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第一部第二章 お使いイベント
セッション15 偏執
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「……ったく、また死ぬ羽目になるとはな……」
これで三度目だが、まだ死ぬのは慣れないな。
翼を畳み、ステファ達の前に着地する。翼は背中に溶けるように消えて行った。一度生やしたら生えっ放しなのではなく、こうして自在に出し入れ出来るのだから、『有翼』は便利なスキルだ。これで寝返りに困る事はない。
「……それで、改めて確認したいのですが。貴方が阿漣ジンベエさんのお孫さんでしょうか?」
「ん? そうだが? 俺様に用か?」
「用っつーか、あんたに捜索願が出てんだよ。それで僕達が依頼として引き受けたんだ」
「捜索願だと?」
イタチは少し考えると、渋い顔をした。
「飯綱会長からか。あの馬鹿め、俺様の事は放っておけと言った筈だぞ。祖父さんも俺様の生き死にについて責任を取らなくて良いと言っていたと伝えたろうに」
「というと?」
僕の促しにイタチは頷き、
「俺様は覇王なのだ」
「覇王……ですか……」
そりゃまた壮大に浪漫のある話だな。
「だが、誰に俺様が覇王だと言っても信じん」
「そりゃそうだろ」
だって覇王じゃないじゃん、お前。
『総長のお孫様』の社会的地位は高かろうが、覇王を名乗れる程ではない。
「しかし、そこで民衆の蒙昧さを責めるのは王の器ではない。故に、俺様は覇王に相応しい実績を得る事にした。その為にはまず独り立ちせねばならん。『総長の孫』ではなく、『阿漣イタチ』として確立するのだ。会長の所に寄ったのは顔馴染みに挨拶しに行っただけの事。断じて、会長を頼っての事ではない」
「ああ、そういう……」
覇王云々は大袈裟だが、要は自分の面倒は自分で見ると言いたいのか。飯綱会長の心配は大きな世話だった訳だ。ステファと同じで発起心の強い奴だな。僕には眩しいわ。
「そうは言っても、友人の孫の危機を見て見ぬふりは出来ねーだろ」
「ふん。この俺様が道半ばで死ぬ筈がなかろう。もし死んだとしてもそれは俺様の器がそこまでだったというだけの事。他人が気にする必要はないし、介入する資格もない」
「頑固な事で」
発狂内容:偏執病、といった所か。偏執病の症状には誇大妄想や異常な支配欲があるからな。
どうにも面倒臭そうな奴だな。あまり関わり合いにならない方が良さそうだ。
「まあ、その辺の話は会長本人と話してくれ。こっちとしちゃあ、お前を連れて谷から脱出しなきゃ仕事にならねーんだ」
「良かろう。と言いたい所だが、少し待て。連れがいる」
「連れ?」
「ああ。――そこだ」
「そこ?」
イタチが指差した先、案山子が崩れ落ちた所には、いつの間にそこにいたのか一人の人間がいた。
「ううむ、興味深い……何故こんな所に巨大な人工物があったのか……一体誰が作ったのか……そして、何の為にここに配置したのか……あるいは自律して此方に来たのか? ……玉虫色の光を纏っているという事は、第七焼け野との関連性は否定出来まい……であれば、ひょっとすると五〇〇年前、この谷を作った原因が此奴という事も……」
その不審人物は蹲り、案山子の木材を調べていた。エンドレスで独り言を続けている様は何とも気味が悪い。
「おい、三護。その辺にしておけ。帰るぞ」
「三護? 三護ってもしかして……」
イタチに言われ、不審人物が身を起こす。
人物は少年だった。イタチよりも更に幼く、どう高く見積もっても十歳程度。羽織った白衣は明らかにサイズがあっておらず、ズルズルと引き摺られていた。頭髪は赤毛を三つ編みにしている。ショタ感全開な格好だ。
「言っておくが、三護はもう米寿近いぞ」
ショタではなく、ショタジジイだった。
……って重要なのはそうじゃなくて。
「まさかお目当ての人物が総長のお孫様と一緒に行動していたとはな……」
これはイタチの捜索依頼を受けて正解だったな。三護の身に何か起きていたらクエスト失敗だった。人生塞翁が馬だな。
「しかし、三護って老賢者って話だろ? とても年寄りには見えねーけど」
「ミ=ゴの正体は人型ではないそうで。人前に出る際には人間を装うのですが、その装いは死体を加工したものだと言われています。若い見た目なのは死体は年を取らないからだと」
「げ、あれ死体なのかよ?」
趣味悪ぃなあ。
「何じゃ。汝、道徳家か? 子供の死体を弄るのに嫌悪感でもあるかの?」
「いや道徳家って訳じゃねーけど……」
「言っておくが、ゾンビとはまた違うぞ? 本体の我は生きておるでな。生体式のゴーレムと言えば、多少は聞こえも良かろう?」
「ゴーレムねえ……」
確かにゴーレムは粘土以外を材料にしても作られるけどさ。
この世界のショタジジイは設定がえぐいなあ。ステファがそんなに嫌悪感見せてない所を見ると、これが今の世の普通なのか。食屍鬼の食人習慣が受け入れられてたり、昔と比べると色々ギャップがあるな。
――――ああ、それとも。
冒険者は魔術師と同義だ。魔術を覚える度に人は発狂する。狂気を重ねた果てに倫理観がグズグズに崩れてしまったのかもしれない。
「……まるでフランケンシュタインの怪物だな」
ふと、ある怪物を思い出した。
英国の小説『フランケンシュタイン』、「理想の人間」を作ろうとした物語。しかし、それは死体を繋ぎ合わせるという悍ましきものだった。そんな方法で生まれたモノが真っ当な結末に至れる筈もなく、物語は悲劇に終わるのだが、そこは自分で読んで確かめて欲しい。
「フランケンシュタイン? 何じゃ、それは?」
「ああいや、こっちの話。それより、あんた、なんでこんな所いるんだ?」
「この小僧からの頼みでな。奈寿野谷の調査を頼まれたんじゃ。我の知識が欲しいと言われてのぅ」
「この谷の? こんな場所の何を調査するんだ?」
立ち入り禁止区域だぞ、ここ。
「ふっ、色々だ。説明すると長いので後にしろ」
「……そうかよ。まあ良いさ。さて、三護先生。僕達もあんたに用がある」
「む? 我に何じゃ?」
教典を取り出し、ページに封入していたアイテムを取り出す。ギルド受付嬢に渡されたあの本だ。
「魔導書『ネクロノミコン』だ。三護松武、あんたに届けるよう依頼された」
「おお、ようやく終わったのか! うむ、確かに破損本を復元して欲しいとギルドに依頼していたのは我だ」
三護の顔がぱあっと明るくなる。老賢者という触れ込みだったが、実態は見た目通りの童心の持ち主の様だ。
だが、その表情はすぐに暗くなった。
「すまんな。今、金の持ち合わせがなくてのぅ。報酬が払えんのじゃが」
「ああ、長屋追い出されたと言っていましたっけ」
三護は今回の依頼に関して、ギルドとは前金だけ支払って、本を受け取った後に全額払う取り決めをしていたという。僕達に対してはその全額の中から報酬が支払われる。今回、三護が払わなくてもギルドが一旦は立て替えてくれる事にはなっているが、確実にギルドと三護の間でトラブルになるな。
「あんたが無理でも僕達はクエストをクリアしなきゃいけないんだ。報酬云々はギルドと直接話を付けてくれ」
「う、うむ……仕方あるまい」
三護に書物を渡し、引き換えに用紙にサインを貰う。これでクエスト達成だ。
「おォい、こっちからエライ音がしたが、大丈夫か?」
ふと、飯綱会長の声が谷に響いた。先刻の戦闘を聞きつけて来たらしい。曲がり角の向こうから姿を現した会長は、イタチの姿を見るなりホッとした様な怒っている様な表情をした。
「ん、おお! イタチてめえ、そこにいたか! 全く、迷惑を掛けおってからに!」
「余計な世話だ。助けを乞うた覚えはない」
顔を合わせるなり二人がギャーギャーと言い争いを始める。
「てめえを探すのに何人巻き込んだか分かっとんのか!?」
「そっちの勝手な判断による出費だろう。俺様が知るか」
「心配を掛けたことを謝れと言っとるんじゃい!」
「覇王の身を案じるとは不敬な!」
「何が覇王じゃい、この砂利餓鬼が!」
「あーあーあー、まあまあ、二人とも話はその辺で。今はこの谷から脱出しませんと」
埒が明かないと判断したステファが二人の間に割って入る。第三者からの介入となればさすがに二人の熱も収まったらしく、渋々と引き下がった。
騒動も収まった所でいそいそと谷から引き上げる事にする。
「ところで、三護。あんた、歯の治療は出来るか?」
道中、ふと三護に訊いてみた。
ミ=ゴは種族全体が外科手術の天才だ。外科と歯科ではジャンルが違うが、死体をゴーレムに加工する位だ。全身にメスを入れた事だろう。もしかしたら歯科にも精通しているかもしれない。そう思っての質問だった。
「歯か? うむ、容易いぞ。どうした、虫歯か?」
「いや、殴られて一本抜けちまってな。なあ、会長。僕の歯の治療なんだが、三護に頼むのはどうだろうか?」
「三護先生にですかィ?」
二人の視線を受けて頷く。
「三護はギルドに報酬を払わなきゃいけない。けど、今は金を持っていねー。会長は僕の歯を治す約束をした。そこで、歯の治療を会長が三護に依頼し、その代金を三護に払う。三護はその代金をギルドへの報酬に充てる。……ってのはどうだ? それなら会長も三護も肩の荷を降ろせるだろう?」
「成程。儂は先生が良いなら構いませんが」
「我も良いぞ」
よし、これで収拾は付いたな。
余計なトラブルは御免だし、歯の面倒の長期化も避けられた。多少回りくどい事にはなったが、これで一応は解決だ。
「あと、これは今の話とは関係ないんだが――」
「三人共、何を立ち止まっているんですか。置いていきますよ」
「あ、悪ぃ」
話し込んでいたら、いつの間にかステファ達を距離を離されてしまっていた。
仕方ない。性転換の魔術についても訊きたかったが、後日にするか。
◇
その日の夜、例の夢を見た。
漆黒の中、何をするでもなく佇んでいる夢。悪夢でもないが、良い夢でもない。何もない夢だ。
現在、ここにいるのは四体。
僕と和芭と蛇竜、そして新入りのウィッカーマン君だ。
体育座りしているとはいえ、やはり十メートルもの巨体が目の前にいると圧迫感が凄い。だが、それだけだ。お嬢や飛竜と同様、このウィッカーマンも動く気配がない。
そういえば、寝る前に教典を確認した。
新たにスキルが増えていた。今回は二つ、『火炎無効』と『着火』だ。ウィッカーマンが持っていたものと推測される。
三度目になって確信したが、どうも僕は死ぬとその時に触れていた生物の生命力を喰らって蘇生するらしい。で、生命力を喰らうついでにスキルも奪い取ると。
便利な能力だ。チートと言ってもいい。
だが、あまり使いたくないな。
僕が死ぬの前提の能力だし、どういう原理で発動しているのかも依然不明だ。この力はまだまだ得体が知れない。
このまま使わず平穏に過ごせればいいが……はてさて。
これで三度目だが、まだ死ぬのは慣れないな。
翼を畳み、ステファ達の前に着地する。翼は背中に溶けるように消えて行った。一度生やしたら生えっ放しなのではなく、こうして自在に出し入れ出来るのだから、『有翼』は便利なスキルだ。これで寝返りに困る事はない。
「……それで、改めて確認したいのですが。貴方が阿漣ジンベエさんのお孫さんでしょうか?」
「ん? そうだが? 俺様に用か?」
「用っつーか、あんたに捜索願が出てんだよ。それで僕達が依頼として引き受けたんだ」
「捜索願だと?」
イタチは少し考えると、渋い顔をした。
「飯綱会長からか。あの馬鹿め、俺様の事は放っておけと言った筈だぞ。祖父さんも俺様の生き死にについて責任を取らなくて良いと言っていたと伝えたろうに」
「というと?」
僕の促しにイタチは頷き、
「俺様は覇王なのだ」
「覇王……ですか……」
そりゃまた壮大に浪漫のある話だな。
「だが、誰に俺様が覇王だと言っても信じん」
「そりゃそうだろ」
だって覇王じゃないじゃん、お前。
『総長のお孫様』の社会的地位は高かろうが、覇王を名乗れる程ではない。
「しかし、そこで民衆の蒙昧さを責めるのは王の器ではない。故に、俺様は覇王に相応しい実績を得る事にした。その為にはまず独り立ちせねばならん。『総長の孫』ではなく、『阿漣イタチ』として確立するのだ。会長の所に寄ったのは顔馴染みに挨拶しに行っただけの事。断じて、会長を頼っての事ではない」
「ああ、そういう……」
覇王云々は大袈裟だが、要は自分の面倒は自分で見ると言いたいのか。飯綱会長の心配は大きな世話だった訳だ。ステファと同じで発起心の強い奴だな。僕には眩しいわ。
「そうは言っても、友人の孫の危機を見て見ぬふりは出来ねーだろ」
「ふん。この俺様が道半ばで死ぬ筈がなかろう。もし死んだとしてもそれは俺様の器がそこまでだったというだけの事。他人が気にする必要はないし、介入する資格もない」
「頑固な事で」
発狂内容:偏執病、といった所か。偏執病の症状には誇大妄想や異常な支配欲があるからな。
どうにも面倒臭そうな奴だな。あまり関わり合いにならない方が良さそうだ。
「まあ、その辺の話は会長本人と話してくれ。こっちとしちゃあ、お前を連れて谷から脱出しなきゃ仕事にならねーんだ」
「良かろう。と言いたい所だが、少し待て。連れがいる」
「連れ?」
「ああ。――そこだ」
「そこ?」
イタチが指差した先、案山子が崩れ落ちた所には、いつの間にそこにいたのか一人の人間がいた。
「ううむ、興味深い……何故こんな所に巨大な人工物があったのか……一体誰が作ったのか……そして、何の為にここに配置したのか……あるいは自律して此方に来たのか? ……玉虫色の光を纏っているという事は、第七焼け野との関連性は否定出来まい……であれば、ひょっとすると五〇〇年前、この谷を作った原因が此奴という事も……」
その不審人物は蹲り、案山子の木材を調べていた。エンドレスで独り言を続けている様は何とも気味が悪い。
「おい、三護。その辺にしておけ。帰るぞ」
「三護? 三護ってもしかして……」
イタチに言われ、不審人物が身を起こす。
人物は少年だった。イタチよりも更に幼く、どう高く見積もっても十歳程度。羽織った白衣は明らかにサイズがあっておらず、ズルズルと引き摺られていた。頭髪は赤毛を三つ編みにしている。ショタ感全開な格好だ。
「言っておくが、三護はもう米寿近いぞ」
ショタではなく、ショタジジイだった。
……って重要なのはそうじゃなくて。
「まさかお目当ての人物が総長のお孫様と一緒に行動していたとはな……」
これはイタチの捜索依頼を受けて正解だったな。三護の身に何か起きていたらクエスト失敗だった。人生塞翁が馬だな。
「しかし、三護って老賢者って話だろ? とても年寄りには見えねーけど」
「ミ=ゴの正体は人型ではないそうで。人前に出る際には人間を装うのですが、その装いは死体を加工したものだと言われています。若い見た目なのは死体は年を取らないからだと」
「げ、あれ死体なのかよ?」
趣味悪ぃなあ。
「何じゃ。汝、道徳家か? 子供の死体を弄るのに嫌悪感でもあるかの?」
「いや道徳家って訳じゃねーけど……」
「言っておくが、ゾンビとはまた違うぞ? 本体の我は生きておるでな。生体式のゴーレムと言えば、多少は聞こえも良かろう?」
「ゴーレムねえ……」
確かにゴーレムは粘土以外を材料にしても作られるけどさ。
この世界のショタジジイは設定がえぐいなあ。ステファがそんなに嫌悪感見せてない所を見ると、これが今の世の普通なのか。食屍鬼の食人習慣が受け入れられてたり、昔と比べると色々ギャップがあるな。
――――ああ、それとも。
冒険者は魔術師と同義だ。魔術を覚える度に人は発狂する。狂気を重ねた果てに倫理観がグズグズに崩れてしまったのかもしれない。
「……まるでフランケンシュタインの怪物だな」
ふと、ある怪物を思い出した。
英国の小説『フランケンシュタイン』、「理想の人間」を作ろうとした物語。しかし、それは死体を繋ぎ合わせるという悍ましきものだった。そんな方法で生まれたモノが真っ当な結末に至れる筈もなく、物語は悲劇に終わるのだが、そこは自分で読んで確かめて欲しい。
「フランケンシュタイン? 何じゃ、それは?」
「ああいや、こっちの話。それより、あんた、なんでこんな所いるんだ?」
「この小僧からの頼みでな。奈寿野谷の調査を頼まれたんじゃ。我の知識が欲しいと言われてのぅ」
「この谷の? こんな場所の何を調査するんだ?」
立ち入り禁止区域だぞ、ここ。
「ふっ、色々だ。説明すると長いので後にしろ」
「……そうかよ。まあ良いさ。さて、三護先生。僕達もあんたに用がある」
「む? 我に何じゃ?」
教典を取り出し、ページに封入していたアイテムを取り出す。ギルド受付嬢に渡されたあの本だ。
「魔導書『ネクロノミコン』だ。三護松武、あんたに届けるよう依頼された」
「おお、ようやく終わったのか! うむ、確かに破損本を復元して欲しいとギルドに依頼していたのは我だ」
三護の顔がぱあっと明るくなる。老賢者という触れ込みだったが、実態は見た目通りの童心の持ち主の様だ。
だが、その表情はすぐに暗くなった。
「すまんな。今、金の持ち合わせがなくてのぅ。報酬が払えんのじゃが」
「ああ、長屋追い出されたと言っていましたっけ」
三護は今回の依頼に関して、ギルドとは前金だけ支払って、本を受け取った後に全額払う取り決めをしていたという。僕達に対してはその全額の中から報酬が支払われる。今回、三護が払わなくてもギルドが一旦は立て替えてくれる事にはなっているが、確実にギルドと三護の間でトラブルになるな。
「あんたが無理でも僕達はクエストをクリアしなきゃいけないんだ。報酬云々はギルドと直接話を付けてくれ」
「う、うむ……仕方あるまい」
三護に書物を渡し、引き換えに用紙にサインを貰う。これでクエスト達成だ。
「おォい、こっちからエライ音がしたが、大丈夫か?」
ふと、飯綱会長の声が谷に響いた。先刻の戦闘を聞きつけて来たらしい。曲がり角の向こうから姿を現した会長は、イタチの姿を見るなりホッとした様な怒っている様な表情をした。
「ん、おお! イタチてめえ、そこにいたか! 全く、迷惑を掛けおってからに!」
「余計な世話だ。助けを乞うた覚えはない」
顔を合わせるなり二人がギャーギャーと言い争いを始める。
「てめえを探すのに何人巻き込んだか分かっとんのか!?」
「そっちの勝手な判断による出費だろう。俺様が知るか」
「心配を掛けたことを謝れと言っとるんじゃい!」
「覇王の身を案じるとは不敬な!」
「何が覇王じゃい、この砂利餓鬼が!」
「あーあーあー、まあまあ、二人とも話はその辺で。今はこの谷から脱出しませんと」
埒が明かないと判断したステファが二人の間に割って入る。第三者からの介入となればさすがに二人の熱も収まったらしく、渋々と引き下がった。
騒動も収まった所でいそいそと谷から引き上げる事にする。
「ところで、三護。あんた、歯の治療は出来るか?」
道中、ふと三護に訊いてみた。
ミ=ゴは種族全体が外科手術の天才だ。外科と歯科ではジャンルが違うが、死体をゴーレムに加工する位だ。全身にメスを入れた事だろう。もしかしたら歯科にも精通しているかもしれない。そう思っての質問だった。
「歯か? うむ、容易いぞ。どうした、虫歯か?」
「いや、殴られて一本抜けちまってな。なあ、会長。僕の歯の治療なんだが、三護に頼むのはどうだろうか?」
「三護先生にですかィ?」
二人の視線を受けて頷く。
「三護はギルドに報酬を払わなきゃいけない。けど、今は金を持っていねー。会長は僕の歯を治す約束をした。そこで、歯の治療を会長が三護に依頼し、その代金を三護に払う。三護はその代金をギルドへの報酬に充てる。……ってのはどうだ? それなら会長も三護も肩の荷を降ろせるだろう?」
「成程。儂は先生が良いなら構いませんが」
「我も良いぞ」
よし、これで収拾は付いたな。
余計なトラブルは御免だし、歯の面倒の長期化も避けられた。多少回りくどい事にはなったが、これで一応は解決だ。
「あと、これは今の話とは関係ないんだが――」
「三人共、何を立ち止まっているんですか。置いていきますよ」
「あ、悪ぃ」
話し込んでいたら、いつの間にかステファ達を距離を離されてしまっていた。
仕方ない。性転換の魔術についても訊きたかったが、後日にするか。
◇
その日の夜、例の夢を見た。
漆黒の中、何をするでもなく佇んでいる夢。悪夢でもないが、良い夢でもない。何もない夢だ。
現在、ここにいるのは四体。
僕と和芭と蛇竜、そして新入りのウィッカーマン君だ。
体育座りしているとはいえ、やはり十メートルもの巨体が目の前にいると圧迫感が凄い。だが、それだけだ。お嬢や飛竜と同様、このウィッカーマンも動く気配がない。
そういえば、寝る前に教典を確認した。
新たにスキルが増えていた。今回は二つ、『火炎無効』と『着火』だ。ウィッカーマンが持っていたものと推測される。
三度目になって確信したが、どうも僕は死ぬとその時に触れていた生物の生命力を喰らって蘇生するらしい。で、生命力を喰らうついでにスキルも奪い取ると。
便利な能力だ。チートと言ってもいい。
だが、あまり使いたくないな。
僕が死ぬの前提の能力だし、どういう原理で発動しているのかも依然不明だ。この力はまだまだ得体が知れない。
このまま使わず平穏に過ごせればいいが……はてさて。
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