「華がない」と婚約破棄された私が、王家主催の舞踏会で人気です。

百谷シカ

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16 華やかな生活

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 まだ終わらない。
 国中を祝福の嵐が駆け抜け続ける。

 あの舞踏会で結ばれた婚約者たちが次々に結婚式をあげ、歴史に残るような華やかで幸せに満ち溢れる年になった。
 私も例に洩れず、ある晴れた秋の日に、彼と結婚した。私たちの結婚式は大聖堂で執り行われ、その後にはお城の大広間で宴が開かれた。私は自然と〝フローレンス妃殿下の侍女〟として認知されていたので、恐れ多くも当然の成り行きだった。

 とても豪華な結婚式が続き、煌びやかな空気が少しずつ落ち着いて、やがて日常が訪れた。新しい日常だ。それは私が想像もしていなかった、華やかな生活だった。

 侍女といっても私は身の周りのお世話という仕事ではなく、フローレンスの話し相手。傍に寄り添うのを務めと呼べるかと考える必要はなかった。夫になった彼──ジョシュアは、ピーター殿下の側近であり親友。私も同じ立場なのだ。

 お城の中を行ったり来たり。
 忙しいけれど、愛に包まれた華やかで優しい日々。


「レイラ妃がお見えです」


 侍女頭であるエックホーフ伯爵夫人の取次で、彼女を招き入れる。
 穏やかな午後のひとときに、こうして尋ねてくるのも、よくある事。


「ようこそ、レイラ」

「ごきげんよう、フローレンス。可愛いローズマリーに会いに来たわ。毎日毎日、殿下がゼント卿からされた惚気を横流しするものだから私も顔を見ないと眠れなくて。ハァイ、ローズマリー」


 頬を優しく抓られる事は減ったけれど、日に日に近くなる距離。
 うっかりこちらから訪ねてしまうと、ピーター殿下とレイラ妃と殿下の側近のゼント伯爵という、煌びやか且つ強烈な刺激に気圧されてしまうので、ひとりずつのほうが心穏やかに過ごせる。男性に交じるレイラ妃の迫力といったら、もう……。

 それにジョシュアも、夫の顔と側近の顔では、同じようでいてやはりどこか違うのだ。結婚してからというもの、彼は日に日に甘くなる。


「あの方の言う事は話半分に受け取ってください」

「無駄よ。どうせ私の中で3倍くらいは膨れあがるもの。だけどこうして本物に会うのがいちばんね」


 近くの椅子に腰かけて笑う。
 そのタイミングで、フローレンスが私の手を握った。


「大丈夫です妃殿下。奪ったり致しません」


 レイラ妃が大真面目に言った。

 こうして和やかに過ごした後で、優しい夫のもとへと帰る。
 私はかつての自分では思い描く事もできなかった華やかな生活を、愛していた。それは、愛する人たちの中で愛されて生きているのだから、当然だった。

 
「今日はどう過ごしていた? ローズマリー」


 夫のキスと抱擁を受けながら、甘い声で尋ねられる。
 私はどう答えるべきか迷った。だって、彼はピーター殿下に私の話をしてしまう。それが恥ずかしくて、けれどどこか嬉しくて、尚更困る。


「ローズマリー?」


 擽るような耳へのキスに首をすくめて、誤魔化すように彼にしがみついた。
 そうして抱きしめあいながら、また明日へ、愛を繋げていくのだ。

 これから先、ずっと。
 彼の傍で。

 愛に包まれて。



                                  (終)
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