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18 天使の捧げもの(※モーリス視点)
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厳しい冬が過ぎ、寒さの長引く春がゆっくりと草木の芽吹きを招き始めた。
今日、ここ王都で、厳粛に式典が執り行われている。
この日、勲章を授与されるのはシビルだけではない。
軍人は多いが、文化人や交易で国益を齎した豪商なども名を馳せている。
私の管轄下である彼女は13人分離れた位置にいて、とにかく歯痒かった。だが距離を置いて眺めるのも、また違ったよさがある。シビルは美しく、高潔で、しかしやはり緊張していて、隣に袖を掴む相手もなく、いつになく気丈に振舞っているのだ。
ああ……可愛い。
普通の乙女のように、息を止め、目を瞠って緊張している……!
「……」
国王陛下の御前で、シビルは深く膝を折って頭を垂れた。
元帥である父が陛下の補佐として勲章を持ち侍っている。
父と代わりたい。
「素晴らしい働きであった。心の内を、聞かせてほしい」
「──」
緊張を通り越したか、シビルは肩を揺らして大きく息を吸うと、呆けたように瞬いた。纏う空気が変わり、まさに天使が舞い降りた瞬間だった。
そして祈りにも似た無垢な眼差しで陛下を見あげ、授かったばかりの勲章に指先を添える。
赤い唇がふるえている。
食い入るように見つめているのは、私だけではなかった。
「私は、この世で名誉にあずかりました」
澄んだ声が、まっすぐ耳に届く。
「ですから、天国ではこの勲章を母に捧げたいと思います」
煌めく瞳から大粒の涙が零れ、顎先で留まり、落ちた。
彼女の涙はどんな宝石よりも輝き、数多の星よりも煌めき、美しく、尊い。胸が熱くなり、今すぐにでも駆け寄りたい衝動を制する。
そもそも私の近辺にはシビルを慕う者が多い。
彼女の左隣の奴などは、間近で聞いて感極まり咽び泣いている。
……代わりたい。
陛下が慈愛の笑みを浮かべ、頷いた。
その陛下に、父がなにやら耳打ちをする。
次の瞬間、陛下と目が合った。
感情が顔に出ていない自信はあるが、心の内は見抜かれたに違いない。
陛下が再びシビルに手を差し伸べ、そっと腕に触れた。
「婚約おめでとう」
「……!」
シビルの頬が朱に染まる。
父まで調子に乗って、目尻を下げてシビルの顔を凝視している。
ああ……そうでしょうとも、父上。
可愛いですよ、私のシビルは。
天使ですから。
陛下が次の授与者へ移ると、シビルがこちらに視線を向けた。
小さく頷いて励ます。彼女はどこか心許なげだったが、すぐに胸を張って顎をあげた。それは天国の母親を想う、美しい横顔だった。
彼女と交わした、再会の約束。
それを果たすのは、遥か先の未来であれと願う。この世でシビルと成し遂げたい事が山ほどあり、墓になどそうそう入っていられない。
けれど、天国という場所で目覚めた暁には、ひとつ夢が叶う。
私の天使がその背を追い続けた、或る婦人に会えるだろう。
それまで、生きていこう。
燃え尽きる事のない、愛という炎を抱いて。
(終)
今日、ここ王都で、厳粛に式典が執り行われている。
この日、勲章を授与されるのはシビルだけではない。
軍人は多いが、文化人や交易で国益を齎した豪商なども名を馳せている。
私の管轄下である彼女は13人分離れた位置にいて、とにかく歯痒かった。だが距離を置いて眺めるのも、また違ったよさがある。シビルは美しく、高潔で、しかしやはり緊張していて、隣に袖を掴む相手もなく、いつになく気丈に振舞っているのだ。
ああ……可愛い。
普通の乙女のように、息を止め、目を瞠って緊張している……!
「……」
国王陛下の御前で、シビルは深く膝を折って頭を垂れた。
元帥である父が陛下の補佐として勲章を持ち侍っている。
父と代わりたい。
「素晴らしい働きであった。心の内を、聞かせてほしい」
「──」
緊張を通り越したか、シビルは肩を揺らして大きく息を吸うと、呆けたように瞬いた。纏う空気が変わり、まさに天使が舞い降りた瞬間だった。
そして祈りにも似た無垢な眼差しで陛下を見あげ、授かったばかりの勲章に指先を添える。
赤い唇がふるえている。
食い入るように見つめているのは、私だけではなかった。
「私は、この世で名誉にあずかりました」
澄んだ声が、まっすぐ耳に届く。
「ですから、天国ではこの勲章を母に捧げたいと思います」
煌めく瞳から大粒の涙が零れ、顎先で留まり、落ちた。
彼女の涙はどんな宝石よりも輝き、数多の星よりも煌めき、美しく、尊い。胸が熱くなり、今すぐにでも駆け寄りたい衝動を制する。
そもそも私の近辺にはシビルを慕う者が多い。
彼女の左隣の奴などは、間近で聞いて感極まり咽び泣いている。
……代わりたい。
陛下が慈愛の笑みを浮かべ、頷いた。
その陛下に、父がなにやら耳打ちをする。
次の瞬間、陛下と目が合った。
感情が顔に出ていない自信はあるが、心の内は見抜かれたに違いない。
陛下が再びシビルに手を差し伸べ、そっと腕に触れた。
「婚約おめでとう」
「……!」
シビルの頬が朱に染まる。
父まで調子に乗って、目尻を下げてシビルの顔を凝視している。
ああ……そうでしょうとも、父上。
可愛いですよ、私のシビルは。
天使ですから。
陛下が次の授与者へ移ると、シビルがこちらに視線を向けた。
小さく頷いて励ます。彼女はどこか心許なげだったが、すぐに胸を張って顎をあげた。それは天国の母親を想う、美しい横顔だった。
彼女と交わした、再会の約束。
それを果たすのは、遥か先の未来であれと願う。この世でシビルと成し遂げたい事が山ほどあり、墓になどそうそう入っていられない。
けれど、天国という場所で目覚めた暁には、ひとつ夢が叶う。
私の天使がその背を追い続けた、或る婦人に会えるだろう。
それまで、生きていこう。
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(終)
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