ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮

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第十話「ミリア」

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 その年の夏。
 小説の話通り、ミリアが編入してくる流れになっていた。

「ミリア様は、獣人とお聞きしましたわ。どんな獣人のお方なのでしょう」
「きっとお綺麗な耳や尻尾が生えているのではないかしら」

 休憩時間や昼休みはミリアの話で持ち切りだ。

 ミリアが編入してくる当日の朝も彼女の話でみんなが盛り上がっている。
 チャイムが鳴って先生が教室に入って来たあと、ミリアも続けて入って来た。

「ミリア・リーベットです。これからよろしくお願い致します」

 肩に毛先がつきそうなくらいのストロベリーブロンドのボブはふわふわで、いかにも愛らしい。

 耳は長く、片方が少し垂れている。
 小説の通り、兎の獣人だ。
 赤い瞳は窓から射し込む陽の光にあてられて宝石のように煌めいている。

 目尻は垂れていて、上がり気味の口角に下がり気味の眉。
 守ってあげたくなるような顔立ちをしていて、教室の男性たちは釘付けになっていた。

 殿下はミリアを見て頬を朱く染め、目を見開き固まっている。
 口をぱくぱくさせながら、「嘘だ……まさか……」と呟いていた。

 ……殿下が、『運命の番』と出会ってしまった瞬間だった。

 ミリアも殿下と目を合わせ、驚いたようにぱちぱちと瞬きしたあと笑みを向ける。
 それからの私の生活は……言うまでもなかった。

◇◇◇

「殿下。私と共に食事を致しませんか?」
「ああ。しよう。俺たちは『運命の番』だからな」

 あれから数週間。
 ミリアが殿下の片手を両手で温めるように取って食事に誘う。

 殿下はミリアの手の甲にキスを落として、そのまま手を繋いで仲睦まじく私の元から去って行ってしまう。
 もう私はお飾りの王太子妃でしかなかった。

「まあ、殿下が『運命の番』のミリア様と共に食事を摂っていらっしゃいますわ」
「本当に仲が良くて羨ましい……私も番と出会えたらいいのですけれど」
「それにしても、婚約者のアイリス様はどうなるのかしら」
「アイリス様も可哀想ですわね。まあ、お二方は『運命の番』なのですし、仕方がないと思いますが」
「あんな見た目ですわよ? 殿下に好かれるわけがありませんわ。私はミリア様と二人の恋を応援しますわ!」

 ミリアを『運命の番』だと殿下が公言してからは、私の立場はますます居たたまれないものとなった。

 二人が『運命の番』なのにも関わらず、アイリスという婚約者がいるのは邪魔。
 こんな太った婚約者がいるのも、殿下に失礼。
 早く婚約破棄されて欲しい。

 そんな話が私の耳に入ってくる。
 もう殿下もミリアに傾いてしまっていた。

 でも、それでいいのではないかと……私自身、思っていた。
 殿下に好きになってもらおうと努力していたのに、その努力は全て水の泡となった。

 多分私は婚約破棄されるだろう。

 だけど、爵位が剥奪されたりしたとしても、恐らくお金がなくなって奴隷商に売られるコースというのはないはず。

 投資で儲けたお金が、半年くらいは働かなくても暮らせるほどあるのだ。
 それなら婚約破棄されてもいいかもしれない。

「……いいえ。いっそ、婚約破棄されたほうが……」

 もう一人の私が目を覚まして、と言ってくる。

 ——殿下は私を愛することは一度もなかった。そんな殿下が他の女に靡くなんて、最低な男でしかないでしょう? 恋愛経験ゼロだから、異性にプレゼントを貰ってはしゃいでしまっただけ。それ以降何のプレゼントも貰ってないじゃない。初めて恋人ができて喜んでしまっただけなのよ、アイリス。

「ええ、そうね、そうだわ……」

 婚約破棄をされなければずっと両親からの鬼教育が待っている。
 婚約破棄をされなければずっと殿下の自慢話や、私を否定する言葉を我慢して受け入れなければならない。

 それなら私がミリアに嫌がらせをして、婚約破棄されるよう仕向ければいいのではないだろうか。
 そしたら何もかも、私は解放されるんじゃないだろうか。

 ……それから一年が経ったときには、もう私が嫌がらせなんてしなくてもいいくらいに二人は惹かれ合い、愛を育んでいた。
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