ヤンデレ王太子と、それに振り回される優しい婚約者のお話

下菊みこと

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ヤバいタイプのヤンデレ

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冷たい。凍るような感覚。

「私に近づくな」

この世界のヒロインは私なのに、どうして彼はこちらを向いてくれないの?














私には、少し度を超えて私を溺愛してくる婚約者がいる。

「リュシー!」

「殿下。御機嫌よう」

「御機嫌よう。ふふ、相変わらずリュシーはとても可愛いね」

「殿下ったら」

「世辞ではないよ。本当に可愛い」

王太子殿下は、そう言って私の頬を撫でる。

私はこの人が、少し怖い。一つでも間違えると、彼はとんでもないことも平気でしそうな気がしてしまう。

「はやくリュシーと結婚したいな」

「…そうですわね」

「そうそう。君が心配していた男爵令嬢だけど」

「あ、ルシア様ですか?」

「うん」

ルシア様という方は、男爵家のお嬢様です。我が学園は本来、高位貴族の子女のみが通うことを許されるのですが、ルシア様は珍しい光魔法の素質があるということで通うことが許されているのです。

しかし、男爵家の娘だからかなかなか礼儀作法が身に付かず、婚約者のいる男性にそうとは知らずアプローチを仕掛けてしまうのです。

とても無邪気で可愛らしい方だとは思うのですが…色々と、心配で。そんなことを王太子殿下に話していたのはつい三日前のことでした。

「彼女は、学園を中途退学して教会で保護されることになった」

「え、どうして…」

「最近、光魔法で先代の聖女が張ってくれた結界が綻び始めているらしい。なので、彼女をいち早く聖女として受け入れて結界を修復したいという教会の決定だよ」

「ああ…なるほど。それは仕方がないですわね…けれど、ルシア様はそれでいいのかしら?」

「教会の決定には、素直に従うってさ」

ちょっとだけ、疑問に思う。たくさんの貴公子と恋愛ごっこをしていた彼女が、そう簡単に退学を受け入れるかと。…でも、受け入れたというならそうなのだろう。まさか、教会に限って無理矢理連れて行くことはしないはず。

「だが、実際彼女はリュシーが気にかけてあげるだけあって優秀だね。もう結界は修復され、さらに強化されたって」

「え、そんなに頑張って大丈夫でしょうか?」

さすがに心配になる。魔力は使えば使うほど体力も消耗する。無理をすれば免疫力すら下がる。

「それだけ頑張り屋さんなんだろう。素晴らしい聖女様だね」

「そう…ですか…」

「結界は今後五百年は保つだろうって」

「そんなに!?」

「さらに今日から、国民達に光魔法で加護も与えるらしいよ」

…背筋がゾッとした。それは、聖女であっても出来ることじゃない。明らかに限界を超えている。

そう、そうだ。きっと、強制的に光魔法を引き出しているのだ。そうとしか考えられない。ルシア様の潜在魔力の高さを考えれば、それでも数ヶ月は保つと思う。歴代の光魔法の使い手の中でも、相当の実力者なのは確かだから。

けど。

「王太子殿下」

「なに、リュシー」

「大好きな王太子殿下に、お願いがあるんです」

精一杯可愛子ぶりっ子する。

「ルシア様を助けて差し上げてください」

王太子殿下は少し困った顔をする。

「どうして?あの娘は、君にいじめられたと嘘をついた極悪人だよ」

「え?」

「自作自演で、イジメの証拠をでっち上げていた。そして私に近づいて、その偽の証拠で君を陥れようとした。君は学園で孤立するあの娘を心配すらしてあげていたのに」

それは…少しショック。でも、今は人の命がかかってる。それどころじゃない。

「それでも、助けてあげて欲しいのです。命は尊いものです。そんな簡単に消してはいけません。なにより、王太子殿下の手が汚れたら私が悲しいです。そんな人の返り血で汚れた手で、私の頭を撫でたり、私を抱きしめたりなさるの?」

悲しそうにそう言えば、なんとか説得できたらしい。

「あ、ご、ごめんリュシー…そうだね、私の手を汚すのはダメだね。命を消すのもダメだね。わかったよ。もうあの娘の精神は崩壊してると思うけど、強制的な魔力の吸い上げはやめさせる。ちゃんと結界の補修と強化は出来たしね。それでいい?」

怖い。

精神が崩壊しているなんて、なんてこと。

「…」

「リュシー?」

「は、はい。ありがとうございます」

私はやっぱり、この人が怖い。

「ああ、そんなに心配なら、一応あの娘を聖女として祀りあげるだけじゃなくて、実家の方にも褒賞を与えよう…これで安心した?」

ズレてる。人として、なにかが。でも。

「…はい、安心しました。ありがとうございます、王太子殿下。愛しています」

「よかった…リュシーに嫌われたら、私は生きていけないよ」

この怖い人を抑えられるのは、私しかいないから。私は国のため、人のために今日も二度と後戻りできない道を一人で進んでいくしかないのだ。


















リュシーは本当に可愛くて優しい。あんな娘のために、私に媚を売るその健気さがすごく愛おしい。

わかってる、リュシーが私を怖がっているのは。それが私の愛故の行動が原因なのも。

でも、怖がっていながら私に必死に縋り付くリュシーも可愛いから。

「愛してるよ、リュシー」

「私もです、王太子殿下」

今はまだ、このままで。でもいつかは、グズグズに甘やかして愛し合いたいな。
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