私の婚約者があんまりにもウザいのでキレてみた

下菊みこと

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ウザい婚約者をしつけ直すお話

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私には生まれながらの婚約者がいる。よくある政略的な婚約で親の決めた相手。

しかしこの婚約者がまあウザい。

事あるごとに私にマウントを取ってくるし、クソみたいなアドバイス(笑)をしてくれるし、会話をしていてストレスしかたまらない。

親睦を深めるためのお茶会なのに、あっちは気持ちよくなってるかもしれないけれど私は不快感しか感じない。

今日も今日とて、親睦を深めようというお茶会の席でまたもマウントを取られたのでとうとうキレてしまった。

「あのね、レオン様」

「ん?」

「あなたって人の気持ちとか考えられないんですか?」

「え?」

一度口が滑ると止まらないもので、今までの不満を吐き出してしまう。

「たとえば、レストランで美味しいものを食べてきたと世間話をすれば『太るからやめとけば?』とかアドバイスなんだかバカにしてるのかわからないことをいうし、そもそもアドバイスだとして余計なお世話ですし」

「え、いや…そんなつもりは」

「そんなつもりなく相手を不快にさせているならコミュニケーション能力に難ありですよ」

婚約者が困った顔をするが、それがさらに私への燃料になってしまう。

「この間も学園でのテストで優秀な成績を残せたと喜んでいたら『俺は成績トップだったよ』とか。いや知ってますよ。すごいと思ってますよ。褒めたじゃないですか。でも私も女子の中ではトップでしたし喜んでもいいじゃないですか、少しは褒めてくれたっていいと思うんですけど」

「あ、うん…それは…ごめん…」

気まずそうな顔をする彼に、そこは自覚があったのかと呆れる。

「私が手作りのお菓子を差し上げた時も、褒めるよりお礼を言うよりまず先に『これはこうした方がいいよ』とか言ってくるじゃないですか。アドバイスは的確ですし素晴らしいと思いますよ?でもその前にまずはお礼とかちょっとでも褒めてくれてもいいんじゃないですか?」

「そ、そうだよな、ごめん。作ってくれるのはすごく嬉しいし、いつも作ってくれるものは美味しいよ。本当にごめん」

ごめんと言いつつ目をそらす彼の態度にさらに腹が立って言った。

「今まで釘を刺してくれる人とか居なかったんですか?」

「いや…居た」

「は?」

彼は逸らしていた目をこちらに向けて謝り始めた。

「…ごめん!俺本当に嫌な奴だった!君があんまりにも美人で優秀だと褒め称えられているから、嫉妬してたんだ!」

「え、じゃあ嫉妬であんな態度を取っていたんですか?」

衝撃の事実にドン引きする。

「うん…マウントを取ったり上から目線でアドバイスしたりしないと気が済まなくなってしまって…」

さてどうしてくれようと頭を抱える。

無自覚ならまだしも自覚があってそれとか最悪過ぎる。

「…この婚約は家同士の利益を考えてのもの、そう簡単には覆せませんしなかったことにもできない」

「…」

「でもだからって、婚約者にそんな幼稚な仕打ちをするような不誠実な人との婚約は正直キツイです」

「…っ!」

「なので猶予期間を設けます」

猶予期間、と聞いて彼は目を丸くする。

「猶予期間?」

「はい。三ヶ月以内にその悪癖をなんとかしてください。それまでに正式な謝罪を受けて、改善されればそれで許します。両家の両親にはあなたの仕打ちは報告しておくので、そのおつもりで」

「…わかった」

そして再度謝罪して帰っていった彼。

その後本当に両親やあちらのご両親にもこのことは伝えた。

後日彼から口だけではなく慰謝料つきの正式な謝罪を受けて、けれど婚約はとりあえず様子見で継続ということになった。

ただ私自身やうちの両親の、彼への信頼は駄々下がりとなったが…彼は信頼を取り戻してくれるだろうか。











約束の三ヶ月後になった。

この三ヶ月で彼は劇的に変わった。

私に対して優しくて誠実な態度をとるようになった。

私の話は真剣に頷いて、時には相槌をうって聞いてくれる。

嫌なことやいらないことは言わない。

そしてなにより、私に笑顔を向けてくれることがすごく増えた。

「なんか俺、バカみたいだな」

「え?」

「いや、勝手にルナに対して劣等感を感じて…意固地になって意地悪な言動をして。そんなことしなければこうしてルナと楽しい時間を過ごせたのに」

「レオン様…」

「ルナ、婚約を解消しよう」

彼のまさかの言葉に目を見張る。

「え…」

「今俺が君にしてあげられることなんてそのくらいだ。君に言われてようやく反省し始めて…君への態度を改めてから、ようやく君の可愛らしいところや素敵なところに気付いた」

彼は真剣な表情でこちらを見つめる。

どうやら本気らしい。

「美人で優秀なだけじゃなくて誰よりもすごく優しくて、でもだからこそ人への不満をなかなか口にできない。そんな可愛い君に俺みたいな無神経な男は見合ってないだろう」

「…レオン様」

今にも泣きそうなその人に、私はバカだなぁと笑ってしまう。

「ふふ、本当におバカさんですね。レオン様」

「…うん、俺はバカだ」

「レオン様」

ぐっと拳を握るその手を、私の両手で包み込む。

「今回だけは、許して差し上げます」

「え?」

「次に同じことがあれば絶対に許しませんけれど…今の私を大切にしてくれるレオン様を手放す理由は、私にはありません。だから…婚約は解消しないでください」

私の言葉に彼はとうとう泣いた。

「…ごめん、今まで本当にごめん!」

「もう悪癖は治ったのでいいですよ」

「今更でごめん、君が好きだ」

「私も今の貴方は好きですよ」

「ごめん、ごめん…ありがとう!!!」

喉元過ぎれば、にならないように定期的に釘は刺しとかないといけないとは思うけれど。

大切にしてくれる人を自ら手放す理由はない。

でも許してあげるのは今回だけ。

だから私を精一杯大切にしてくださいね、レオン様。
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