99 / 113
4-15
しおりを挟む
◇
「いらっしゃいませー! 店内でお召し上がりですかぁ?」
「…………」
ミスッタドーナツは、本日も元気に営業中だった。
ニコニコと眩しい笑顔で対応してくれる店員さん。
その店員さんを前にして、夏弥と美咲はカウンターのメニュー表に目を向けていた。
目線の先にはあらあら素晴らしきドーナツ写真群。
胸焼けしそうな甘い香り。
店内BGMは、どこかで聞いた覚えのある懐かしい洋楽が用いられていて。
はしゃぎ過ぎないシックな配色の内装も、大人っぽくてとても良い。
偶然なのだろうけれど、他のお客さんは誰もいなかった。
そう。美咲に手を引かれて夏弥が訪れたのは、以前にその場所を認知したミスッタドーナツ三條店だった。
貞丸や、芽衣の母親が、このお店で働いているという話も聞いてはいたのだけれど、まず外から遠目で伺った限り貞丸は居なかったし、店員さんの中に「戸島」という苗字の人もいないようだった。
「あ、あの……店内でお召し上がりです?」
「あ。いえ、テイクアウトで」と美咲は即答する。
「かしこまりました! ご注文はお決まりでしたでしょうか?」
「えっと……んー。……どうしよ」
悩ましい悩ましい。
美咲は目をキラキラとさせつつ、それでも取り乱してはいけない気持ちがあるのかテンションを無理やり抑え付けていた。
……が、それでも凶悪なそのドーナツパラダイスには目移りしてしまうようで。
「あの、美咲さん。寄り道ってココ?」
夏弥はそんな目移りしている美咲にボソッと声をかける。
「そうだけど?」
「……なぜミスド?」
「え。だって、夏弥さん暗いじゃん。何があったのか知らないけどさ。……とりあえず、ドーナツ食べて気分アゲとけばよくない? みたいな」
「……」
(ほんとにもうこのドーナツジャンキーったら……。いや、もちろんありがとうなんだけど、割と己の欲求でお店選んでない? 己の)
ありがとう。
夏弥は心のなかで、そのお気遣いにぺこりと頭を下げる。
さっきまで深刻だったのになんだか急にアホらしくなってくるのは、きっと夏弥が普通の男子だからだ。
「あのさ、一言だけいいか? 誰でも彼でもドーナツで気分があがるわけじゃな「チョコチップスペシャルとカラメルフレンチ。あと、ホイップ&生キャラメルの方もください」
「かしこまりました~!」
「どっちも二個ずつで。あ、それとオリジナルドーナツとトリプルナッツ大作戦も。二個ずつでお願いします」
「かしこまりました~!」
「うっ……」
美咲は夏弥の言葉を遮り、ガンガン注文していた。
マシンガンみたいなオーダートーク。
全部二個ずつ注文したのは、おそらく夏弥の分もカウントしているからだろう。
「ねぇ、夏弥さん。あとハニハニチュロスも一つ買っていい?」
「え?」
ハニハニチュロス。
美咲の指差す先に、そんな名前のメニューが記載されている。
甘いハニーシロップとお砂糖でコーティングされた蹄鉄状のチュロスである。
なぜ「ハニハニ」という謎のオノマトペっぽい商品名なのかはわからない。
しかしながらキャッチーなネーミングで、お味も最高ときて。ハチミツが大好きな黄色いクマさんにうってつけのひと品である。
「それ結構大きいやつだろ? 食べれんの?」
「だからさ、分けて食べない? あ、すみません。ハニハニチュロス一つください」
「かしこまりました~!」
店員さんのお返事は、いつでも元気いっぱいだった。その口角に若干の引きつりや歪みが含まれていた気もするけれど、おそらく夏弥の気のせいだろう。
「ていうか、俺が答える前に頼むんだな……ハニハニチュロス」
◇
その後も美咲が何点か追加注文をして、結局二人は計二十個のドーナツを携えることになった。(※二十個は多い!)
テイクアウトでたくさん買うと、手提げ部分の設けられた細長い箱が用意される。
いわゆる、ケーキ箱の細長いタイプである。
外側にはミスドのマークがプリントしてあり、「ミスッタ☆ドーナツ」という文字が陽気な筆記体で描かれていた。おしゃれ。
それから二人はスーパーに立ち寄って、夕飯の買い物を済ませる。
この買い物を予見してなのか、買ったドーナツの箱は美咲が率先して持っていた。
ただ、家にある食材を把握していた夏弥は、この買い物がほんの少しだけ買い足せばいいものだとわかっていた。
だから、このスーパーでの滞在時間は本当に短くて。
「本当にそれだけでいいの?」
買い物を終え、スーパーの自動ドアから外へ出るなり、美咲は夏弥にそう尋ねた。
「うん。家にもう食材あるからね。切らしてたポン酢と、お豆腐だけ買っておけばいい」
「すごいね、夏弥さん。もう完璧にママじゃん」
「ママって……。そうでもないだろ。……あはは」
夏弥の笑みには感情がこもっていなかった。
どこかやりきれなく笑う夏弥の様子は、もちろん美咲にも引っ掛かりを感じさせていて。
「…………」
隣を歩き続ける夏弥を、美咲は横目でじっと見る。
彼がノッてこないことにとても違和感があった。
いつもなら、「あら美咲ぃ? そんな冗談言う子は晩ごはん抜きかしら~?」くらいのウザい冗談はかましてきそうなのに。
よしそれならと、美咲は手にしていたミスドの箱をその場で開け、ハニハニチュロスをつかみ取る。
「夏弥さん、ちょっとこっち向いて」
「え?」
美咲に言われ、夏弥は横にいた彼女の方を向く。
次の瞬間――。
「はいっ」
「ングッ――⁉」
美咲は夏弥の口に、思い切りハニハニチュロスを押し付けたのだった。
そのチュロスは、美咲の狙い通り夏弥の半開きだった口を塞ぐ。
「よしっ」
美咲は夏弥の口が塞がったことに満足したようだった。
一体何の「よしっ」かは不明である。が、美咲はそれから目を閉じて、うんうんと頷くのだった。
彼女の中で何かのミッションが完了したらしい。
「――っかは。何すんだよ? 急にハニハニしてきて……」
「…………」
「…………どうしたんだ?」
夏弥は口に入れられていたチュロスを手に持ち、一度口から離す。
ハニハニチュロスのザラリとした舌触りや食感が、少しだけ口の中に残っている。
唇の端っこについたお砂糖を親指の腹でぬぐっていると、美咲が不意にこんなことを言いはじめる。
「ねぇ。元気出してよ……」
「……!」
肩を並べて歩く二人のあいだに、ちょっぴり静かな空気が流れ出す。
さっきまでの空気とはまた違う温度の空気だった。
薄赤く染まった帰り道は、さらにそこから暗くなっていく途中で。
二人の影は、もうそれが影かわからないくらい曖昧なものになっていた。
「チュロス……おいしい?」
「あ、ああ。そうだね」
それから、美咲はぴたっと立ち止まる。
数歩前に出てしまった夏弥は、振り返って彼女の顔を見た。
「……?」
美咲は伏し目がちだった目線をフッとあげて、訴えかけるようにこう言った。
「夏弥さんに元気がないと…………なんか、この辺が痛いんだけど……」
「……っ!」
この辺、と言いながら、美咲はそっと胸の辺りに手を当てていた。
言葉の強さのせいか、その冷静そうな瞳の奥に、とても強い感情がこもっていることがわかる。
――好きな料理のこと、楽しそうに話してた朝の夏弥さんが好き。
――いつもの、ふざけたりしてる夏弥さんのことが好き。
――でも、今みたいに元気のない夏弥さんを見てると、あたしは切ない。
そんなセリフを言いそうな表情だった。
唇を食い締めたままの美咲に、夏弥はゆっくりと応える。
「……そう言われてもさ」
「いい。言えないことは無理に言わなくてもいいから。……言えることだけ、言ってよ……」
そこからまた間をあけて、美咲は続けて言う。
「……こういうのが、彼女の役目じゃないの?」
「……っ」
夏弥は美咲からはっきりと「彼女」という言葉を聞かされて、顔が熱くなるのを感じる。
確かに美咲の言う通りかもしれない、と夏弥は思った。
よくドラマや映画なんかで、優しい嘘や優しい隠し事、なんてものがあるけれど、本当にそれは、「優しさ」なのだろうか。
美咲の言葉のおかげで、夏弥は気持ちに踏ん切りがついた気がした。
「……。そうだよな。わかった。……じゃあ、家に帰ったら言うよ」
「……うん」
ちゃんと伝えるべき相手に伝える必要があると夏弥は思った。
自分はそんなに、強くなんてない。
美咲と付き合っているから。だから彼女に罪悪感を感じてほしくないだとか。これは自分と洋平の問題だからとか。
そういう理由をこじつけて、伝えないことが正しいことのように思いこんで。
こんな、確かめもしない「誰かのため」なんて考え方は、所詮独りよがりな考え方だ。
美咲も秋乃も、まど子にしても。
周りにいる人間は、必ずしも無難な答えを望んでいるわけじゃない。
夏弥は自分の考えを改め、手にしていたチュロスを口へと運んだ。
くどくない絶妙な甘さが、舌の上でじわりと広がる。
「……甘っ。ハニハニチュロスうまいな」
「……ふふ。ちゃんと半分残しておいてよ? あたしも食べるんだし」
「……。そいつはどうかな」
「そういえば英和辞典、今カバンに入ってるけど出していい?」
「あ、ごめんなさい」
調子を取り戻して、二人は家路をまた歩いていった。
東の空。あの暗くなり出した空に浮かぶ星を、夏弥はチラッと見る。
すべて伝えた結果、美咲がどんな反応をするのかなんて、考えても仕方のないことだ。
そう思って、なんとなく足に力を入れる。
洋平に「言わないでください」と口止めされていたことを踏まえてもなお、夏弥は美咲に言うべきだと判断したのだった。
「いらっしゃいませー! 店内でお召し上がりですかぁ?」
「…………」
ミスッタドーナツは、本日も元気に営業中だった。
ニコニコと眩しい笑顔で対応してくれる店員さん。
その店員さんを前にして、夏弥と美咲はカウンターのメニュー表に目を向けていた。
目線の先にはあらあら素晴らしきドーナツ写真群。
胸焼けしそうな甘い香り。
店内BGMは、どこかで聞いた覚えのある懐かしい洋楽が用いられていて。
はしゃぎ過ぎないシックな配色の内装も、大人っぽくてとても良い。
偶然なのだろうけれど、他のお客さんは誰もいなかった。
そう。美咲に手を引かれて夏弥が訪れたのは、以前にその場所を認知したミスッタドーナツ三條店だった。
貞丸や、芽衣の母親が、このお店で働いているという話も聞いてはいたのだけれど、まず外から遠目で伺った限り貞丸は居なかったし、店員さんの中に「戸島」という苗字の人もいないようだった。
「あ、あの……店内でお召し上がりです?」
「あ。いえ、テイクアウトで」と美咲は即答する。
「かしこまりました! ご注文はお決まりでしたでしょうか?」
「えっと……んー。……どうしよ」
悩ましい悩ましい。
美咲は目をキラキラとさせつつ、それでも取り乱してはいけない気持ちがあるのかテンションを無理やり抑え付けていた。
……が、それでも凶悪なそのドーナツパラダイスには目移りしてしまうようで。
「あの、美咲さん。寄り道ってココ?」
夏弥はそんな目移りしている美咲にボソッと声をかける。
「そうだけど?」
「……なぜミスド?」
「え。だって、夏弥さん暗いじゃん。何があったのか知らないけどさ。……とりあえず、ドーナツ食べて気分アゲとけばよくない? みたいな」
「……」
(ほんとにもうこのドーナツジャンキーったら……。いや、もちろんありがとうなんだけど、割と己の欲求でお店選んでない? 己の)
ありがとう。
夏弥は心のなかで、そのお気遣いにぺこりと頭を下げる。
さっきまで深刻だったのになんだか急にアホらしくなってくるのは、きっと夏弥が普通の男子だからだ。
「あのさ、一言だけいいか? 誰でも彼でもドーナツで気分があがるわけじゃな「チョコチップスペシャルとカラメルフレンチ。あと、ホイップ&生キャラメルの方もください」
「かしこまりました~!」
「どっちも二個ずつで。あ、それとオリジナルドーナツとトリプルナッツ大作戦も。二個ずつでお願いします」
「かしこまりました~!」
「うっ……」
美咲は夏弥の言葉を遮り、ガンガン注文していた。
マシンガンみたいなオーダートーク。
全部二個ずつ注文したのは、おそらく夏弥の分もカウントしているからだろう。
「ねぇ、夏弥さん。あとハニハニチュロスも一つ買っていい?」
「え?」
ハニハニチュロス。
美咲の指差す先に、そんな名前のメニューが記載されている。
甘いハニーシロップとお砂糖でコーティングされた蹄鉄状のチュロスである。
なぜ「ハニハニ」という謎のオノマトペっぽい商品名なのかはわからない。
しかしながらキャッチーなネーミングで、お味も最高ときて。ハチミツが大好きな黄色いクマさんにうってつけのひと品である。
「それ結構大きいやつだろ? 食べれんの?」
「だからさ、分けて食べない? あ、すみません。ハニハニチュロス一つください」
「かしこまりました~!」
店員さんのお返事は、いつでも元気いっぱいだった。その口角に若干の引きつりや歪みが含まれていた気もするけれど、おそらく夏弥の気のせいだろう。
「ていうか、俺が答える前に頼むんだな……ハニハニチュロス」
◇
その後も美咲が何点か追加注文をして、結局二人は計二十個のドーナツを携えることになった。(※二十個は多い!)
テイクアウトでたくさん買うと、手提げ部分の設けられた細長い箱が用意される。
いわゆる、ケーキ箱の細長いタイプである。
外側にはミスドのマークがプリントしてあり、「ミスッタ☆ドーナツ」という文字が陽気な筆記体で描かれていた。おしゃれ。
それから二人はスーパーに立ち寄って、夕飯の買い物を済ませる。
この買い物を予見してなのか、買ったドーナツの箱は美咲が率先して持っていた。
ただ、家にある食材を把握していた夏弥は、この買い物がほんの少しだけ買い足せばいいものだとわかっていた。
だから、このスーパーでの滞在時間は本当に短くて。
「本当にそれだけでいいの?」
買い物を終え、スーパーの自動ドアから外へ出るなり、美咲は夏弥にそう尋ねた。
「うん。家にもう食材あるからね。切らしてたポン酢と、お豆腐だけ買っておけばいい」
「すごいね、夏弥さん。もう完璧にママじゃん」
「ママって……。そうでもないだろ。……あはは」
夏弥の笑みには感情がこもっていなかった。
どこかやりきれなく笑う夏弥の様子は、もちろん美咲にも引っ掛かりを感じさせていて。
「…………」
隣を歩き続ける夏弥を、美咲は横目でじっと見る。
彼がノッてこないことにとても違和感があった。
いつもなら、「あら美咲ぃ? そんな冗談言う子は晩ごはん抜きかしら~?」くらいのウザい冗談はかましてきそうなのに。
よしそれならと、美咲は手にしていたミスドの箱をその場で開け、ハニハニチュロスをつかみ取る。
「夏弥さん、ちょっとこっち向いて」
「え?」
美咲に言われ、夏弥は横にいた彼女の方を向く。
次の瞬間――。
「はいっ」
「ングッ――⁉」
美咲は夏弥の口に、思い切りハニハニチュロスを押し付けたのだった。
そのチュロスは、美咲の狙い通り夏弥の半開きだった口を塞ぐ。
「よしっ」
美咲は夏弥の口が塞がったことに満足したようだった。
一体何の「よしっ」かは不明である。が、美咲はそれから目を閉じて、うんうんと頷くのだった。
彼女の中で何かのミッションが完了したらしい。
「――っかは。何すんだよ? 急にハニハニしてきて……」
「…………」
「…………どうしたんだ?」
夏弥は口に入れられていたチュロスを手に持ち、一度口から離す。
ハニハニチュロスのザラリとした舌触りや食感が、少しだけ口の中に残っている。
唇の端っこについたお砂糖を親指の腹でぬぐっていると、美咲が不意にこんなことを言いはじめる。
「ねぇ。元気出してよ……」
「……!」
肩を並べて歩く二人のあいだに、ちょっぴり静かな空気が流れ出す。
さっきまでの空気とはまた違う温度の空気だった。
薄赤く染まった帰り道は、さらにそこから暗くなっていく途中で。
二人の影は、もうそれが影かわからないくらい曖昧なものになっていた。
「チュロス……おいしい?」
「あ、ああ。そうだね」
それから、美咲はぴたっと立ち止まる。
数歩前に出てしまった夏弥は、振り返って彼女の顔を見た。
「……?」
美咲は伏し目がちだった目線をフッとあげて、訴えかけるようにこう言った。
「夏弥さんに元気がないと…………なんか、この辺が痛いんだけど……」
「……っ!」
この辺、と言いながら、美咲はそっと胸の辺りに手を当てていた。
言葉の強さのせいか、その冷静そうな瞳の奥に、とても強い感情がこもっていることがわかる。
――好きな料理のこと、楽しそうに話してた朝の夏弥さんが好き。
――いつもの、ふざけたりしてる夏弥さんのことが好き。
――でも、今みたいに元気のない夏弥さんを見てると、あたしは切ない。
そんなセリフを言いそうな表情だった。
唇を食い締めたままの美咲に、夏弥はゆっくりと応える。
「……そう言われてもさ」
「いい。言えないことは無理に言わなくてもいいから。……言えることだけ、言ってよ……」
そこからまた間をあけて、美咲は続けて言う。
「……こういうのが、彼女の役目じゃないの?」
「……っ」
夏弥は美咲からはっきりと「彼女」という言葉を聞かされて、顔が熱くなるのを感じる。
確かに美咲の言う通りかもしれない、と夏弥は思った。
よくドラマや映画なんかで、優しい嘘や優しい隠し事、なんてものがあるけれど、本当にそれは、「優しさ」なのだろうか。
美咲の言葉のおかげで、夏弥は気持ちに踏ん切りがついた気がした。
「……。そうだよな。わかった。……じゃあ、家に帰ったら言うよ」
「……うん」
ちゃんと伝えるべき相手に伝える必要があると夏弥は思った。
自分はそんなに、強くなんてない。
美咲と付き合っているから。だから彼女に罪悪感を感じてほしくないだとか。これは自分と洋平の問題だからとか。
そういう理由をこじつけて、伝えないことが正しいことのように思いこんで。
こんな、確かめもしない「誰かのため」なんて考え方は、所詮独りよがりな考え方だ。
美咲も秋乃も、まど子にしても。
周りにいる人間は、必ずしも無難な答えを望んでいるわけじゃない。
夏弥は自分の考えを改め、手にしていたチュロスを口へと運んだ。
くどくない絶妙な甘さが、舌の上でじわりと広がる。
「……甘っ。ハニハニチュロスうまいな」
「……ふふ。ちゃんと半分残しておいてよ? あたしも食べるんだし」
「……。そいつはどうかな」
「そういえば英和辞典、今カバンに入ってるけど出していい?」
「あ、ごめんなさい」
調子を取り戻して、二人は家路をまた歩いていった。
東の空。あの暗くなり出した空に浮かぶ星を、夏弥はチラッと見る。
すべて伝えた結果、美咲がどんな反応をするのかなんて、考えても仕方のないことだ。
そう思って、なんとなく足に力を入れる。
洋平に「言わないでください」と口止めされていたことを踏まえてもなお、夏弥は美咲に言うべきだと判断したのだった。
14
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる