【R18】結婚したくない二人の話~完璧イケオジエリートは、実は独占欲強めなケダモノでした~

ゆきづき花

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一番近くに いてほしい4

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 部屋に戻ってきた湯上りの八木沢さんは、もう眠いのか怠そうで、緩慢にソファに座るだけの動作すら艶っぽく見えた。リビングルームでお茶を淹れてから寝ようと思い、お湯を沸かしながら話しかけた。

「今日は運転お疲れ様でした。明日もよろしくお願いします」
「何度も箱根には来ていますが、一人では美術館をまわったりしないので、明日が楽しみです」

 明日は強羅方面へ行き、美術館や博物館を見て回る予定だ。
 毎日深夜まで残業が当たり前の繁忙期に、急に逃げ出したくなって、ふらりと一人で温泉に来たのをきっかけに、忙しくなると何度か箱根に来ているそう。
 お茶を淹れて私も向かいのソファに座り、ついそのまま箱根湯本にあるホテルや旅館、土産物屋の話などを聞いていたら、二十三時を過ぎていた。
 普段なら、八木沢さんがそろそろ帰宅する時間。

「旅行先では、夜の時間の流れがゆっくりですね」
「そうですね。都内ならまだ終電前です。明日の朝は自然に起きるまで、ゆっくり寝坊を楽しみましょうか。……といっても、多分僕は起きてしまいますが」

 寝起きの八木沢さんってどんな感じなんだろう。朝、エントランスで会うときは、きちんと整った身なりだから、私みたいに朝に弱くて毎朝慌てたりしてないんだろうな。
 私は寝つきが悪いから、きっと八木沢さんは先に寝てしまうだろう。
 ごく自然に、いつものように、「おやすみなさい」と挨拶をして、それぞれの寝室へ戻った。

 でも、ベッドにもぐり込んでも、すぐには眠れそうになかった。
 あの隙のない八木沢さんの寝顔が見てみたい。無防備な姿を見てみたい。今まで知り得なかった顔を見てみたい。勝手に想像しただけで、緊張してきた。

 だめ、無理。全然、眠れない。
 さっきはお茶を淹れたけど、まだコーヒーや紅茶もあったよね、と思いつつリビングへの扉を開いた。
 真っ暗だと思っていたら、フットライトだけが点いていて、寝室に行ったはずの八木沢さんがソファに座っていた。彼が私に気づくと、大きなため息をついたので、とっさに謝った。

「ごめんなさい! 私のせいで眠れないですよね」
「そう、眠れないんです。大丈夫だと思っていたのですが、こんなに……意識してしまうとは」
「意識……?」
「あなたが、近くにいると思うと」

 そこまで言いかけて、彼は手を口元に当てて黙ってしまった。その続きを言って欲しい。そうしたら私はためらいなく応えると思う。

「いえ、なんでもないです。すみません。僕は車で寝ます。それなら、和咲さんが一人で気兼ねなく……」
「行かないでください!」

 八木沢さんが立ち上がったから、本当にどこかに行ってしまいそうで、とっさに呼び止めてしまった。暗がりでもよくわかる。信じられないものを見たような驚いた顔。

「一人は寂しいです。ここにいて欲しいです……」

 沈黙が痛い。新宿とは全然違う。部屋が静かすぎて、耳がきんとする。
 衣擦れの音すら卑猥な気がして、身動きが出来ない。

「寂しいなら一緒に寝ますか?」
「いっしょ……?」
「そう、一緒に」

 それはどういう……意味?
 八木沢さんの声は穏やかなのに、纏う空気が違う。
 彼は私の前を横切って、自分が使っている寝室のドアを開いて私を見た。ただそれだけなのに、その仕草が扇情的で、心臓が痛いくらい速くなった。
 その視線は私の一挙手を逃さないように観察している。きっと、遊び半分なのか本気なのか見極めようとしている。

「こっちに来る?」
「行きます」

 はっきりと私がそう言うと、八木沢さんは目を開いて意外そうな顔をした。
 拒否すると思っていたのだろう。

「和咲さん、どういう意味かわかってますか?」
「わかってます」

 わかっている。こんな大胆なことできるんだ、と自分でも驚く。
 自分の足で歩いて、寝室に踏み込む。
 扉を開けたまま八木沢さんが囁くように言った。

「逃げるなら今ですよ」

 至近距離で聞こえる優しい声に手が震えてきた。だから、もう一歩、中へ踏み込んだ。

「私、八木沢さんが好きです。仮でいいから一番近くにいて欲しいです。誰よりも近くにいて欲しいです」

 私なりの精一杯の告白。八木沢さんがゆっくり扉を閉めた。
 後ろから抱きしめられて通告された。

「もう部屋から出しません。覚悟してくださいね」

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