友達の妹が、入浴してる。

つきのはい

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◇ ◇ ◇

『そういえば、美咲には訊いてみた? 困ってることとか』

 授業中、洋平からそんなラインが送られてくる。
 夏弥と洋平の座席は、比較的後ろのほうに寄っているため、先生の目を盗むことで授業中でも連絡を取り合うことができた。

『ああ、それなら訊いた。まぁ、でもあんまりペラペラ言わんほうがいいと思うから、洋平だろうと内緒です』

 カモフラージュで黒板を適度に見る。見つつ、夏弥はそんな返信を送る。

『確かにそれもそうなw 兄妹とはいえプライバシー大事よな。とりあえず、悩みを聞けたなら順調だな。……ていうか、クラスメイトの女子とも話してみれば? 夏弥って、自分から女子にあんまり話し掛けないよな』

『え。いや……うちのクラスの女子とか、大体お前が好きなんじゃん? 初めから失敗がわかってるというか』

『あー……ここで「いや、んなわけないっしょw」って言いたいところだけど、あながち間違ってなさそうだから否定もしづらい!ww』

 そのメッセージのあと、続けてスタンプが送られてくる。

 おしゃれキャッ〇のダッチェ〇らしきキャラが「てへぺろっ♡」と謝ってきているスタンプだった。ちなみに、ダッチェ〇は美しい毛並みをもつメスの白猫である。

 断じて「てへっ」という反応を示すタイプの三枚目キャラではない。スタンプのデベロッパーはギャップ萌えを狙っていたのかもしれないが、大いに外している。

 そういえば、洋平の顔は彼の母親に似てどことなくこのダッチェ〇の顔に似ているな……と夏弥は思いつつ、また返信を打った。

『はぁ~(血管の浮き出るマーク×4)』

『なんだよw ていうか、俺が好きってのは所詮オモテの話だって』

『オモテ?』

『そう、表面。女子って、男子よりもずっとその場の空気読むの上手だからさ。本当は別の人が好きでも、なんかグループ内の空気的に否定できなかったり、賛成しておいたほうが波風立たないかもって時は、思ってもないこと言うし。

 とりあえず名前のあがったイケメンに対して「あ、私も~!」とか、適当に意見合わせてるってケースも多いんだよ』

 洋平から送られてきたその長めなラインを、夏弥はゆっくりと読んだ。

(女子ってそういうもんなの……? 好きでもない相手のこと、空気を読むためにわざと好きって言ったりとか……?)

 夏弥は、洋平から得た情報にまたしても目から鱗の落ちる思いだったのだけれど、それ以上に関心することがあった。

 それは、洋平が「やっぱり女子をよく理解しているかもしれない」ということ。その確かな片鱗をそのラインに垣間見たような気がしていたのだ。

(なんていうか、俺の知らなかった洋平って感じするなぁ……。今まで女子と付き合ってるとかその程度の認識はあったけど、俺が洋平と彼女さんのイチャイチャしてるような場面に居合わせたことはなかったからなぁ……)

 彼女を持つ男子は、基本そういった気遣いをしれっと友人に図る傾向にあるのだけれど、夏弥は元々の冴えなさも手伝って、その辺りの洋平の気遣いにはさっぱり気付いていなかったのである。
 それが、今になってじわじわと勘付けてきていたところだった。

(あいつ、ただ顔が良くてモテるってわけじゃなくて、女の子への理解に長けてるからモテるのかもしれないな。経験値すごそうだし……)

 夏弥が洋平の恋愛事情にいろいろな想いを馳せていると、追加で洋平からラインが送られてくる。

『なぁ。試しに今日の昼休み、隣の女子に話し掛けてみろよ。なんならデートに誘うとか』

「はあっ⁉」

 ガタンッと大きな音をたてて、夏弥は席から起立した。

「おわっ! びくったぁ! ど、どうした藤堂?」

「あっ……」

 なお、現在は数学の授業中。
 黒板には、XやYが惜しみなく踊っていて先生が絶賛解説中だった。

「先生の数式、どこかキレるような所あったか……?」

「いえ、山田先生。……なんでもないです」

 数学担任の山田先生(男)が、ベタにも眼鏡のブリッジをクイッと中指で持ち上げている。

 夏弥の大きな「はあっ⁉」の一声と椅子の音に、クラスメイトの何人かがクスクスと小バカにして笑っていた。

(自分の答えが間違っててキレた、みたいな危ない男子になってんじゃん俺……)

 恥じらいつつ、夏弥はスチャッと大人しく着席。
 手元のスマホには、洋平からのタイムリーなラインが。

『バカ何立ってんだよw まぁ、この数学終わったら昼休みだし、試しに女子にしゃべりかけてみなよ。よろしく☆』

(……よろしく☆とか、星マーク飛ばされてもなぁ……)

 夏弥のことなのに、洋平からよろしくお願いされるというのもおかしな話である。

 けれど、洋平のアドバイスに従うこと自体は、夏弥にとってそれほど悪い気がしなかったのだった。

◇ ◇ ◇

 
 授業が終わり、昼休みに入る。
 教室には、だらだらと弛緩した空気が流れはじめていた。

 クラスメイト達は、思い思いに過ごしだす。

 友達の席のもとへ行く人。何か食べ物を買いに購買へ向かう人。
 自分の席で一人きりのままお昼ごはんを食べ始める人。

 その様子はさまざまだった。

 夏弥も、基本的には「一人で食べる人」に分けられる。

 たまに洋平と一緒に食べることはあっても、それが頻繁にあるわけじゃなかった。
 今日に限って言えば、授業中にラインで話していた件もある。

(誰かに話し掛ける俺のために、あえて一緒に食べたりしないんだろうな。ていうか、そもそも洋平は他の男子や女子とも仲良いし、そっちともご飯食べたりしてるからなぁ)

 夏弥の考えている通りで、洋平は、割とあっちこっちでお昼ごはんを食べているのだ。

 そんな、あっちこっちの選択肢がなくなった時。そんな時に限って、まるで古巣へ帰ってくるかのように、夏弥のもとへとやってくる。それが定番だった。まるで夏弥は都合の良い女である。

(まぁ、俺は俺で、イヤホンで音楽聴きながら一人でお昼ごはん、ってスタイルが馴染んでるからよかったんだけど。今回はちょっと違うんだよなぁ……誰かに……話し掛けないとな……はぁ)


 夏弥は、自分の周りをさらーっと一通り見渡した。

 彼の席は、最後列の廊下側から二番目。
 前の席の主はどこかへ離席していて、左と右にはそれぞれ女子が座っていた。

(左に座ってるのが山手やまてさんで、右が月浦つきうらさんか……。うーん……はっきり言って二人のことよく知らないんだよな)

 夏弥は左右の女子それぞれに一回ずつ、さりげなく目を向けてみる。

 左の山手は、他二名の女子生徒と仲良く談笑しながら昼食を取っていて、右の月浦は、一人で細々と弁当箱に箸を向けていた。

(……よく考えてみたら、これって右の月浦さん一択じゃね? 女子のグループに男子一人で話し掛けるのって、妙に緊張するし。数の暴力っていうか。いや別に暴力を振るわれるわけじゃないんだけど、なんかな)

 夏弥にとって、山手グループへの接触は明らかにハードルが高く感じられていた。
 おそらく、夏弥側にあと一人男子がいれば、このハードルは無いも同然だったかもしれない。

 一方、月浦まど子さんはノーガード。ハードルも障壁もほとんどないし、話しかけにくさは左の女子三人組の三分の一くらいに思われる。

(でも何話そうかな……。特にそのあたりは洋平から何も言われてなかったし、適当に俺のほうで訊きたい事見つけて話せばいいか。ま、話したとこで何か変わるとも思えないけど)
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