旧支配者のカプリチオ ~日本×1000年後×異世界化×TS×クトゥルフ神話~

ナイカナ・S・ガシャンナ

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第一部第二章 お使いイベント

セッション7 御使

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「最近、ミスカトニック大図書館に通い詰めてるんだって?」

 ある日、ギルドの受付嬢・今屯灰夜にそう言われた。
 ローパー討伐を日々続け、ノルマを達成したので報告と報酬の受け取りに行った時の事だった。

「……通い詰めてるって程でもねーけど。何でそんな事知ってんだ?」
「面白そうな事に出会う為に普段からアンテナを広くしているのは当然の事だよ。で、どうして図書館に? 調べたい事でも?」
「……錬金術についてちょっとな」

 僕は性転換の魔術を探している。
 性転換の魔術は錬金術の最高位だ。色んな種族、色んな職業の者が集まるここ朱無市だが、最高位の錬金術師となるとさすがにいないらしい。
 そこで自分で極めるべきかと思い立って図書館に行ってみたが、基本的な事しか書いていない本しか閲覧出来なかった。やはり専門知識というものは門外不出である様だ。

 ……いやもう本当、女性服が落ち着かない。
 僕は着物を纏っているのだが(以前の服はボロボロだからとステファに買って貰った)、これがヒラヒラしていて心許ない。ちょっと激しく動いただけで生足が露出してしまいそうになる。怖い。
 早く男に戻って男性服を着なくては。

「そんなキミにチャンスを与えよう」
「チャンスだあ?」
「うん。まあ。お使いに行ってきて欲しいんだけどさ。うん。飯綱会いいつなかいに届けて欲しい物があってね」
「運送系の依頼か。なんで僕達に? 普通に宅配ギルドに頼めばいいんじゃねーのか?」

 宅配ギルドは各種輸送に関わるギルドだ。この時代の宅配業者なんて相手先に品が届くまで早くもないし、丁寧に扱ってくれもしないのだが、それでも僕達みたいな素人に頼るよりは良いと思う。

「届けて欲しい物がね、これなんだよ」

 そう言って受付嬢が取り出したのは、一冊の本だ。

「魔導書か」
「そう、一級の危険物さ」

 魔導書とは魔術の知識が記された書物だ。この書から『冒険者教典カルト・オブ・プレイヤー』に情報を転写する事で魔術を習得出来る事は先に述べた通り。
 実はかなりの貴重品で、図書館にも数冊しかなかった。一冊で億単位の値が付くものさえある。転写による魔術の習得はそう容易いものではないのだ。

「成程。危険物じゃ宅配ギルドが受け付けてくれない時があるものな」

 魔導書はそれ自体が危険物だ。貴重品故に常に金目当ての裏稼業連中に狙われているというのもあるが、魔導書そのものに紛失防止の為の罠魔術トラップが仕掛けられている事が多いからだ。下手に触れば死ぬ可能性もある。

「書の名前は『ネクロノミコン』――『死霊秘法』という意味だよ」
「良いのか? 僕達が持ち逃げするかもしれねーぞ。魔導書って高く売れるんだろ?」
「その辺はキミ達を信用しているからね。キミ達を、というよりはキミ達の性質をと言うべきだけど」

 受付嬢がニタリと笑う。

「ステファ君は一日一善の狂気に蝕まれている。それはつまり、悪事を為せないという証明になる。そして、キミは面倒臭がりだ。下手に犯罪を犯して余計な面倒を背負うよりは、地道でも気楽に稼ぐ方を選ぶ。そういう性質だ」
「良く御存知で。……しょーがねーな、引き受けるよ」

 あの日以来、ステファとはコンビを組んでいる。
 これといって取り決めがあった訳でもなく、なあなあで続けている関係なのだが、これが意外とウマが合う。やりたい事が定まっているステファと特に方針がない僕とで、ステファに付き合って冒険者する僕という構図となっている。

「有難う。で、届け先なんだけど」

 受付嬢が一枚の用紙を取り出す。

「この住所だね。ここに住んでいる三護みごという人物に渡して欲しい。渡したらこの欄にサインを貰って来てくれ。で、この紙をボクに返してくれれば依頼達成クエストクリアだ」
「了解」

 用紙と魔導書を受け取り、『冒険者教典カルト・オブ・プレイヤー』を開く。開いたページの上に二品を置くと、ページの中へと沈んで消えた。ページには沈んだ二品が描かれていた。まるで図鑑の様に。
 教典のアイテム収納機能だ。「次元」の概念魔術ダオロスを使う事により、こうしてアイテムを三次元から二次元に変えて持ち運び出来る。収納量に限りはあるが、いやはや、それでも便利な機能だ。

「三護って人はね、魔術オタクで有名なのさ。もしかしたら性転換の魔術も知っているかもね」
「ふーん」

 そうか。まあ人伝に聞いた話など信用出来ないが、しかし、今まで性転換のせの字も見付けられなかったのだ。そんな中でようやく得た情報というだけでも確認するに値する。

「期待しておくよ。有難う」
「いやいや。お土産話、待っているよ」





「――という訳で依頼を引き受けて来たけど、構わねーか?」

 宿屋に戻るなりステファに訊く。彼女は宿屋の掃除を手伝っていた。一日一善のノルマとしての活動だ。

「ええ、いいですよ。グッジョブです、藍兎さん!」
「あいよ」

 ステファの同意を得られてホッとする。ありえないが、断られたらどうしようかと思っていた。
 最近知った事だが、依頼を受けている間はステファの調子が落ち着く。仕事をしている事自体が誰かへの奉仕と繋がり、一善と見做されるからだ。であれば、依頼は可能な限り受けた方が良い。

「届け先は、飯綱会でしたっけ?」

 飯綱会。
 旧千葉県にある組織。飯綱家当主が会長として頂点に立ち、傘下の組が結託、各村の管理をしている。家族的繋がりが強いというか、ヤの付く自由業みたいな組織だ。洋風を取り入れた朱無市国とは異なり純和風を保ち、保ち過ぎて戦闘職が侍や忍者しかいないという始末になっている。
 更に、この国には別の特徴がある。それは、

「藍兎さんにとっては帰郷という形になりますか?」

 それは、国民の大半が食屍鬼――この僕の身と同じ種族で占められているという事だ。
 食屍鬼グール
 人外種族の一つ。一部のファンタジー作品では生ける屍リビングデッドとされている事もあるが、この世界の食屍鬼は歴とした生者だ。名称通り食人の習性を持つ人でなし。古来より畏れられてきた種族『オーガ』の原型とされている。

「帰郷っつっても、僕は自分の村がどこなのか知らねーからな。房総半島行っても帰郷になるのかどうか分からねーよ」
「ですか。そういえば、藍兎さんって全然人肉食べませんね」
「食べたいと思わねーからな。別に栄養摂取なら普通の家畜で充分だし」

 食屍鬼が人肉を喰らうのは、自己の拡張の為である。食屍鬼の消化器官は特殊であり、喰らった相手の栄養素のみならず、寿命や魔力までも吸収出来るのだ。出力の強化には上限があるが、貯蔵量は喰らえば喰らう程に上がって行くのである。
 お手軽に成長出来るという点には興味がない訳じゃないんだが、やはり抵抗はある。肉体が食屍鬼とはいえ、僕の心は人類だ。僕が人を喰らったら共食いになってしまう。

「そういえば、ステファは食人についてどう思ってんだ?」
「人が人を食べるのは引きますが、鬼が人を食べる事については言える事もないですね。種族ってそういう事ですし。正直、冒険者になった当初は気分が良くなかったですが、今は文化の違いだと思っています」

 文化の違いね。そういえば日本でも明治維新前までは牛肉や馬肉を食べる習慣はなかったと聞いた事があるが、今のこれもそれの延長線上にあるのだろうか。

「もうすぐで掃除が終わりますから、ちょっと待っていて下さい」
「ああ」

 ハタキやらモップやらの掃除道具を片付けるステファを部屋で待つ。しばらくすると、ステファが戻って来た。

「で、房総半島まではどういうルートで行くんだ?」
「基本的にはバスですかね。馬車が出ていますので、それに乗り継いでいく事になります」

 この時代、自動車なんてものは当然なく、あるのは馬車だけだ。動物が動力である為一度に長距離は移動出来ず、途中途中の駅で乗り継いでいくしかない。個人で馬車を購入すれば乗り継ぎは不要になるが、専用車は値段が高くてとても手が出せない。

「瞬間移動が使えれば楽なんだがなあ……」
「空間転移の事ですか? 確かに覚えていれば馬車を使う必要もないでしょうけど……ないものねだりしても仕方ないですよ」
「だろーなー……言ってみただけさ」

 空間と空間を繋ぎ、距離がどれ程離れていても一瞬で移動できる魔術は実在している。「時空」の概念魔術ヨグ=ソトースと呼ばれているそれは、しかし高等魔術であり、習得難易度は非常に高い。冒険者の坩堝るつぼである朱無市でも習得している者は少ない。

「飯綱会に着くまで何日も掛かりますので、今日は準備だけで出発は明日にしましょう」
「了解。まずは食料の買い込みだな」

 駅周辺は大抵宿場となっているのだが、運良く宿屋が空いているとも限らない。そもそも道中何が起きても不思議ではないのがこの時代の旅だ。野宿の準備もしておかなくてはいかないな。

「そんじゃま、お使いイベント始めますか」
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