貧乏令嬢は今日も内職に精を出す

下菊みこと

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そして何故かハイスペ男子に囲まれる

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世の中金貨で回っているのよ!

私はロゼッタ・サンクテュエール。貧乏な男爵令嬢。貴族の義務である貴族学院に通っている。

「ロゼッタ!ここはあんたみたいな貴族の恥晒しが来るところではないと何度言えばわかるの!」

「すみません、一応義務なので…」

「口答えしてんじゃないわよ!生意気ね!」

「はぁ…すみません…」

「なによその返事は!」

「それよりも、見なさい。貴女の席にまたラプンツェルが飾られているわよ」

ラプンツェルとは菊の花に魔力を注いで作る供花である。非常に芳しく、亡くなった者へその香りを捧げる意味合いがある。

「そんな…またこんな…」

「残念だったわね!あんたはそれだけ歓迎されてないってことよ!」

いじめっ子達が勝ち誇ったように笑う中、ロゼッタは涙を流す。…嬉し涙を。

よっしゃー!これでまた香り袋が作れるわー!ラプンツェルを入れて作った香り袋は高く売れるのよー!まんじゅう怖い最高ー!こうして悲しんでいる振りをするだけでどんどん材料が手に入る!今日作る分の布、今すぐにでも購買部で買っとかなくちゃ!あと、新しい糸もね!ああ、それだけ買い足しても採算が取れるのはラプンツェルをタダでくれるこの人達のおかげ!愛してる!ラプンツェルって供花だけあって結構高いのよねー!ああ、はやく作って実家に送って売り捌いて貰わなきゃ!最近では私の作る香り袋のファンまでいるんだもの!ふふ、ちょっとだけ値段を吊り上げて売って貰わなきゃね!あー、楽しみ!

ロゼッタはそのまま泣きながら自分の机に飾られていたラプンツェルを掴み取り、走って寮に帰る…フリをして購買部で必要な物を買い揃えてから、また走って寮に帰る。

ロゼッタはそのまま三日三晩寮の部屋から出ずに香り袋を完成させて実家に送った。そしてまた供花を調達するために教室に向かう。

勉強?たしかに学生の本分は勉強であるが、貧乏令嬢の彼女にとっては無用なのだ。学を身につけたからといって今更婚約者が決まるわけでもないし、今更勉強を頑張っても周りに追いつくのがやっと。良いところへの就職は見込めない。だったら一応義務として貴族学院に所属しつつ、あとはただ居さえすれば卒業証書を貰えるので寮内で内職に励み少しでも実家の借金を返す。これが一番いい。幸いにして香り袋の売れ行きは好調で、なんとか借金は今回の分の香り袋で返し切れるだろう。となれば次は可愛い弟妹達のため少しでも貯金を!そう思って教室に入ると…何故か上級生であり生徒会長である王太子、プレザンス・エルドラドが自分の机に飾られていたラプンツェルを握りつぶしていた。

ああ、ラプンツェルが…!私の初の貯金が…!

ロゼッタがドアの前で絶望感に打ちひしがれていると、プレザンスがロゼッタに近寄ってくる。

「ロゼッタ・サンクテュエール」

「は、はい、ごきげんよう、王太子殿下」

兎にも角にも最敬礼。私のラプンツェルをよくも…と思いながらも顔には出さずに頭を下げる。するとプレザンスはとんでもないことを言い出した。

「顔を上げなさい。…生徒会長でありながら、君のいじめの件に今まで気付かずすまなかった。この間、偶然にも教室から走り出す君を見て調査をしたんだ。まさか、こんな供花を飾られるほどとは…辛かっただろう。これから君は生徒会の庇護下に入る。これからは安心して過ごしなさい」

「え、いえ、大丈夫です…!私、気にしてません!ラプンツェルも、嫌じゃないんです、だから!」

「…君は優しいな。お前たち、こんな純真な者を傷つけて楽しかったか?」

「…」

「何か言ってみろ」

「…申し訳ありませんでした」

「聞こえんな。もう一度!大きな声で!」

「申し訳ありませんでした!」

「すまないな、許してやってくれるか?」

「も、もちろんです。だから王太子殿下、どうかラプンツェルのことは不問にしてください」

「君は許すだけでなくクラスメイト達の減刑を乞うのか…なんと素晴らしい。そうそう、君はいじめられてろくに勉強が出来ていないらしいな。今すぐ生徒会室に来なさい。私達が勉強を教えてあげよう。私達生徒会役員は生徒会に入る際の学力テストの結果で、既に勉強を終えたことを証明していて授業を免除されているからな。すぐにでも君が授業に追いつけるようにしよう」

「あの…でも…」

「そういえば、君は確か貧乏だからといじめられていたのだったな。もし君が嫌じゃなければ、授業に追いつければご褒美に俺のポケットマネーから一つの授業につき円卓金貨を一枚プレゼントしよう」

「円卓金貨…!?」

円卓金貨とは、宮廷魔導師の給料約三ヶ月分の価値がある特別な金貨である。もし本当にもらえれば実家はかなり楽になる。しかも一つの授業につきということは国語、数学、理科、社会、魔法、神聖語、体育、技術、美術で九枚分。これはもう内職に励む必要はないのでは?いやむしろ勉強こそが内職と言えるのでは?

「い、いいんですか…?そんなに良くしていただいて…」

「いいに決まってる。さあ、おいで」

ロゼッタはプレザンスに連れられて生徒会室に向かう。そこには四人の高位貴族が待っていた。そしてロゼッタが挨拶する前にあちらから声を掛けられる。

「はろー、ロゼッタちゃん!僕、会計のベネディクト・オーヴェルニュ!よろしくねー」

ロゼッタの手を掴んでぶんぶんと振り回すのは同級生のベネディクト。公爵令息である。

「俺はレオン。レオン・エティション、よろしく。一応副会長ね」

ソファーに深く腰掛けたまま挨拶するのは学年が一つ上のレオン。侯爵令息である。

「私は書記のシリル・シャロンと申します。よろしくお願いしますね」

にこやかに微笑むのはシリル。レオンと同級生で侯爵令息である。

「僕は庶務のガエル・ジラール。よろしくね」

挨拶こそするもののずっと魔導具をいじっているのはガエル。レオンとシリルと同級生であり、公爵令息である。

「さて、じゃあ早速勉強しよう。ロゼッタ。まずは何から学ぼうか?」

「では魔法から…」

ー…

半年が経った。結果から言えば、ロゼッタは勉強に打ち勝った。九枚の円卓金貨を手に入れ、実家は一気に裕福に。そして生徒会メンバー達から可愛がられるロゼッタを虐めるものなどおらず、勉強も追いついたため普通に授業に出ることができるようになった。思い描いていたよりもずっと良い現状。しかしロゼッタには唯一の誤算があった。それは…。

「ロゼ。そろそろ俺の妃になる覚悟は出来たか?」

「いや、男爵令嬢が王妃は流石に…」

「そうだよ王太子殿下ー!ロゼは僕のお嫁さんになるのー!」

「いや、公爵夫人もちょっと…」

「だよね。だから俺にしなよ」

「いえ、侯爵夫人も難しいのでは…」

「どっかの伯爵家と養子縁組すれば平気ですよ」

「いや、流石にそこまでするのは…」

「僕はあんた意外考えられない」

「いや、そんなこと言われても…」

なんと、今まで頑なに女性を受け入れてこなかった生徒会メンバー五人に婚約を迫られていることだ。

「なんでこうなるかなぁ…」

そう思いながらも五人と過ごす時間は楽しい。けれども内職は相変わらずもっと楽しい。彼女は実家から送られてくるラプンツェルを使い今日も授業の後、内職に精を出す。まだまだ自分に恋は早いと言い聞かせながら。
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