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第三十六話「貴方の優しさは『運命の番』から?それとも……」
しおりを挟むその日の夜。
エリオットは言葉通り、私の好きなものを作ってくれた。
エリオットの作るオムライスが食べたいと言ったら、すぐに作ってくれた。
それだけでいいと言ったら、「本当に?」と言われて、甘えてシーザーサラダも作ってもらってしまった。
エリオットが買ってきてくれたマカロンはローズ味で、薔薇の香りが鼻腔を擽り本当に美味しかった。
私が食べているときもたくさん気遣ってくれて、私がくすくす笑ったらエリオットは安心するように微笑んでいた。
部屋に戻って、ルルアから届いた手紙を開ける。
ルルアと手紙のやり取りを何度かして、前に『『運命の番』の方はどうですか? 何か進展はありましたか?』というような内容の手紙が届いた。
そのときに私はルルアにエリオットが私をとても大事に扱ってくれている、だけど大事に扱ってくれている理由がわからないと、返事を書いた。
ミルさんに相談はしていたけれど、なかなか腑に落ちなかったのだ。
エリオットが何かを隠している気がする。
私の思い違いかもしれないけれど、そう感じていた。
今日は、その返答が書かれた手紙だ。
緊張しながら手紙を開くと、ルルアならではの可愛らしい筆跡でエリオットと私のことが綴られていた。
『私は『運命の番』に出会ったことがないから、明確なことは答えられません。
ですが、相手を大事にすることに、何か理由は必要でしょうか。
私にもし好きな人ができたとしたら、きっとその人のことを絶対に大切にします。
それでも気になるのなら……エリオット様本人に、聞いてみてはいかがでしょうか。
『運命の番』だからといって、なんでも話さずにわかりあえるわけではないと思います。
気になったこと、少しでも不安なことがあるのなら、話し合ってみてはいかがですか?
正直に思っていることを伝えるのも、今のアイリス様に必要なことではないでしょうか』
他にも私の両親の報告が書かれていて、従兄にヴィーレイナ家を継がせることと、でもその従兄が仕事ができず家が傾いていることなどが書かれていたけれど、私は最初のこのエリオットと私に関する文章だけが頭の中を駆け巡っていた。
——気になったこと、少しでも不安なことがあるのなら、話し合ってみてはいかがですか?
本当にその通りだ。
少しでも不安なことがあるのなら、話し合ったほうがいい。
まだエリオットは起きているだろうかと、リビングに下りる。
だけどエリオットはいなくて、もう一度二階に上がればエリオットの部屋から物音が聞こえた。
自分の部屋にいるのだろう。
エリオットの部屋には一度も入ったことがない。
異性の部屋を掃除するのも申し訳ないと思って、自分の部屋は自分で掃除するとルールを設けている。
だから、ノックするのもとても緊張してしまった。
だけど、今不安なことを言わなければ、この先もずっと話さない気がする。
息を吸ってゆっくり深呼吸する。
意を決して三回ノックすれば、ドアノブが開く音がしてエリオットが出てきた。
「どうしたの? 何かあった?」
「いえ、その……大した用ではないんだけど、気になっていることがあって」
「気になること?」
「ええ」
「……殺風景な部屋だけど、良かったら入って。一階から飲み物を持ってくるよ」
「えっ、そんな気遣わなくてもいいのよ。私が持ってくるから……」
「俺が持ってくるから気にしないで。クッションがあるから、座っててくれ」
そう言って私が止める間もなく、エリオットは一階に下りていってしまった。
一人、異性の部屋に残される。
興味本位でエリオットの部屋を見渡してしまう。
彼が殺風景な部屋と言ったのも頷けるくらい物が少なく、ベッドとローテーブル、小さな本棚、小物として観葉植物くらいしかなかった。
本棚には、獣人と人間の細胞や血液の違いといったものだったり、この国の歴史が書かれたものや、健康的な筋肉を手に入れるための説明が書かれたもの、他の国の言語の参考書、『運命の番』の特徴が書かれた本まである。
『運命の番』の特徴が書かれた本が気になったけれど、他人の本を勝手に読むのは良くない。
今度、エリオットと一緒に読ませてもらおう。
模擬戦のときも思ったけれど、エリオットは勉強熱心で、努力家なのだろう。
一度踏みいれた道は、究めるところまで究め尽くす。
そういうエリオットの根本的な性格が、私にとって尊敬できる部分だ。
「お待たせ。ホットミルクでいい?」
「ええ。ありがとう」
二つマグカップを持ってきたエリオットは、真っ白の液体が入ったホットミルクをローテーブルにことりと置いてくれた。
エリオットが一口飲んだあとに私も口に運ぶ。
まろやかな優しい味わいで、蜂蜜が入っているのかほんのり甘かった。
もしかしたらエリオットは、気になることがあると言った私の顔が不安気に映っていたのかもしれない。
だから、紅茶やコーヒーじゃなくて、柔らかい味のホットミルクを選んだのだろう。
「どうしたの? 気になることって。……今日絡まれた奴らのこと? 俺が明日団長に言っておくから、ちゃんと制裁は加える。安心してほしい」
「えっと、そういう話じゃなくて……」
「……?」
いざ話そうとすると、緊張してしまって口に出せない。
視線を落としてマグカップを持っているエリオットの手を見つめる。
節くれだっていて、剣を何度も握っている人の手だ。
この手で肩を引き寄せられ、頭を撫でられ、抱きしめられて背中を撫でてくれた。
その優しさの理由を、私は聞かないと。
渇いてきた喉をもう一度ホットミルクで潤し、エリオットとしっかり目を合わせて言った。
「どうしてエリオットは、そんなに優しいの?」
「え……」
エリオットが、どうしてそんなことを聞くのかというように瞳を揺らす。
長い睫毛が震え、幾度か瞬きをしている。
驚いているエリオットに、私は真剣な表情を崩さずに話を続ける。
「『運命の番』だから、優しくしてるの? エリオットは出会ったときからとても優しかったわ。番だからって、そんなに優しくできるものなの? エリオットは何かを隠しているんじゃないかしら。『運命の番』に出会ったら優しくしないといけないって、誰かから教えこまれている、とか。……貴方は、番の人に優しすぎると思う。私……エリオットが『運命の番』だから優しくしているのか、それとも自分の想いから優しくしてるのか……わからないわ」
「……」
思っていることをぽつぽつと話したら、エリオットはふっと微笑んだ。
その表情は、いつもの笑みではない。
眉尻を下げて、悲しそうに、寂しそうに笑っている。
私はハッとして、今の発言でエリオットに何か傷つくことを言ってしまったんじゃないかと焦り、手をぶんぶんと目の前で振った。
「いえ、その、別に、エリオットが話したくないならいいの。全然話さなくてい——」
「いや、いずれ話すことになると思ってたから、気にしなくていい。……『運命の番』に会ったら優しくしないといけないって、教えこまれたわけじゃないんだ。……ただ、父さんのようになりたくなかった」
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