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終章
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しおりを挟むコツコツと、プリシラは何度も自分が往復した階段を下っていた。冤罪で牢屋に囚われたときも、処刑の際、牢屋から出て処刑台に上がったときも、気づけばいつもこの階段を利用していたと思う。
そして、この地下牢の奥から2番目のカビ臭い部屋。逆行前も逆行後も幽閉された、その部屋にプリシラはいつも閉じ込められていたのだが……今回ばかりは事情が違う。
プリシラはその部屋に閉じ込められている女性を見て「ロザリー」と小さく呟いた。
プリシラの声に、ロザリーはすぐに反応すると、忌々しげに顔を醜く歪めた。
「……お姉さま」
そして、ロザリーはのろのろと鉄格子に近づくと、鉄の棒をギシッと、音を立てて掴んだ。
プリシラとロザリーはしばらく見つめ合い、それからプリシラはロザリーの頬に手を当てた。
「貴女と私ってそっくりね」
「……何を言っているの?」
「いいえ、こっちの話」
艶のないギシギシに傷んだ髪も、骸骨のように痩けた頬も、埃で汚れてかつての美しさを失ったその老婆のような様も、ロザリーは逆行前地下牢に閉じ込められていたプリシラにそっくりだった。
プリシラはかつての面影を失ったロザリーを見て、逆行前のロザリーはこんな気持ちだったのかと、堪えきれなくなり、「あは……あははははははは!!!」と腹を抱えてゲラゲラと笑った。
(なにあの不細工な酷い顔……本当に面白い!)
ロザリーはこんな気持ちであの日プリシラを笑ったのかと、プリシラは腹を抱えながら思う。
プリシラが高らかに笑うと、ロザリーがプリシラを睨み、何かを呟いた。
「……」
聞こえない。
「え、何?」
プリシラが尋ねる。
「……どうしてあんたばっか」
「は?」
「どうしてあんたばっかり!」
突如、ロザリーはプリシラに掴みかかろうと牢屋の隙間から手を伸ばし、プリシラは急いで鉄格子から距離をとった。
「私は!!!! 私には何もなかったわ!!!!」
それはロザリーの魂の叫びだった。
「ママは私が物心ついた時に病気で死んだ!!! 暖かい寝床もなくて、ご飯だってゴミ箱を漁って探した! 盗みだってしたわ!! だってしょうがないじゃない! 生きるためだもの!! 」
「……」
「体を売ったのは10歳の時。知らない男の人にご飯を買ってあげるって言われて付いていったら、無理矢理やられたわ!! 教養がなくて幼い私にはその行為の意味が分からなかった! でもそのお金でご飯が買えた! たった一個だけのパンをね! それから私は体を売り始めたわ! 抵抗はなかった、ママも同じ事をしてたし」
「12の頃に娼館で働くようになった。1日で一週間分のご飯が買えるようになったわ! その頃から私はお金の価値を知った。そこで、私はもっともっとお金がたくさん手に入るように頑張ったわ。そして気づいたら、店一番の稼ぎ頭になったの」
「けれどね、ある日、身なりの綺麗なイケメンの男性……貴族が私のところにやって来たのよ。彼は私に会うなり言ったわ。私が彼の娘だって。ママによく似てるって。そう言って泣いてたわ! 」
「身請け話はどんどん進んだ。私は望んでいないのに! 大量のお金をふっかけられて、やり手婆が私をパパに売ったの!!」
「でもね、都合が良すぎると思わない? 14年間も顔を見せに来なかったのに急に現れて、私は貴族の娘ですって!! 私が娼婦をやってるのを見て同情したのよ! こんなことする必要ないって! は? 私は生きるためにしていたわ! 同情なんて、して欲しくなかった! 私の人生に口を出して欲しくなかった!」
「あんたと初めて会ったときのこと、私はよぉく覚えているわ。一度も水仕事をしたことがないような、綺麗な手に、私が一生働いても身に着けられないような豪華なドレス。家族の愛を一身に受けてニコニコ笑ってるあんたが一目見たときから大っ嫌いだったわ! だから、私はあんたを落ちるところまで落としてやろうと思った!! ……なのになのになのに!! どーして私だけがこんな目に合わないといけないのよ!!!」
フッーフッーと憎しみと悪意を煮詰めたような表情で、ロザリーはプリシラを睨み付け、対するプリシラは肩を竦め
「知らな」
と、眉を顰めてロザリーに言い放った。
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