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第二部第四章 クーデターイベント(当日)
セッション57 蛇王
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三護が勝利した。冥王ヘルと犬王ガルムを討ち倒した。
その結果に僅かに気が緩み、勝利の余韻に浸り掛けた。だが、
「SHAaaaaa――――!」
その余韻に待ったを掛ける吠え声があった。ハクだ。
ヘルが猛吹雪を放つ寸前、彼女はホールの外に出ていたのだ。変温動物故に寒さに弱いからだ。そのお陰であの太陽の如き劫火からも回避する事が出来たのだ。
戦いはまだ終わらない。ハク――蛇王ヨルムンガンドを倒すまでは。
「S!」
ハクの掌底が三護を襲う。三護は節足を駆使して跳躍し、掌底から逃れた。そのまま壁や天井を跳ねてハクの背後へと回る。巨体故に無防備を晒している背中に三護は飛び掛かり、鉤爪を突き立てた。
だが、通らない。ガルムの胸部を貫いた鉤爪がハクの肌には弾かれた。僅かに傷は付けたものの肉にまでは届いていない。
「竜ト同ジ程度ニハ堅イカ……! 怪物メ!」
三護が渋面で言い捨てる。そんな三護にハクが顔を向ける。首が長い故に真後ろにまで振り向く事が可能なのだ。
「SH――!」
「グァアアアアアッ!」
ハクが吐いた毒液が三護に命中する。鉤爪を突き立てた直後だったので態勢が悪く避けられなかったのだ。もんどりうってハクの背中から転落する三護。床に激突した後も彼は悶絶し続ける。猛毒が異形の彼をも蝕んでいるのだ。
「おい、三護! クソ!」
三護の下へと走る。氷の拘束具は先程の火炎魔術で溶け去った。今の僕を縛るものは何もない。
近寄る僕にハクが口腔を向ける。口内には集う魔力――竜の吐息だ。
「舐めんな! 吐息ならこっちにもある!」
急いで『吸引』、『大気圧縮』を行う。以前は『吐息』に指向性を持たせる事が出来なかったが、あれから修行してある程度は可能になった。まだ完璧とは行かないが、ここで使わずしていつ使うのか。
「S――!」
「Z――!」
魔力の砲撃と大気の砲撃が正面から激突する。拮抗は一瞬で、大気の砲撃が競り負けた。だが、魔力の砲撃も打ち砕かれた。結果として四散した破壊力が強風となって僕の方へと吹き荒れ、僕の身体が飛ばされる。
しかし、これで良い。充分注意は引き付けた。ハクが僕に意識を向けている隙にステファが迂回して三護の下へと辿り着いていた。すぐさまステファが『弱体回復聖術』で三護の毒状態を打ち消す。
「毒液は無効化出来るんじゃなかったのですか?」
「器ハナ。今ノ我ハ本体ガ剥キ出シニナッテオル。本体ニ浴ビセラレルト苦シインジャ」
苦悶に表情を歪めながら三護が答える。やはりあのゴーレムの器には耐毒機能が付いていたか。本体が表に出ている今は頼りに出来ないが。
「SH!」
ハクが前脚を振り上げ、ステファ達へと下ろす。踏み潰す気だ。頭上に落ちた影でそれに気付いたステファが咄嗟に『亀甲一片』を構える。掌底が結界を叩いた。その一打だけでは砕けなかったが、ハクは更に結界に体重を乗せてきた。あのままではいずれ超重量に耐え切れず結界が割れてしまうだろう。
「――『槍牙一斬』!」
偃月刀を振るい、ハクの喉元に斬撃を叩き込む。だが、通じない。僕の槍技ではハクの防御力を撃ち抜けない。
「くっ……!」
「ステファ! おい三護、さっきの最上級は使えないのか?」
「今、詠唱シテオルワ! ジャガ、最上級ハ日ニ何度モ撃テルヨウナモノデハナイ。負担ガ大キインジャ。詠唱ニハ時間ガ掛カル!」
そうこうしている内にもハクは結界に体重を乗せ続ける。結界からミシリ、パキリという音が聞こえた。このままではステファも三護も潰されてしまう。
さすがは蛇王。最低でも秩父の親竜と同程度には強かろうとは思っていたが、本当に想定通りだった。子竜にさえパーティー全員揃ってでないと勝てなかったというのに、僕達三人では勝てる道理がない。
「……だったら!」
強いのならば弱体化させるまでだ。
口を大きく開き、再び『吸引』する。僕の『吐息』の準備を見て、ハクも口腔に魔力を集める。先程と同様に吐息同士で相殺する気だろう。だが、僕にそんなつもりはない。一度敗れた攻撃を二度もするつもりはない。
「SH――!」
放たれる竜の吐息。しかし、その瞬間に僕はハクに背を向けていた。地面に向けて『吐息』を放ち、『有翼』を展開して飛翔する。爆風が僕の身体を加速させ、ハクの吐息を躱し、彼女の背後を取った。ハクが僕を追って首を巡らすが、加速した僕には触れられない。
更に『吐息』を重ねて再加速。背中から急降下しつつ偃月刀を僕自身へと立てる。
「しかし、今まで色んな死に方をしてきたもんだが……」
ハクと激突する。同時に『槍牙一断』を発動。『一斬』よりも攻撃力が増した刃が僕を串刺しにしてハクへと縫い付ける。胸から鮮血を噴出しながら背中にハクの鮮血を浴びた。
「自殺するのは初めてだな!」
激痛と自暴による恍惚が脳髄を痺れさせる。
全く僕もなかなか狂気が回ってきたものだ。
その結果に僅かに気が緩み、勝利の余韻に浸り掛けた。だが、
「SHAaaaaa――――!」
その余韻に待ったを掛ける吠え声があった。ハクだ。
ヘルが猛吹雪を放つ寸前、彼女はホールの外に出ていたのだ。変温動物故に寒さに弱いからだ。そのお陰であの太陽の如き劫火からも回避する事が出来たのだ。
戦いはまだ終わらない。ハク――蛇王ヨルムンガンドを倒すまでは。
「S!」
ハクの掌底が三護を襲う。三護は節足を駆使して跳躍し、掌底から逃れた。そのまま壁や天井を跳ねてハクの背後へと回る。巨体故に無防備を晒している背中に三護は飛び掛かり、鉤爪を突き立てた。
だが、通らない。ガルムの胸部を貫いた鉤爪がハクの肌には弾かれた。僅かに傷は付けたものの肉にまでは届いていない。
「竜ト同ジ程度ニハ堅イカ……! 怪物メ!」
三護が渋面で言い捨てる。そんな三護にハクが顔を向ける。首が長い故に真後ろにまで振り向く事が可能なのだ。
「SH――!」
「グァアアアアアッ!」
ハクが吐いた毒液が三護に命中する。鉤爪を突き立てた直後だったので態勢が悪く避けられなかったのだ。もんどりうってハクの背中から転落する三護。床に激突した後も彼は悶絶し続ける。猛毒が異形の彼をも蝕んでいるのだ。
「おい、三護! クソ!」
三護の下へと走る。氷の拘束具は先程の火炎魔術で溶け去った。今の僕を縛るものは何もない。
近寄る僕にハクが口腔を向ける。口内には集う魔力――竜の吐息だ。
「舐めんな! 吐息ならこっちにもある!」
急いで『吸引』、『大気圧縮』を行う。以前は『吐息』に指向性を持たせる事が出来なかったが、あれから修行してある程度は可能になった。まだ完璧とは行かないが、ここで使わずしていつ使うのか。
「S――!」
「Z――!」
魔力の砲撃と大気の砲撃が正面から激突する。拮抗は一瞬で、大気の砲撃が競り負けた。だが、魔力の砲撃も打ち砕かれた。結果として四散した破壊力が強風となって僕の方へと吹き荒れ、僕の身体が飛ばされる。
しかし、これで良い。充分注意は引き付けた。ハクが僕に意識を向けている隙にステファが迂回して三護の下へと辿り着いていた。すぐさまステファが『弱体回復聖術』で三護の毒状態を打ち消す。
「毒液は無効化出来るんじゃなかったのですか?」
「器ハナ。今ノ我ハ本体ガ剥キ出シニナッテオル。本体ニ浴ビセラレルト苦シインジャ」
苦悶に表情を歪めながら三護が答える。やはりあのゴーレムの器には耐毒機能が付いていたか。本体が表に出ている今は頼りに出来ないが。
「SH!」
ハクが前脚を振り上げ、ステファ達へと下ろす。踏み潰す気だ。頭上に落ちた影でそれに気付いたステファが咄嗟に『亀甲一片』を構える。掌底が結界を叩いた。その一打だけでは砕けなかったが、ハクは更に結界に体重を乗せてきた。あのままではいずれ超重量に耐え切れず結界が割れてしまうだろう。
「――『槍牙一斬』!」
偃月刀を振るい、ハクの喉元に斬撃を叩き込む。だが、通じない。僕の槍技ではハクの防御力を撃ち抜けない。
「くっ……!」
「ステファ! おい三護、さっきの最上級は使えないのか?」
「今、詠唱シテオルワ! ジャガ、最上級ハ日ニ何度モ撃テルヨウナモノデハナイ。負担ガ大キインジャ。詠唱ニハ時間ガ掛カル!」
そうこうしている内にもハクは結界に体重を乗せ続ける。結界からミシリ、パキリという音が聞こえた。このままではステファも三護も潰されてしまう。
さすがは蛇王。最低でも秩父の親竜と同程度には強かろうとは思っていたが、本当に想定通りだった。子竜にさえパーティー全員揃ってでないと勝てなかったというのに、僕達三人では勝てる道理がない。
「……だったら!」
強いのならば弱体化させるまでだ。
口を大きく開き、再び『吸引』する。僕の『吐息』の準備を見て、ハクも口腔に魔力を集める。先程と同様に吐息同士で相殺する気だろう。だが、僕にそんなつもりはない。一度敗れた攻撃を二度もするつもりはない。
「SH――!」
放たれる竜の吐息。しかし、その瞬間に僕はハクに背を向けていた。地面に向けて『吐息』を放ち、『有翼』を展開して飛翔する。爆風が僕の身体を加速させ、ハクの吐息を躱し、彼女の背後を取った。ハクが僕を追って首を巡らすが、加速した僕には触れられない。
更に『吐息』を重ねて再加速。背中から急降下しつつ偃月刀を僕自身へと立てる。
「しかし、今まで色んな死に方をしてきたもんだが……」
ハクと激突する。同時に『槍牙一断』を発動。『一斬』よりも攻撃力が増した刃が僕を串刺しにしてハクへと縫い付ける。胸から鮮血を噴出しながら背中にハクの鮮血を浴びた。
「自殺するのは初めてだな!」
激痛と自暴による恍惚が脳髄を痺れさせる。
全く僕もなかなか狂気が回ってきたものだ。
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