

「マジ?」

そうなのだ。

うちの義母と妹はマジで聖女認定されてもいいくらい、いい人なのだ。

「だってね、お義母様ったらお父様から与えられてたそれなりの額の生活費全部投資に宛てて自分たちの生活費は自分で稼いでたの。お義母様、全部妹のために投資で稼いだお金貯蓄してたの」

「え、やば」

「でね…ここだけの話今ではお義母様の資産とんでもなくて、マジバリキャリ。しかもお母様が亡くなって泣き暮らしてた私の継母になったら、反発する私を許して一緒に泣いてくれるの。で、実の娘のために貯めてたお金の一部で私のしたいことさせてくれたの」

「したいこと?」

「創作物の自費出版。マジで聖母」

その言葉にみんながざわつく。

「え、あんたが新進気鋭の若手作家になったのにそんな事情が!?」

「マジうちの親聖母だわ。お母様はもちろん愛してるけどお義母様も大好きだわ。お父様?…論外」

「それ。マジそれ」

「やばー、お義母様半端ないわー」

「で、妹も元は自分のための貯金から出たお金だって知ってもなんも文句言わないの。それどころかお姉ちゃんすごーいっ!て褒めて本も読んでくれたし、マジ可愛くない?」

その私の言葉にみんな頷く。

「そりゃ可愛いわ」

「悪く言ってごめん」

そう、うちの妹は最高に可愛いのだ。
















みんなに義母と妹の自慢を散々しまくって、気分が良くなったところでみんな帰る時間に。

馬車を見送ったあと、妹に話しかけられる。

「お姉ちゃん、お母様に貰ったお小遣いでデート行こうよー」

「いいよー」

「やったー!」

実は昔から、いるはずなのに会えなかった姉が恋しかったと宣う妹は私にベタ惚れだ。

いっそ裏の顔がある方が納得がいくほどに。

「あ、でね、見て!さっきお姉様から貰ったやつレースとかリボンとか付けてデコったらマジ可愛くなったでしょ!」

「さすがだわー」

「これお姉ちゃんに返すねー」

妹は私の持ち物を欲しがるが、その後倍ぐらいデコって返してくる。

私はいつも飾り気のないシンプルなものを選ぶ。

それは、父から母親に似て可愛くない女と呼ばれて蔑まれて育った弊害だった。

父は政略結婚した母を憎んでいたから。

母は健気にも、そんな男に尽くして最期まで愛していたが。

救いは、看取る時くらいは優しい男を演じて旅立つ母を騙してくれたことくらいか。

母にも、それくらいの幸せはあっていいはずだから。

「お姉ちゃん美人だしこーいうのマジ似合う」

「そう?ありがとう」

「お父様の言うことなんか気にしちゃダメだからね!」

妹は、いつも私の味方。

私を隠れて罵倒する父を偶然見つけた時、真っ先に私を庇って義母にもチクり。

結果父はせっかく愛人を家に上げられたのに針のむしろ。

ざまぁ、と思ってしまうのはご愛嬌。

しかも、義母は今や財産だけならば父と争えるくらいあるバリキャリなので。

いざとなったら妹だけでなく一応後継である私も連れ去ってやる!と息巻いてるので父ももはや何も言えない。

こうして家庭の中に私の居場所が出来たわけで。

お母様は愛してる。

長生きして欲しかったのも本当。

でも義母と妹が来てから、私はすごく息がしやすくなった。

そして、妹に身の回り全部デコられ自然とおしゃれになった結果。

「で、お姉ちゃん。婚約者さんとの関係はどうよー」

「我が妹のお陰で最高だわー」

「ひゅーひゅー、お熱いご様子でー!」

なんと、とある子爵家の次男に求婚されてしまった。

父も大喜びで受け入れたので、私たちは晴れて婚約者に。

私は正直まだ気持ちは落ち着いていないけれど、婚約者に悪い印象はない。

彼の一目惚れから始まったというのに。

彼の中のそれは、熱に浮かされた恋というよりは…穏やかに育む愛のようで。

大切に大切にされる、幸せな愛。

いつか私の気持ちは彼に追いつくだろうと確信が持てるほどの。

それもこれも全部、妹のおかげだ。

義母と妹のおかげで、私は幸せすぎるほどに幸せだ。

―…父の、母への裏切りの象徴である二人なのに。

この幸せは、母のことを思えばきっと罪だ。

それでも私は二人を嫌えない。

だから、私は一生この罪とともに生温い幸せを享受するのだろう。

「ねえ」

「なに?お姉ちゃん」

愛してるとは言えないけれど。

「大好きよ」

「私も!」

せめて二人は、この私の罪の意識には気付かないでいて。
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