同じ穴の狢は惹かれ合うものらしい

下菊みこと

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趣味は自由だがヤンデレは控えめにお願いしたい

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「主君」

「うん」

「これはなんですか」

「俺お手製の女性騎士同士の恋愛小説」

「がっつり私と妹の近親相姦モノなんですが」

机の上に堂々とこんなものを置いておく主君の頭を引っ叩きたいのを必死で堪える。すると主君も懐からなにかを…それは!?

「我が専属護衛騎士よ」

「はい」

「これはなんだ」

「私お手製の王子様同士の恋愛小説です」

「がっつり俺と兄上の近親相姦モノなんだが」

…私たちは見つめ合う。

そして。

「「やっと語り合える人見つけたー!!!」」

歓喜に震え抱きしめあった。














この世界では…いや正確にはこの国では同性愛も近親相姦もタブーだ。教会の奴らが許してくれない。心の狭い奴らめ。

だから私の倒錯した趣味を語り合える人なんて一人も居なくて、必死で隠していた。

けれどなんの因果か我が主君…第三王子殿下が同じ穴の狢だとわかった。

主君はいつのまにやら私のお手製の本を勝手に読んで私の趣味を理解して…その上で敢えて机の上にあの本を置いておいたらしい。

だが、まあ、言いたいことは色々あるが喜ばしいと思ってしまう私も末期だろう。うん。

「それでな、この小説のここのシーンなんだが…」

「ぎゃー!!!幼馴染に彼を奪われた憎しみとか言ってるけどこの描写はむしろ幼馴染ちゃんを彼に奪われた憎しみなのでは!??」

「だよな!?どう考えてもその解釈だよな!?」

あれから主君と私は二人きりの時に毎日のようにぎゃーぎゃー騒ぎつつ、オススメの小説を見せ合っては独自の見解を示して共感を得るという謎の行動をしている。

…正直言ってものすごく楽しい。

あれから何年も経つのにまだ飽きない。

「主君、この本のここのシーンですが…」

「これはあれだな、さわやかなライバル関係に見せつつ実は裏でドロドロした感情が支配してる奴だ」

「ですよね!?さすが主君です!!!」

どうしよう、主君のことそれまで苦手意識すら持っていたのに…今では一緒にいるだけで楽しい。

主君のお側にいたいと思ってしまう。

そんなの、もうすぐ叶わなくなるのに。

「…どうかしたのか?」

「え」

「浮かない顔をしている」

…一応、お伝えするべきか。

「それが…そろそろ主君の専属護衛騎士としての任を解かれる頃でして」

「…急な話だな」

「その、騎士団長との縁談が…持ち上がっていまして。そのために仕事はやめて家庭に入れと」

「お前はそれを望むのか」

「まさか。あんなセクハラ野郎本来ならばお断りです。でも、家族も乗り気ですし断れる立場でも雰囲気でもないので」

しょんぼりしてしまう私。その頭を主君が撫でる。

「え、主君?」

「まあ、気負うな。なんとかなるさ」

「…は、はい」

危ない。一瞬引き止めてくださるのかと期待してしまった。

そんなこと有り得ないのに。

…というか、私は主君に引き止めて欲しかったのか?

何故。

…自らその理由に気付く前に、私は主君に話を振っていた。

「そう言えば、主君」

「ん?」

「海の向こうの姫君との縁談はどうなっていますか?上手くいきそうですか?」

「……………ああ、上手くいきそうだ」

そう言ってにっこりと笑う主君。

返事までにやけに間があったのが気になるものの、上手くいっているのなら良かった。

我が国としてもあちらのお国とは濃い繋がりを持ちたいところだから。

だからきっと、胸が痛むのは気のせいだろう。

「だが、引き止めてくれてもいいんだぞ?」

「え?」

「お前に行かないでと言われれば、俺はそれを叶えよう」

「…」

なんの冗談だろうか。

それでも…たとえ冗談でも嬉しいと思ってしまう己の浅ましさが憎たらしい。

けれどときめく胸はどうしようもなくて。

いつのまにやら、この方のお側にいるのが当たり前になっていた。

この方との語らいこそ日々の糧となっていた。

「…ああ、そんな泣きそうな顔をしないでくれ」

「主君、私は」

「いい。すまない、意地悪なことを言ってしまった。今日は下がっていい。おやすみ」

「…はい、失礼致します」

追い返されてしまった。

秘めた思いを知られてしまった。

そう、そうだ。

ここが潮時だったのだ。

「…いっそ自害してしまおうか」

なんて、そんなことをすれば騎士団長の次の標的は妹になるだろうから…無理だろうけど。

また、主君に会う前のつまらない日々に戻るのだと思うと胸が痛む。

景色がどんどん色褪せていく感覚を覚える。

「…主君」

貴方の胸に飛び込んで、一緒に逃げて欲しいと言えたらどれだけ幸せだろうか。

そんなことを夢想する私を、どうか許してくださいませんか。
















「…は?騎士団長が、毒…殺?」

「そうらしいぞ」

「え?は?」

「なんだ、お前は何も聞いてないのか?」

「聞いておりません…主君、その話は本当に?」

あの天下無双の騎士団長が、たかだか毒如きで死ぬとは…いや、一応人間なんだから毒を盛られたら死ぬのが当たり前か…?

というか何故騎士たる私より先に主君がそんなことを知って…?

「…ああ、そうか。まだ機密情報だったか」

「…っ!?」

き、機密情報っ…?

まずいまずいまずいまずいまずい。

「顔色が悪いがどうした?」

「え、あ…」

「そうそう、実はその騎士団長を殺したのが敵国のスパイだとわかった。敵国というか、この情報が入ったから敵とみなしたばかりだが」

「え…」

「俺と縁談の持ち上がっていた姫さまの国だよ。だがこの一件で縁談は台無しになった。敵として宣戦布告もした。まあ、我が国の騎士は優秀だから戦争もなんとか勝てるだろう」

話についていけない。

騎士団長が死に、その騎士団長を殺したのが他国のスパイだったというのはわかった。

私の縁談は当然もう無くなったわけで。

主君の縁談も潰れたのはわかった。

…でも、なんか、私にばかり都合がいい、気がする。

ざわざわとしたものが胸を支配する。

「…どうした?浮かない顔をして」

「え…」

「お前の望みが叶ったんだ、もっと喜んでくれてもいいんだぞ」

にっこりと。

優しい笑みを浮かべたこの人が。

怖い、はずなのに。

…蕩けるほどに、愛おしい。

「…主君」

「ああ…その顔を見たかったんだ」

主君、主君。

貴方の罪を告発することも、それどころか咎めることすら出来ない不甲斐ない私をお許しください。

「お前をなんとしてでも嫁に欲しい。割と裏で手を回していたから、あとはお前の返事をもらうだけなんだが…どうだ?」

「ですが」

「お前との結婚を機に臣籍降下しようと思っている。そちらも準備万端だ。お前は頷いてくれるだけでいい」

気付いた時には、頷いていた。
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